↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険、始めちゃいました。  作者: カイナベル
第五章 帝国編
85/135

第八十三話 獄中生活、満喫していました。

 エルフの里で捕らえられ、獄中での生活を余儀なくされているユウキ。捕まってから二週間、目覚めてから一週間が経過していた。窓のない牢獄に押しこめられ自由を奪われている。淀んだ空気の中での生活を強いられている。普通の人間であれば文句の一つもこぼさなければやっていられないだろう。 


 しかし、彼にそれに対しての文句は一切なかった。助けてもらった上に向こうの事情を理解しているユウキはそこに対して文句を言うつもりもなく、またそう言った面に無頓着であるがゆえに、暇つぶしのある現状を彼は他楽しんでいた。話し相手は来てくれる上に頼めば本も読ませてもらえる。おまけに運ばれてくる食事も旨い。となればユウキに文句を言う筋合いなどないだろう。少なくとも彼はそう思っていた。


 ベットに寝転がりながら片手でページをめくるユウキ。内容は一人のエルフによって魔法という技術が作り出されるまでの物語。男は訳も分からずに魔法を使えるものと使えない者との格差をなくすために魔法というものを技術として体系化し誰でも努力すれば魔法を習得することが出来る世界を作り上げた。それが種族的に弱小だったエルフの発展、ひいては世界の発展につながったらしい。ページをめくりながら男の過去を遡っていくユウキ。集中していたがゆえに牢の外に立っている人物に気づかなかった。


「――どう?」


「ん?」


 牢の外から彼の耳に届いた声に視線をそちらに向けてみると、そこには不満げな顔をしたイリスが両手にトレーを持ちながら立っていた。今日の昼食を持ってきたらしい。


「調子はどう?」


 囁くようなソプラノボイスでそう呟いたイリスは無警戒に牢を開けるとトレーとともに中に入ってくる。


「左腕がちょっと重いくらいで全然問題ねえ。それより外の様子はどんな感じだ?」


「みんな結界の修復で忙しそうにしてる。私も時々手伝わされて大変」


 中にテーブルの上にトレイを置くと、彼女は牢の外に置かれた椅子を牢の中に引っ張り込みそれに座る。それを見たユウキは立ち上がり昼食を取り始める。


「そういえば、腕の解呪の魔法、少しずつ完成してきてる。後一週間くらいでできると思う」


「ん。そりゃよかった。さすがに利き腕が使えないっていうのはしんどいんだよなあ」


 ユウキは木のスプーンでスープを飲む。イリスに視線を向けながらスープを飲みながらユウキは考える。なんと警戒心のない少女であろうか。無防備に牢の中に入ってきて体面に座りながら話している。ユウキの手にはスプーンが握られており、もちろん凶器にもできる。彼女は自分が襲われるとは考えないのだろうか。


 そう考えながらユウキがスープを飲み続けていると、彼の視線に気づいた彼女が不思議そうな表情をしながらその視線の意味を問いかける。


「……どうしたの?」


「ん?ああ、ペンギンみたいだなぁってさ」


「ペンギン?何それ?」


「ああ、こっちの話だから気にしないでくれ」


 彼の言葉に小首をかしげながらつぶやいたイリス。その姿を見ながらスープをすべて飲み切ったユウキは立ち上がる。


「ほれほれ一応ここから出ていきんさい。ばれたら怒られかねんぞ」


 立ち上がったユウキはイリスの後ろに回り込むと急かすようにして彼女の背中を叩いた。彼女が牢の中にいるというのはいろいろと不都合が多い。一応とはいえユウキは拘束されている身。そんな彼の居る牢にイリスがいるというのは彼女の身の安全という観点で見て非常にまずい。一応暴れたりしていないとはいえ、もしもがあった時に取り返しのつかないことになってしまう。そのことを捕らえている側も捕らえられている側も理解しているのだ。

 

 というわけでユウキは牢の中からイリスを追い出すことにする。そんな彼の行動に渋々といったように答えるイリス。最後の抵抗といわんばかりにノロノロと緩慢な動きで立ち上がると椅子と食べ終わった食器の乗ったトレーを片手に牢から出ていく。これで一安心と思いながら彼女に背を向けたユウキであったが牢の前から気配が消えない。不審に思い振り返ってみるとそこには椅子に座り彼をじっと見つめているイリスがいた。


「どうしたよ?」


「えっと、外の世界の話を聞かせてもらおうと思って」


 たどたどしい口調でユウキの問いかけに応えるイリス。彼女のほうを向いたままベットに腰かけたユウキは新たに問いを投げかける。


「なんで俺なんだ?お姉ちゃんから聞けばよかったんじゃないか?」


「お姉ちゃんは一度帰ってきたけど、お父さんと話してすぐに出て行っちゃったから……、あんまり話せてなくて……」


「だから俺に話を聞かせてもらおうと」


 イリスの答えにうなずき、納得するユウキ。


「しかし、エルフっていうのは好奇心旺盛な奴らが多いんだな。お前の姉さんも俺が話したらずいぶん楽しんで、妹のほうは率先して話してほしがってるくらいだしな」


「外の世界にあこがれを持ってるエルフは少なくない。だから外の話は聞きたい人が多いと思うし、外に出てみたいって人も少なくない」


「なるほど」


 イリスの返答で自分の中にあった問に合点がいく。外界から隔絶された狭いエルフの里の中で生活し外の世界から触れることが少ないだけに、刺激というものに対して非常に敏感で何でも純粋に知識として取り入れたくなってしまうのだろう。まあ、その純粋さゆえに外の世界を知ってしまったときに落差で絶望してしまうのだろうが。


「まあ、話を聞かせるくらいなら別にいくらでも構わんよ」


 とはいえ話を聞かせるくらいなら特に止めるつもりなどない。解呪の魔法の恩もある。そのお礼として話しても何の問題もないだろう。


「んじゃ冒険者になった話からするかな」


「お願い」


 イリスはユウキの話を聞く前から既に目を煌めかせている。やはり姉妹ということもありそういうところも似ているのだろう。そんな彼女を見て苦笑いを浮かべたユウキは二度目となる自身の冒険譚を話始めるのだった。





















「まあ、これがここに来るまでの俺の旅だよ」


「……ふう、すごく面白かった。ありがとう」


 満足そうな表情で大きく溜息を吐いたイリスは話の礼としてぺこりと頭を下げる。姉の時には見れなかった対応にユウキも話をできたことに満足する。


「……外の世界、すごく面白そう」


 鼻息を荒くしながらそうつぶやいたイリス。しかしユウキとしては彼女の発言は容認しにくかった。


「やめとけやめとけ。お前もお前の姉ちゃんみたいな捻くれ者みたいになっちまうぞ」


 ユウキはからかうような口調と内容で、しかし本心では本気止めようと顔の前で手を振りながらそう彼女に伝える。実際、エルフの里の者たちは一部を除いて非常に純粋だ。純粋さゆえにいい部分も、悪い部分も過剰に受け取ってしまう。そうなったときにより強く印象に残ってしまうのは悪い部分だろう。この目の前の無垢な少女をそんな黒いものに染めるのは彼としても気が引けたのである。とはいえ彼に外の世界に出ることを止める権利はない。出たいというのであれば彼女の望むまま行動させるしかないのだ。


 ユウキは口を閉ざし彼女の出方を伺う。ユウキの言葉を聞いたイリスは唇を尖らせ不満そうに眼を座らせている。


「む、そんなこと言われるのは失礼。私外の世界がそんなに甘いだなんて思ってないよ?」


「本当かなぁ?」


「本当だよ。私たち珍しいから捕まってはく製みたいのにされちゃうかもしれないし、口八丁で魔法をいいように使われちゃうかもしれない」


「……んまあ、上げ始めればキリないけど、そんなふうにイメージできれば問題ないかもね」


「だったらユウキが外に出るときに一緒に連れて行って」


「お前の親父さんの許可が取れたら連れてってやるよ」


 ガハハと笑いながら彼女の問いかけに応えるユウキ。彼は真面目に受け取っていなかったが、彼女の意気込みは全く違う。煌めいていた目がギラついており明らかに本気で言っていることが分かる。この時、はっきりとした態度を取っておけばよかったと後悔することになるのはまた別の話である。


「それじゃあそろそろ戻る。早く魔法を完成させないと」


 イリスはそういうと立ち上がりそそくさとその場を後にする。それを見送ったユウキはベットの傍らに置かれたままの本に手を伸ばした。一体何時間話していたかはわざわざ記憶していないが、それでも結構な時間を費やした。寝るまでに読み切ろうと考えていたユウキの計画に狂いが生じてしまっていた。幸いにもあと少しで読み終わるのだ。ささっと読み終わって寝ることにしよう。ユウキは紐しおりを挟んでいたところをめくり集中して本に書かれた文字を追い始めるのだった。


 それから文字に集中し続け、何とか読み終えたユウキ。本を閉じ内容を思い出しながらベットに寝転がる。集中から解放された途端、彼に睡魔が襲い掛かる。このまま微睡みに身を任せてしまおうと目を瞑ろうとした。次の瞬間


 ――キャアアアアアアアア――


 牢の外、里のほうから悲鳴が響き渡り、次の瞬間牢全体、いや里全体が巨大な揺れに包まれる。現世への帰還を余儀なくされたユウキは立ち上がり、何事かと様子をうかがう。しかし、窓もなく閉ざされているこの場では外で何が起きているか全くわからない。もし状況を把握したいのであれば、牢を破って外に出なければならない。しかし、今の彼に強靭な鋼の檻を破る手立てはない。道具なしで破れる唯一の場所は錠前だけであるが、道具なしではそれでも時間がかかる。


「おーい!誰かいないか!」


 檻の外に一縷の望みをかけ大声で叫びあげるが、返答が返ってくることはない。何度も何度も試してみたが返答が返ってくることはなかった。余程切羽詰まるような状態になっていることは間違いない。


「クソッ!こんなところにいちゃ何も出来ねえよ!」


 イラつきながら悪態を吐いたユウキはイラつきに任せベットを蹴り飛ばす。そのままの勢いで部屋の中を歩くユウキ。ふと牢を三往復はしたかというその時、無意識のうちに自分の足を見た。ユウキの足にはブーツがつけられている。もしかしたら、錠前を蹴破ることが出来るのではないか。


 そう考えたユウキは早速行動に映った。振動で天井からパラパラと埃が舞う中、ユウキは扉に近寄り彼の持てる全力で扉に前蹴りを叩きこんだ。しかし、錠前はビクともせずユウキの足が痛むだけ。横蹴りに代えて打ち込んでも錠前が揺るぐことはない。今の自分ではこれを壊すことが出来ないと察したユウキは、一度蹴りをやめ思考を巡らせる。


 その中で一筋の光明を見出す。ジラド戦で自身のブーツや籠手が変化したことを思い出す。あの時の記憶は非常に朧気なものだが、それでもそうなったその時から身体能力が上がっていたことが思い出せた。あの状態になれればどうにかできるかもしれない。早速行動に映ろうとするが、ここで問題に直面する。どうすればあの状態になれるのだろうか。無意識のうちに、火事場の馬鹿力で発動したがために体の感覚で発動させることが出来ない。


 それを悟ってしまったユウキは感情のままに錠前を蹴りつけた。ただ物に当たるだけの全く持って意味のない行為。本来であればそういう行動であった。しかし、その一撃は思った以上の効果を発揮する。


 激情に流されて行った行動であったが、それが呼び水となって彼の中の魔力が反応する。グラスの中からこぼれた一滴の水程度の魔力であったが、今回はそれで十分だった。彼の激情に反応した魔力はユウキの意思で無意識のうちに蹴りだされた足に集中する。集中した魔力をブーツが吸い込みあの時のようにより凶悪により鋭く変化した。変化したブーツはその力で彼の身体能力を強化する。強化された蹴りは先ほどまでビクともしなかった錠前を蹴り砕き、閉ざされた牢を開け放った。


「お?おお?おおお?」


 再び意味も分からずに発動させることが出来たユウキは疑問と混乱で頭をいっぱいにさせる。


「……何はともあれ、ヨシ!」


 しかし、今のユウキはそんなことを考えているより動くことを優先する。どうやって発動させたかは後で考えることにし、ユウキは牢から抜け出て外の世界に飛び出すのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。