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魔術師の杖  作者: 粉雪@4/14『魔術師の杖』コミックス1巻発売
第四章 職業体験とサルジアの陰謀

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109.メレッタの決意

ブクマ&評価ありがとうございます!

「私⁉」


 さっきレナードにきつく言われて、うつむいていたメレッタが弾けるように顔を上げた。


 当人が驚いているのだから、その場にいる誰もが意外な使命だと思ったのだろう。学年首席のレナードが気色ばんで椅子から立ち上がる。


「なぜですか、理由を教えてください!メレッタが副団長の娘だからですか⁉」


「ちがう」


「じゃあなんで!俺が考えた改良案のほうが完成度が高い!カディアンのだって、アイリのだって……ちゃんとしてる。メレッタの案は《《まっとう》》じゃない!」


 ユーリが学園生たちの顔を見回せば、彼の決定にレナードだけでなく、誰もが納得していないようだった。


「理由はふたつある。ひとつはメレッタのなかで、ライガは『飛ぶもの』と決まっていた。リーダーには確たる信念が必要だ。……そしてもうひとつは」


 そこでユーリは言葉を切った。彼自身、さんざん術式を読みこんでから頭を抱えたのだ。試乗体験の印象が強すぎたのか、学園生たちもユーリと同じように、ネリアが乗るライガを改良しようとしている。


(だけど規格外の魔力で動くネリアのライガを参考にしていたら、いつまでたっても僕らは正解にたどり着けない……)


 もう一度、ひとりひとりの目を見るようにして、ユーリは言葉を発する。


「これはネリアのだした挑戦状だ。いいか、だされた課題は『ライガの量産化に向けての改良』だ。つまりメレッタを基準にして、彼女が飛ばせるライガを作れ」


 アイリが目を見開いた。


「メレッタを基準に……?」


「使う人間をイメージする、それが魔道具作りの基本だ。メレッタが飛ばせるだけの、消費魔力と操作性を持つライガが理想だ。多くの人間が乗りこなせて初めて、量産化する価値がある」


 どんな魔道具でも、使う人間のことを考えなければ、作るもののエゴがむきだしになる。


 こんな新機能をつけた、すごい性能だ、どうだ!……と世にだしても、受け入れられなければ、それらはただのガラクタだ。


 自分が作った魔道具に思い入れが強すぎると、魔道具製作者にはそれが見えなくなる。


「使う人間をイメージする……それがメレッタ」


 つぶやいたレナードは、銀縁眼鏡の奥で目が真剣になっている。

 

(打てば響くように理解するところは、さすがに首席といったところか……)


 まだぼうぜんとしているメレッタに、ユーリは優しく声をかけた。


「どうするメレッタ?もちろんこの指名は断ることもできる」


「……私……」


 ためらう彼女に、ニックがつっけんどんに言う。


「断れよ!おまえには無理だ。いつもレナードに邪魔者扱いされてるじゃないか。カディアン殿下だっているし……」


 けれどそれを聞いたメレッタは、弾かれるように顔を上げた。


「私やるわ!」


「おまえ、カディアン殿下を差しおいて……」


「そんなの関係ない!私が飛ばせるライガを作るんですもの!私がやらなくてどうするの!」


 言い合いをはじめたふたりに、ユーリが割りこむ。


「試運転では、リーダーがライガを飛ばすんだ。危険はあるから保護者の同意が必要だ。メレッタ、それも取ってこられるかい?」


「はい!ちょっと父のところに行ってきます!」


 メレッタは即、行動した。


(決断が早いのも彼女の長所だ。むこうみずだが、この場合は助かるな)


 彼女が工房を飛びだしていくと、ユーリは残ったメンバーに話を続けた。


「メレッタを選んだ理由はほかにもある。昨日の様子を見ていて、彼女だけが《《自分で考えて》》錬金をしていた」


 ニックが眉をひそめる。


「だけど、あれはメチャクチャで……」


「教科書に載っている知識が古いことは、ネリス師団長の錬金で理解しただろう。まったく新しいものを作るときに必要なのはトライ&エラーだ。きみたちはチームとなり、メレッタをできる限りフォローしろ」


 各人がバラバラでも、この職業体験ではまとまってもらわなくては困る。そのためには、ユーリはなんでも利用するつもりだった。


「それに彼女は失敗してもめげない。ライガを無事に飛ばせるまでに、試作機は何度も墜ちるだろう」


 ようやく気づいたカディアンが、驚いて叫んだ。


「それじゃ、メレッタが危険じゃないか!」


「まさか、それでリーダーを殿下ではなく彼女に……」


 グラコスが恐ろしいものでも見るよう、ユーリを見ると、彼は軽く肩をすくめた。


「それは関係ない。さっきも言った通り、彼女がいちばん適任だからだ。物理衝撃を防御する魔法陣はかけるよ。ネリス師団長ほどの防壁は、本人にも負担が大きいからやらないが……」


 本人が無傷だとしても、何回もライガで墜落したら、それがトラウマになる可能性もある。


「メレッタを利用しようってのか⁉これだから王族ってやつはっ!」


 青ざめた顔で拳を握りしめたレナードに、ユーリは冷たく言い放った。


「同じ学園生を思う、熱い心はけっこう。そんなに心配なら、きみたちが気をつければいい。だって彼女は、きみらが作る機体に乗るのだから」


「そんなのムリだ!できっこない!」


「実験中の事故など錬金術にはつきものだ。爆撃具も作る錬金術師の仕事が危険じゃないとでも、きみらは思っていたのか?」


 そうたずねたユーリに、誰もが言葉を返せない。アイリが唇を震わせて、青ざめた顔でつぶやく。


「できなくてもやるのよ。それがネリス師団長のだした課題だとしたら……やるしかないわ」


(……これでチームはまとまった)


「理解が早くて助かる。今後はメレッタを中心にすすめてくれ」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 勢いこんで二階の研究室やってきたメレッタに、父のクオードは猛反対した。


「ダメだダメだダメだ!危険すぎる!」


「なんでよっ、一生に一度のチャンスなのよ!お父さんのケチ!石頭!わからずや!」


「ケ、ケチ……⁉」


 動揺する父に、メレッタはトドメの罵声をたたきつける。


「もういいわよ!お父さんなんて、大っきらい!」


「だ、だいっきら……」


 カーター副団長を絶望の沼に沈めたところで、メレッタは父の研究室を飛びだした。


(なんとしてでも、同意をとりつけるわ。こんなの、もう二度とない……一生に一度のチャンスだもの!)


 彼女が工房に戻ると、なぜかみな緊迫したように黙りこんでいる。


「父には反対されました」


 そう報告すれば、全員がホッしたような顔をした。


「それじゃあ……」


 ムリだね、と言われるまえにメレッタは先手を打った。


「父がダメなら、母という手があるわ!」


 メレッタは自分の鞄をゴソゴソ探って、〝フォト〟と呼ばれる魔道具を取りだしてレナードに渡す。


「ユーリ先輩、協力してもらえますか?カディアンもこっちにきて!レナード、撮ってちょうだい!ふたりとも笑顔でおねがいします!」


 勢いに押されてレナードがシャッターを押すと、〝フォト〟からペッと四角い紙が吐きだされる。


 ちまたで流行りの魔道具で、紙には二人の王子に挟まれたメレッタが、にっこりとかわいい笑顔で写っていた。


「これを母に見せるの!『王子様に囲まれて、楽しく研究してます』ってアピールするのよ!父に夢が持てなくなった母はキラキラ王子様が大好きだから、このフォトで絶対オーケーがでるわ!」


(……それでいいのか……)


 このとき誰もが、メレッタを止められないことを悟った。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そのようすを窓ガラス越しに、深緑の目で見ていた者がいる。人ではない。


 工房の外に植わる木の枝にいた、一羽の黒いカラスが羽ばたくと、二階で窓を開けていたオドゥの研究室に飛びこんだ。


「おかえり、ルルゥ」


 眼鏡を外していたオドゥがほほえんで、オヤツのクッキーを与えれば、それをくちばしで受け取ったカラスの目が、深緑から黒に変わった。


「おまえはいい子だね。僕の見たいものを見せてくれる」


 使い魔のカラスがクッキーをついばむのを見守るオドゥの瞳も、深い森の奥でひっそりと水をたたえる深い淵のようで、底知れぬ昏い緑をしていた。


 その瞳を隠すように眼鏡をかけると、とたんに彼は印象の薄い、どこにでもいそうな男になる。


「……さぁて、カーター副団長の愚痴につき合ってやりますか」


 眼鏡のブリッジに指をかけて位置を調整し、オドゥは人のよさそうな穏やかな微笑を浮かべて立ちあがった。

挿絵(By みてみん)

錬金術師オドゥ・イグネル(画:よろづ先生)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >勝てるのか 相手は市場で揉まれた生き残り、あまりに分が悪い戦いのような…
[良い点] 長編なのに読んでて飽きないこと。 読みやすい事。 誤字等が気にならないこと。 [一言] 初めまして!久々に面白い長編と出遇えてうれしいです。 更新、楽しみにしています。
[一言] 砕けたカップ一個につきイケニっ・・・王様一人として、今回王様何人分かな!
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