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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第四章 職業体験とサルジアの陰謀
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110.レオポルドがやってきた

よろしくお願いします!

 レオポルドがここにくるのは、師団長室の封印をとき資料庫を開放したときいらいだ。


 つややかな光沢のある銀の髪は、ゆるく束ねて黒いローブの上から背中まで流れており、長いまつげに縁どられた黄昏時の空をおもわせる薄紫の瞳は、涼やかで神秘的な光を放っている。


 錬金術師たちの作業着ともいえる白いローブをみなれていると、背が高いレオポルドの黒いローブ姿は、なんだか迫力がある。


 ていうか、あのローブはどうなっているんだろう?まえに杖をあのローブの中からとりだしていたよね……。


 ローブを脱いでみせてもらうわけはいかないだろうし……なんてことを考えていたら、不機嫌そうな黄昏色の瞳と目があった。わたしはあわてて声をだす。


「レオポルド、いらっしゃい!きてくれてありがとう!」


「しかたないだろう……『塔』にこさせるわけにもいかない……魔法陣は描けたのか?」


「うん!資料庫においてあるから、いま持ってくるね!」


 あぶないあぶない……。ローブのしくみや術式が気になるなんて、職業病かしら……。


 わたしが魔法陣を描いた紙を持って師団長室にもどると、レオポルドはあごに手をあてて師団長室をみまわしていた。もどってきたわたしに、レオポルドはたずねる。


「デーダスへの転移陣はどこにある?」


「居住区だよ」


「……グレン個人が使うためか……だが、今回の転移陣は錬金術師団で使うのだろう?」


「そうだね」


「セキュリティの面から考えると、師団長室のなかに設置するのがいいだろうな……工房のほうが便利ではあるが、人の出入りが多い場所はあまり設置にむかない」


「じゃあ、工房の扉にちかいこのあたりかなぁ……ウブルグの荷物は三階にある彼の研究室から、もうほとんどを一階の工房におろしてあるの」


 おぼえたての転移魔法陣は大活躍した。荷物と一緒に三階と一階をいったりきたり……わたし、引っ越し屋さんも開業できるかも。


 レオポルドはわたしから紙をうけとって師団長室の机にひろげ、「ここはこうしたほうがいいな……」と術式をかきなおしたり、かきくわえたりしはじめた。わたしはレオポルドがつけくわえた古代文様に目をとめた。


「あっ!それ……古代文様だよね?意味はなぁに?」


「ルバナか?『はるかに』とか距離をあらわす古代文様だが……」


「そっか、ルバナね……ねぇねぇ、古代文様ってどれぐらい種類があるの?」


 レオポルドは魔術師団長なのだし、古代文様についてもくわしいだろう。そうおもって聞いてみると、ちゃんと答えがかえってきた。


「私のもっている本によれば八百種ほどだが……いま現在も使われているのは二百ぐらいだろうな」


「えっ⁉レオポルド、古代文様の本をもっているの?」


 古代文様の本なんて、ものすごくきになる!ロビンス先生の講義をうけたときの興奮を思いだしてしまう。


「私の、というより魔術師団長の蔵書というべきものだ……代々『塔』にうけつがれている」


「それ!みせてもらえないかしら!」


 いきおいこんでたずねたわたしに、レオポルドは眉をひそめた。


「……なんに使う?」


「文様ってただの記号にみえて、それ自体に意味があるでしょう?それを使って魔法陣を小さくできないかしら」


 わたしは、転移魔法陣で古代文様が重要な役割をはたしていることを説明した。


「……それは、転移魔法陣が日常のなかで多くの人が使うものだからだ。文様は、その意味自体があいまいで、いまはあまり使われない。人々が使わなければ、文様は効力をうしなう。いまでは忘れさられた効果も多い……だから『古代』文様なのだ」


「文様をしらべただけじゃ、役にたたないってこと?」


「文様はいわば約束。意味があるということは、『その文様にその意味をもたせる』という、ひとつの契約だ……人々が使わなくなり契約の内容をわすれてしまった現在では、あまり役にたつとは思えん」


「いまでも使われている文様って、ほかになにがあるの?」


「よく使われる文様といえば、転移魔法陣のほかにも、旅人の護符にしるされる風紋『風の護り』をあたえるリザラ……これはもともとは旅人の無事をいのり家族がきざむ文様で、効力もある。消費する魔力もすくない」


 レオポルドは、ちかくにあった紙にリザラの文様をしるした。大聖堂ちかくのお土産物やさんで売っていた護符にもよく使われていた模様だ……リザラだったんだ……効果もちゃんとあるのね。


「へええ……やっぱり古代文様を収納ポケットの魔法陣に使いたいな……デザイン的にもカッコいいし、魔力消費もおさえられる……それに、おなじ内容を術式で刻むとなると魔法陣が複雑になるもの」


「……ポケット?」


「わたしいま、ポケットの収納スペースをひろげる魔法陣をかんがえているところなの!」


 わたしが得意そうに教えると、レオポルドが口の端でわらった。


「知識を深めてなにをするのかと思えば……そうか、ポケットか」


「なによっ!わるい?ちまちました仕事だって、ひとの役にたつならりっぱな仕事なのよ!」


「わるい……などとは言っていない……むしろお前はよくやっている。本がみたいならあとで貸そう」


「え……あ、ありがとう」


 まさかここでほめられるとは思っていなかったので、わたしがドギマギして返事をすると、レオポルドはついと目をそらせた。






 そのとき中庭の喧騒が師団長室へ聞こえたかとおもうと、ウブルグ・ラビルが師団長室へ顔をのぞかせた。


「ウブルグ、どうしたの?」


「レオポルドがきておるなら、わしもあいさつしようかと……今回は、わしのためにすまんな」


 レオポルドの注意は、ウブルグから中庭へと向けられる。


「……中庭がずいぶんとにぎやかだな」


「いまは職業体験の学園生たちがきているから」


「そうか……ようすもだいぶ変わったな……」


 資料庫が開放されたときの中庭は、緑がうっそうとしており、おどろおどろしい雰囲気だったけれど、いまは真新しいガーデンテーブルなども置かれ、あかるく開放的な空間になっている。


 ソラの庭仕事をアレクもてつだうし、植物にくわしいヴェリガンも参加して、みんなで手をいれたおかげで庭はみちがえるようになり、いまではわたしのお気にいりの場所だ。


 ウブルグはあいさつを終えても、そのまましげしげとレオポルドを眺めていたため、レオポルドが眉をあげた。


「なんだ」


「いや、すまん。あのレオ坊がすっかり大きくなったなぁ、とおもってな……こうして師団長室に立っておると、まるでグレンのようだの」


 あきらかにレオポルドの逆鱗に触れるセリフをさらっというと、ウブルグは目を細めてさらなる爆弾を落とした。


「さいきんはヌーメリアがアレクを連れてきたおかげで、師団長室もにぎやかになってのぅ……お前が中庭で笑いころげていたころを思いだしたわい……なつかしいのう」


「私が……中庭で笑いころげていた……?」


 いぶかしげにレオポルドは眉をひそめた。


「なんじゃ、おぼえとらんのか?やれやれ……よぅ笑うかわいい子だったのに……北のアルバーン領で、笑顔も凍ったか?」


 ウブルグは表情がぬけおちて固まるレオポルドをみて、すこし困ったような顔をした。


「グレンはお前になにもいわなかったのか?わしもたいがい忘れっぽいが、お前まで忘れてしまうとは……」


「ウブルグ……なんの話?あっ、レオポルド……!」


 レオポルドはちょうど入ってきたソラを押しのけるようにして、師団長室から中庭にでていった。


 ウブルグがソラにたずねる。


「ソラ、グレンはレオ坊のことをなんといっていたのだ?お前も昔のように『レオ』と呼びかけてやればよいではないか」


 ソラはこたえた。


「こちらからの呼びかけは、グレン様に禁止されております。『幸せな記憶は、失った……と知るほうがつらい。忘れているのならそれでもよい』……と」


「そうか……グレンはそういったか……グレンはどこまで……」


 ウブルグは首をふった。


 わたしはあわてて、中庭にでたレオポルドをおいかけた。

 誤字報告で『黄昏色の薄紫の瞳』と色を重ねるのは不自然ではないか、というご指摘がありましたので、『黄昏時の空を思わせる薄紫の瞳』に変えさせて頂きます。

 なお、色についても黄昏色はオレンジなどの暖色系の色味ではないかというご指摘でしたが、それは『夕暮れ時の色』ですね。

 黄昏時は『日が沈んだ直後』で人の顔の判別がしにくいぐらいに暗さも増しており、日が落ちた状態の薄紫色の空をイメージしています。

 という訳で、レオポルドの瞳はわりと微妙な色味なのです。

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