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魔術師の杖  作者: 粉雪@4/14『魔術師の杖』コミックス1巻発売
第四章 職業体験とサルジアの陰謀

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110.師団長会議

よろしくお願いします。

 どうやらわたしは、エクグラシアの誇る魔術師団の本拠地、塔の魔法結界を転移により一瞬で破壊してしまったらしい。


 らしいというのも……全然、わたしは気づかなかった!


 それについてはレオポルドではなく、魔術師団の副団長メイナード・バルマと、団長補佐のマリス女史が説明のため研究棟を訪れた。


「そういえば魔法結界があるって聞いたかも。なんで転移できたのかな?」


 そう言うとバルマ副団長は、血の毛が引いた顔で説明してくれた。


 それは転移魔法陣を構成する古代文様〝オヴァル〟にに魔力を流し、エレスでバーンと実行したために、起こった事故らしい。


「え?誰でもやってるよね?」


 わたしがやったから、マジですべてを越えちゃったんだとか。


「すわ、テロか⁉……と、全身の毛が総毛立ちましたが。そうですか、うちのアルバーン師団長に会いにきただけですか……」


 すとーんと表情が抜け落ちたバルマ副団長からは、いつもの愛想のよさも消えている。わたしはもじもじと指をこねた。


「ええとですね、転移魔法が使えるようになった喜びを、誰かとわかち合いたくて……」


「たまたま、ウチの師団長の顔が思い浮かんだと……」


「まぁ、そういうことになりますね。それとライガで窓から飛びこむなと、なんども注意されたので」


 バルマ副団長はガクッと肩を落とした。


「ライガのほうが、まだマシでした……」


 古代文様は日常生活に深く根差している。お守りの意匠にも広く使われる単純化した図式なので、魔力に反応しやすいんだとか。


 魔力による干渉を防ぐ塔の魔法結界は、魔法攻撃だけでなく魔術による転移も弾くため、あらかじめ登録された魔術師など、関係者だけが転移できるらしい。


 そして突然の転移に、仕事をしようとした魔法結界は、わたしを阻もうとして単純に力負けしたらしい。


 なんだか甲子園の砂をすくう高校球児たちを思いだす。


 がんばったんだな、魔法結界……そして力尽きた……。


 わたしが敗者に温かいエールを送る気分で、敗れ去った魔法結界にしんみりしていると、バルマ副団長が顔色を青から白に変えて告げる。


「魔法結界の再構築は、塔の魔術師たち全員で作業して夜中までかかります。アルバーン師団長も現在、その対応に追われています」


 はい?


 魔法結界の再構築に、《《塔の魔術師たち全員で作業して夜中まで》》……?


 バルマ副団長もマリス女史も真顔で、冗談を言っている感じではない。


 …………。


 ……うわぁあああ!


 ……やっちまったああああ‼︎


 そのあと蒼白になったバルマ副団長に、いかに魔法結界が重要な働きをしているか、そして魔術師たちが日々のメンテナンスに、どれだけ労力と魔力を割いているか、静かな声で延々と長時間かけて説明された。


「まことにもうしわけございません……」


 正直、レオポルドに怒鳴られるよりキツかった。


「いいですかネリス師団長!ウチの師団長にお会いになりたければ、たとえ本人が断っても、私が予定を調整いたしますので!先にエンツをお願いしますっ!」


 マリス女史にはそう詰めよられ、ほぼ強制的にエンツ先の交換もさせられた。ううう、怖かった。


 けれどそれからというもの、彼女は毎日のようにエンツを送ってくれている。


「本日の師団長は眉間のシワが深いです。接近、ご注意ねがいます」


「本日の師団長は比較的、心穏やかなようです。交渉ごとには向いた日でしょう」


 いわばレオポルド版〝気象情報〟だ。これには本当に助かっている。


 わたしは『用心深さ』を覚えた!


 そう、なるべく塔に近寄らず、〝レオポルド注意報〟を警戒して機嫌を損ねないようにすれば、わたしも塔で働く魔術師たちも、平穏な日々を過ごせる。


 結果として、わたしはレオポルド対策を熟知しているマリス女史と、協力関係を築くことに成功した!


 魔法結界を壊したのはもうしわけなかったけれど、魔術師団とのやり取りは、師団長のレオポルドを介するより格段にやりやすくなった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そうやってマリス女史を通してレオポルドと交渉した結果、今日の師団長会議では海洋生物研究所への魔法陣を、紙に描いたものを彼に見てもらうことになっている。


 おっしゃあ!座標バッチリ!


 狙いどおり小会議室に転移できて、わたしは思わずガッツポーズをした。気分はオリンピック選手!


「ネリス師団長?なんだその舞は」


「舞ではありません!決めポーズです!」


「きめ……?」


 けげんな顔で聞くアーネスト陛下に説明したけれど、さらにわからないという顔をされる。


 あれ?この説明で伝わらない?……とわたしは考えて、はたと気づいた。


 エクグラシアに戦隊ヒーロー、いなかったよ!


 ライアス・ゴールドとかレオポルド・シルバーはどうかな?そうするとヒーローポジションは、ユーリ・レッドで決まりだ!


 ……なんだかギラギラというか綺羅綺羅しすぎる。やっぱり戦隊ヒーローはクレヨン的配色がいいかもしれない。


 そうするとウブルグ・オレンジにヴェリガン・ネイビー……あれ、なんか変。


 遠征を控えた訓練が激しいのか、ライアスはニコニコしているけれど、顔の輪郭がシャープになってきた。


「ウブルグのために海洋生物研究所へ長距離転移陣を、ネリアが新たに敷くそうだな」


「……おまえは転移陣を使っても騒がしいな」


 人の顔を見れば文句をいうレオポルドも、あいかわらずだ。


 こないだ塔に跳んだときはすごく静かで、具合でも悪いのかと思うほど大人の対応だったのに。


 グレンが構築した居住区からデーダスまでの固定移動魔法陣を参考に、わたしだって必死に考えたのだ。


 こうやって先に相談しておけば、レオポルドが研究棟までくるのは、実際に魔法陣を敷くときだけで済む。忙しい彼の負担にならないだろう。


 大きな魔法陣だから、持ちこんだ紙もそれなりのサイズだ。レオポルドはわたしが抱える巻紙に目をやった。


「持ってきたか……まずは術式を見せてみろ」


「ええと……グレンが居住区に敷いていた魔法陣を参考にしたの」


 わたしは固定魔法陣の設計図を描いた巻紙を。小会議室の机に広げた。アーネスト陛下やライアスも、身を乗りだしてのぞきこんでいる。


 レオポルドは紙に目を落とし、魔法陣を指でなぞりながら眉を寄せた。


「これは……」


「どうかな?ふつうの転移魔法陣とあまりに形が違うから、自信がないんだけど……」


 レオポルドは険しい表情で、無言で魔法陣を見つめている。長い銀のまつ毛が黄昏色の瞳に影を作り、その眉間に寄せられたシワは深い。


「おまえ……これを転移魔法陣だと思っていたのか?」


「うん。……って、そうじゃないの?」


 ライアスまで首をひねっている。


「俺も仕事柄、長距離移動魔法陣を使うが、ずいぶん形が違うぞ?」


「そうなの?」


 アーネスト陛下も難しい顔で言った。


「ずいぶんと制限が多い魔法陣だな。この形はおそらく……そうだろう?レオポルド」


 グレンが王都の師団長室とデーダス荒野の家との行き来に使っていた魔法陣。転移魔法陣じゃなかったら、なんだというのだ。


 魔法陣から顔をあげ、レオポルドはわたしに告げた。


「これは……転移の機能も持たせてはいるが、転移陣というよりむしろ、ゴブリン金庫の魔法陣に近い」


「ゴブリン金庫?二番街にあるとかいう?」


「中のものを封じ、なおかつ勝手に持ちだされないように、入る者を厳しく制限する〝封印〟の魔法陣だ」


 レオポルドは警戒するように、わたしをにらみつけた。


「おまえ、もしかして封印されてたのか?」


「なんでよっ!」


「いや、おまえならありうるだろう!」


「真面目に言ってんの⁉ひとをなんだと思ってるの!」


 そして、レオポルドは大真面目だった。わたしが何したっていうの!

挿絵(By みてみん)

錬金術師ネリア・ネリス(画:よろづ先生)

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― 新着の感想 ―
戦国武将のは嗜みもだけど、当時の事情を考えたら「毒殺への対策」もあったんじゃあないかと思いますね... 現世の錬金術も、当時の化学と科学をリミックスした研究だったんだよなぁそういや...「現世知識」…
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