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魔術師の杖  作者: 粉雪@4/14『魔術師の杖』コミックス1巻発売
第四章 職業体験とサルジアの陰謀

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113.錬金術師のススメ

予定していた投稿分2話分を直前に書き直して差し替え。

実はお蔵入りした話やこれから先使うかもしれないエピソードが、投稿分と同じぐらいの量溜まっています。

 メレッタたちが工房に戻ると、アイリは静かに作業の準備をはじめていた。


「アイリ……」


 心配そうに話しかけたメレッタに、彼女はほほえむ。


「いま素材を選りわけていたの。メレッタもやる?」


 メレッタもアイリの隣に座り、フウゲツコウモリの羽を手に取る。風属性に親和性が高く、スピードアップの術式を刻むのにむいた素材だ。術式を刻みやすい硬さと厚さのものを選んでいく。


 しばらくふたり並んで黙々と作業をつづけ、やがてアイリがぽつりといった。


「メレッタのライガ……飛ぶといいわね」


「もちろん飛ぶわよ!問題は時間よね……もっと時間があればなぁ」


 今日はライガの骨格になる素材をいくつか選び、強度を試すことにしている。十日間しかない職業体験は、期間がもう半分すぎてしまった。


 残りの期間での完成は難しいけれど、学園生たちは最初に思ったよりもやれていた。


 いつもは対立するレナードとカディアンが協力しているし、リーダーとなったメレッタの存在も大きい。


「ムリだ。できっこない!」


 誰かが言いだしても、メレッタは決まってこう言うのだ。


「できないかどうかなんて、やってみなければわからないわ。だから、やってみましょう!」


「どうやれば、ライガが飛ぶのかわからない……」


 グラコスが弱音を吐いても、メレッタは明るく言い切った。


「どうしたら飛ぶのか……じゃないの。ライガは飛ぶのよ!どうして飛ばないのかを考えて、その理由を潰していけばいいわ!」


 ニックは皮肉っぽく口をゆがめた。


「じゃあメレッタ、君はライガが飛ぶ仕組みがわかっているのか?」


「私にもさっぱりわからないわ」


「なんだよ、それ!むちゃくちゃじゃないか」


 メレッタは小首をかしげて、栗茶色のボブにした髪にふれ、もてあそぶように毛先をいじる。


 かわいらしい仕草だけれど、彼女の口から次にどんな爆弾が飛びだすか……誰にも予想できない。


「ネリス師団長に聞けば、仕組みはわかるかもしれないけれど……私は聞きたくないの」


「はぁ⁉︎」


「だって、答えがわからないから、おもしろいんでしょう?さぁさぁ、難しいことばっかり言ってないで、やってみましょうよ!」


 ニックが叫んだ。


「おまっ!だから危ないっていっているだろう!」


「なんと言われても、ライガの量産機第一号は譲らないわ!とっとと組み立てましょうよ!」


 メレッタは恐ろしい勢いでみなを急きたてる。職業体験のあいだに、ライガを本当に飛ばすつもりらしい。


「メレッタ、また!」


「あっ」


 アイリが悲鳴をあげると、術式を刻むのに失敗したフウゲツコウモリの羽が、メレッタの手元でボロボロに崩れた。


 机に積みあがった残骸を、しばらくぼうぜんと眺めてから、顔を上げたメレッタはアイリにウィンクする。


「好きなことが思いっきりやれるって最高ね!」


「メレッタったら、もう!」


 つられて笑うアイリは、さっき中庭で感じた緊張が解れるのを感じた。おもしろいことに、カディアンも優等生のレナードも、そんなメレッタに振り回されている。


(失敗を恐れないメレッタは、なんて自由なんだろう)


「ふふっ、私……錬金術師団の職業体験に参加してよかったわ」


「うん、それは私もそう。ライガの完成まで見届けたいわ。お母さんが認めてくれたらなぁ……」


 素材の値段も調べたから、ムダになった総額を計算するだけでもアイリは焦るけれど、錬金術師団でそれについて文句をつけられたことはない。


 それどころか、素材はいつのまにか補充され、ほかにも必要なものがないか、水色の髪をしたソラがたずねてくる。


 研究者にとってはまさしく、理想的な環境だった。


「ユーティリス殿下も想像とは違っていたし、ネリス師団長もいいかたよね。ウワサっていいかげんだわ。私、カディアンを守らなきゃって緊張していたの。そんな必要なかったみたい」


「そうよね、錬金術師団っておもしろいわ。お昼ごはんも何がでてくるか、毎回楽しみだし」


 アメジストの瞳を輝かせて素材をつかむメレッタに、アイリもつられてほほえむ。薄紫の髪をハーフアップにした美少女が、紅の瞳を潤ませて見せた笑顔に、レナードは釘づけになっている。


「初日のカレーにはびっくりしたわね。ネリス師団長は私から見てもかわいらしくて……私、どこで間違ったのかしら」


「アイリ⁉︎」


 ポロポロと大粒の涙をこぼすアイリに、メレッタが手を止めると、見守っていたレナードがたまらず乱入した。


「泣く必要なんかない!きみには俺がいる!」


「レナード!話をややこしくしないで!」


 メレッタが叫ぶと、工房にウブルグ・ラビルが顔をのぞかせる。


「おや?師団長もユーリもおらんのか。どれ、せっかくだからわしがひとつ話をしてやろう」


 そこで強制的にウブルグの特別講義がはじまり、アイリの涙は引っこんだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 話を終えたわたしたちが工房に戻ると、ウブルグが学生たち相手に講義をしていた。


「カタツムリは移動速度の遅さが、その地域的な特異性を生みだしている。彼らの殻には右巻きと左巻きがあり、それぞれ巻きかただけでなく体の構造も左右反転している。逆巻き同士の個体では交尾ができず、それが生物種が分化するきっかけになると思われる」


 うん、ウブルグおじいちゃん……ブレないね。カタツムリの話が珍しいのか、生徒たちもまじめに聞いている。


 特別講義が終わると、メレッタが元気いっぱいにわたしへ話しかけてきた。


「ネリス師団長すごいですね!ライガで空を飛ぶだけじゃなくて、ヘリックスで海中散歩まで!錬金術師団の開発する乗りものって、ぶっ飛んでますね!」


 え?あっれぇ?……そういうことになってたっけ?


『珊瑚礁の海をカタツムリでお散歩できたらすてきだよね』


 そういえばマール川のほとりで、そうウブルグに言ったかも……。


「まぁね、不可能を可能にするのが錬金術師だからねっ」


 とりあえずカッコイイことを言えば、レナードが銀縁眼鏡のつるに手をかけ、つっかかってきた。


「ライガはともかくヘリックスの研究はくだらないです。何の役に立つんですか」


「レナードってば、邪魔されたからっておとなげなーい」


「うるさいなっ!俺はまだ学生だ!」


 あきれたように言うメレッタにも、レナードはかみつく。


「ちっちっち。わかってないなぁ、レナード・パロウ」


 わたしは彼に向かってビシッと三本の指を突きだした。


「あのねぇ、錬金術師の仕事は『サンケー』なの!」


「さんけー?」


 指を一本づつ立てながら、ひとつひとつをゆっくりと声にだす。


「つまり()妙で、()険で、()だらないの!……わかった?」


「奇妙で危険でくだらない……」


 レナードはまるで本気なのかと問うように、銀縁眼鏡のつるをつまんで、わたしの顔を見る。


 その目をまっすぐ見返して笑ってみせると、彼はぎょっとしたような顔をした。


「うわ、ネリア……それはヤバいよ」


「無自覚って怖いですよね」


 オドゥがつぶやけば、ユーリもため息をつくけれど、わたしは自信たっぷりに言い切った。


「そうよ!人の役に立ちたいなら、医師か薬師か魔道具師にでもなることね!」


 錬金術師の仕事なんてくだらないと、バカにされることも多い。なんの役に立つかなんて、研究している当人にだってわからない。


 それがわかっていて、なおかつやりたいことがあるのなら。


 きみも錬金術師になりませんか?

カディアンの本音はとりあえず、ユーリとネリアの胸の内に。

【錬金術師のローブを着たネリア】

挿絵(By みてみん)

作者手描きにコピック彩色。へたっぴですみません。

(キャラクターデザイン:よろづ先生)

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― 新着の感想 ―
ネリアの言葉、マジで核心を突いてるなぁ...「誰かのために」じゃなく「自分がやりたいから」の方が、そりゃ原動力として強いわw
[良い点] 「無駄な仕事」を抱えておける社会は強い
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