↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖  作者: 粉雪
番外編 それぞれの後日談

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
139/582

139.職業体験打ち上げ

 中庭の白いガーデンテーブルには、グリドルで焼いたお好み焼きと、海猫亭から差しいれでムンチョのから揚げがドカンと置いてある。


 ホクホクの揚げトテポも作り、ヴェリガンが栽培した野菜スティックにディップを添えて、冷えたラムネとフルーツポンチも用意した。


 ラムネは水にピュラルの搾り汁と砂糖とクエン酸を溶かし、重曹を加えて栓をした。


 小学生のときにラムネってどうやって作るの?……と調べたのが役に立った。理科の吉田先生ありがとう!異世界で役に立ってます!


「おお~!なんかすげぇ!」


 職業体験の片づけを終えた学園生たちが、打ち上げの準備を終えた中庭にゾロゾロとやってくる。


「みんな、おつかれさま!」


「アイリ!来てくれたのね!」


 わたしと一緒に手を振る、ラベンダー色の髪をショートにした少女に、メレッタが駆け寄った。


「ええ!メレッタがライガで飛んだの、窓から見ていたわ!やったわね!レナード、最後まで参加できなくてごめんなさい」


「アイリ……会えてうれしいよ!」


「さぁ、ひとりずつ修了証を渡すわよ!」


 職業体験に参加した学園生たちひとりずつに、わたしは『錬金術師団 職業体験修了証』と刻印されたプレートを渡していく。


 アイリの名を呼ぶと、彼女はきょとんとして首をかしげた。かわいいなぁ、もう!


「あの、私もですか?」


「アイリはグリドルの宣伝を手伝ってくれたもの。ただの記念品だし、とくに役には立たないけど……」


「そんな……うれしいです!ありがとうございます!」


 まずはみんなでラムネで乾杯だ!


「これ、不思議な飲み物だな!ノドの粘膜が刺激されてピリピリするのに、甘さもあって……クセになる!」


「あ……グラコス、そんなガブ飲みしていると……」


「ぐえっふ!」


「含まれている炭酸ガスが特大ゲップになるから気をつけてね」


「先に言えっ!」


 ウブルグがバリバリと、ムンチョのから揚げをほおばりつつ催促する。


「ネリア……酒はないのか?」


「ウブルグってば……きょうの主役は学生たちだからね!アルコールはないよ!」


「ネリアはグリドルの製品テスト、うまく行ったの?」


 オドゥに聞かれて、わたしは答えた。


「うーん、二十人ぐらいに案内は渡したし、あしたの販売は早めに終わらせて、魔道具ギルドで結果を照らし合わせてから、グリドルに興味のあるところと商談する予定」


「へぇ……それなら成功と言えるんじゃない?」


 どうだろう。


「どんなところでも『いちど持ちかえって検討します』だし、案内を渡したところと、ひとつでも契約できれば成功かな」


「そんなもんでいいの?」


「作りたいところが作ればいいと思うし、過当競争になるのもね」


「ふうん」


 オドゥとの会話を耳にした、レナードが話に加わる。


「グリドルの話ですか?」


「そう!工房の募集で魔道具ギルドを通して、術式を公開したし、レナードももう『グリドルの情報を漏らした』って気にしなくていいよ」


「えっ」


「パロウ魔道具が不当な利益でも得たなら問題だけど、それはないし……情報だってもう公にしちゃったからね!」


「ネリアの機転じゃのう。助かったな、坊主」


 うつむいてウブルグの言葉を聞いたレナードは、顔を上げるとわたしに向き直った。


「ネリス師団長、俺……錬金術師になるのもいいかなって思ってた。けれどアイリのことで、俺は王家の彼女への仕打ちが納得できないし、許せない。王城で働くのは……俺にはムリだ」


「うん」


「でもネリス師団長には本当にお世話になりました。どうかアイリをよろしくお願いします。ありがとうございました」


「わかった……レナードも元気でね」


 レナードはぺこりと頭を下げた。残念だけどしかたない。


「さあ、カーター副団長!タコ焼きの練習しようか!」


「なんで私が?」


「グリドルの第一号はプレゼントしたじゃん!練習して家で『たこパ』しないと!」


 カーター副団長が、プレートに注いだ生地を慣れない手つきでひっくり返す。


「……うまく形になりませんな」


「だいじょうぶ!崩れたっておいしいから!食べ盛りの男子なら食べてくれるよ!ほらカディアン、これ食べて!」


 うまく焼ければ『タコ焼き』になったはずのものを、カディアンに押しつけると文句を言ってきた。


「きっキサマ!恐れおおくも王子に向かって作りそこねた失敗作を食わせる気か⁉」


「これはこれで、おいしいんだってば!」


 強引に押しつければ、カディアンはもぐもぐと食べて赤い瞳を輝かせる。


「……うまい」


「でしょー!みんなすぐ上手くなっちゃうから、形が崩れたのって貴重なんだよ!」


「そ、そうか」


 それはアイリが海猫亭の女将さんに、一生懸命ダシの取りかたを習ったタコ焼きだからね。それは教えないけど感謝して食べるといいよ!


 レナードが帰って、カーター副団長とともにアイリとメレッタも帰り、残ったニックがカディアンに聞いた。


「なぁ、カディアン。おまえ……アイリと話をしなくてよかったのか?」


「元気そうな姿を見られただけで……それに、あいつ笑ってたし。俺は……卒業してその後もずっと、彼女と一緒だと思っていた。そう思いこんでた。もっと『かわいい』って言えばよかった」


 ぽつりとつぶやくカディアンに、眼鏡の奥にある深緑の目を細めて、オドゥがふっと笑った。


「女を捨てるときはさ、完膚なきまでにこっぴどく振ってやったほうがいいんだよ」


「は?なんで!」


 聞き返すニックに、ブリッジに指をかけたオドゥが平然といいはなつ。


「嫌われたくないとか恨まれたくないとか、そんなのは男のワガママだ。恨まれて憎まれて嫌われてやらなきゃ」


「泣かせてもいいっていうのか」


 グラコスがわけがわからないといった顔をした。


「捨てるって決めた時点で、どちらにしろ泣かせるんだ。どうせなら思いっきり泣かせてやれってこと。女ってのは泣いてからが強い。男のことなんてきれいに忘れて、新しい幸せをつかみにいく」


「きれいなこといってますけど、オドゥが酷いヤツだってことは変わりませんよね」


「あはは、そうだねぇ」


 ユーリがツッコむと、とくに特徴のない平凡な顔をした眼鏡の青年は、人のよさそうな笑みを浮かべた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 あの日、カディアンが師団長室の中庭で動けずにいたら、アイリを抱えたユーリとネリアが転移してきた。弟に向ける兄の目は厳しかった。


「カディアン、なぜ彼女を助けに行かなかった。なぜ彼女をひとりで戦わせた?」


 アイリの髪はかまいたちで乱暴に切られ、体中に細かいキズがついていて。その変わりように、カディアンはショックをうけた。


「まだ学生のおまえに、できることなどないのはわかっている。だが、おまえはもう彼女にふれる資格はない。このさき一生、彼女を守りぬくと……おまえが誓えるなら話はべつだが」


 カディアンは歯を食いしばって、意識を失ったアイリの血の気のない顔を見つめ……それからかぶりを振った。


「それは……いいえ、俺は誓えない。できません」


 それを聞いたユーリがため息をつく。努力家である彼女の未来を奪ってしまった自覚はあった。


「僕も同罪だ。僕がさっさと立太子していれば、宰相も欲をかかずにすんだかもしれない」


 重い空気を吹き飛ばすように、ネリアがソラを呼ぶ。


「ソラ、居住区でアイリの手当てをヌーメリアに頼んで。ユーリ、わたしたちはライアスたちと合流しよう!」


 ユーリは腕に抱いたアイリを見下ろし、少しかがんでソラに預けた。カディアンは最後まで何もできずに、飛び立つライガを見送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆☆シリーズ発売5周年!トートバッグ発売しました!☆☆
トートバッグ
☆☆『魔術師の杖 THE COMIC』☆☆
1巻4月14日(火)全国発売!

『魔術師の杖 THE COMIC』

コミックス1巻 購入者特典(9種類)

月曜更新ニコニコ漫画

pixivコミック

毎月1日更新!『MAGKAN』(先行配信)

『魔術師の杖 THE COMIC』
☆☆アプリ『コミマガ』でも配信中!☆☆
作画:ひつじロボ先生

小説版公式サイト
小説版『魔術師の杖』
☆☆NovelJam2025参加作品『7日目の希望』約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Renta
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
ソニーReaderStore
楽天
☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
☆☆粉雪チャンネル(Youtube)☆☆
粉雪チャンネル
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。