表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第五章 ネリアと二人の師団長

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

138/563

138.錬金術師のなりたち

 ゴオオオオッ!


 みまもっていたわたしが、息をとめてしまうほどの熱気だ。目の前で繰りひろげられる二人の戦いに息をのんでいると、となりでアーネスト陛下がおしえてくれる。


「今回の手合わせは、まもなく北のモリア山へミスリル採掘のために遠征があるからな。あれを見るとな、ほかの団員たちがひきしまるのだ」


「そんなに危険な場所なんですか?」


「険しい山で食料が少ないのに魔素は豊富だ……地形がやっかいなうえに、でてくる魔獣は凶暴でな」


 モリア山……師団長会議でも話題になった、ミスリルが採掘される鉱山……どんな場所なんだろう。ポーションも十分に用意したつもりだったけれど、あれだけじゃ足りないかもしれない。こんな戦いは心臓にわるい。


 ほかにもなにか……戦いが必須の場所でかれらの助けになるもの……。


 グワンッ!ギィンッ!ザシャアッ!ガンッ!


 長身のライアスが繰りだす長剣の一撃もすさまじいが、レオポルドの双剣は片方をかわしても、すかさずもう一方で切りつけてくる。ライアスはナックルガードと風の盾を駆使して、レオポルドの攻撃を防いでいるようだ。


「こうして見るとライアスのほうが防御重視で、レオポルドは盾もなく双剣で……捨て身の戦法なんだね」


「持久力や身体強化、膂力などはライアスが上だからな、レオポルドは短期決戦を狙っておるのだろう」


「竜騎士だけあってライアスは風魔法に特化してるからねぇ……攻撃や防御のパターンが決まっている……ただ、なかなか隙はないよねぇ」


 オドゥはいつもの軽い口調だけど、訓練場を見守る目つきは真剣だ。


 レオポルドの剣がうみだす氷のつぶてを、ライアスの風魔法がふきとばしている。訓練場の周囲に張りめぐらされた防御壁が作動しこちらに飛んでくることはないが、さきほどの炎の熱気とおなじように冷気や風圧は感じられる。


「でもさっきレオポルドは火属性が得意って聞いたけれど、見ていると氷の攻撃のほうが多いよ?」


「得意ってのはね……レオポルドの場合、氷の攻撃はすべて剣を媒介にしているけれど……火の魔法をつかうときは、詠唱も手の動きもなしで、魔法陣を出現させて打ちだしているだろ?」


「うん」


「つまりあの戦闘の最中にもかかわらず、あれだけの攻撃力を持った魔法陣を、何もせず瞬時に描いているんだ」


 それはまるで呼吸をするように自然に、『火』を使いこなしているということなのだ……と、オドゥは言った。


 レオポルドは『火』を使う一方で、その『氷の双剣』をふるうたびに、つぎつぎと訓練場に氷礫、氷槍、氷柱などの氷を出現させていく。ライアスが剣で砕くが、地に落ちた先でまた氷柱が成長していく。しだいに訓練場が白く輝く氷で埋まり、さながら氷原のようになってきた。


 ライアスも攻撃を防ぎながら風魔法で応戦もしているようで、レオポルドにも細かな切り傷が増えていく。剣が肉を切り裂き、たがいの血飛沫が氷原を赤くそめる。見ているわたしは青ざめた。


「これっ……本当にただの訓練?」


「いやぁ……まぁ、ふたりともマジな性格だから」


「だいぶ足場が悪くなったな……」


 ひろいはずの訓練場が氷に埋めつくされ、しだいに氷原となっていくようだ。ライアスが大きく剣を振って風を巻き起こすと氷柱がなぎ倒され、氷柱にぶつかったレオポルドが地面に叩きつけられた。


 戦いのはげしさとはべつに、何かの圧が急激に高まってきたのを感じて、わたしは背筋がぞわりとする。この場にいる『魔力持ち』は全員それを感じているだろう。


「……なんなの?魔力が急に高まってきた……レオポルドも……それにライアスも!」


 バチバチバチィッ!


 レオポルドだけでなく見ればライアスも金の髪が逆立ちバチバチと火花が散り、彼自身が雷をまとっているかのようだ。ライアスの動きが一瞬とまったとき、地に伏したレオポルドを射抜くように見つめる瞳の青さが、いつもより増したような気がした。


 次の瞬間ライアスが耳をつんざくような轟音とともに、起きあがろうとするレオポルドにむかい巨大な雷撃を放った!


 バチバチバチィッ!ドオオオオオンッ!


 レオポルドは魔法陣を展開し、雷撃をかわすこともなく受けとめると、一気に魔法陣の属性を反転させ、自分もその中に突っこんでいく。


「っ!……属性反転!」


 いままで火属性にふっていた魔力を反転させ、訓練場に極低温をつくりだしたのだ。気温が一気に下がり、訓練場に無数の細氷が出現した。


「ダイヤモンドダスト……」


 氷点下マイナス十度以下で、空気中の水分が昇華してできる小さな細氷だ。


 ありえない状況で出現したダイヤモンドダストに夏の日差しが反射し、まばゆいばかりのサンピラーが出現し、ライアスとレオポルドの姿を視界から消した。


 視界も奪われるが、吐く息が凍りつきそうなこの状況では、どちらも息をするのもつらいんじゃ……そう思ったとき突風が吹き、ダイヤモンドダストが渦をまいて吹きとばされかき消された。


「そこまで!」


 ピピィーーーーッ!


 視界が戻ってくると、ライアスの長剣を自分の防具に食いこませたまま、レオポルドがライアスの喉元に双剣を突きつけている。


「勝者レオポルド・アルバーン!両者、中央へ!」


 訓練場全体がどよめきに揺れた。


 二人は互いにすっと剣をひくと何事もなかったように中央へ移動し、向かいあって礼をすると訓練場のすみへ連れだって移動していった。





 わたしは自分の指が白くなるほど手を握りしめていたことにようやく気づいた。何度も手を開いたり閉じたりしてみたが、指の感覚はなかなか戻ってこない。


「……すごかった……」


「だよねぇ……さ、ちょっと降りて見にいこう」


 オドゥはわたしをエスコートしてひょいひょいと階段を降りると、訓練場のすみにいる二人のところまで連れていく。


 二人はちょうど止血と浄化の魔法をかけたところで、汗だくで血まみれだった手合わせ直後とは思えないほどさっぱりしている。


「ふたりともお疲れ!ライアスは最後どうしたの?迷っちゃった?」


 オドゥにたずねられたライアスは苦笑した。


「迷いなくうちこんだつもりだったが、俺の雷撃も火花が散るうえに空気全体が光るとはな。地面に叩きつけられてみせたのはお前の作戦か?レオポルド」


「……そんなわけ、なかろう……」


 体力の消耗までは回復していないのか、肩で大きく息をするレオポルドを見て、オドゥが眉をあげた。


「レオポルドは勝ったけど辛勝……といったところかな?ズタボロだねぇ」


 レオポルドは長い銀髪を束ねていた髪留めをはずすと、顔をしかめて髪をかきあげた。


「まぁな……ライアスがいつも使っている剣ならば、一撃で吹っ飛ばされて終わりだ」


「いつも使っている剣?」


 オドゥが説明してくれる。


「団長の剣もおなじミスリル製ではあるけれど、それだけでなく代々の『竜王』たちの牙や爪、それに竜玉といった素材で強化されているのさ。その『強化』をおこなうのが錬金術師なんだ。ちょっといま使った剣と防具をネリアにみせてあげてよ」


 二人に差しだされた剣と防具に、わたしはおそるおそる手をふれてみる。なんとレオポルドの髪留めまで防具だった。ミスリルの輝きもさることながら、手渡された武器や防具のどこにも刃こぼれや傷などのダメージがないのに驚かされた。


「ハデな戦闘だったけど防具がしっかりしてるから二人とも意外とダメージを受けていないんだよ。錬金術による精錬で物理だけでなく魔法耐性も付加してあるからね」


「それが錬金術師の仕事なんだね」


 装備についている効果を確かめながらつぶやくと、オドゥがうなずく。


「そう。『竜王』と契約し、シャングリラを都と定めたエクグラシアの建国の祖バルザム・エクグラシア。彼は魔術師でもあり竜騎士でもあった……つまりエクグラシアという国ができたときには、すでに魔術師も竜騎士も存在していた」


「うん」


「それに比べると錬金術師の歴史はわりと新しいんだよ。生活にゆとりができて、生きるために必要だった魔力を他のことにまわす余裕ができた。それからかな……魔道具づくりに凝りはじめたり、より高い効果のポーションを研究したり、魔石や素材の研究もすすんで……そうして錬金術師はうまれたんだ」


「つまり錬金術を生業にする錬金術師があらわれたのは、魔術師や竜騎士にくらべたらつい最近のことなんだね」


「そういうこと!いまとなっては武器や防具の製作や強化ができる錬金術師は、現代の竜騎士や魔術師には欠かせない存在だよ。僕は正直、強化した武器や防具が使えるいまのライアスやレオポルドのほうが、建国の祖のバルザム・エクグラシアなんかよりずっと強いと思うね」


 そういいながらオドゥはポケットから二本の小瓶をとりだし、ひらひらと振った。


「いいもの持ってるんだ。うちの師団長特製のポーション!ふたりともどぉ?」


「ネリアが作ったのか!」


 ライアスは笑顔をみせて渡されたポーションをすぐに飲みほしたが、レオポルドは一瞬ためらってからようやく受けとった。よっぽど疲れているらしい。


「礼をいう……」


 レオポルドはポーションの小瓶を、眉間にシワをよせて少し日に透かすようにしてしばらく眺めていた。それからひとくち口に含むと、そのまま考えこむように口の中で転がしている。


 利き酒されているみたいで緊張するんですが……。


 ようやく飲みくだしたらしいレオポルドが、黄昏色の瞳をおどろいたように見開いた。


「これは……ずいぶんと高性能だな……どれだけ素材をつぎこんだ?」


 オドゥがおかしそうに言う。


「いや、それが……僕もユーリに聞いてわらっちゃったよ。ネコネリスの実にユーリカの花の蜜、エリクシャンテの卵と輝雪結晶の雫だってさ!ネリアって素材にたいする金銭感覚が、まるでないんだって!」


「は⁉」


 レオポルドの瞳はますます見開かれ、先に飲みほしたライアスまで絶句してる。


「それは……なんというか……」


 うぅ……家一軒より高い装備を身につけてる人たちに言われたくないよぅ……。


 よく効くポーションを作ってあきれられるって……どういうこと⁉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者にマシュマロを送る
☆☆コミカライズ開始!☆☆
『魔術師の杖 THE COMIC』

『魔術師の杖 THE COMIC』

小説版公式サイト
小説版『魔術師の杖』
☆☆NovelJam2025参加作品『7日目の希望』約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天
☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
☆☆粉雪チャンネル(Youtube)☆☆
粉雪チャンネル
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ