↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険、始めちゃいました。  作者: カイナベル
第五章 帝国編
76/135

第七十四話 森林での戦闘、突入しました。

(まずは……)


 大剣を握り締めたユウキは、大剣を置き去りにするがごとくジラドに向かって走り始める。騎兵と歩兵では圧倒的に戦闘力に差がある。噂程度にそのことを知っているユウキだが、あえて突っ込んだ。理由としては単純に気迫を見せつけることで戦闘の意思を見せることにある。向こうは彼のことを殺したがっている。では戦闘の意思を見せることで彼の意識をこちらの身に集中することが出来る。そうすればさらに時間稼ぎができる。何度でも繰り返すが今回のユウキの目的は足止めだ。それが出来るのならば、いくらでもそれをする。離脱の方法は考えていないのが唯一にして最大の欠点であるが、それは後で考えることにする。


 一方、ジラドは騎乗している自分に臆することなく突撃してきたユウキを見てほくそえんでいた。こいつ、騎兵の優位性を知らないのか、胸中はこんなところであっただろう。部下に逃げ道をふさぐように指示した後、自身の武器である黒塗りのククリナイフを掲げユウキが自身の間合いに入るのを待ち構える。そして、ユウキが間合いに入ったのを確認した瞬間彼は体を乗り出して両手のククリナイフを振り下ろした。騎乗していう動物に足を引っかけることで体を乗り出しククリナイフを地面に近づけていることで、どんなに体を屈めても武器がユウキに当たるようにしている。


 決まった、そう考えたジラドであったがその考えはすぐに覆されることになる。無警戒そうに体を起こしながら走るユウキは刃先を後ろに向けて持っていた大剣を背を通すようにして持ち上げると、傘のように自分を覆い隠すと、それを盾のようにして二本のククリナイフの振り下ろしを防御する。さらに膝のクッションを使い、衝撃を吸収し、ダメージをゼロにして見せた。


 真髄はここから。ユウキは握り締めていた大剣を手放し、置き去りにする。すると大剣は多少の慣性は働くものの空中で留まり、走るユウキにはついてこれなくなる。したがって大剣は相対的にユウキの背後に落ちることになる。そこからの彼の行動は非常に速い。背後に落ちる大剣の持ち手を振り返ると同時に掴み取ると、そのまま体を戻す勢いを利用して横薙ぎに振り払った。いわゆる背斜刀といわれる攻撃である。


 そのトリッキーな攻撃を予想することが出来なかったジラドはその攻撃に対して何の対処も取ることができない。懐で行われた超早業であったため、理解できていても対処できたかは怪しいが。ともあれ、何の妨害も受けずに振りぬかれた大剣は、遠心力と重量が味方し絶大な威力を放つ。その一撃はジラドの騎乗していたラプトルの両足を何の苦も無く切り落とした。


 両足という支えがなくなったラプトルは崩れ落ち、それと同時にジラドもラプトルの身体から振り落とされ、地面に叩きつけられる。

 

「貴様ぁ……」


「機動力を落とすのは基本中の基本だろうがよ?」


 地面に肩から落下し、痛みをこらえるため渋い顔をしながら自分を睨みつけているジラドに、ユウキは煽るようにして一言告げて見せる。煽るような笑顔を浮かべていたユウキであったが、すぐにその笑顔を消し、大剣を構える。いくら油断していたとはいえ、帝国兵士の最上位に位置している彼が弱いはずがない。ここからは油断も隙も無く全力でかかってくるだろう。ここからは相当ユウキに分の悪い戦闘になる。笑っていられるほどの余裕はない。


 よって、彼のことを待っている理由もない。ユウキは離れた距離を詰めるために即座に踏み込み、晒されている頭部に向かって大剣を振り下ろす。しかし、ジラドは二本のククリナイフを交差させるようにして上段からの一撃を受け止める。ユウキは一度引こうかと思い、大剣を引こうかと考える。しかし、即座にその考えを捨て振り下ろした大剣をさらに押し込むことに注力した。ユウキが上をとっているうえにジラドの体勢は崩れている。ここまで有利なのはもう二度とないかもしれない。ならばこのチャンスを無駄にするわけにはいかない。ユウキは全身の力を振り絞り大剣を握る腕に力を籠め、押し切ろうとする。


 しかし、大剣が動くことはない。どんなに力を籠めようと大剣がそれ以上進むことはなく、かえって押し返されようとしている。ジラドは不安定な体勢であるにもかかわらずユウキ以上の膂力で押し返している。それと並行して体勢を整えており、ユウキの有利が失われていく。そして彼の体勢が完璧に整った瞬間、ユウキは大きく吹き飛ばされ体勢が崩れる。自身の有利が消えたことにユウキが小さく舌打ちを打っていると、そんなことすらできない状況であると知ら締められることになる。


 ジラドがユウキ以上の速度で彼の懐に入り込み、彼の胴体をククリナイフで袈裟斬りにしようと試みる。それを体を引いて間一髪でかわしたユウキであったが、ジラドの攻撃はまだ止まらない。振り下ろしたククリナイフを手首を返すようにして斜めに振り上げると同時にもう片方のククリナイフも同時に振り上げる。並列して襲い掛かってくるククリナイフを大剣を使って受け流すが、彼のパワーに受け流しきれず大剣が弾かれる。そこを見逃さず、ジラドは両手のククリナイフを振り上げ、全力でユウキに向かって投げつけた。


 盾にできる大剣は弾かれ、その影響で体勢も崩れ重心が後ろに下がってしまっている。そんな中で胴体めがけ的確に飛んでくる二本のククリナイフ。この体勢では放たれた死神の鎌を回避することはできない。ではどうするか。回避ではなく防御、もっと言えば飛んでくるククリナイフを弾くのだ。


 ユウキは後ろに下がっている重心をさらに下げわざと倒れこむと両足を振り上げ、二本のククリナイフをその二本の足で器用に弾き返す。そして倒れこんだ勢いを利用して距離を取るのと同時に体勢を立て直すのだった。


「ふん、あれだけ大口を叩いたのだ。それくらいはできてもらわないと困る」


 背中を打ったせいで咳き込むユウキにジラドは不遜な口調で呟く。弾き飛ばされ地面に突き刺さったククリナイフを抜き、構えなおすジラド。今までユウキがあってきた戦士の中で五本の指に入るその実力。ユウキは頬を掻きながら喧嘩を打ったことを若干後悔するのだった。


(それにしても魔法か……。敵に回るとこんなに面倒だとはなぁ……)


 頬から手を離したユウキは目の前の強敵を見据え集中しなおそうとするが、横槍が入りそれは叶わなくなる。


 ユウキの逃げ道を塞いでいた兵士が剣を振りかざし、背後から襲い掛かってきたのだ。意識の外からの急襲、一瞬硬直するユウキであったが、即座に硬直を解除し行動を起こす。握っている大剣を手放すと腕の籠手で剣の一撃を受け止める。重い一撃で腕に痛みが走るがそれどころではない。兵士の足に足払いをかけ体勢を崩すと無防備な顔面に拳を叩きこむ。痛みで一切の行動がとれなくなった兵士は剣を取り落とし顔を抑えようと顔に寄せようとする。その前にユウキは腕をつかみ取りジラドの居る方向に彼を投げつける。何かを投げつけたような体勢をとっている彼は肉弾となった彼を彼の身を案じることなく弾き飛ばし、革の鞘にしまっていたククリナイフを抜きなおす。


 なぜククリナイフをしまった?そう考えた瞬間、彼の右太腿に激痛が走る。反射的にその部分に視線をやるとそこには短剣が深々と突き刺さっている。先ほどの体勢の理由はこれか、そう考えながら痛みをこらえ短剣を引き抜くと同時に本能が危機を告げる。視線を上げるとジラドが距離を詰めてきており、あと五歩も踏み込めば彼のククリナイフの一撃の範囲内に入ることになる。そうなればユウキは彼の二振りのククリナイフによって彼の身体はズタズタに切り裂かれ、最終的には見るも無残な姿になることになる。


 そう考える前にユウキの本能が勝手に身体を動かした。反射的に手に持つ短剣を投げつけると同時にポーチからナイフを取り出し投擲物を追加する。その数短剣も併せて七本。その対処に追われることになりジラドは足を止めざるを得なくなる。その隙にユウキは大剣を拾い、距離を取る。


 飛んでくるナイフを叩き落としたジラドはにやりと笑みを浮かべると地面に落ちた短剣を拾いなおす。そしてその切っ先を向けるとユウキに向かって投げつけた。もちろん来るとわかっている一撃をユウキが弾けないわけがない。短剣の側面を叩き弾き飛ばそうと体勢を取る。そして短剣を手の甲を使って弾き飛ばした。が次の瞬間、弾き飛ばしたユウキの右胸部に激痛が走った。


 刺さった瞬間、咄嗟に筋肉を固め、薄い壁を作り出したおかげで深くまで刺さることは避けたがそれでも決して小さくない痛みを覚える。反射的に右胸を見るとそこには艶消しの黒で塗りつぶされた短剣が刺さっている。先に飛んできた短剣に目が行き、直後に投げられた黒い短剣が闇と同化することで視界から消え、直撃を受けてしまったのだ。


 右胸と右太腿の痛みに力が抜け、膝をついたユウキ。しかしそこで怯むわけにはいかない。胸から零れ落ち地面に落ちた短剣を手に取ると反撃代わりに投げつける。狙いはもちろんジラドであるが、ユウキが分かっていれば弾き返せるのであれば向こうも同様である。飛来する短剣を難なく弾き返すとユウキを見据え、彼を嘲るような言葉を紡いだ。


「ああ、言い忘れていたが俺は騎士ではあるが騎士道精神というのは一切持ち合わせていない。今からは一方的な蹂躙だ。覚悟しろ」


 ジラドは方々に視線を飛ばす。その方向からは彼の部下の兵士たちが我先にと駆けつけてきており、ユウキは徐々に包囲されつつあった。その見えているだけで十人以上。しかし、これはほんの一部。さらに増えることを考えれば状況は絶望的である。早いうちに目の前の男を行動不能にして、この包囲から抜け出さなければならない。


 そう考えながら鋼線の先で太腿の傷を縛るユウキは大剣を握りなおすと、あえて目の前の男だけに意識を集中させる。現状最も厄介なのがこの男。魔法を使い、戦闘の腕も高い。他を無視してでもこの男からは目を離すことが出来なかった。


 ユウキがジラドを睨み返すと、それを待っていたかのように彼は動き出す。走り始めた彼はその手に持つ二本のククリナイフを高速で振るい、彼の四肢を引きちぎろうとする。さらにククリナイフの投擲、徒手空拳を交え、次の一手を読みにくくしている。さしものユウキもこの連撃には防戦一方、攻撃に転じることが出来ない。ユウキはその攻防の中、腹部への強烈な蹴りでを受けたユウキは、吹き飛ばされゴロゴロと転がる。右太腿と右胸の傷で体をうまく動かすことが出来ないユウキを見下すジラド。最初の攻防が嘘のよう。ユウキは圧倒的に不利な状態へ陥っていた。


「部下も集まってきた。もう終わりだ。素直に諦めて首を差し出せ」 


「……へっ。まだ終わってねえだろ。もう動きには慣れたからな」


 そう啖呵を切るユウキを目を細め侮蔑するような視線を向けるジラド。確かに状況は絶望的である。包囲はほぼ完璧な状態となり、目の前の男には現時点の実力では勝てない。慣れたといっただけで勝てるとは言っていないのだ。体のコンディションも悪い。絶望的な状況である。


 しかし、ここで諦めるようならば今まで生き残ってきていない。この絶望的な状況から何とか光明を見出すのがユウキの意地と生き残るための術である。ここまで来たら頭をささっと討って全力で逃亡という作戦にすべてをかけるしかない。頭を取れば多少なりとも部下の士気も落ちるというもの。今できる最上の方法であるといえよう。


 襲い掛かってくるジラドの動きに全神経を集中し一挙手一投足をつぶさに観察する。最高の集中力でジラドの攻撃を防御し、受け流し、攻撃前に弾き止める。彼の慣れたという発言が嘘ではないということを理解したジラドは、小さく舌打ちを打ち攻撃を加速させる。その弊害で攻撃が雑になり始めたとき、ユウキは最後の一手を仕掛けた。


 ユウキは距離を取るために大きく後ろに飛ぶ。逃がさないといわんばかりにジラドはククリナイフを投げつけた。かかった。それを視認し、地面に足をつけたユウキは、力強く地面を踏みつけると大剣を振り上げ、二本のククリナイフを上に吹き飛ばす。くるくると回転しながら宙を舞うククリナイフをしり目にユウキは最速でジラドに向かって突っ込んだ。今の奴は武器のない無防備な状態。これが彼を仕留められる最後のチャンスとなるだろう。このチャンスを無駄にはできない。


(ここで決める!)


 大剣を担ぎ上げるようにして持ち、突撃するユウキ。それを見て驚いたような表情をし手を体の前に出しているジラド。腰の短剣を抜く様子もなく、黒塗りの短剣が飛んでくる様子もない。ユウキの行動で怯み、硬直し行動できないと考えたユウキはジラドの間合いに飛び込もうとする。


「取った!」


 勝利を告げるように叫んだユウキは大剣を振り下ろそうと腕に力を籠める。そしてあと三歩で間合いに入るところまで接近した。後は振り下ろせば彼を真っ二つにすることが出来る。反射的に口角が吊り上がった。


 だが、ことはそううまくいかない。笑っているのはどっちなのか。彼の最後の希望すら打ち砕くようにして死神の黒い鎌が迫りつつあった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。