第七十六話 神界の住人、再会しました。
――――ふと右腕に冷たさを覚える。あり得ない自分は死んだはずだ―――――。
そう思い込んでいるユウキは不明瞭な思考で自身の置かれた状況を思考する。深手を負い右腕を切り落とされ大量の血を流した。あれほどの重傷を負ってまだ自分が生きているとはとても思えなかったのだ。
しかし、意識はあり、感覚もある、らしい。不明瞭な意識が次第にはっきりとしていく。置かれた状況を確認するために瞼に力を意識を集中させ、ゆっくりと目を開く。瞳を刺し貫く光に咄嗟に目を細めると同時に手のひらで覆い隠し、慣れたところで自身の居る場所をはっきりと理解する。そして深く溜息を吐いた。
「…………ああ、ここか」
ユウキを包み込む白い空間。視界を遮るものは何もなく距離など測れそうにもない。壁も地面も彼を遮るものはなく自由であるようで縛られているように不自由な空間。間違いなくこの世界に転生するとき、最初に訪れた世界。つまり
「ここは神の住まう場所、神界。というのはもはや説明不要ですね。お久しぶりです」
背後からかけられた声にユウキが振り返ると、彼の背後にいつの間にか立っていたシオンが薄く笑みを浮かべながら見つめていた。
「あんたは背後に立たんと気が済まんのか?まあいいや。またどっかの異世界に転生か?」
「そもそも死んですらいないのに転生なんてさせられるわけがないじゃないですか」
ユウキが問いかけるとシオンが目を閉じ呆れたように呟く。その言葉にユウキは驚愕する。まだ自分が生きている?そんなこと、彼には発想すらなかった。
「あなたはあの戦闘の後、あの森の住人に助けられ現在治療を受けているところです。私が送り返し次第目が覚めるでしょう。まあ、ちょっとめんどくさい状態に置かれていますが目覚めた瞬間殺されるということはないでしょう」
あの後助けられ、さらに治療を受けているという手厚い保護にユウキは胸を撫でおろす。面倒な状況に置かれていると言われたが、すぐに殺される状況でなければどうとでもできる。もし助けられていたとしてもすぐに殺されるといった最悪な状況でないだけましだ。
体の置かれた状況に安心しきっていると、シオンが大きく咳ばらいをし、自身に注目させる。ユウキの視線が向いたところで再び話し始めた。
「今回あなたをお呼びしたのはお伝えしておきたいことがあるからです。今回の一件、本当であればあのままあなたは殺されていました。しかし火事場の馬鹿力とでもいう力で自身の力の一端を発揮し生き残りました」
「そのことだよ。なんでリュウセイには特典の内容を教えたのに俺には教えなかったんだよ?」
「リュウセイ、……懐かしいですね。あなたと違ってヒーロー然とした立ち振る舞いと慎重な戦いぶり。久しぶりに会いたいですね。話がそれましたね。話を戻しましょうか」
「聞けよオイ」
自分の意見を聞いてもらえなかったユウキは不満そうに表情を歪め、それを現すように腕を組む。しかしシオンはどこ吹く風。話を続ける。
「さて本題です。結論から言いますと少し風向きが変わりました」
「どゆこと?」
彼女の言っていることが全く理解できなかったユウキは、反射的に聞き返してしまう。後から説明するつもりでいたシオンはその反応に不満そうに目を細める。しかし、こうしていても始まらないことを察し、話の続きを離し始める。
「先ほども言いましたように、あなたは本来であればあの戦いで首を飛ばされ死んでいました。しかし、生き残ったことで世界の歩む道筋が変わりました。激しい戦いが多く、過酷な道になりますが乗り越えた先には平和な世界、そのような道筋に変化しました。現時点での話ではあるものの大まかなところは変化しないでしょう」
「それは悪いことなのか?それともいいことなのか?」
「どちらでもありません。そもそも人間が自分で道を決めて進むことを否定することも肯定することもどうしてできましょう。今回あなたを呼んだのもこのことをお伝えしたかっただけで、別にその通りに進む必要はありません。あなたが好きに決めればいいのです。」
「わかった。好きにやらせてもらう」
「とはいってもあなたの場合、戻っても荊のほうの道に進みそうですが」
「まあ、多分な。あの男に借りも返してねえ」
ユウキは拳を握り締め、自分をコテンパンに叩きのめしてくれた男の顔を脳裏によぎらせる。あそこまでコケにされたのならばやり返さねば気が済まないのが彼の性である。
「ならいいです」
ユウキの返答を聞いたシオンは薄く頬を緩ませる。
「よし、話は終わったな。それじゃ話の続きだ。なんで俺に特典のことを何も教えなかった?」
「しつこいですよ」
「うるせぇ!こっちはそのこと何もわからないまま、今まで生きてきたんだよ!死に物狂いだったんだよ!」
ユウキが発狂したように怒声を上げると、それを見て呆れたようにシオンは溜息を吐く。が、しかし本来教えるものをここにきて教えないのもあんまりだと思ったのか、思考するように目を瞑ると口を開き特典について語り始める。
「わかりました。教えることにします。あなたが特典として把握している数は?」
「あん?一つ、文字や言葉に不自由しない能力。二つ、強力な装備。この二つだ」
「その二つに関しては正解です。では少し足りませんね。一つ目に関しては変換能力です。言語、文字、あなたの内包する魔力、果てにはあなたの肉体まで自由に変換することが出来ます。名をつけるならば、……千変万態といったところでしょうか」
シオンの能力に関する説明を聞き、ユウキは眉間にしわを寄せた。理由としては能力の使いどころをが分からないものが多かったからだ。言語や文字はともかくとして、魔力を別のものに変換する理由はどこにもないし、ましてや肉体など、現状変化させる必要性がない。豪華ではあるものの使いどころが限定されるというのが第一印象だった。
「二つ目はもう言う必要は無いでしょう。そしてここから三つ目。あなた自分の成長速度に違和感を覚えなませんでしたか?それが三つ目のスキルです。自身の筋力や魔力を急速に成長させる能力。名前を付けるならば急速成長者でしょうか」
「あー……」
心当たりのある彼は気の抜けた声を上げる。確かにこの世界に来てからトレーニング以上に身体能力が上がっていったし、環境に慣れるのも早かった。あれがスキルのおかげだというのならば納得できる。
「とは言ってもどこまでも成長し続けるわけじゃなくてある一定のところまで行ったら成長は緩やかになるんですけどね」
「まあ、何処までも同じように成長し続けるなんておかしいからな。そりゃ当然だ」
「四つ目の特典は全魔法の適正と特殊な魔法の適正になります」
「特殊な魔法?」
先ほどシオンは全魔法を強調していっていたのにも関わらず、そこから外れる魔法があるということに首を傾げつい問いかけてしまった。しかし、それに嫌悪感を示すことなくシオンはその問いかけに答えた。
「魔法というのは得意不得意というのはあっても修練を重ねれば誰でも一応使えるようになります。しかし、特殊な系統の魔法はその適正を持っている人間以外にはどんなに習熟を積んでも使うことはできません。その特殊さから非常に貴重な能力なんです」
「ふーん。でどんな能力なんだ?」
「端的に言うと時間と空間ですね。時間を止めたり瞬間移動をしたり、二つ組み合わせれば時空に穴をあけたりとか、魔力の消費量が多い代わりに汎用性の高い魔法となっています。この四つがあなたに与えた特典になります」
そうシオンが言い切ったところでユウキの目がじっとりとした目に変化し、その眼のままシオンを見つめている。その視線を不満に思った彼女は声色を低くし視線について問いかけた。
「なんでしょうか?わざわざ教えたのに何がご不満がありますか?」
「……いや、馬鹿に素直に教えてくれたから腹に一物抱えてねえかなと」
「教えたら教えたでめんどくさい人ですね。もうお話も終わったのであなたを送還しますね」
そういい彼女が手をかざすとユウキの身体から光の粒子が溢れだし始め、ゆっくりと浮遊するように下に落ちていく。その意味の分からない動きに戸惑いながら身を任せていると、彼を見つめていたシオンが思い出したように口を開く。
「ああ、そうそう。何をしろとは私の口から言うつもりはありませんが、一つだけ助言をしておきます。もう自分の力ではどうしようもないという事態に直面した時、私が与えた大剣に頼るといいでしょう。その銘をリベリオン。その剣が鍵となるでしょう」
ユウキには彼女の言っていることがほとんどわからなかった。わかったことといえば大剣がリベリオンという名であるということだけ。その他は何もわからない。どういう意味かと考えようとしたところで彼の身体が光に包まれ、突如として意識が暗転する。思考する暇もなく意識を刈り取られたユウキはそのまま神界を漂って元の世界へと戻るのだった。
今回の話でユウキの持っていたスキルが判明しました。
即効性はありませんが地味に強力なものなものですね。しかし、彼がそれを使いこなすことになるのはまだ先の話です。その原因は少し後に判明します。そして使えないとぼやいていた『千変万態』ですが、この後たくさん使っていくことになります。実はいろんな使い方が出来る千変万態。彼がその有用性と楽しさに気づくのは少し後の話です。




