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冒険、始めちゃいました。  作者: カイナベル
第五章 帝国編
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第七十五話 森林での戦闘、決着がつきました。

 頭上から迫る風切り音に気づくことが出来たのは本能が警鐘を鳴らしたからか、それともまだジラドの行動のどこかに違和感を抱いていたからだろうか。どっちにしろ、気づいたところでもう遅い。死神の黒い一撃は容赦なくユウキに食らいついた。


 ジラドを間合いに入れた瞬間、ユウキの振り上げていた左腕と右肩に激痛が走る。いったい何が、そう考える暇もなく痛みは脳に到達し、全身を駆け巡る。その痛みに耐えきれなかったユウキは全身の力が抜け、大剣を取り落とし走る勢いのままに倒れこむ。顔を上げ、いったい何が起こったかを確認しようとしたユウキであったがその前に、頭を踏みつけられてしまい顔を上げられなくなる。


「ふん。できるといっても所詮この程度か。残念だったな。だが気に病むことはない。俺のほうが強いのは当然のことだ」


 そうつぶやいたジラドは彼の頭を軽く蹴り飛ばす。その衝撃で頭が揺れ思考がまとまらなくなるユウキ。混乱し揺れる脳が捉えたのはジラドが虚空から現れた、弾き飛ばされたはずのククリナイフを手に取ったところだった。


 それはさっき背後に弾き飛ばしたはず、なぜ自分の身体に食い込んでいるのか。そう考えたくても脳がうまく働いてくれない。痛みが加勢し、次第にはっきりとしていく脳が先ほどの問題の答えを明確にしていく。これは魔法によるものだということを。しかしそれだけでは正答にたどり着くにはあまりにも不十分だった。


 言ってしまえばユウキの答えは正しい。が、点数をつけるのであれば三十点。足りない部分がいくつか存在していた。まず、後ろに弾き飛ばしたはずのナイフがまるで戻ってきたようにユウキに食い込んだのはジラドが投擲したものを自由に操作する魔法を使ったからだ。ここまではユウキでも理解できていた。


 しかし、ジラドはもう一つ魔法を使っていた。それは対象を透明化する魔法である。触れた対象を透明化し、それは手から離れてもしばらく作用する。これによって飛来するククリナイフを視認することが出来なくなり、もろに食らってしまったのだ。まあ、そもそもユウキはジラドに意識を集中させてしまっていたため、もともとククリナイフに意識はなかったため、この魔法は保険として意味合いが強かったが命中させるための保険として正しい運用の仕方だった。


 だが、この二つを合わせてもせいぜい七十五点。重要なのはここから、ユウキの心理の穴を突いたものだった。まずジラドは一度もこの二つの魔法を見せていない。魔法というものがあることを知っているユウキであるが、その使い方や種類はほとんど知らない。彼が魔法を使うことが分かっていたとしても、どんな魔法をどのタイミングで使ってくるかは全く予想が出来なかっただろう。ただでさえ、早く勝負をつけたいという心理が働いていたユウキには、時間をかけてじっくりと観察する余裕はなかった。食らってしまうのは当然のことだろう。


 では、魔法の種類を知っていれば回避できたかというと、それもノーである。先にユウキは黒く塗られた短剣で痛い目を受けている。この時点で布石を打たれていたユウキは彼の投げるものが闇に同化して見づらい黒塗りの物だと理解する。そうすると意識が黒のみに集中し、透明という存在に意識が行かなくなる。ユウキには視認できないというこの攻撃は避けられないのだ。ユウキの敗北は魔法に関する無知と対人戦の経験の乏しさからくるものだった。


 とはいえ、この攻撃は魔法をかじっているものであれば魔力の流れ等ですぐに理解できるため、魔法使いには通じない攻撃である。


 しかし、そんなことはユウキには関係ない。彼に残ったのは敗北という結果と死という結末だけであった。


「結局大口を叩いた割には俺に一撃たりとも入れることが出来なかったか。魔法も使えない雑魚がよくもまああんなに大口を叩いたものだ。おい、お前ら。こいつを支えろ」


 部下に指示を出したジラドは、持ち上げられ跪かされたユウキの左腕に食い込み浮いているククリナイフに手をかける。両手は持ち上げられており怪我の影響もあってまともに動かすことが出来ない。これからいったい何が起きるかがなんとなくわかっているユウキであるが痛みと失血で体が動かない。抵抗の意思を見せることが出来ない。無抵抗のままうつむくユウキを見て、ジラドはいたぶるのが心底楽しいといわんばかりに口角を吊り上げ、笑って見せる。


 そして、握ったククリナイフを一気に引き下ろし、左腕の上腕を包丁でハムを切り落とすかのように容易く切り落とした。切り落とされた腕が地面にボトリと落ち、断面が見える傷口から大量の血が流れ始め血の池を作り出す。腕を切り落とされた痛みで声にならない悲鳴を上げるユウキ。できることならば倒れこんでその傷口を抑え込みたかったが、彼を支える兵士がそれを許さない。彼の腕と肩をしっかりとつかみ、微動だにさせない。痛みで口から唾液が零れ、地面に落ち巨大化していき血の池と同化していく。


 ククリナイフの血を払いユウキの首元にあてたジラドは、彼の首を切り落とそうとその首に刃を当て狙いを定める。そして振りかぶったところでユウキが茶々を入れる用にして口を開く。


「いいのかよ……。俺から王女様のことを何も聞かなくて……」 


 絞り出すようなか細い声で発せられた言葉を聞き取ったジラドは掲げたククリナイフを下げると饒舌に語り始める。


「貴様なんぞから情報を引き出さずともこの俺の軍は優秀だ。人一人を見つけその命を奪うことなど虫を捻り潰すことより容易い。貴様がいくら足止めをしようとそもそも関係ない。お前は無駄な時間を過ごしたってことだ」


 彼を嘲るような声色で語ったジラドは話を終えると笑い始める。勝利宣言とも、ユウキへの嘲笑ともとれるそれを聞き、ユウキのスイッチが入った。そもそも足止めをしようがしまいが関係ない。それは困る。彼女を逃がすためにユウキは足止めを受けたのだ。ならば彼女が逃げ切れるように手を尽くすのが依頼を受け報酬をもらったものの責務である。それにあそこまで馬鹿にされて彼が黙っていられるはずがなかったのだ。反撃したい。それのことを考えると体(・)が(・)む(・)ず(・)痒(・)く(・)て(・)仕(・)方(・)な(・)い(・)。


「フ、フフ、アハハハハハハハハ!……なんかおかしくなってきちまったよ」


「なんだ痛みでおかしくなったか?。すぐに楽にしてやる」


「ここまで馬鹿にされた黙ってるなんてどうかしてたよ」

 

 ユウキは先ほどのか細い声など嘘のように張り上げ生気のある声で独り言を紡ぐ。それを見て再度ククリナイフを振り上げたジラドであったが、ユウキに起こり始めていた異変に振り下ろすことを躊躇ってしまう。具体的には彼がつけていた籠手とブーツが異常を起こし始めていたのだ。


 ふくらはぎの中間ほどまでを覆っていたはずのブーツが、まるで延長されたかのように膝下までを覆い隠しフォルムも刺々しいものへと変わっていく。踵からは刃が生え、つま先はさらに鋭く鋭利なものへと変化する。籠手は前腕部の手の甲側だけを覆っていたのが、肩付近から指先まで厳重に覆い隠すものに変化し、指先に至ってはそれだけで一つの武器のように鋭く変化していた。


 それに伴ってユウキにも変化が起きる。今まで一切の抵抗を見せていなかったにも拘らず抵抗の意思を見せ始め、兵士を振り払おうと全身に力を籠め始める。もちろん兵士も抑え込もうとするが、その膂力はまるで竜をのごとし。尋常ではない膂力に兵士二人では抑え込むことが出来ない。


「今すぐ全員でそいつを抑え込め!首さえ見えていれば構わん!」


 彼らを囲っていた兵士に指示を出したジラドは、自身もすぐさまククリナイフを振り下ろす。この男の息の根を今すぐに止めなければとんでもないことになる。本能的にそう感じていたから行動に移った。その行動は明らかに周りの兵士が抑え込むよりも早いがそんなことにかまっている場合ではない。今すぐ殺さねば。そのことで彼の頭はいっぱいだった。


 一秒もあれば切り落とせたはずの首。それは彼が切り落とす前に彼の目の前から姿を消した。直後、抑え込んでいた兵士がジラドの刃の前に現れ、凶刃にさらされることになる。


「どこだ!奴はどこへ」


 傷ついた部下に構うことなくユウキの所在を確認しようとしたジラドであったが、次の瞬間彼の視界に飛び込んできたものに驚愕する。抑え込もうと駆け寄ってきていた兵士の一人が自分に向かって飛んできていたのだ。それも胴体に風穴を開けた状態で。突然のことを反応しきれなかったジラドはそのまま直撃し、部下とともに倒れこむ。


「クソッ!何が起こってる!?」


 部下の亡骸をどかし、体を起こしたジラドは眼前で衝撃的なものを目にすることとなった。先ほどまで瀕死の状態だったユウキが兵士の中に飛び込み、彼らを蹂躙しつくしているのだ。ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。群がる兵士たちを殴り、蹴り、時に投げ飛ばし一人一人を嵐がごとく吹き飛ばしていた。防御できている者もいるがそれでも戦闘不能は避けられないほどの怪我を覆っており、防御できなかったものは言うまでもない。彼の歯牙にかかったものはもれなく全員、戦闘不能に陥らされていた。


 兵士が全員倒れ伏したところでユウキはジラドに標的を定める。立ち上がったジラドはククリナイフを構え彼の一挙手一投足に全神経を注ぐ。もはや目の前にいるのは先ほどまでの弱い男ではない。発せられるさっきはまるで猛獣、オオカミのようであった。オオカミのようにして歯を剝き唸り声をあげたユウキは前傾姿勢を取り突撃の構えを取る。


 それを見たジラドは魔法で身体能力を強化し、目の前の猛獣に襲い掛かる。その動きには無駄はなく帝国兵士最強の名前を冠するものとして恥じない動きだった。


 しかし、それ以上にユウキのほうが速かった。低く屈みこみ跳んだユウキは一瞬で懐に飛び込むと右の拳でジラドの胸部に拳を叩きこむ。鎧越しとはいえその衝撃は凄まじく、肺から空気が抜ける感覚を覚えながらジラドは後方に吹き飛ばされる。木にぶつかることで停止したジラドは即座にユウキの動向を確認しようとするが、その前に追撃のドロップキックが炸裂する。衝撃で肋骨を破壊されたジラドは、彼と同時に折られた木とともに後方に吹き飛び、倒れこむ。衝撃で息が出来なくなり立ち上がることすらできない。ピクピクと体を痙攣させククリナイフを取り落としている。


 たった数分の間に兵士たちは全滅。現状立ち上がっているのはユウキだけ。もはや彼を阻むものは何もない。ユウキは近くに落ちている自分の片腕を掴み取ると一目散にその場を離脱し始める。オオカミのように低く、そして素早く駆けていくユウキがその薄暗い森の中に消えていく。兵士たちはその姿を倒れたまま見過ごすことしかできなかった。

























「グブゥ、グブゥ、グブゥ」


 最大の危機を脱したユウキは未だに森の中を走り続けていた。三十分以上は走り続けただろうか。帝国兵士たちも追って来る様子はない。しかし、止まることはない。口には左腕を抱え、右(・)手(・)に(・)は(・)大(・)剣(・)を(・)持(・)っ(・)た(・)ま(・)ま(・)、森の中を狂ったように走り続けている。


 しかし、重傷を負っている彼の身体がそう長く持つはずもない。ゆっくりと減速し立ち止まったユウキは体力の限界でそのまま前に倒れこむ。口から加えた左腕が零れ落ち、大剣を持っている右腕はもう上がらない。左腕には感覚はなく、どんなに力を入れようとしても力が入らないどころか逆に抜けていく始末。もう体としての機能は成していなかった。


 火事場の馬鹿力で暴れ続けたユウキであったが、その実笑ってからの記憶は一切なく、意識が戻ったのも倒れこみ痛みを感じ始めたところからだった。なぜ自分がここにいるのかもわからず、考えることも叶わない。


 朦朧とした意識で血の気が引いていくのを感じていたユウキは、本格的に自分は死ぬんだと察していた。もう意識も保てない。最後の力を振り絞り唇を噛み締めたユウキはそのままゆっくりと意識を手放した。










 














 ユウキが意識を失ってから少しして彼のもとに一人の男が立つ。


「あん?なんだこいつ。もしかしてこいつか?……まだ息はあるみたいだし、応急処置して集落に連れてくかぁ。話を聞かなきゃいかんし」


 そう呟いたその男はユウキを緑の光で包み込むとその身体を担ぎ上げ、左腕を持つ。そして軽業師のような動きで木の上を跳びまわり、森の奥へ消えていくのだった。




 対人戦って長く書くのむつかしい……。どうしても地の分が多くなりやすいし、会話文も入れるのが難しいからテンポが悪くなる。対人戦をほっぽって来たツケかなぁ……。

 ま、文句言ってる暇があるなら書いたほうがいいですね。

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