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冒険、始めちゃいました。  作者: カイナベル
第一章 始まりの町編
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第五話 冒険者、なりました。

「……痛い」


「あんだけ派手にぶつけたらな。あれだったら俺だって痛い」


「それにしても、ぶっ飛んだ後の転げまわり様といったら、今でも思い出せ……、ブフッ!」


「こら笑わないの。ほらユウキくん、ぬれてる布借りてきたよ。これ使って冷やして」


 ユウキはフリアから受け取った濡れた布を患部に押し当てる。強打した部分ははれ上がっており、その痛みは今も鈍く響いている。


 迫りくる扉に強烈な一撃を貰い吹き飛ばされた後、人目もはばからず、顔を抑えて転げまわった。トラックに轢かれたときの方が確実に痛みも衝撃も大きかっただろうが、不意の一撃はある意味で重かった。言い表すならば足の小指を箪笥の角にぶつけた時のような。そんな感じの痛みであった。また、痛みに悶絶して転げまわっている間、フリアは心配する様子を見せ、スグルドはその様子を見て笑い、ラクスは人目を気にせず転げまわるのを見て見て呆れるという三者三様の反応を見せた。最もユウキ自身それどころではなかったためフリアからその時の様子を聞いた話であるが。転げまわっている間、ユウキが感じ取ることが出来ていたのは彼の身を案じる二種類の女の声だった。


「あの……」


 ユウキは犯人の小鳥のような声に反応し顔を上げる。だが痛みからつい睨みつけるようにして視線を向けてしまう。その眼光に驚き、罪悪感も相まって犯人は小さく悲鳴を上げた。その様子を見たユウキはやっと自分の表情に気付き、両手で顔を揉み解すことでいつもの表情に戻す。元の顔に戻ったユウキは犯人に続けて、と告げ、再び元の状態に戻す。


「先ほどはすみません!さ、さっきは少し急いでいて……、とにかくごめんなさい!」


 当事者、あるいは加害者の女の子はユウキに向かって深々と頭を下げる。確かに顔面へのダメージは大きかったが、ここまでされるとされているユウキの心が痛くなってくる。ユウキは聖人ではないが悪魔でもないのだ。


「もう謝んなくていいよ。あれは事故だったし、だいぶ痛みも抜けてきたし…」


 そもそもあれはユウキの言う通り事故であり、咎めることはできても責めることはできない。ユウキ自身、こういったことをネチネチと言い続けるタイプではなかった。(もちろん相手に過失があると判断した場合は別だが)


「というか、君つい最近冒険者になったの?名前は?」


 二人が和解したのを伺ってフリアが犯人のほうに話しかける。彼女の姿は新人冒険者丸出しといった格好でここ二、三日で冒険者になったことがすぐにわかる。そんな彼女を放っておくことはできなかったのだろう。実に世話焼きらしい一幕である。


「あ、はい…、ついさっき…。名前はユーナです。歳は……十六歳です」


「で、その興奮冷めやまぬまま集会場を飛び出してさっきの事故を起こしたと」


「す、すみません……」


 フリアの的確な指摘にユーナの表情はさらに暗くなり、ありもしない尻尾がへたれて倒れる、そんな光景を頭の中に思い浮かばせるような反応を見せた。


「最初はみんな初心者だよ。あんまり気にしなくていいからね」


 フリアが慰めている間、ユウキは改めてユーナという少女に視線を向ける。百六十センチほどの身長を茶色のポニーテールでさらに増やしており、顔立ちはとてもかわいらしい。ユウキは身体的な特徴があまりないことから、ヒュームだと予想をつけた。その後集会場をぐるりと見まわした。一番多い種族はヒューマンでその次にビースト。ドワーフに至っては二、三人しかおらずエルフに至っては一人としていない。このことからこの世界の大半はヒュームが占めており、エルフという種族はとても少数派なのだろう。


 痛みがだいぶ引いたユウキは患部にあてた布を取り、適当にバックに引っ掛けた。そしていつの間にか楽しく話している四人の間に入っていく。


「ちょっと失礼。冒険者登録はいずこで?」


「あ、じゃあ私が案内しますよ!」


 ユウキの問いに話の中心にいたユーナが答えながら小さく手を上げる。


「いいのか?」


「お詫びとして案内させてください!それに一応先輩ですから」


「数十分とか数時間程度の話だけどな」


 ユーナの発言にラクスがツッコミを入れるが、ユーナの耳には届かなかった。確かにユウキとしても案内があった方が心強い。しかし、三人の会話を切ってしまうのはどうかと思い確認するように三人を見る。するとスグルドがしっしっと腕を振る。その腕の動きは早く行けと言っているかのようだった。


「分かった。先輩の申し出は無下には出来ないからな」


「任せてください! こっちです」


 薄っぺらいユウキの言葉の本意を知ってか知らずか、快活な声を上げるとユーナは人ごみの間を先導し始める。人と人の間をぶつかることなくするすると淀みなく抜けていく彼女の後ろをついていくと、女性が三人立っている窓口の一つに案内された。


「ここで登録をします」


「ご案内どうもありがとう。もう戻ってもらっても構わないよ。あとは一人で頑張るから」


「そうですか。それでは」


 そう言い残すと彼女は四人のもとに戻ると足早に集会場から出て行ってしまう。その後ろ姿を見届けると、ユウキは窓口の方を向き目の前に立っている女性に話しかけた。


「ようこそ!冒険者ギルドビギルマ支部、集会場受付です!受付嬢、サリーナが担当させていただきます」


 話しかけたユウキを出迎えたのは人を不快にしない快活ではっきりとした声だった。名前を名乗ってきたが一瞬不思議に思ったが、単にマニュアルだと予想しすぐに思考を切り替える。


「冒険者登録を」


「承りました。それでは冒険者登録をするにあたり、三百フェズいただきますが、よろしいですか?」


(あ、そういえば確か金貨しかもってねぇや。……まぁいいか)


「んじゃこれで」


「ほえ!?金貨ですか!?」


 サリーナが驚きの声を上げるとなぜか周囲がざわつき、驚いたような表情を見せる。目の前のサリーナは困惑しながら、差し出された金貨を手で弄んでいる。再び嫌な予感を察知したユウキは聞きたくはなかったが聞かずにはいられなかった。


「なんか嫌な予感がするけど一応聞いておこうか。なにこれすごいの?」


「かなりすごいですよ!この純金貨は多くが貴族の手にわたってしまうので、一般人がお目に書かれる機会は少ないんです!まさかこんなところでお目にかかれるとは……。……持って帰っちゃダメかしら」


 彼女の口から不穏な言葉が飛び出すが、サリーナはお構いなしに顔を恍惚の色に染め、金貨を見つめている。その表情は変態そのものであった。そんなこととは関係なくユウキは女神の気遣いに少々の恨み節が出そうになる。まさか自衛能力のない男にそんな危険物を持たせるとは思わなかった。だが、悪意がないことを分かっているユウキには責められなかった。


「それにしても、なぜ金貨の価値を知らないんですか?」


 この質問でユウキの身が強張る。まさか異世界からこっちに来て金貨は神様にもらったなどと言おうものならば狂人扱いを受け、村八分のような扱いを受けることになるのは目に見えている。混乱して動きの鈍った脳をフル回転させ、誤魔化すための嘘を組み立てる。


「い、今まで山奥で暮らしてて世間に触れることがなかったんだ……。これも山奥から出てくるときに親にもらったものでな……」


「へえ……。そうなんですかぁ……」


 聞いている間もサリーナは心ここにあらずといった感じでで金貨に見とれている。さっきの返しも確実に空返事。話し終わった今も上の空で金貨を弄んでいる。変態受付嬢を現実の世界に引き戻すため、ユウキは大声を張り上げる。


「ヘイ!」


「ファ!?え、あぁ!すみません!ええっと、これが冒険者登録カードと、お釣りなんですが……」


「……多いな。邪魔だな」


 ユウキの口から感想が無意識のうちに感想が零れる。ユウキの目の前には形は歪で百円玉大の貨幣が山のように積み上げられている。見た感じ百枚ほど。


「これで五万フェズですからね……。これでも氷山の一角ですよ?」


「さすがに全部受け取るのは無理だなぁ」


「冒険者ギルドの方で預金として保管しておきましょうか?」


「そんな便利なことが出来るのか?」


「えぇ。カードに記載しそれを希望時に好きなギルドで取り出すことが出来ます。さすがに低級冒険者のかたは一度に引き出せる金額も低いんですが。こちらでお預かりしますか?」


「頼んます。さすがに全部は邪魔すぎる」


 百枚以上の銀貨全部を持って身軽に動ける自信も筋力も今のユウキは持ち合わせていない。一部を除いてすべて預金として預けることにした。


「あとついでにこいつらも。引き出すのは八千、フェズ?で」


「まだ出てくるんですね…。もう呆れてもいいですか?」


 ダメです。そう心の中でつぶやいたユウキは金貨をサリーナの前に置いた。呆れたようにユウキと金貨を交互に見ているサリーナは丁寧に金貨をつまみ上げ奥に引っ込んでいく。しばらくして金貨の代わりに布袋と金属製のプレートを持ったサリーナが戻ってくる。布袋がカウンターに重みのある音を立てて置かれる。そしてサリーナの手から直接金属製の薄いプレートと金属製のペンダントが渡される。


「はい、改めまして冒険者登録カードと認定証、八千フェズです」


「なんで二つ?」


 一つでいいだろ、というユウキの心情がそのまま口から出てしまいそれに反応したサリーナは簡単に解説を入れる。


「カードだけだと、いちいち出すのがめんどくさいとの声があったらしいんですよね。カードをなくした時には認定証の裏の番号で再発行ができるようにしてあるんです。その逆もできますよ。念のための二重対策ですね」


「便利だねえ」


 そういいながらユウキはカードと袋をバックの奥の方にしまい込む。やっと冒険者登録も終わり、ユウキが冒険者として旅をする準備が終わる。


「まぁ、紆余曲折ありましたが冒険者登録が済んだところで、軽く冒険者についての説明をさせていただきます」


 サリーナは一回咳払いをして冒険者についての説明を始める。ユウキは彼女の話に意識を集中し、耳を話に傾ける。


「冒険者は実力ごとにランク分けされており、下はHから、上はSSSまでとなっております。まぁSSはココ何十年も出ていませんし、SSSなんてもはや伝説なんですけどね……」


「そうなのか?」


「あまりにも条件が厳しすぎるらしいんですよ。噂程度ですが、SSSに昇級するには自然災害を一人で解決だとか、人類滅亡の危機を第一線に立って解決するとか……、とにかく難しいらしいので、ギルドの長い歴史の中でまだ一人しか出ていないとか……」


「一人出たのか。何だその人間災害野郎は?」


「相当前に冒険者として活躍されていた方らしく原初の魔法使いと言われていたそうですよ。なんでも何百年も前に魔法を体系化した人だとか……」


 魔法の体系化という偉業を成し遂げた人物ががSSSランクであったというのを聞き、SSSランクという言葉に疑う余地がなくなった。


「本題に戻りますと、まだいろいろギルドについてとかあるんですが……。長くなるので本でも買って読んでください」


「雑過ぎじゃないか」


「一冊五百フェズになっております。非公式ですけど」


 にっこりと笑いながら、薄めの冊子を見せてくるサリーナに、ユウキは引き攣った笑みを向けながら乱暴に銀貨を一枚指ではじいて渡す。それを両手で受け取ったサリーナは毎度あり、とつぶやく。おそらくここから始まったほぼすべての冒険者がこれにかかったのだろう。いい小遣い稼ぎである。


「とりあえず、俺はまずHランクからか」


「ぜひ、上を目指して頑張ってくださいね!」


 サリーナさんはユウキに激励の言葉を投げかける。ガッツポーズを添えて。


「あ、一つ言い忘れていた事が。とりあえず今日一日は依頼を受けられません。今日のうちに準備を済ませておいてくださいね〜」


 お預けを食らってしまい、少々気が沈むがそもそも今日いきなり依頼を受ける気の無かったユウキはささっと気持ちを切り替え扉の方へ向かっていく。すると、後ろから声がかけられユウキは振り向く。声をかけたのはスグルド。フリアは別の窓口からユウキに向かってきている。ここでユウキは彼女たちが任務の途中であったことを思い出した。フリアたちがユウキと合流すると、ユウキは経過を報告する。


「登録できましたよ」


「そりゃよかった。おめでとう」


 スグルドが真っ先に反応し、ユウキが掲げたペンダントを見ながら称賛の声をかける。間髪入れずスグルドは口を開いた。その様子がどことなく急いでいるような印象を覚え、違和感を覚える。


「ところで、お前今日の寝床はあるのか?」


 冒険者登録で頭がいっぱいで忘れていたことをスグルドの言葉で思い出す。とりあえずまずは寝床を探さねばならない。急いで別れを告げ宿探しをしようとしたところで引き留められる。


「無いんだったら、俺たちの泊まってるところに来いよ。多分まだ空いている部屋があると思うからさ」


 その提案を受けユウキの気持ちはすぐに決まる。


「それじゃあお願いします」 


「決まりだな。それじゃあ行こうぜ」


 二人で集会場を出ようとしたところで、今度は二人がフリアによって引き留められる。


「盛り上がってるところ悪いけど、その前にまずは必要なものを買いに行くのが先だよ」


 それを聞きスグルドがはっとしたような表情に変わる。 


「そりゃそうか。《《一緒》》に行こうぜ」


 一緒に、の部分の強調されていることに疑問に思い、宿はともかく雑貨屋は断ろうとする。


「いや、雑貨屋は教えてもらえればひとりで行けるんですが?」


 それに反応したスグルドが、ユウキの肩に手をかけるとともに顔を近づけて、小声で話し始める。


「そうもいかないんだよ。お前が金を持ってることがばれちまったからな」


 あとはまあ、わかるよな、とスグルドは耳元でつぶやいた。その言葉でスグルドの言っていることの意味を理解する。そのうえで何故同行を申し出てくれたのかの理由も理解し彼は改めて三人の面倒見の良さを感じた。


「それじゃあお願いします」


「分かった。それじゃあ行こうぜ」


 スグルドはフリアたちに歩きながら視線を送りそれに気づいたフリアとラクス、総勢四人で集会場を後にした。


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