131.職業体験打ち上げ
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学園生達が、職業体験の片づけをおえて中庭にやってくるころには、うちあげの準備はすんでいた。
「みんな、おつかれさま!」
わたしと一緒に手をふる、ラベンダー色のショートカットの少女のそばに、みな駆けよってくる。
「アイリ!みていてくれたのね!」
「ええ!『ライガ』で飛んだところ、研究棟からみていたわ!やったわね!レナード、最後まで参加できなくてごめんなさい」
「アイリ!きてくれただけでうれしいよ!」
「さぁ、ひとりずつ修了証を渡すわよ!」
わたしは、『錬金術師団 職業体験修了証』と刻印されたプレートを、それぞれに渡していく。アイリの名を呼んだとき、アイリはきょとんとした顔をした。かわいいなぁ、もう!
「あの、私もですか?」
「アイリはグリドルの製品テストだって手伝ってくれたからね!ただの記念品で、とくになんの役にもたたないけど」
「そんな……うれしいです!ありがとうございます!」
そしてガーデンテーブルには、グリドルで焼いたお好み焼きと、『海猫亭』からの差しいれでもらったムンチョのから揚げ、ヴェリガンが研究室で栽培した野菜のスティックにディップを添えたもの、ほくほくの揚げトテポ、あとは冷やしたラムネとフルーツポンチ。
「おお~!なんかすげぇ!」
ラムネは水にピュラルの搾り汁と砂糖とクエン酸を溶かし、冷やしておいたものに重曹を加えて栓をした。
小学生の頃、ラムネってどうやって作るの?……と調べたのが役にたったね!理科の吉田先生ありがとう!異世界で役にたってます!
まずはみんなでラムネで乾杯だ!
「これ、不思議な飲み物だな!喉の粘膜がピリピリする刺激があるのに、甘さもあって……くせになる!」
「あ……グラコス、そんなガブ飲みしていると……」
「ぐえっふ!」
「……ふくまれている炭酸ガスが、特大ゲップになるから気をつけてね」
「さきにいえっ!」
ウブルグがムンチョのから揚げをほおばりつつ、催促する。
「ネリア……酒はないのか?」
「ウブルグってば……きょうの主役は学生たちだからね!アルコールはないよ!」
「ネリアはグリドルの製品テスト、うまく行ったの?」
オドゥに聞かれて、わたしは答えた。
「うーん、二十人ぐらいに案内はわたしたけれど……あしたは販売は早めに終わらせて、魔道具ギルドで製品テストの結果を検討しつつ、グリドルに興味を示したところと商談にはいる予定」
「へぇ……それ、成功って言えるんじゃないの?」
「どうだろ?どんなところでも『いちど持ちかえって検討します』……ってなるじゃない?案内を渡した人たちのうち、ひとつでも契約にこぎつければ成功かな」
「そんなもんでいいの?」
「作りたいところが作ればいいと思うし……過当競争になるのもね……」
「ふうん」
オドゥとの会話が耳にはいったらしく、レナードが反応した。
「グリドルの話ですか?」
「そう!工房を募集するために、グリドルの術式は魔道具ギルドを通して公表したし、レナードももう『情報をもらした』って気にしなくていいよ」
「えっ」
「情報漏洩でパロウ魔道具が不当な利益でも得たなら問題だけど……それはないし、もう情報自体公にしちゃったからね!」
「ネリアの機転じゃのう……大事にならずにすんでよかったな、坊主」
ウブルグのことばを、レナードはうつむいて聞いていたが、やがて顔をあげるとわたしにむきなおった。
「ネリス師団長、俺……錬金術師になるのもいいかなって思ってた……このあいだまでは。けどアイリのことで、俺は王家の彼女への仕打ちが納得できないし許せない。王城で働くのは……俺にはムリだ」
「うん」
「でも師団長にはほんとうにお世話になりました。ありがとうございました。……アイリを最後までよろしくお願いします」
レナード・パロウはぺこりと頭をさげた。残念だけどしかたない。
「わかった……レナードも元気でね」
「さあ、カーター副団長!タコ焼きの練習しようか!」
「なんで私が?」
「グリドルの第一号はプレゼントしたじゃん!焼き方覚えて家で『たこパ』しないと!」
カーター副団長が、プレートに注いだ生地を慣れない手つきでひっくり返す。
「……うまく形になりませんな」
「だいじょうぶ!くずれたっておいしいから!そのへんの食いざかりの男子に食べさせとけばいいんだよ!ほらカディアン、これ食べて!」
うまく焼ければ『タコ焼き』になったはずのものを、カディアンに押しつけると、文句をいってきた。
「きっキサマ!恐れおおくも王子に向かって作りそこねた失敗作を食わせる気か⁉」
「これはこれで、おいしいんだってば!」
「……うまい」
「でしょー!みんなすぐ上手くなっちゃうから、形がくずれたのって貴重品なんだよ!」
「そ、そうか……」
なんだかんだでカディアンは素直にもぐもぐと食べる。それはアイリが『海猫亭』の女将さんに、一生懸命出汁のとりかたを習ったタコ焼きだからね……感謝して食えよ!絶対教えないけど!
「なぁ、カディアン……お前アイリと話をしなくてよかったのか?」
レナードが帰り、アイリとメレッタもカーター副団長とともに帰り、残ったニックがカディアンに聞いた。
「ぶじな姿を見られただけで……それに、あいつ笑ってたし」
あの日、師団長室の中庭にいたカディアンのところに、アイリを抱きかかえたユーリとネリアが転移してきた。カディアンに向けるユーリの目は厳しかった。
「カディアン、お前はなぜ彼女を助けにいかなかった……なぜ彼女をひとりで戦わせた?」
アイリの髪はみじかく切られ、体中に自分が呼び起こしたかまいたちでついた細かいキズが、いくつもついている。カディアンはアイリの変わりように、ショックをうけた。一歩間違えれば、兄もアイリも失うところだった。
「学生のお前にできたことが少ないのはわかっている。だがお前はもう彼女にふれる資格はない……もっとも、お前がこのさき一生彼女を守りぬくと誓えるなら、話はべつだが」
「それ、は……」
カディアンは歯を食いしばって、意識のないアイリの血の気を失った顔をじっと見つめ……それからかぶりを振った。
「……いいえ、俺は誓えない……できません」
「……僕も同罪だ。僕がさっさと立太子していれば、宰相もよけいな欲をかかずにすんだかもしれない」
「ソラ!ヌーメリアに頼んで居住区でアイリの手当てを!ユーリ、わたしたちはライアスたちと合流しよう!」
ネリアが声をかけ、ユーリは腕に抱いたアイリの白い顔をみおろすと、少しかがんでソラに預けた。カディアンは飛びたったライガを見送るだけで、なにもできなかった。
「俺はアイリと……卒業してその後もずっと一緒にいると思っていた。そう思いこんでた……もっと、あいつに『かわいい』っていってやればよかった」
カディアンがぽつりとつぶやくと、オドゥが眼鏡の奥にある深緑の目を細め、ふっと笑った。
「女を捨てるときはさ、完膚なきまでにこっぴどくふってやったほうがいいんだよ」
「は?なんで!」
ニックが叫ぶと、オドゥは眼鏡のブリッジに指をかけ、平然といいはなつ。
「嫌われたくないとか恨まれたくないとか、そんなのは男のワガママだ。男は恨まれて憎まれて嫌われてやらなきゃ」
「泣かせてもいいっていうのか」
グラコスがわけがわからないといった顔をした。
「捨てるって決めた時点で、どちらにしろ泣かせるんだよ……どうせなら思いっきり泣かせてやれっていってんの。女ってのは泣いた後のほうが強いのさ。男のことなんてきれいに忘れて、新しい幸せをつかみにいくよ」
「……きれいなこといってますけど、オドゥが酷いやつだってことは変わりませんよね」
「あはは、そうだねぇ」
ユーリがツッコむと、とくに特徴のない平凡な顔をした眼鏡の青年は、人のよさそうな笑みを浮かべた。
ありがとうございました!
『魔術師の猫~魔術師レオポルドと、使い魔の猫~』という新連載を始めました。そっちはのんびりと不定期更新です。登場人物や舞台設定は重なっていますが、ネリアは出てきません。
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