第七十話 六芒星騎、絡まれました。
帝国に来て初めてのいい意味で忘れられない出来事から早二十日。ユウキは早くもマルキアスに到着した。ここまで早く帝都に到着した理由としては、依頼も受けられない、街の居心地もよくないということでそもそも町に滞在する理由がなかったからである。いる理由がないならばさっさと向かうのが吉である。
さて、高い税金を払ってマルキアスの中に入ったユウキは入ってすぐ鳥肌を立たせた。彼の本能が危機を告げているのだ、この町はひどいと。まず空気が目に見えて淀んでいる。他の町など目ではない。空気の流れが見えるほどに淀んでおり、息苦しくて仕方がない。
帝都はやばい。同じ冒険者仲間たちから聞いていた話だがまさかここまでとは、と思いながらユウキは町を歩いていく。人々はほとんどうつむいており、その表情は死んでいる。まるで生気が感じられない。街の中で笑っているのは無垢な子供か、道のど真ん中を悠々と歩く帝国兵士だけである。
そんな光景に顔を顰めたユウキは真っ先にギルドの集会場を見つけ、その中に入る。冒険者の集会所は元の世界での大使館のような仕組みを持っており、この中では貴族や帝国兵士であってもその権力をふるうことが出来ないようになっている。各地を行き来する冒険者たちをその国の魔の手から守るためにギルド創設時に定められたものだという。
中に入るとそこでは冒険者たちが話している。そこでは冒険者たちが安心した表情をしており、先の制度を信頼している様子を見せている。が、やはり他の町と同じことが一つある。依頼を張り出すはずの掲示板にはなにも張られていない。ギルドには一切の依頼が回ってきてはおらず、この集会場が冒険者たちの避難場所となっている証拠である。
中をぐるりと見まわしたユウキはカウンターに向かうことなく、隣接された食堂に向かう。この様子だと外に出たら何をされるかわからない。特に深い理由でもない限り当面はここからは出ないほうがいいのは明白である。店員に適当な料理を多めに頼む。長い旅を続けてきて道中ではまともなものを食べることが出来ていなかった。ここで少しくらい贅沢をしてもかまわないだろう。
運ばれてきた料理に舌なめずりをしながらフォークとナイフを手に取ると、彼の目の前に一人の男が座る。いざフォークを突き刺そうとしたところで目の前に座られたせいでユウキは少し波をたてる。
「なあ、兄ちゃん。あんたどっから来たんだ?ずいぶん持ってるみたいだけど」
「………………帝国の北のほうから入ってきてここまで来たんだ。それよりあんたここに何年いる?」
「大体二か月くらいだな。仕事はねえけど食うには困らねえくらいには小遣い稼ぎができるからな」
「だったらちょっとここの話聞かせてよ」
ユウキは自分の前のパスタを押し出しながら彼に要求する。それを見て彼はにんまりと笑いながらフォークを手に取り話を始めた。悪い人物には見えないが話の内容からしてきっといい人物でもないだろう。それでも自分に絡んできたということは自分に何らかの目的が、特に目の前に置かれている食事に用があるのだろう。しかしそれをただで渡すわけにはいかない。となれば取引で何らかの情報をもらい話すのがいいだろう。
「よしじゃあ少し話してやるよ」
フォークにパスタを巻き付けた彼は食べながら町の様子を話し始めた。話に聞く限りではほかの町の悪いところが二割増しになった程度であるが、本当に問題となっているのが別にあった。
「帝都じゃすげえ幅を利かせてる帝国兵がいてな。王様のお気に入りなのと一緒になんかすげえ偉い地位らしくて誰も何も言えないんだってよ」
そういって最後の一口を食べ終わった男は足早に彼の目の前から離れていく。礼もなかったことに波を高くするが、話が聞けただけでもよしとする。そう考え再び料理に口をつけようとしたところで集会場の扉が音をたてて勢いよく開かれる。
「おい!またあいつらがやってくるぞ!」
入ってきた冒険者がそういった瞬間、ユウキ以外の冒険者たちが蜘蛛の子を散らすように集会場の奥へと走り出す。そして食事を続けているユウキのみが残ったところで集会場に帝国兵士がゾロゾロと入ってくる。
「ふむ、今日もまともに冒険者がいない……、と思ったら一人生意気そうなのがいそうじゃないか」
おそらくボス級と思われる先頭の帝国兵士が食事をしているユウキのほうに近づいてくる。ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら近づいてくる彼を眺めながらユウキは料理を口に運ぶ。座るユウキの前に立った男は食事を続けるユウキを見てかみ殺すようにして笑い始める。
「このジラド様を見ても逃げることすらないうえに食事を続けるとは。いやぁ、すごい胆力だ」
その後ろでは取り巻きの兵が彼と同じようにニタニタとした笑みを浮かべており、これから何が起こるかが分かっているかのようである。彼らの様子をうかがいながら男の言葉に耳を傾けていると、その直後、ユウキの顔面に向かって男の拳が飛んだ。反応できないタイミングでの一撃、本来であれば直撃して倒れこむ予定だったのだろう。取り巻きの表情が今か今かと言っていた。しかし彼らの企みが通ることはなかった。反射的に飛んでくる拳をユウキは受け止める。そして少し力を入れて握りしめ始める。そして口の中身を飲みこみ終わったところでゆっくりと口を開く。
「誰?」
首をかしげながら放たれた言葉にジラドと名乗った男は顔を赤くし怒りを露わにした。そしてまくしたてるようにして怒声を上げる。
「はあ。帝国でも最上位の六芒星騎であり、ルクオン家の長男であるこの僕、ジラド・ルクオンを知らないと!?」
「知らん。誰だ貴様」
取り巻きの兵士たちはただただ驚いたといった表情を浮かべたかと思うと、ジラドと同じように怒り始める。が、そんなことがユウキに通じるはずもない。知らないものは知らない、そういってしまう人間である。彼の言葉に短く答えたユウキは受け止めていた拳を乱暴に振り払う。その行動にも腹を立てたジラドは怒りのままに彼に拳を振るった。
が、ユウキはそれを手首を掴んで交わすと同時に引き寄せると、彼の股間に蹴りを叩きこんだ。威力を殺して打ち込んだ一撃ではあるが、それでも急所への一撃である。息を吸い込むような声を上げながらジラドは宇津熊るようにして倒れこむ。
「貴様ぁ!」
それに反応して取り巻きたちが激昂する。うずくまっているジラドも彼のことを睨みつけており痛みが引き次第襲い掛からんとしている。
「お?お?やるか?次からくる奴らはタマ一つはなくなると思えよ?」
先ほどの立ち位置から一歩引いたユウキは挑発するようにしてステップを踏み、片足を振り上げる。それを聞いて尻込みしたのか、取り巻きたちは一歩後ずさる。が、うずくまっているジラドの声で男たちは闘志を奮い立たせる。
「貴様ら……、このままで終わらせるつもりか……。もしこのまま逃げ帰ったらただで済むと思うなよ」
その声で取り巻きたちはユウキを取り囲む。そして今に襲い掛かってきそうな彼らに対しユウキが行動を起こそうとしたところで
「お止めください!!!」
集会場の奥からギルド長らしき人物が現れ、彼らの諍いをあと一歩のところで引き留める。さすがに兵士たちも動くことが出来なかったのか、ギルド長の方に視線を向ける。
「いつもは目を瞑っていますが、これ以上は見過ごせません。もともとここでは帝国の兵士であろうとその権威を発揮できないという条約があるはず。文句がお有りでしたら本国のほうへお願いいたします!」
そうギルド長が啖呵を切りその力を見せると、大きく舌打ちを打ったジラドは部下に手を借りながらふらふらとした足取りで集会場の出口に向かっていく。その途中、ユウキのほうへ向き直ると恨み言をつぶやいた。
「覚えていろ……。いつかその首を切り落として王に献上する……」
「待ってるぞお山の大将」
彼の言葉が負け惜しみにしか聞こえなかったユウキは彼の言葉に対しさらに煽るような言葉を返す。そして手を振って見送ったユウキは再び席に着き、残りを食べ始めた。まるで大した争いがなかったかのようにフォークを使っている。まさに泰然自若。心臓に毛が生えているかのようだ。
あのジラドはよく集会場に顔を出しては冒険者にちょっかいを出してはイジメるという質の悪い趣味を行っていた男であった。そんな彼に不満を持っているものは多く中にはイジメられたことから恨みを持っている者もいるくらいだ。そんな彼らにユウキの行動はどのように映っただろうか。英雄のように映ったに違いない。
奥から戻ってきた冒険者たちは、それと同時に彼の周りに集まり賛辞の声をかけていく。先の男の一矢報いてくれただけで彼らが騒ぐには充分だったらしい。冒険者たちは食堂の席に着くと続々と食事を注文し乾杯していく。それに巻き込まれる形でユウキも参加することになり、あまり気分が乗らない中ではあるが昼間から祭りに参加することになるのだった。
さて久しぶりに後書き書きます。
六芒星騎の一人が登場しました。残りの六人もジラドみたいのかといえば、全く違います。六芒星騎にはある程度人望が必要となります。なので他の五人はそれなりにまともな性格をしています。彼の性格がくそなだけです。




