第八十八話 ドラゴン、討伐完了しました。
エルフの里でドラゴンとの激闘を繰り広げたユウキは、翌日エルフの里を歩き回っていた。その隣には監視のつもりかフォルゴがおり、いつものように強気なつり目でユウキの動向を見守っている。
「なあ、そんなに睨まれずとも何もしねえよ。ただでさえ忙しいんだからな。てか大丈夫なのか?こんなに自由に出歩いてて?」
無駄に重苦しくなっている空気を振り払うようにユウキが雑談程度に口を開く。ユウキがエルフ四兄弟の中で未だに心を開いてもらえていないのがフォルゴ。警戒心を持たれているうえ、決して自分から話を振ってくるわけでもないため、このままでは関係の改善すら望めない。そう考えたユウキは自分から話を振った。主に自分に今の処遇について。
すると一瞬の沈黙の後、彼からユウキが思っていたのとは少し違う返答が返ってくる。
「ふん、確かに貴様は牢から脱走した身だが、ドラゴン討伐に一役買っている。そのことを評価して親父もむやみやたらに自由を奪うなと指示を出した。だったらそれに従うまでだ。それに」
一拍空けて続けるフォルゴ。
「貴様は妹を助けてくれた。そのことに関しては感謝している」
そういうと彼はフンと顔を逸らしてしまう。素直でないのは上の妹似なのかと思いながらユウキが彼を見ながら散策を続けていると彼のもとにディンスルがやってくる。
「おう、二人とも。親父のほうが準備できたらしいから今すぐ来いってよ」
「分かった。真ん中の一番高い木の一番上だっけか?」
「そそ。なるべく早くな」
そういうと彼は器用に木の枝を跳びながら姿を消した。それを見送ったユウキは中央にそびえる巨大な木、その上部に建てられた建物向かって歩き始めるのだった。
足場やはしごを辿りやっとの思いで建物に着いたユウキは、礼儀など知ったこっちゃないとばかりにずかずかと建物内に足を踏み入れる。その振る舞いに中にいたエルフたちは彼を非難するようにギロリと睨みつけるが玉座に座る男だけはうろたえることなく彼の行動を見過ごした。
玉座に座るザレイトスの前に立ったユウキ。そのまま無言のまま彼が話始めるのを待つ。彼の意図を察したザレイトスは口を開いた。
「まずは感謝の意を告げさせてもらう。我がエルフの里の危機を救い、被害の軽減に努めてくれたこと。感謝の言葉もない。里の代表として礼を言わせてもらう」
そういうとザレイトスは軽く頭を下げる。それを無言で見つめていたユウキはそのまま頭が上がるのを待つ。頭を上げたザレイトスは続けて言葉を紡ぐ。
「さて。話は変わるが貴様の処遇についてだ。脱獄したというのは見過ごせん。しかし、今回の功績を鑑みて相殺させてもらおう。これで貴様は晴れて自由の身だ。さて、今後はどうするつもりなのだ?」
「もう少しだけここにいるかな。まだ右腕が完全には治ってないもんでね。そのついでと言っちゃなんだが、一つ頼みがあるんだけども」
「なんだ。一応聞いてやる」
ユウキが一本指を立ててそういうと、ザレイトスは眉間にしわを寄せ、ひじ掛けに頬杖を突きながら彼の言葉に耳を傾ける。そんな不満げな表情を浮かべている彼に構わず、ユウキは自分の要望を話し始める。
「じゃあ一つ。俺に魔法を教えてほしい」
「ほう。エルフほどの高い魔力と知能がなければ使いこなせない魔法をヒュームであるお前に教えろと?」
「ああ、いろいろ旅してわかったんだが、魔法は使えるってだけでイニシアチブが取れるからな。まだまだ旅を続けるつもりだから魔法は仕えたほうが便利なんだよ。それに俺の装備を使うって意味でも魔力は制御できなきゃいけないからな。娘を助けてもらった礼ってことで教えてくんない?」
「……ディンスル。こいつが妹を助けたというのは本当か?」
ユウキがイリスを助けたという事実を出すと、ザレイトスは訝しむような視線でユウキを見ながら隣に立つディンスルに事実確認をする。確かに魔法も使えないようなヒュームに助けたと言われても信用できるはずがない。このような行動も適切である。父親に振られたディンスルは目を気にするかのように視線を走らせると、彼の知る事実をそのまま伝えた。
「ああ、確かにこいつは食われそうだったイリスを助けたよ。俺達も間に合わなかったからこいつがいなかったら確実に食われてただろうな」
彼がそう告げると、取り巻きたちがざわつき始める。ザレイトスも一見表情に出していないかのように見えるが眉をピクつかせており驚いていることが分かる。しかし、さすがに里の長である彼は切り替えが早い。ひとしきり驚いた彼はすぐに表情を里の長足らんとするものへ切り替え、少々の間の後口を開く。
「ふむ、イリスを助けてもらったというのは本当か。ならばそのことに関しても礼を言わせてもらおう。感謝する」
「んなこといいから魔法を教えてくれ」
「貴様いくら何でも無礼すぎんか?……まあいい、魔法を教える件だったな。はっきり言うと現状では不可能だ。結界の張り直し、里の復興などやることは山積みだ。そんな中でずぶの素人に魔法を教えている暇などない。終わり次第というなら話は変わるが」
「だったら私が教える」
そういいながら玉座の間に姿を現すイリス。彼女の言葉が衝撃的だったのか、先ほどよりも驚いた表情を見せている。
「私はもともとそんなに里に貢献しているわけじゃないしこの人の解呪の魔法を作ってた。その時間を使えば魔法を教えれる」
それはそれで問題なんじゃないか?と常識的なことを言いたくなったユウキであったが、口に出したくなる気持ちをぐっとこらえる。口に出してしまえば魔法を教われる機会を失うことになるかもしれないから。
「しかしなぁ……」
顎に手を当て考え込むようにしてイリスを見つめ続ける。どこかやめておけと言っているような視線であるがそう長くはもたなかった。真摯かつまっすぐなイリスの瞳に逆に見つめられ続けてしまい、止めようという気持ちがそがれてしまったのだ。自分の子供大好きな彼は娘にそのような目で見られてしまえば何でも許したくなってしまうのだ。助けを求めるようにディンスルに視線を振るが、彼も後押しするかのように親指を立てる始末。前門の虎後門の狼というか、ザレイトスにはもう止める手段がなかった。
「…………わかった。イリス、お前がこいつに魔法を教えてやれ」
渋々といった口調でそう告げるとイリスはパッと表情を明るくさせる。
「確かユウキといったか。里の端のほうに使っていない空き家がある。好きに使ってそこで寝泊まりしてくれ。食料等はイリスに言ってくれれば準備させる。……もう行っていい」
どこか疲れた様子を見せるザレイトスに背を向け、ユウキは玉座の間を後にし、その後ろに着くようにしてイリスもその場を後にした。
「そんじゃ明日からよろしくな、イリス」
「うん、頑張る」
軽く言葉を交わしたユウキはその場を後にしようとする。端の方の家を使ってくれと言われたがどの家を使っていいかもわからないため、その選定もしなければならず、さらにはその中の掃除もしなければならない。はっきり言えば時間がないのだ。そのため、今の彼は一秒でも惜しい状況にあった。
そんな彼の服のすそを掴み引き留めるイリス。振り返ると要件を問いただすとたどたどしい口調で言葉を紡ぎ始めた。
「あのね……、あ、あの時はありがとう。あのまま行けばドラゴンに食べられちゃってたから」
「ああ、あのときか。気にすんなって。右腕を直してもらった時の礼だと思ってくれ」
ドラゴンから助けてもらった時の感謝を伝えるイリスとそれを受けるユウキ。笑顔で感謝の気持ちを伝えられて悪い気はしない。
その中でふとユウキは自分の発したセリフであることを思い出す。
「そうだ右腕の呪いが云々って話のことなんだがな。あれどうにかできるかもしれん」
「ホント?」
「ああ、だからお前と上の兄貴の力を借りたいんだが」
「わかった。協力してもらうようにいってくるね」
頼むというユウキの言葉を受けながらイリスは兄のもとへと走り出す。その道中、大爺の言っていたことはこういうことだったのか?と思いだすのだが、本人のみぞ知ることである。
見送ったユウキは早速、里の端に向かって走り始める。その道中、箒とバケツ、いらない布を借りるのを忘れずに。




