表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖  作者: 粉雪
第四章 職業体験とサルジアの陰謀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
112/581

112.リメラ王妃とお茶しましょう

よろしくお願いします。

 結局、アーネスト陛下には逃げられた。


 わたしは転移陣の部屋から連れだされ、リメラ王妃と奥宮を歩いている。


 ヌーメリアと王城の食堂や事務室、医務室、図書室なんかを歩き回り、そこでは王城のスタッフたちともすれ違った。


 奥宮はそのどれとも違い、落ち着いた静かな場所で天井は高く、磨かれた床にはチリひとつ落ちていない。


 太い柱からは、きらびやかさともまた違う荘厳さが感じられて、修学旅行で行ったお寺みたいな雰囲気もある。


(こういうところでユーリもカディアンも育ったのかぁ……王子様だからあたりまえだけど、すごいおぼっちゃまだ)


 柱や床石のひとつひとつに歴史の重みを感じて、エクグラシアという国を作った人たちの、エネルギーと情熱に圧倒される。


(このシャングリラの王城は、その中心なんだ……)


 そんなことを考えていたら、つきあたりの扉でリメラ王妃が立ちどまった。


「もうしわけないけれど、茶会の途中で中座してしまったの。参加者にあいさつだけさせてもらうわね」


 リメラ王妃がわたしを振り向いて言えば、扉が静かに開く。そのむこうは甘い香りがする、まるで天国の花園みたいな華やかな光景が広がっていた。


 あふれるように花が飾られた室内は、一瞬アトリウムかと思ったけれど、大きな窓がある広めの談話室のようだ。白いテーブルクロスがかけられたテーブルに、かわいらしいお菓子の盛られた皿がいくつも置かれている。


 テーブルのまわりには美しく装った令嬢たちが何人も座り、色とりどりのデイドレスがさらに華を添えている。


 アイリも美少女だけど、この場にいるどの令嬢もきれいだなぁ。みんなお姫様だよ、うん。


 ……あっ、ライザ・デゲリゴラル嬢までいる!


「みなさん、中座してごめんなさいね?わたくし、これからネリス錬金術師団長と話がありますの。会はこれでおひらきにいたしましょう」


 要は、わたしがきたから帰れということだ。ひぃ……先約のあるお茶会を優先してくれていいのに!


 令嬢のひとりがすっと優雅に立ち上がる。こぼれそうに大きな緑の瞳に、金の髪をゆるく巻いた彼女がわたしたちのほうへ歩きだすと、ほかの令嬢たちもそれにならう。


「では王妃様、退出のごあいさつだけお許しください」


 うわ、天使!もしくは妖精!


 令嬢はわたしたちにきれいな姿勢で礼をする。近くで見る緑の瞳は、神秘的にきらめいていて、唇はまるでバラの赤い花びらみたい。豊かにうねる金髪は艶があり、光をまとっているかのようだ。


「サリナ・アルバーンともうします。ネリス師団長、失礼いたします。王妃様、本日はお招きありがとうございました」


 ……サリナ……アルバーン……もしかして、レオポルドの親戚⁉


『アルバーン公は、自分の娘と婚姻を結ばせるつもりでしょう』


『いとこ同士で?』


 わたしはユーリとの会話を思いだす。


 顔を上げたサリナは目だけで軽くほほえみ、静かに退室していった。そのあとに続いて、ほかの令嬢たちもあいさつだけすると退室していく。


 仮面のおかげで、わたしの表情が見えなくてホッとする。アルバーン……もしかして、もしかしたらだけど……彼女が?


「お待たせしたわね、いきましょうか」


 見送ったリメラ王妃が、わたしに顔を向ける。わたしたちはさらに奥へ進むらしい。


「あの、お茶会の途中だったのでは?」


「だいじょうぶよ、あの子たちはいつも招いているから。女の子と話すのは楽しいわ。かわいいし、気持ちも晴れやかになるでしょう?」


「たしかに。あんなに華やかな子たちに囲まれるだけで、テンションが上がりそうです!」


「テンションが……上がる?」


 リメラ王妃は意外そうにつぶいやいて振り返った。わたしはグッと両の拳を握ってハキハキと答える。


「ええ。『ザ・本物のお姫様』って感じです。あっ、王妃様もおきれいなうえに、まっすぐに伸びた正中線が美しくて、うしろ姿すらほれぼれします」


「……あなたはわたくしの正中線を見ていたの?」


「はい。ちょうど目のまえにありましたし」


「あなた……変わっていると言われない?」


 ええ、まぁたまに。前は「変わっている」と言われても、「そう言われても……ふつうとはなに……?」と思っていたのだけれど、今のわたしには免罪符がある!


「錬金術師ですから」


「それもそうね……」


 ほら、納得してくれた。ちなみにあなたの息子さんもですよ、奥さん!……というセリフは胸の内に留めておく。


 だってわたし、大人だもの!思ったことをなんでもしゃべったりしないわ。


 着いた部屋はさっきの談話室よりも狭く、落ちついた雰囲気で、プライベートスペースに近い場所のようだ。


 どうやらわたしたちが令嬢たちと会っていたときに、手早くお茶を用意したらしい。人の気配なんてしなかったのに!


「お座りになって」


「ありがとうございます」


 リメラ王妃の正面に座ったけど、何を話したらいいんだろう。研究棟にいるユーリの話からかな……などと考えていたら、リメラ王妃が口をひらいた。


「ここにはわたくしたちだけ。その仮面、おとりになったら?」


「仮面?」


 あっ、仮面ね……グレンの仮面は見た目の異様さとは反対に視界も良好、呼吸もスムーズにできるから、つけていることを忘れるほどのつけ心地で、よく本当に忘れちゃうんだよね……。


 でもお茶を飲むなら外さないと。王妃様は「わたくしたちだけ」と言うけれど、給仕やおつきの人が三人ぐらい控えていて、完全にふたりっきりでもない。


 まぁ、公人なのでしかたないか。


 わたしが仮面を外すと、リメラ王妃が目をみはった。まわりの人々も息を飲み、カディアンのときと似た反応をする。


 こんな化粧っけのない女が、王妃様とお茶するなんて珍しいのかも。だって王族に会うなら、みんなきちんとしているよね。


「あなたはグレンの元にいたのだったわね?」


「はい、グレン・ディアレスの弟子となり、錬金術を学びました」


「それはどれぐらい?」


「三年でしょうか。でも実質学んだのは二年ほどですね」


「……それで錬金術師団長に?」


 リメラ王妃が眉をひそめた。たった二年で⁉と思うところだよね……でも、わたしも同感。


「ホントですよね。わたしとしては、王都で魔道具師にでもなれればと思ってたんですけど。ドラゴンが迎えにきて、なぜか師団長になるハメに……」


 グレンたらまったく困ったおじいちゃんだよ。人にいろいろと押しつけて逝っちゃうんだから……。


「そういえば、あなたとユーティリスが婚約するのではというウワサもあったのだけど……」


 あったね……きっとアーネスト陛下の周辺が先走ったのだろう。ここは否定して安心させてあげよう。


「だいじょうぶです。それは断りましたから」


「……断った?」


「はい、アーネスト陛下から冗談めかして『息子の嫁にならんか?』と言われましたけど、『ちゃんと本人に決めさせてあげて』と断りました」


 パリーン。王妃様の手にあったカップが粉々に砕けた。ふぇっ⁉


「あら、ごめんなさい。わたくし土の属性を持つものだから、驚くとときどき陶器のカップを壊してしまうの」


「そうですか、それはたいへんですね」


「修復の魔法陣をかけてあるから、大丈夫よ。そう……あの人ったら、わたくしの知らぬところでそんな勝手なことを……あとで問い質さなくてはね」


 にっこりと優雅にほほえむ王妃様の手から、パラパラとティーカップのカケラがこぼれ落ちた。

挿絵(By みてみん)

おすましネリア(画:よろづ先生)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆☆シリーズ発売5周年!トートバッグ発売しました!☆☆
トートバッグ
☆☆『魔術師の杖 THE COMIC』☆☆
1巻4月14日(火)全国発売!

『魔術師の杖 THE COMIC』

コミックス1巻 購入者特典(9種類)

月曜更新ニコニコ漫画

pixivコミック

毎月1日更新!『MAGKAN』(先行配信)

『魔術師の杖 THE COMIC』
☆☆アプリ『コミマガ』でも配信中!☆☆
作画:ひつじロボ先生

小説版公式サイト
小説版『魔術師の杖』
☆☆NovelJam2025参加作品『7日目の希望』約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Renta
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
ソニーReaderStore
楽天
☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
☆☆粉雪チャンネル(Youtube)☆☆
粉雪チャンネル
― 新着の感想 ―
うーん、アンジャッシュ…w まあ、ネリアさんが悪いことをしている訳ではないから…、きっと大丈夫…。 軽率発言の陛下は奥さんに叱られてもろて。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ