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冒険、始めちゃいました。  作者: カイナベル
第五章 帝国編
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第七十三話 ユウキ君、大仕事を引き受けました。 

 クリミアの肩を掴んでいたユウキであったが、こんなことをしている場合ではないということに気づき再び彼女の手を取って歩き始める。しかしその足取りは先ほどよりも早く、クリミアは無理やり歩かされる形となっている。


「す、すみません。先ほどはどういうことでしょうか?」


 先ほどの行動の意味が理解できていないのか、クリミアは歩きながらユウキに言葉の真意を問いかける。すると、ユウキは前を向いて歩き続けながら顔を彼女のほうに向けることなく話し始める。


「王族が兵士たちに追われる理由なんて大体想像つくだろ。権威争い、これに決まってる」


 ユウキの言葉を聞きクリミアは驚きを隠せずに口元を抑える。そしてそんなことはあり得ないと反論を始める。


「そ、そんなはずはありません!私は帝国の良き発展のために尽くしてきました。私を殺す必要性は」


 彼女がそこまで発したところでユウキは彼女の言葉を遮り反論する。


「そうかもしれんね。帝国のために献身的に過ごしてきた。それをよく思わない人間がいてもおかしくないだろ」


 それを聞いたクリミアはそれ以上言葉を紡ぐことが出来なくなり、苦虫を噛み潰したような顔をする。確かに彼女が街々を訪問して回っている時、それをとても好意的に受け取ってくれる人間が多かった。そしてこういう人間も多かった。


 王女様がこの国の王様だったらよかったのに。


 たとえ一人一人の声は小さくてもそれが十万、百万単位になるとさすがに無視できなくなる。さらにはこれらは帝国兵士の中にも波及し始めており、国内でそう言った声は大きくなりつつある。もしこれらが一斉に王に襲い掛かれば帝王の権限により六芒星騎すべてを使っても押しつぶされることになる。それを未然に潰すため、彼女を殺そうと思っている人物が中枢部にいると考えるのが妥当だろう。


「よくてあんたの兄貴、最悪なのは王様だろうな。もし王様だったらもはや帝国内に逃げ場はないだろうな」


 ユウキが補足するようにつぶやいた一言に彼女は息をのむ。


「どうする?あんたこのままつかまって殺されるか?それとも全力ダッシュで森の向こう側まで逃げて見せるか?もっとも俺一人ならともかくあんたの足じゃ追いつかれるだろうけどな」


 追い打ちをかけるようにユウキは半笑いで彼女に問いかけて見せる。とても一国の王女様に対する口調ではない。しかし渦中のクリミアはそこを訂正する余裕すらないほどに切羽詰まっていた。ユウキの見立てでは体力はそれなりにあるようだが、あくまで最低限でありこの森を彼らにつかまることなく逃げられるほどではない。いずれ二人とも追いつかれるだろう。そうなればクリミアは問答無用で殺され、恨みを買っているユウキも殺されるだろう。もはや状況は絶望的である。


 そんなことを考えながら歩いていたユウキが一言も発さなくなっていたクリミアのほうに視線を向けると、彼女は声を噛み殺しながら片目を抑えていた。やがて足を止めうずくまり呻き声を上げ始める。


「おいどうした!」


「うっ、あぐっ、ううう……」


 肩をゆすりながら問いかけても応答せず、声を上げながら痛みをこらえている。しかし立ち止まっている場合ではない。ユウキは再び横抱きに担ぎ上げると走り始める。そしてそこから少しして、やっと彼女は苦しむのをやめて押さえていた手を離す。


「さっきはどうしたんだよ。持病持ちかなんかか?」


 再び問いかけて見せるが、彼女は答えることなくユウキを顔を見つめている。その表情は言いようのない悲壮感を孕んでおり、無意識のうちにか彼女の手がユウキの頬に伸びてきていた。


「おい!」


「す、すみません!」


 しかし、ユウキの一喝で彼女は正気に戻る。慌てた様子で伸ばした手を引き戻し、顔を逸らしたクリミアはユウキに降ろしてもらい、再び歩き始める。しかし、その足取りはどこか危なっかしくふわふわとしている。


「おい!だから大丈夫かって!」


「……あっ。ええ、大丈夫です」


 魂のこもっていない声で返答した彼女は前を向き、先ほどのことを思い出しながら歩き続ける。先ほどの彼女の瞼の裏に同(・)時(・)に(・)二つの映像が映った。こんなことは今までなかった。その内容は一つ目は自分が兵士に囲まれ血まみれのおぞましい姿で倒れている姿。もう一つは自分が森から抜け出し行動を共にしている男が血まみれで倒れている姿だった。同時に見えたということはこの二つ、どちらかを選択しなければならないということだ。兵士であるならばまだ犠牲となってもらうという手立てもあるかもしれない。そういう覚悟を持って彼らも職務についている。しかし、今行動を共にしているのは帝国とは何の関係もない冒険者である。果たして全く関係のない彼を巻き込んでいいものか。


 しかし、このまま過ごすことになれば彼女は命を落とすことになる。かといって彼を巻き込むわけにはいかない。彼女はこの狭間で選択を迫られていた。長々と考える暇はない。急かされているような気がし、思考力を奪われそうな状態で必死に思考を回転させ、どちらかを選ぶことに集中する。そして葛藤の末、苦渋の決断を下した。


「……先ほどあなたはあなたは俺一人ならともかくと言いましたが、それは一人であれば逃げられるということでしょうか?」


「五分五分って感じだな。少なくとも追いつかれた状況からでもどうにかこうにか逃げられると思うぜ」


「でしたらご相談があります。わたくしの目から見てあなたは歴戦の勇士と見ました。何とかわたくしが逃げられるように時間を稼いでいただけませんでしょうか。私は帝国のためにもまだ死ぬわけにはいかないのです」


 彼女はユウキを切り捨てる決断をした。彼女には現帝王よりもこの国のために尽くしている自信と矜持がある。この父がこの国を治め、兄がこの国を継ぐことになれば、帝国を中心としてすべてが壊されていき、誰も笑うことのできない世界が出来上がる。それを阻止するためにもクリミアは今死ぬわけにはいかないのだ。


「そんなことはどうでもいい。俺は冒険者だ。その依頼に対して一体いくら払えるんだ?」


 が、彼女の苦渋の決断など知らないユウキはいつも通り軽いノリで報酬の交渉に入る。しかし面倒な事態になることは本能的に理解していた。面倒な事態になると命がけの行動になることは間違いない。となれば彼は自分の信念に従い、彼女の頼みを依頼として受け取りそれに対して報酬をもらう。


 しかし、彼女も相手が冒険者であることを考え、どのように対処するかを考えており、彼の言葉に動揺することはなかった。


「もちろんです。ですが申し訳ございません。今の私は手持ちがなくすぐにお渡しできるものがないのです。……この王家に伝わる指輪などどうでしょうか?王家の者しかもっていないため、非常に価値の高いものとなっております」


「そんな帝国でしか意味ないようなもんは要らん。そうだな……、その頭のバレッタにする。それで前金だ。残りは次会った時にでもよこせ」


 ユウキは依頼の前金として彼女の髪を束ねているバレッタを指さす。それには邪魔にならない程度に宝石がつけられており、きれいに機能面と装飾面を両立していた。彼にバレッタを要求されたクリミアは戸惑いながら、バレッタを取り外し、ユウキに手渡す。それを受け取ったユウキはそれと交換のようにして三つのものを手渡した。


「こいつが五万フェズ、先立つものがないんじゃ森を抜けても大変だからな。んでこいつが片手剣、自分のみくらいは自分で守れ。で最後、これでも使ってその長い髪でもまとめろ。逃げるときに髪振り乱してたら邪魔だからな」


 ユウキは金鍍金貨五枚の入った袋と片手剣、そして魔法の布を手渡した。もし自分が抜かれてしまって彼女が追われることになってしまったとき、又は無事逃げ切れたときの備えである。


「ありがとうございます。それではよろしくお願いします。次お会い出来たらその時には余るほどの報酬をお支払いさせていただきましょう」


 戸惑った様子を見せることなくその三つを受け取ったクリミアは、布で髪の毛をまとめ、残りの二つを動きやすいように携帯するとチラリと帝国兵が追ってくる方向に目を向ける。既に気づかれかねないほどの距離まで近づいてきている。もはや猶予はない。


 二人は顔を見合わせるとお互いに取るべき行動をとり始める。


「ご武運をお祈りいたします」


 短く端的に彼の幸運を祈る言葉をかけたクリミアは逃走するために森の奥へと走り始める。それを見送ったユウキは彼女を逃がすための行動を起こす。


「さて、と……」


 ユウキは受け取ったバレッタを見えるか見えないかの微妙な位置につけると、何食わぬ顔で彼女と同じ方向に歩き始める。しかし、その足取りは非常に遅く、まるで追いつかれるのを待っているかのよう。当然、速度の違いによってユウキはすぐに追いつかれる。そして追いつかれた帝国兵に呼び止められる。


「おい。そこのお前」 


「ん?なんだ?」


 ユウキが声の方向に振り向くと、そこには当然鎧を着こみ騎乗した帝国兵士がいる。上から見下すような視線を向けている彼はちらりと背後を確認したかと思うと、怒気の込められた声色でユウキに向かって問いかけ始めた。


「お前、このあたりで人を見なかったか?豪勢な格好をした貴族っぽい人間だ」


「さあ?そんな奴見てねえけど?」


 ユウキがそういった直後、兵士の後ろから一人の男が現れる。それはユウキにとっても因縁深い相手だった。


「久しぶりだな。名も知らない冒険者」

 

 暗闇の中から姿を現したジラドは下卑た笑みで頬を引くつかせながらユウキのことを睨みつけている。

 

「ここではお前を助けるものは何もない。今すぐにでも殺してやりたいのだが……。今は別の要件がある。このあたりで貴族が盗賊に攫われたのだ」 


「貴族一人守れないとはとんだ騎士団だな」


 ユウキの煽るような一言に目を細め、背中に手を回そうとしたジラドだったが、思い直したように腕を元に戻し話を続ける。


「……まあいい。それでこの森に連れてこられたみたいなんだが知っていることがあれば教えろ」


「さっきもその男に言ったんだが、俺はそんな女(・)のことなんか知らないぞ?」


 呆れるような口調で告げたユウキ。それを聞き視線を下げるジラド。そしてポツリと呟く。


「そうか……」 


 直後、彼の両手から短剣がユウキに向かって投擲された。腹部に向かって放たれた一撃を籠手を使い、弾き飛ばしたユウキは凶行に出たジラドを睨みつける。


「貴様、なぜ連れ去れた貴族が女だと知っている?それに貴様の頭につけられたそのバレッタ。連れ去られた貴族の物だ。なぜ貴様が持っている!」


 ジラドの指摘に彼の部下であろう兵士ははっとした表情を浮かべる。その事実に気づいた兵士は腰に携えた剣を抜き、正眼に構える。


 しかし、ユウキにとって彼女と会っていることに気づかれたことは驚くべきことでも焦るべきことでもない。そもそも口を滑らせたのもわざとやったのだから。彼女のことを知らない、で通してしまえば足止めできる時間はわずか。ならば発する言葉の中に彼女の存在を匂わせ、彼が何かをしたと悟らせるほうが長い時間足止めすることが出来る。もっともこれには察してくれないと意味がないという欠点があるのだが、今回はうまいこと気づいてくれた。


「ああ、あの人貴族様だったのか。なんか追われてるから助けてくれって言ってきたから、このバレッタもらって足止めを引き受けたのさ」


「嘘をつくな!貴様があの方を殺し、バレッタを奪ったのだろう!」


「殺したってのは少し早計だろ。まだ死体すら見つかってないんだから。それじゃまるでその人が死んでてほしいみてえじゃねえか」


「黙れ!帝国の貴きお方を殺した野蛮な冒険者をここで討ち果たす。そして帝都に貴様の首を晒してやる!」


 そう言い切ったジラドは腰のベルトから垂れ下げた革の鞘から己の武器を引き抜くとユウキにその切っ先を突き付けた。そして後ろに控えていた部下が懐から取り出した笛を高らかに吹き鳴らした。それは帝国兵士を呼び集めるものであると同時に、ユウキに最悪が降りかかることを告げる合図でもあった。


 作戦成功。目論見通りに事が進んでいるがそれは決していいことではなかった。ここで戦闘になれば帝国兵に包囲されることになる。そうなれば抜け出せる確率は極限まで低下する。しかし、背を向けたところで騎乗している兵士にユウキが足で勝てるはずがない。逃げたところで後ろから着られるのがオチだ。正直に白状する。馬鹿か。そこまで薄情な男ではない。彼女の逃げた方向の嘘を教える?今、ジラドの目的はクリミアを見つけることからユウキを殺すことに移っている。その状況で彼女の方向を教えたところで突き返されて終わる可能性のほうが高い。それに嘘だと気づかれ人海戦術で彼女の逃げた方向を突き止められてしまえば、すべてがご破算である。


 尽きていく選択肢の中で最後に残ったもの。それは現状において最悪ともいえる選択肢。ユウキは溜息を吐きながら背中の大剣を引き抜き、意識を戦闘モードに切り替えた。



 次回からは本格的な戦闘だぁ!覚悟の準備はいいかぁ!

 ……すみません冗談です。やってみたかっただけです。

 今回書きたかったことは、意外とユウキくん考えて行動できるってことだけです。行動原理は「面白そう」とか言う馬鹿っぽいものですが、意外と脳みそは働くほうなんです。

 あ、前に一度見せている姫様のあれはスキルです。端的に言えば未来視のスキルです。まあ、そんな都合のいいものでもなく、見たい時に見れない、見るたびに痛みが走るといったものです。その代わり見た未来はいろんな選択肢を取れてその行動の結果、未来が変えられるので欠点だらけってわけじゃないです。

 では言いたいこと言い終わったところで今回はさようなら。

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