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魔術師の杖  作者: 粉雪@4/14『魔術師の杖』コミックス1巻発売
第四章 職業体験とサルジアの陰謀

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114.霊廟にて

連載を始めて4ヵ月経ち、100万PVを超え、日間1位と週間3位も獲得。応援ありがとうございました!誤字報告やご指摘など、本当に感謝しております!

 夕方、学生たちが帰ったあとの研究棟は、いつもの静けさを取り戻した。


 工房をでて二階の研究室に戻ろうとしていたユーリは、背の高い美丈夫がやってきたところにでくわした。


「ライアス」


 黄金の髪は太陽の光みたいで、青い瞳は晴れた夏の空のような竜騎士団長の名をユーリは呼ぶ。ライアスはさわやかな笑顔で、彼に話しかけてきた。


「ユーティリス、ネリアはいるか?」


「ネリアなら師団長室に……あれ?いませんね……」


 師団長室の扉を開けてもネリアはいない。ふたりはソラにも確かめたが、彼女は居住区にもいなかった。


「転移か?ユーティリス、王城の魔法防壁はどうなっている?」


「とっくに対応ずみです。魔術師団の二の舞はごめんですからね。ネリアに用ですか?」


 困ったように眉を下げたライアスに、ユーリが首をかしげて問いかける。


 ネリアに防壁を壊されるぐらいなら、最初から彼女が自由に通れるようにしたほうがいい。けれど王都にでかけたとなると、彼女を見つけるのは難しそうだ。


「それじゃ、どこにでかけたかもわからないな。彼女を食事に誘おうかと思ったんだが。いや、またでなおそう」


「食事に?」


 竜騎士団長ライアス・ホールディホーンから食事に誘われて、喜ばない女性なんていないだろう。


 軽く手をあげて帰っていくライアスのうしろ姿を、ユーリはその赤い瞳でじっと見つめた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 わたしは確か……さっきまで、師団長でぼんやりと考えごとをしていたはずだった。


 グリドルの製品テストの結果や、すぐに帰ってしまったレオポルドのこととか、職業体験にやってきた学園生たちのこととか……。


 一日のあいだにいろいろなことが起きて、こんなときグレンならどうするかなぁ……と、思いだしていた。


(グレンに会って話がしたいな……)


 そう思ったのがいけなかったらしい。転移魔法陣がいきなり発動し、次の瞬間には見覚えがない、窓もなくて薄暗い、ひんやりとした部屋にいた。


 突然の転移にぎょっとしたわたしは、部屋にいた人物を見つけて、安心して肩の力を抜いた。


「レオポルド……」


 彼は黄昏時の空みたいな薄紫の瞳を、驚きに見開いている。いつも無表情だから珍しい。


 黒い魔術師団のローブは脱ぎ、彼は私服のシンプルな青いシャツに黒いズボン姿だった。


「おまえ……まさか、また私に会いにきたのか?」


「そうじゃないけど……頭痛がして帰ったんじゃなかったの?」


「頭痛はもうよくなった。なぜここに……いや、おまえのような世の理を超えてくるヤツに聞いてもムダか」


「……『非常識な』を、柔らかい言いかたに変えてくれてありがとう」


 顔をしかめてゆるく首を振る、彼の頭痛が再燃しないこよう祈りながら、わたしは部屋を見回した。


「ええと……ここはどこ?」


「ここはアルバーン家の霊廟だ」


 薄暗い部屋の壁には魔導ランプが灯り、奥には小さな扉がたくさんついた黒いタンスが置いてあり、その上に翼を広げた竜王の像が載せられている。


「霊廟って、お墓みたいなもの?」


「塚のことか?死ぬと魔石しか残らない我々に、そんなものはない。各家にある魔石の保管場所のようなものだ」


 レオポルドが指し示す黒いタンスは、どうやら魔石を保管ためのものらしい。


「レオポルドはお参り中だったってこと?」


「ひとりで考えたいことがあっただけだ。何かしていたわけではない」


「こんなところで?」


 魔石は骨ではないけれど、亡くなった人の一部なわけで……いくら静かだといっても、こんなところで考えごとなんてするだろうか。


 そう思っていたら、彼は手にしていた紫の布包みに視線を落とす。


「ハッキリ思いだそうとすると、かえって輪郭がおぼろげになってな……」


「もしかして、研究棟で暮らしていたときのこと?」


「…………」


 返ってきたのは、深いため息だけだった。彼は眉をひそめて逆に聞いてくる。


「おまえはここにくるのは初めてだろう。よっぽど私に会いたかったのか?本のことで何か質問でも?」


「それがわたしにも全然わからなくて……本のお礼も言いたかったし、マリス女史から頭痛と聞いて、心配はしていたけど」


 なぜ彼のところに転移したんだろう。


「あのね、レオポルドのことを考えていたんじゃなくて。その……『グレンに会いたいな』って思ってたの」


「もしかして、おまえが引き寄せられたのは……これか?」


 レオポルドは驚いて、手に持っていた紫の包みを解く。光沢のある柔らかい布をめくると、青味がかった鈍い銀色の光を放つ、グレンの魔石があらわれた。


「グレンの魔石……レオポルドが持っていたの?まさかそれで⁉︎」


「魔石に引き寄せられるとは……おまえはよほどグレンとつながりがあるようだな」


「ふだんはここにしまわれているの?」


 そうたずねると、彼は首を横に振った。


「アルバーン家の人間ではないから、この魔石は霊廟に納めることを許されていない。そんなことをしたら、魔石になった先代のアルバーン公が激怒するだろう」


 レオポルドは、手にした青灰色の魔石をじっと見下ろす。


「夫婦であれば、魔石は添わせるように保管する。私の記憶が幻でなければ……ふたりの魔石を添わせてやってもいいかと思い、持ち帰ったのだが……」


 彼は竜王の像に守られた、黒い保管庫に目を向けた。


「だが、母の……レイメリアの魔石はここになかった。叔父のアルバーン公にたずねたら、母の魔石はグレンが持っていると。おまえはヤツから何か聞いていないか?」


 わたしの心臓がドクンと跳ねた。かろうじて冷静さを保って彼に聞き返す。


「レオポルドのお母さんの……レイメリアの魔石?」


「そうだ。私の母、レイメリア・アルバーンの遺した魔石を、グレンはどうしても祖父に渡さなかった。怒った公爵は私をアルバーン領に連れ帰った。私は魔石のかわりだったというわけだ」


 レオポルドは皮肉げに唇をゆがませた。こんなにきれいな顔をゆがませるなんて……レオポルドのおじいさんは、どんな人だったんだろう。


 それにしても、いつも淡々として無口な彼が、ふだんよりもよくしゃべる。よほどショックだったんだろうか。


「それらしいものを見かけた覚えはないか?あいつのことだから何かに使ってしまったかもしれないが」


 黄昏色の瞳に真剣な光をたたえる彼に、わたしは嘘をついた。


「覚えはないけれど……こんどデーダスの家を探してみるよ」


「頼む」


 心臓にチクリと、トゲを刺したような痛みがしたとき、霊廟の外に複数の人の気配がした。


「サリナ様、レオポルド様は誰も近寄るなと……」


「だいじょうぶよ。わたくしのお願いなら聞いてくださるわ!レオ兄様、いらっしゃるでしょう?」


(サリナ……サリナ・アルバーン⁉︎)


 コンコンと軽く扉を叩く音がして、わたしはぎくりと身を強ばらせる。レオポルドはそれを横目でちらりと見てから、扉の向こうに返事をする。


「サリナか……どうした?」


「せっかく早くに帰宅されたのですもの、夕食をご一緒したくて。わたくし、レオ兄様とお話ししたいわ」


「わかった。今いく」


 扉越しにサリナの明るく弾んだ声がする。


「うれしい!じゃあ待っていますわね!おまえたち……お兄様のぶんの準備もお願いね!」


 人の気配が遠ざかると、レオポルドはわたしを振り向いた。


「おまえは帰れ。それと……むやみに転移をするな。塔の魔法結界も越えられるぐらいだ。行けない場所などないだろうが……アルバーン家の者に見つかれば問題になるぞ」


「うん……気をつける」


 こくりとうなずいたわたしを見て、レオポルドがふっとかすかに笑った。


「本当に風のようなヤツだな。自由自在に気ままに……どこにでも行ける」


 師団長室に戻ったわたしに、ソラがライアスの来訪を教えてくれる。けれどなぜか、エンツで彼に連絡する気にはなれなかった。

ネリアはレイバートの店の事はすっかり忘れています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当はお母さんを呼ぶつもりだったんだろうな。レオポルドの ライアスは間が悪い。彼にとっては悲恋になりそう なんていうの?男が言う 『君は強いから僕が居なくても幸せになれる。でも彼女は僕が居…
[気になる点] 「嘘をついた」「覚えはない」→ネリアは魔石の行方をある程度は知っている 「添わせてやってもいいか……と思った」 ネリアは転移時に瀕死→グレンがなんとかした 魔石は価値のある錬金素材 …
[一言] グレンが持っているはずのレイメリアの魔石…あっ
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