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冒険、始めちゃいました。  作者: カイナベル
第五章 帝国編
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第七十一話 帝都、脱出しました。

 帝国兵士かつ六芒星騎のジラドを追い払ったことで盛り上がりを見せる冒険者たち。片手にはジョッキを持ち、まるで外の世界と隔絶されたかのような盛り上がり方であった。


 一方、その中心でフォークを口に運んでいたユウキは全く違うことを考えていた。彼らしくもない非常にネガティブなことである。


(どうすっかなぁ……)


 それは集会場を、そしてこの町をどのようにして離れるかということだった。あれだけ派手なことをやったのだ。間違いなく目をつけられる。その報復が彼一人に降りかかるか、それともギルド全体に降りかかるかはわからないが、その災禍は確実にユウキに降りかかるだろう。既に集会場の外では兵士たちが彼が出てくるところを今か今かと待ち構えており、そして出てきたところで闇討ち、というのが相場であろう。


 この集会場にいる限り、直接的な手に出てくることはできないが、ここにいてはまともに生活できない。何よりこんな居心地の悪い町から早く出たいのだ。そのためにどうにかして彼らに見つからずにこの町を後にする必要がある。


 そう考えながら手に取ったジョッキに口をつけていると、ゆっくりと集会場の扉が開いた。帝国兵の再来か、そう瞬間的に思った冒険者たちは瞬時に静まり返り体を強張らせると、本能的に戦闘態勢を取る。ユウキも同様に反射的にジョッキを片手に持ったまま、フォークを隠し持ち冒険者たちの前に歩み出る。が、彼らの思惑とは異なり入ってきたのは全く違う人物だった。


 入ってきたのは高級そうな素材でできた洋服に身を包み、寒くもないのにマフラーを巻いている貴族と思しき男だった。その姿に一瞬警戒を解いた冒険者たちだが、すぐに気を引き締めなおす。まだ彼らが敵でないと決まったわけではない。星騎には貴族が多くいる。彼の親が文句を言いに来た可能性だって十分にある。が、訪れた貴族の男は若く見える。となれば親という可能性は消える。一体だれかと思いながら冒険者たちは身構え続ける。 


 しかし、ユウキには見覚えのある人物だった。彼は帝国を拠点をしているといっていたのだから居てもおかしくはない。マフラーを翻しながらカウンターに向かって進む彼を見つめながら席について、緊張で乾いたのどを潤した


 以前ユウキと宝石売りでやり取りした商人であるベルベリーは食堂で身構えている冒険者には目もくれずカウンターに向かうと懐から二枚の書類を取り出す。そしてそれをカウンターに置くと傍らに置いてある羽ペンとインク瓶を文鎮代わりにしてその上に置いた。


「商品の納品をしに来た。この書類にサインをもらいたい」 


 男が端的に告げるとカウンターの受付嬢が慌てた様子で奥に引っ込んでいく。そしてすぐにギルド長を連れて戻ってくる。


「お待たせいたしました。食堂の食材でよろしいでしょうか」


「その通りだ。サインがもらえ次第、食材を裏に回そう」


 男の言葉を聞いたギルド長はペンをとると素早く書類をにサインを書き込む。そしてペンを置くとベルベリーのほうへ向け、書類を差し出した。


「確かに。では品物は集会場の裏に回しておこう」


 差し出された書類を丸め、懐にしまった男は後ろに控えていた男に指示を出す。指示を受け男は外に出ていく。それに続いてベルベリーが外に出ようとした。それを端から見ていたユウキは内心笑みを浮かべた。これはチャンス、彼をうまく使えば無傷でこの町を出ることができるかもしれない。そう考えたユウキは集会場を出ようとしている彼に向かって小走りで近づいていく。


 それを目の端でとらえたベルベリーは何事かと思い、その方向を向く。そしてその人物を見て対応の際でも変えなかった表情を小さく変えた。以前希少な魔龍の宝石を取引した冒険者だったからだ。思いのほか早い再開に驚きながら近づいてくる彼を足を止めて待つ。


「久しぶりだな。あの時取引させてもらった宝石は非常に高く売れた。おかげでうちも余裕ができた。で何の用だ?ただのあいさつというわけではあるまい」


「話が早くて助かる。少し協力してほしいことがあるんだけど話を聞いてくれないか」


「まあ、あの宝石を譲ってもらった礼だ。聞こうじゃないか」


 ベルベリーの了承を得たユウキは事の顛末を話始める。それを聞いて彼は顎に手を当てる。


「それは難儀なことだな。すでに外には何人かの兵士が見張りについているからな。それにしてもルクオン家の馬鹿息子か」


「知ってんの?」


「家の付き合いで顔を合わせたことがある。家柄で王に取り入って今の地位を掴んだ実力と地位が見合わないタイプの男だ。」


「んで、本題なんだけどあんた次にこの町を出るのっていつ?」


「明後日だ。………………町を出るときにお前を隠して一緒に連れ出してくれと?」


「話しが早くて本当に助かる。ただでとは言わないから協力してくれないか?」


「…………五十万フェズ分、うちから買ってくれれば協力しよう」


「分かった。何でも構わんから明後日もってきてくれ」


「了解した。二日後に台車を回収しに来る。乗って隠れていてくれ」


お互いに話をつけ終わり、交渉が終了する。集会場を出ていくベルベリーを見送ったユウキは彼が出ていくと同時に背を向ける。これならば必要以上のリスクを負うことなくこの町を脱出できるだろう。勝った、という気持ちが漏れ出て、無意識に小さくガッツポーズをとる。


 さて、街を脱出するための算段は立った。ならば、明後日まで安心して集会場に引きこもっていればいい。幸いなことに食住がそろっている。生活するには問題ない。ユウキは再び騒いでいる冒険者たちを横目に集会場の二回に部屋を取り、眠りにつくのだった。






















 二日後、ユウキは五十万フェズを引き出し、集会場の裏手から外に出ようとしていた。扉を開けるとそこから少し離れた場所に兵士が隠れており、集会場から出てこんとするものを見張っている。しかし、交代があるとはいえ、二日間も見張りをさせられ彼らも飽き飽きしているのか。集中力があるとは言えない見張り方をしている。悪を噛み殺し、座り込んでよそ見をしながら雑談を繰り広げている。


 が、ユウキからすれば非常にありがたい。監視の目の穴が大量にあるのだ。これならば監視の目をすり抜けて荷台に潜り込むなど造作もない。タイミングを見計らい、扉から音をたてずに飛び出したユウキは彼らに見つかることなく荷台に潜り込んだ。帝国兵士たちが気付いた様子もない。後はここで息をひそめているだけでいい。乗っていた空箱で自分を囲うように設置すると息をひそめ、目を瞑り気配を消して無の状態へと自分を落とすのだった。


 






















「おい、起きろ」


「起きてるよ」


 彼の耳に届いた男の声にユウキはぶっきらぼうに答えながら目を開く。目の前には以前彼の護衛についていた男が箱を持った状態で立っていた。


「出発か?」


「その前にご主人が約束を果たせだとよ」

 

 ほれ、と言って差し出してきたのは一枚の薄い布だった。それを見てユウキは首を捻り、眉間にしわを寄せる。約束は果たすつもりでいた。しかし、まさかこんな薄い布を差し出されるとは考えていなかったのだ。手に受け取って持ってみても何の変哲もないただの布でしかない。さすがにこれに五十万は出せない。文句の一つでも言おうと少々怒り気味でユウキは口を開く。


「なんだこれは?」


 言葉の中に含まれているかすかな怒りをを読み取ったのか、男はユウキをなだめるようにして体の前で手を振り手渡したものを説明し始める。


「ああ、確かにこれだけ見たらただの布に見えるよな。でもこいつは普通にいい物なんだぜ。なんせ魔法の刻印が織り込まれてるらしくて、そいつをつけているだけで気配が薄れるんだとよ。まあ、見えなくなるわけじゃないみたいだが……。とにかく危ない橋を渡るんだ。リスクは少しでも減らしたほうがいいだろ?」


 男の説明を聞いたユウキは表情を一変させ、目を見開き布をしげしげと眺める。確かに中央には見たこともない刻印が縫い込まれている。彼の言葉を信じるならばこれは本当にそういったものなのだろう。 


「……わかった。信じるよ。あの人にありがとうって言っておいてくれ」


「わかった。それじゃ出発してもらうように伝えてくる」


 ユウキから五十万フェズを受け取った男は足早に荷台から降りるとベルベリーの乗る馬車へと駆けていった。そしてその少し後、馬車はゆっくりと動き始めた。後はこのまま無事に街を出られることを祈るだけである。ユウキは布を畳んで手首に巻き付けると息を殺して馬車に揺られるのだった。























 しばらくして馬車が停止する。どうやら町の門の前にたどり着いたらしい。貴族であるという彼の加護が働いたのか、何の淀みも問題もなく街の外に出ることが出来た。それから少しして再び馬車が停止し荷台にベルベリーが顔を見せる。


「町の外へ出たぞ。降りろ」

 

 ユウキは指示に従って荷台から降りる。そして彼に一言礼を告げて町から離れ始めた。


 彼の姿が小さくなったところで護衛の男が危機を伝えるように大声を張り上げる。


「大変だー!荷台の一つに泥棒が乗り込んでいたぞー!」


 その直後、連なる馬車の荷台の一つからみすぼらしい男が矢のように飛び出てくる。そして護衛の男を不意打ちで殴り飛ばし、ユウキとの言った方向と同じ方向に走り去っていく。


「大丈夫か。何か取られたものはあるか?」


 ベルベリーが男に手を差し出しながら盗られたものに関して問いかけると、男は痛みを和らげるように頬をさすりながら問いに答える。


「あ、あの冒険者が払った五十万フェズをそっくりそのまま持っていかれました……。申し訳ありません」


「反省は後で一人でしろ。それよりもすぐにあの男を追いかけろ。帝国兵にも捜索するように指示を出せ」


 彼は素早く指示を出し、部下を動かす。その指示に従って部下は素早く対応に当たり始める。幸いなことにすぐ近くには門があり、そこには兵士がいる。ベルベリーの貴族としての権威を使えば、付近の帝国兵士たちに伝令を回してもらうことだって可能である。ならば早く帝国兵士に伝えねば。部下の一人が門に駆け出していく。


 しかし、この後泥棒と同じ方向に進んだユウキが勘違いを受け、帝国兵士に追い回されることになるのだが、魔法の布によって難なく振り切る。が、彼の顔はジラドの部下によって付近の帝国兵全員に知らされている。ということはその逆もしかり。彼が町を出たこともジラドにすぐに伝わった。彼が町を出たことを知ったジラドは復讐せんと、すぐに自分の部下を捜索隊として派遣するのだった。



さて、気まぐれの後書きです。

本来の構想であれば、ユウキが脱出した直後、ベルベリーは帝国兵士にユウキが帝都を抜け出したことを密告しジラドたちからその感謝の報酬を受け取る予定でした。

 しかし、よくよく考えてみると出国させた本人がそのことを言って罪に問われないかと言われたら、そんなはずがないのでこの構想は無しになりました。そのため苦肉の策として馬車に潜り込んでいた男が逃げ出しそれを捕まえるというために兵士が動くという動きを取らせました。まあ、一流の商人であるはずのベルベリーが荷車に不審者が乗り込んでいてなぜ気づかなかったのかとかいう問題もありますが、できれば流してください。

 では今回はここまでです。さようなら。

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