第九十五話 六芒星騎、集結しました。
すみませんシンプルに投稿忘れてました。
今回の視点は帝都。そこに集まる帝国最高戦力、六芒星騎たちの話になります。
王女の悲報から帝都の王城。その一室でリパラインは執務に励んでいた。しかし、ペンを握っている彼には一切の覇気がなく、書類を見つめている目は虚ろであった。王女が行方不明になったことで一番ショックを受けていたのは父でも兄でもなくこの男だったのだ。
王城で働くことになってからずっと彼女の成長を見守り続け、彼女が自ら職務を行うようになってからはそれがより良いものとなるよう、力を貸し続けてきた。まるで家族のように寄り添い生活してきた彼にとって、彼女が行方不明になったというのは自らの子供を失うことほど衝撃的なことだったのだ。そのショックから何に対しても身が入らず、その気の抜けようは親友であるクラークですら呆れかえるほどだった。その辛さが分かるが故に何も言えないのが彼の歯がゆさを煽っていた。
そんな彼の身を案じてクラークが部下を携え訪問してくる。
「大丈夫か?」
「ん……?ああ……、大丈夫だ」
「そんなたどたどしい口調で大丈夫なわけがないだろう。…………王から六芒星騎全員に召集がかかった。どうやらクリミア姫はギレルトに囚われているということになっているらしく、奪還のために攻め込むらしい」
その声を聴きピクリと眉を動かしたリパラインであったが、それ以上の反応を見せることはなく再びペンを走り始める。すべてに対して無気力になってしまった彼に溜息を吐いたクラークは一言添えて執務室を後にする。
「忘れろとは言わない。できればさっさと切り替えてくれ。この国の実質的な柱はお前なんだからな」
立ち去ったクラークは彼をどう立ち直らせるかを考えながら玉座の間へ向かっていた。その途中、六芒星騎の一人である人物と遭遇する。
「あらクラーク殿、お久しぶりです」
「これはノルヴァ殿。ご機嫌はいかがですかな」
曲がり角で遭遇したのはノルヴァ・ギラフィ―ス。魔法特化の六芒星騎であり、支援と戦術による戦いを得意としている人物だった。そばには盾と大剣を背負った目つきの鋭い部下も控えている。
「おかげさまで好調でございます。新しく始めた事業も黒字が出続けておりまして。そちらは?」
「ぼちぼちですかなぁ……」
軽い世間話をしながら二人はともに玉座の間へと向かう。しばらくして玉座の間に到着し、中に入ると既にそこでは二人の兵士が睨み合っており、それを止めようと二人の間に大男が割って入っている。その傍らでは三人の兵士が目の前の三人のやり取りなどないかのように話を続けている。
「お二人ともお若いですな。私のような年寄りにはその熱気が堪えますな」
そこそこ騒がしかったはずなのにはっきりと耳に届くクラークの声が玉座の間に響き渡り睨み合っていたジラドともう一人は距離を取り、お互いに視線を外す。
「これはこれはクラーク殿!お久しぶりでございます」
「久しいな、ランディア殿、メル殿も。ランディア殿は相変わらずの筋肉無双ですかな。」
「おおもちろんです!力は戦闘において最強ですからな!」
まるで大型犬のようにクラークの下へ駆け寄ってきた大男は快活な声を上げる。そんな彼をクラークは見上げながら返答する。常人と比べても大きい部類のクラークであるが、目の前の大男、ランディア・ミリサカトスはそれよりも三十センチは大きい。大型の全身甲冑を着こみ、その隙間から見える肉体は筋肉で盛り上がっており、ギチギチと音を立てんばかりである。
「メル殿も元気そうで何よりだ」
「お気遣い感謝いたします。お互い元気で何よりです」
クラークの気遣いに小さく頭を下げるメル・ミリサカトス。
「それよりもウェルク殿はいずこに?」
見上げている彼らを他所にランディアは首を振り周囲を見回す。この場にいる六芒星騎は五人。六芒の名の通り、六芒星騎は六人任命されている。残りの一人はまだ玉座の間に到着していないらしく、そのことは後ろで控えていた二人も疑問を孕んだ表情をしている。何となく察しのついているクラークは口を開こうとするが、その前に玉座の間が勢いよく開かれる。そこには小柄な女性が一人で息を切らして立っている。
「トリシャ殿。またですかな?」
ゼイゼイと息を切らすトリシャと呼ばれた女性は、息を整えるとクラークの問いかけに応える。
「申し訳ありません……。この一週間探し続けたのですが……、見つけることが出来ず……」
その言葉を聞き六芒星騎の面々はそれぞれの反応を見せる。
「ウェルク殿はまた欠席か!相変わらず掴みどころのない男だ!」
ランディアは上を向きながら大げさに笑い声をあげ。
「ウェルク様いないのかぁ……」
メルは視線を上げながら寂しそうにつぶやきを上げ。
「チッ!あの男は六芒星騎の自覚がないのか!いい加減六芒星騎の地位から降ろすべきだ」
ジラドは不満をぶちまけながら舌打ちを打ち。
「自由ねぇ~」
ノルヴァはあらあらと頬に手を当て。
「またか……。近々また説教をしなければな……」
クラークは呆れかえりながら額に手を当てる。自らの上司が間に合わない事で胃を痛めながら、トリシャは玉座の間へと足を踏み入れると、深々と頭を下げる。
「皆様申し訳ございません。私が手綱を引くことが出来ず」
「もう気にするでない。いつも通り代役として出席を頼むぞ」
「お心遣い感謝いたします……」
クラークの柔らかな態度に感謝し、トリシャは彼らの輪の中に加わる。自分の上司の自由奔放さに胃を痛めながら部下たちの輪に加わると彼らも思うところがあるのか、気さくに話しかけ心労を解こうとしていく。
しばらくすると玉座の間に国王が入ってくる。六芒星騎は整列し、跪く。
「これから我が娘クリミアの奪還のためにギレルトに向かって軍を派遣する。六芒星騎の中からはジラド、ウェルク、メル、ランディアに軍を率いて迎え。ノルヴァ、クラークの両名は王都の守りに入れ」
「その前に我が王。一つ提言を」
「なんだ、言ってみろ」
「六芒星騎ウェルクの行動には目に余るものがございます。傍若無人で軍をまとめようという気がなく、此度もそもそも来てすらいない。彼を六芒星騎の地位をはく奪するべきです」
王に対してウェルクに対して苦言を呈すジラドに対し、メルは非常に鋭く睨みを利かせている。
「むう、そうなのか。わかった、検討しておこう」
しかし、王から返ってきた返答は非常に曖昧なものだった。このことで一体何が分かるか。本格的に王は政治や彼らに対して興味がないのだ。ウェルクがおらず、トリシャがいることに対して何も言わなかったことでも理解できる。
ここにいるのは基本的に聡い人間である。パワーイズパワーを肉体で表現するランディアですらそれなりに頭は回る。そんな彼らが王の返答を聞き何も思うところがないわけがない。先の発言で六芒星騎の内心は一人を除いて一致する。
―――ああ、こいつはもうだめだ―――
しかし、王がそんなことに気づくことはない。話を終えた王はそのまま玉座の間を後にする。それを見送った彼らは立ち上がり玉座の間を後にする。
クラークが頭を働かせながら王城の廊下を歩いていると、彼の隣にトリシャがつき歩き始める。
「クラーク殿」
「わかっているとも。この戦争が終わり次第、ウェルクとも話をする」
クラークは重い口ぶりでトリシャの問いかけに応える。何十年も帝国の兵士として王に仕えてきた彼であったが、今回のことで愛想が尽きてしまった。ただでさえ王として国を発展させようとしていない彼の行動を我慢してきたのに、興味すら抱かれていないのとなれば使えるのも嫌になる。それはトリシャも同じであった。
王に対して絶望すら抱き、一刻も早く王女を奪還しなければならないと六芒星騎の面々は決意を新たにする。そんな空気をぶち壊すかのように一人の男が彼らの前に姿を現した。
「あぁ~、終わっちゃいましたか?」
「ウェルク……」
「ウェルク様……」
クラークは非常に質素な服装と腰に下げた剣だけという豪華絢爛な王城を歩き回るには不釣り合いな軽装備で、二人の前に頭を掻きながら姿を現した男の名を呼ぶ。彼の名前はウェルク・ジオニクス。六芒星騎最強の男である。
頭を掻きながらのんきな表情を浮かべながら姿を現したウェルク。二人は彼の名を呼びながら歩み寄っていく。
「ブグッ!?」
それぞれ一発ずつ拳を振った。トリシャは彼の腹部に水平に拳を振り、クラークは垂直に拳を振り下ろす。二人の放った一撃は十字の軌跡を描きながら回避の暇なく直撃し、直撃を受けた。
容赦なく一撃を加えた二人は呆れたように溜息を吐くと、そのまま彼に対して小言を吐き始める。
「旅好きだというのは否定はがな。さすがに招集に間に合わんレベルで遠くまで行くんじゃない」
「クラーク殿の言う通りでございます!何も言わずに目的地を変えたりふらふらと放浪しないでください!ただでさえあなたの足が速くて探すのに苦労しているのに目的地まで変えられたらもうどうしようもありません!この際ですから他のことに対しても一言二言言わせていただきます!報告書などの書類を全部私に回すのは止めてください!後、あなたのサインが必要な書類にサインを書く前にいなくならないでください!おかげで何日も探し回ることになるわ、関係者の方々に頭を下げて回らなければならないんですから!」
特にトリシャは激しく、今までの鬱憤を晴らさんとばかりにまくし立てている。早口でまくしたてられ理解が追い付かなくなったウェルクは速攻で思考を停止させ、自分の世界に逃げ込んでしまう。これでは言っても無駄である。がトリシャはそのことには気づいていないし、ウェルクも聞く気がない。
ただトリシャが言いたいだけの時間が過ぎ、彼女の舌の周りが止まったところでウェルクは現実世界に戻ってくる。
「わかりましたか!」
「……ああ、聞いていますよ。本当に感謝しています。私の軍はあなたなしでは回りませんから。いつもありがとうございます」
「っ!?そうやっていつも都合のよくのらりくらりと!」
二人のやり取りを傍で見ていたクラーク。
「おい、ウェルク。説教は後でするからな。それより今は先の召集の件についてだ」
彼の発言でウェルクの補佐役であるトリシャはウェルクに対して先ほどの召集に関して説明を始める。
「わかりました。先遣隊をギレルトに行かせてください。残りの者たちにも準備をするよう、伝令を出してください」
「かしこまりました」
ウェルクは先ほどまでのおどけたような行動が嘘のような冷静な声色でトリシャに適切な指示を出す。それを聞き届けたトリシャは廊下を小走りで進み始める。残された二人は並んで廊下を歩き始める。
「それにしても王女が囚われたですか……。本当なんですかね?」
「なんだそれは?」
「いやね。そもそも私ギレルトのほうから帰ってきたんですけどそんな噂は一度も聞きませんでしたし、いくら冒険者たちが帝国を嫌っていたとしても姫様の噂は人づてに入ってきます。もちろん好意的なものが。冒険者に好かれているみたいですし、わざわざギレルトが拘束しますかね?」
「しかし、もしそうだとしても姫は王族だ。捕えれば高い価値を生む。……いや、だがしかし、だとしたら……」
「そもそもギレルトが王女を捕らえても帝国を敵に回すだけでメリットはないですしねぇ」
二人の間に言葉にしがたい不穏な空気が流れ始める。二人は事の真相に近づき始める。
「この戦争どうもきな臭くなってきましたねぇ。ともかく私は全力で腕を振るうだけです」
「待てウェルク。もし仮にそうだとしてお前はどうする?」
クラークの問いかけに対して顎に手を当て考え始めるウェルク。しかし、すぐに結論を出したのか薄く笑みを浮かべながら口を開き答えを出す。
「ん~そうですねぇ。……私はあまり難しいことを考えるのは苦手ですからねぇ。師匠についていくことにしましょうか」
「…………そうか」
答えを出したウェルクは一礼すると彼に背を向け足早にその場を後にする。あとに残されたクラークは本格的に身の振り方を考えるため、リパラインの下へ歩き始めるのだった。




