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冒険、始めちゃいました。  作者: カイナベル
第一章 始まりの町編
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第六話 異世界の道具、準備しました。

 集会場を出た四人は、スグルドの導くままに道を歩き続けていた。向かうは彼ら行きつけの雑貨屋。そこでこれから必要になるもの大体がそろうとのことだ。


「今から行くところは俺たちも普段から世話になっているところでな。比較的価格も良心的だ」

 

「そうだね。店主のおばちゃんもすごく優しいしね」


 ラクスは言葉を発することはなかったが、口角を少し上げ首を縦に振るのをユウキは見ていた。三人の意見は限りなく一致しており、そこの店主がよほど気のいい人物であることがわかる。再び視線をスグルドを戻すとスグルドは難しい表情をしながら三人の誰にも視線を向けることなく空を見上げていた。そしてユウキに顔を向けることなく、口を開いた。


「ところでよユウキ。さっきの話なんだがよ……」


 スグルドの話から何が言いたいのかを汲み取り理解し、彼の問いかけに応える。


「もう断る理由もないでしょ。手間賃的なのはここから相談で」


「いやいや、報酬の上乗せなんてみみっちいことしねえよ。そもそもさっきのも上段みたいなものだし、せいぜい道中で言ったのがいっぱいだ。関わっちまった以上見捨てるわけにはいかなくなったからな。喧嘩の仕方くらいは教えれるぜ」


 笑いながら首を横に振るスグルド。おどけたように口から出してはいるが言葉からは不穏さがにじみ出ている。それもわざとやっているのだろう。ユウキが大金を持っていることが知れてしまった以上、三人に護衛をしてもらうだけでは足りない。三人にも予定があるため、もし三人と別れた後はユウキは確実にカモになってしまうだろう。もはやトラブルからは逃れられない。この世界に来た以上、自衛する能力が必要になってくる。教えてもらえるのであれば縋り付いてでも教えを請いたいところである。そんなチャンスが目の前にあるのだから、これをユウキに見逃す理由はなかった。


「それじゃ明後日からにするか。明日はお前は自分のことで忙しいだろうし、明後日からの方が都合がいい」 


 二人が相談しているのをフリアとラクスは何も言わずただじっと見ている。二人の意見に否定などする気もなく、二人の活動を邪魔をする気もない。二人は何も言わずただ後ろに歩き続けていた0。0


「んじゃあ、よろしくお願いします」


 ユウキは歩きながらスグルドに向かって頭を下げる。それを見ながら歩き続けるスグルドはヒラヒラと手を振りながら笑顔をユウキに向けていた。


「おっと、もうすぐだな」


 ユウキが視線を前方に向けると緑ののれんのかかった民家が映る。民家の前に立つとスグルドたちは躊躇うことなくのれんをくぐり中に入っていく。

 

「うぃーす。おばちゃんいる?」


「こんにちは」


「どうも」


 三人は三者三様の挨拶をしながら入っていきユウキもその後に続く。建物の中には他に二人の客がおり、それぞれ品物を物色している。が、フリアたちが入るとすぐに物色をやめ、店から出て行ってしまう。彼らの目的が一体何であったかは彼らのみぞ知るといったところか。


 店内には所狭しと品物が並んでおり、その形状は液体、固体、色は毒々しいパステルカラーから透き通った茶色など様々な形で並んでいる。ユウキが物珍しさから店の中を見回していると棚の陰から恰幅のいい女性が姿を見せる。


「うるさいねえ。せっかくの客が逃げちまったじゃあないか」


 女性は顔を顰めスグルドたちを睨みつけるが彼らは軽く受け流す。


「いいじゃねえか。新しい客連れてきてやったんだからよ」


 スグルドはそういうと店を見回していたユウキの腕を引き女性の前に引っ張っていく。それを見て一瞬驚いたように表情を変えながらユウキに視線を向ける。


「かなり装備が新しいねえ。新人さんか?」


「ご名答。登録ほやほやの新人だ」


 スグルドの言葉を聞き、店主はユウキをじろじろと見つめる。それを見てユウキは一度姿勢を正して会釈をしながら口を開く。


「ご紹介にあずかりましたので改めまして。今日冒険者になったユウキだ。以後お見知りおきを」


 仰々しい貴族のような挨拶に店主は少々戸惑った様子を見せるが、すぐに元に戻り自分の乗客になるかどうかを計るような問いかけをする。


「ほう?お見知りおきを、っていうことはこの店にまた来るんだろうね?」


「それはサービスしだいかなあ」


 ユウキの返答に店主は嬉しそうに笑みを浮かべる。サービス次第ではもう来ないといっているようなものだが、店主は悪いほうには捉えなかった。サービスが悪ければ来ないということはその逆もしかり。


「あら、うれしいこと言ってくれるねえ。新人ってことで今日は全部半額でいいよ」


「今後ともひいきにさせてもらいますよ」 


 ユウキが内心してやったりと舌を出していると、後ろに控えていた三人、もといその中の二人から不満の声が上がる。


「ええ~。だったら私たちも半額にしてよ」


「黙りんさい。あんたたちは稼ぐだけ稼いでんだから今日はしっかり貢いで帰んな!今日は何か買うまで帰さないよ!」


 そういうと三人からブーイングが上がる。それを見てユウキは他人ごとのように苦笑いを浮かべる。三人に一言言い終わった店主は一度奥に引っ込んでいってしまう。それを見た四人は各々行動を開始するが、その直後店の奥にはいろうとしたユウキの耳にスグルドの声が届く。


「わりいけど、ちょっと外に出てくる。すぐ戻ってくる」


 そう短く告げると速足で出て行ってしまう。ユウキはあまり気にも留めずに店内を物色することにし、奥に入っていった。物品を見回しながら店主の方に向かっていく。店主におすすめを選んでもらうためだ。やはりこういう時には詳しい人物に選んでもらうのが早い。あいにく予算は豊富にあるため、足元見られても一種の社会勉強ということで納得できるだろうと高をくくっている。

 

 店主はユウキが近づいてくるのを見つけると、作業をしていた手を止めユウキに向き直る。


「来たね。何が欲しいんだい?適当なもん見繕ってあげるよ」


 ユウキは店主の提案に一度首を縦に振ることで返事をする。 


「さて、とりあえず予算を聞こうか?」


「四千フェズだけど場合によっては追加するわ」


 そういうと、店主は首を縦に振りながら、考え事をするようにきょろきょろと店内を見回す。


「割とあるから余裕のある買い物をしてもらえるね。それじゃあ……」


 店主は一度店の奥に行ってしまう。少しの間ユウキが品物を無作為に手に取り、弄びながら待っていると、店主が籠を持って戻ってくる。


「こんな感じがいいんじゃないかね?」


 店主は近くにあった台にドンという音を立てながら籠を置く。ユウキはその中身を覗き込むようにして確認した。すると、かごの中を指さすようにして店主は説明を始めた。


「この瓶に入っているのが回復薬。薬草をすりつぶしたものをはちみつを溶かした水で伸ばしたものだよ。まあ、すぐに傷がふさがるっていう便利なものじゃないけどね。こっちが水を入れておく袋。こっちのが干し肉。あとは適当に細々とした消耗品かねえ。これで全部で三千五百フェズだけど……、半額の端数切って千七百フェズでいいよ」

 

 ユウキは何も言わずにポーチから銀貨三枚を取り出す。それを見て店主は品物をユウキに手渡そうとするが、思うところがあったのか手が止まる。


「……そのポーチじゃあ、これ全部は入らないだろうねえ。ちょっと待ってな」


 店主は再び店の奥に行き、今度は十数秒もしないうちに戻ってくる。店主の手の中にあったのは頑丈そうなリュックサック。ポケットも多い見るからに質のいい良品であった。


「そのウエストポーチだけだと心もとないだろう。こいつも併せて三千フェズでいいよ」


「……もう一つ、頼みたいんだけど。耐久性の高い木の板と彫刻刀とインク」


「ああ、安い奴だったら置いてるよ。もっとも質の高いものを求めるんだったら他所へ行った方がいいがね。今回は大サービスでこれ含めて全部で三千フェズでいいよ」


「買った」


 購入することを簡単に告げ、ユウキは追加の銀貨を店主に手渡した。店主は受け取った銀貨を手の中で数え、満足そうな顔をするとそれをポケットにしまった。

 

「確かに。それじゃあ持っていきな」


「どうもー」


 そういったユウキは、手早く買ったものをリュックサックの中にしまっていく。その最中、他の三人はそれぞれ手に品物を持って店主のもとに近づいていく。


「あんたらまたいつものかい。もうちょっと違うものを買っていってもいいんじゃないかねえ」


 フリアは干し肉を、スグルドは回復薬を、ラクスが紐と木の棒を持っているのを見て呆れたようにため息をつく。しかし、その物言いにスグルドがむっとしたように口を返す。


「いいじゃねえか。俺らの金で買ってんだからよ」


 他の二人からもそうだそうだという声が上がり、店主は正論に負け何も言えなくなる。呻き声を漏らしながら店主が代金を受け取るとその直後、リュックを背負ったユウキが三人に合流した。


「終わったでー」


「それじゃそろそろ出ようか。おばちゃんまた来るね」


 その言葉に店主は手を振ることで答える。四人は店外に出ようとすると歩き始めるが店の出入り口付近の品物がユウキの目を引き、足を止める。三人はその行動を不思議に思い、三人もユウキを続くように足を止める。


「ユウキ君、どうしたの?」


「……ちょっと待っててけせ」


 ユウキはそのままそれを取り、店内に戻っていく。一分もしないうちに再び店外に出てくる。その手には一冊の本が握られていた。


「どうしたの?」


「なんか面白そうなのがあったから、買っちまっただ」


 そういうとフリアはユウキの手に握られていたものを覗き込む。それを見てフリアは思い出したように表情を変える。


「ああ、冒険者マガジンだね。私も時々読んだりするよ」


 聞き覚えの無い単語にユウキが首をかしげているとフリアの背後からラクスの補足が入る。


「大体月一で発売される暇な冒険者が書いてる冒険者向けの情報誌だ。話題の新人冒険者を特集したりするんだ。俺も読んだことがあるがそれなりに楽しめるぞ」


 へえとつぶやきながらユウキは本をリュックに突っ込む。しまい終わったところで待ち飽きたスグルドが急かすように三人に声をかける。


「早く行こうぜ。陽も傾き始めてるし早く休みてえ……」


「そうだね、ユウキ君も疲れてるだろうしね」


 そういうと残りの二人も首を縦に振り、スグルドを先頭に宿屋に向かって歩き始めた。忘れていたが今のユウキは傷だらけである。痛みに慣れて感じにくくなっていただけで本来であればそれなりの痛みを発しているはずだ。このまま汚れた状態にしているのは衛生的もよくないだろう。


 宿屋に着いた四人は横顔にあたる夕日を嫌うように速足で中に入る。その夕日も雑貨屋を出た時よりかは既に半分ほど地平線にさえぎられている。宿屋に入ったユウキ達は早速部屋を取ろうとエントランスに向かって歩き始めるとそっぽを向いていたフリアが声を上げた。


「あれ、ユーナちゃん!?さっきぶりだね!」


 フリアの視線の先にはユーナが立っており耳に手を当てながら張り紙を眺めていた。フリアは彼女のもとに向かっていってしまったため、男三人は部屋を取りに行く。幸い部屋は開いていたため、問題なく部屋を取ることができた。部屋の鍵を受け取り、ユウキは先にフリアたちに合流していたスグルドたちの方に向かっていく。


「あ、ユウキ君! ユーナちゃんもここの宿に泊まるんだって! ほんと奇遇だよね!」


 その言葉を聞いたユウキはユーナの方を見る。彼女は照れくさそうにはにかんでいる。


「んじゃ俺はお先に部屋に行かせてもらいますわ。さすがに疲れたもう限界」


「そっか。お疲れ様」


 四人に見送られながら、ユウキは部屋へ向かうための階段を上がっていく。指定された部屋に入るなり、リュックをベットの上に投げ捨て四肢に付けた籠手とブーツを緩めていく。慣れない籠手とブーツで圧迫された四肢は解放され自由を取り戻す。自由を取り戻した四肢をぐいぐいと伸ばしたユウキはベットの脇に置かれた机に備え付けられた椅子にどかっと座り、しばらくの間意識を飛ばす。


 十分後、思考が纏まったユウキはリュックの中に入れた木の板、彫刻刀、インクを取り出す。そして一心不乱にそれらをいじり始めた。




「……よし、できた。とりあえずはこんなもんで十分かな……」


 いじり始めてから一時間。ユウキの前には0から9までの数字が書かれた木の板が置かれており、1が四枚、2が三枚、そのほかの数字が二枚ずつある。ユウキはそれらからいくつかを取ると残りをひもでまとめ、ウエストポーチの奥に押し込み、選んだそれらを開けてあった穴にひもを通してウエストポーチに括り付けた。


「これでどうにか日にち感覚忘れずに済むかな……」


 ユウキが造っていたのは疑似的なカレンダー。木の板を入れ替えることで日にちをカウントすることができる。こちらの暦を知らない以上、今のユウキは向こうの暦に頼るしかない。もちろん知らなくていいと言えばそうかもしれないのだが、ユウキとしては気分的にあまり忘れたくはなかった。それに死んだ日を一日、今日を一日とすると今日は向こうのカウントで誕生日。二度目の人生としての誕生日でもある今日はユウキのダブル記念日。祝ってくれる人間がいない以上どうしようもないのだがこれも暦を忘れたくないという理由の一つだった。


「あぁー、疲れた」


 一時間以上集中して凝り固まった体に血液がいきわたるのを感じながらユウキはリュックの中から水の入った瓶と布を取り出した。布に水を染み込ませると全身を拭き始める。全身の傷にしみていくのを感じながらユウキは全身を拭き終え布を無造作に投げ捨て疲れた体をベットに叩きつける。ベットの上のリュックが跳ね、床にゴロンと落ちるがユウキは拾い上げるどころか、そのまま放置してしまう。


 今日はあまりにも多くのことが起きすぎたため、ユウキの疲れ切った体はこれ以上動くことを許さなかった。反面、意識ははっきりしていたため一日のことを思い出す。ゴブリンとの戦闘や心優しい三人組との出会い。思い返すとなんと濃密な一日だったのだろうか。ユウキは心の中で感嘆の溜息をつく。そのままの流れで明日のことを考えようとしたが、脳と体にたまった疲労が共鳴しあい一気に押し寄せる。共鳴し強くなった疲労は重りとしてユウキの意識を水底に引きずり込んでいく。それに抵抗する気力のないユウキは抵抗することなく沈めていった。


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