第九十二話 修行、発展していました。
今回のユウキ視点、修行の真っ最中です。あと、今までさんざん匂わせてきた原初の魔法使いについても少し触れます。
ユウキがディンスルとの訓練を初めて一週間。初めのころは手も足も出ず泣きたくなるほど殴られ倒していたユウキであったが、スキルと彼の戦闘センスが相乗効果をもたらし、メキメキと腕を上げ、ディンスルの動きについていけるほどまで成長していた。今ではまた別の影響によりボコボコにされていた。
「ああ、クソッ!」
木から木へと飛び回るディンスルを目で追いながら攻撃の機会を窺うユウキ。不規則かつ俊敏な動きで翻弄してくる彼に惑わされながら近接戦の訓練を続けていた。しかし一週間もあればその不規則な動きをある程度読めるようになってくる。そうなれば攻撃のタイミングを伺えるようになり、一矢報いることだって可能になる。
注意深く動きを観察しながらタイミングを見計らっていたユウキは、ディンスルの気配の変化を敏感に察知する。攻撃が来る。反射的に察知した次の瞬間、ディンスルはユウキの背後から彼に向かって一直線に跳ね、同時にその拳を突き出す。幾度となくその体で受けてきた鋭いその一撃を察知したユウキは振り返ると同時に拳の軸線上から体をずらすことで回避し、カウンターのアッパーを繰り出す。完璧とは言えないが、実戦で繰り出されていれば相手の動きを確実に乱すことのできる一撃。腹部に向かって打ち出したその一撃にユウキは決まった確信を持っていた。
しかし、ここでは経験がモノを言った。ディンスルは自身の腹部に向かって打ち出された拳を左手で受け止めるとその反動を利用するように左手で自分の体を押し上げた。しかし、反動を利用したとはいえ浮き上がることができる高さは一メートルにも満たない。追撃のチャンスだと踏んだユウキは足を振り上げながら自分の体を空中に捨て、さながらオーバーヘッドのように腹部に蹴りを打ち込んだ。
が、彼の蹴りは彼に当たることはなく空気を蹴るのみ。それどころか逆に腹部に踵落としを受け、ユウキは地面に叩きつけられた。ディンスルは彼の四方に張り巡らされた糸を足場として利用し、サーカス集団でもまねできないほどの空中機動でユウキの背後に回り、そこから回転の勢いを加えた踵落としを打ち込んだのだ。
地面に叩きつけられたユウキは痛烈な一撃を叩き込まれた腹部を抑えながら痛みを緩和させるかのように転げまわる。それを横目に見ながら自身の腹部を確認したディンスルはしゃがみ込み、唸り声をあげているユウキに声をかける。
「今日のところは戦闘訓練はここまでだな。しかし、お前魔力制御うまくなったなぁ」
「そうかぁ……?……そうは思え、ねえんだけど……」
痛みに喘ぎながらディンスルの指摘に返答するユウキ。彼自身、魔力の制御がうまくなっているとは思っていないのである。
「いや、確実にうまくなってる。体内の魔力をコントロールする技術はもちろん、体外での魔力制御も並行してうまくなっていってる。実戦で伸びるタイプだな」
「そっかぁ……。……イチチ、しかし派手にやってくれんなぁ……」
「まあ、体外の魔力制御はまだまだクソみたいなもんだけどな」
「あと、上げて落とすのやめろ」
彼の一言で不機嫌そうに顔を歪めたユウキは、離れていくディンスルに背を向け歩き始める。
彼が次に向かうのはイリスの元である。いくら彼が近接向きの能力をしているとはいえ、遠距離の修業を疎かにしては戦い方に幅を出すことができず、多様性も見いだせない。それはユウキの性質上、あまり好ましくないことだった。何せ不意打ち上等、勝利のためなら卑怯な手段をいくらでも用いる人間である。にもかかわらずたとえ拙くても遠距離を捨てるのは矛盾しているだろう。だから彼は苦手であっても遠距離の制御の練習を行うのだ。
「イリスー、いるかー?……ってあら?珍しく居ねえな」
いつもイリスがいるはずのエルフの里の図書館に向かったユウキであったが、珍しく彼女がおらず、ユウキはひとりで立ち尽くした。彼女を他の場所に探しに行こうかと考えるが、本の虫であるはずの彼女がこの図書館に一度も来ないというのはあり得ないという結論に至り、本を読みながら暇をつぶすことにした。
本棚を見上げながら本を物色するユウキ。しかし、ここにある本は魔法に関係してくるものが多く、とても魔力制御すらおぼつかない今のユウキがついていけるレベルのものではない。それによって読める本が非常に限られている。読もうと思える本も見つからない。時間を無駄にしたくないこの現状ではあまり好ましくないと言える。
そんなことを思いながら背表紙をなぞっていると一冊の本が目に入る。背表紙には何も書かれていない本であったが、不思議な魔力の様なものを放っている。もちろんただの本が魔力を放っているわけがないのだが、無意識のうちに引き込んでくるようなその本に惹かれ、ユウキはその本を手に取り、ページをめくる。中身を流してみるとそこには魔法がどのような過程を経て今のような技術体系となったかが書かれており、付随するように原初の魔法使いについて書かれていた。もともと魔法というものは先天的に魔力を操作できる人間にしか使用することのできない限られた力であったが、それによる格差を見かねた原初の魔法使いが後天的に魔力を操作できる技術を編み出したと書かれており、最初期の魔法がエルフの中でも限られたものにしか使えなかったと知ったユウキは驚きを隠せない。
中身に引き込まれたユウキは続きを粛々と読み続ける。魔法の歴史とともにエルフの歴史を紐解いていくその中身は驚きの連続であり、過度なほどユウキを引き込んでいく。その集中の度合いは凄まじく図書館にイリスが入ってきてもその存在に気づかず、目の前に立たれて肩をゆすられてなお、意に介さないほどだった。
「ねえ!」
「HEY!?」
その集中を断ち切らんとあげられたイリスの声にユウキは素っ頓狂な声を上げながら反応する。本から視線を上げその顔を見ると目に見えてわかるほどに不満げである。放置されたことが気に食わず頬を膨らませる彼女を視認したユウキは即座に立ち上がり謝罪する。
「ああ、スマン!気づかなかった!」
「……まあいいけど。練習、する?」
「もちろん?今日も頼むぜ」
本を小脇に抱えたまま、ユウキはイリスとともに図書館を後にする。無意識のうちに本を持ったまま出ていったことに彼が気付くのは少し後の話である。
「……その本そんなに面白い?」
「ん?ああ、面白いよ。不思議とすらすら読めるんだよなこれ」
「ふーん。私が読んだ時にはそんなこと思わなかった。原初の魔法使いについては面白かったけど」
「そういえば、この里、その原初うんたらにあったことのある奴いるんだっけか?」
本を閉じながらユウキがそういうとイリスはコクリとうなずきながら答える。
「うん。すごく若い時の話で、魔法も少し教わったんだって」
「じゃあ直系の弟子ってことか。今度話を聞いてみたいもんだ」
「今は体調が少し良くないらしいから聞けないけど、よくなったら聞いてみたらいい」
「だな。よっし、続きしようぜ」
本を置き立ち上がったユウキは体内の魔力を活性化させ、修行の再開を提案した。それに応じるようにイリスは魔力の球を作り始める。淀みない魔力制御でそれを完成させたイリスはそれを放り投げるようにしてユウキに手渡す。それを維持させんと胸の前で両手を構えるユウキは、それを両手で衝撃を緩和するよう引きながら受け止めた。今まですぐに霧散していたはずの魔力の球は二、三秒ほど彼の手の上で維持されるとゆっくりと霧散していく。今まで維持すらできなかった彼が維持できるようになっており、明らかに進歩がみられていた。
「できるようになってきたね」
「だいぶなぁ。やっぱ体動かしながら魔力制御の訓練してたおかげかなぁ。ほんとディンスル様様だな」
ユウキはそういいながら自分で魔力の球を作り出すために魔力を手のひらから放出する。非常に小さく端から霧散していく程度には拙い魔力制御ではあったが、彼の手のひらの上には魔力の球が出来上がっており、維持すらできなかった彼が嘘のような成長ぶりである。それを自慢げに見せつけるユウキ。イリスはそれを見ながらわざとらしくゆっくりと手を叩いた。
「それじゃあ、そろそろ魔力変化の修行に入ろうか」
「お、やるやる!炎とか使いてえ!」
イリスの言葉でさらなるやる気を見せるユウキ。二人の修業は次のステージに移り始めるのだった。
じゃあ少しあとがきで魔法について補足を入れておきましょう。
・魔法は技術として確立する前は、先天的に魔力を感じ取れる人間にしか使えない超能力のようなものだった。またエルフだけでなくヒュームなども使えた(使えるエルフは地位が高くなるのが当然のことだった)。
・原初の魔法使いが技術として確立させたことで魔法はエルフの中で普遍的なものとなっていった。なおそのエルフが外の世界で魔法を披露したことで、エルフ以外の種族の先天的なものが特別でないものだとなっていき、心理的な問題で先天的に魔力を感じられる人間が失われてしまった。
・里を抜け出たエルフが帝国と手を組み、使いやすくしたものが帝国式の魔法となった。
・どちらの魔法も国外秘である。
まあ、今出せるのはこんなところですね。後々まだまだ補足していきます。
では、また今度。




