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冒険、始めちゃいました。  作者: カイナベル
第五章 帝国編
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第六十九話 帝国最後の希望、出会いました。

 帝国の領地に入ってから二十日。ユウキはこの日やっとロイクを旅立った。ここまで時間がかかった理由としては他の町がここよりひどいと聞いてこの街から出る気がなくなってしまったせいである。しかし、長々とここにとどまっていても仕方ない。この町は良くも悪くも平凡、問題が起こることもなく、起こったとしても帝国兵たちが迅速に解決してしまう。となれば彼がこの町にいる意味はない。もしこのせいで何らかのトラブルに巻き込まれることになれば非常に面倒なことになるのだが、そんなことで困るような人間であれば、わざわざ安全なルートを避けて危険な山地を通るなどといった無鉄砲なことはしないだろう。冒険せずに何が冒険者か。破天荒な考え方とともにユウキは生きている。


 最終目標となるのは帝都であるマルキアス。帝国にほとんど身を置かず他の国に行くにしてもとりあえずそこだけでも見ておこうと思い、マルキアスに向かっていた。とはいえ、帝都となれば王のお膝元、どれほどなのかと恐怖と興味が半々といった感じであった。


 それからさらに十日。ユウキはいくつかの町を経由しながらマルキアスに向かっていた。が、この経った十日の旅路でトラブルが起こる起こる、ロイクが嘘のようなトラブルの多さに辟易し始めていた。町外れの道を歩けば、チンピラに金をせびられ、町に入れば冒険者という理由で帝国兵に絡まれる。チンピラに関しては腕力で、兵士たちに関しては口八丁でごまかすことで解決したが、小さいトラブルまで上げ始めればきりがないほどに多発している。それを解決するにも手間がかかり余計に体力だけが削られていく。正直勘弁してほしかったが、それを理解したうえで旅をしている。せめてトラブルを楽しもう。その精神でトラブルに抗いながら旅を続けていた。


「しかしまあ、話に聞いちゃいたがここまで面倒だとはな。あたりもつええしここにいる意味は薄いかな」


 そりゃそうか。一人旅だと独り言とが増えるのが難点。誰に聞かせるわけでもないつぶやきは空気に溶けそれに対して一人で返答するという寂しさ原因の問題行動を起こしながらユウキは歩みを進めるのだった。


 しばらく歩きユウキは途中の中規模都市フラヌミアに到着する。ここまでくればマルキアスまではあと半分。終わりが見えてきたことに喜びを覚えながらユウキは町に入る。税金をふんだくられることをこらえ町に入ったユウキは宿を探すために町中を歩き始めた。


 宿自体はすぐに見つかり部屋をとることにも成功した。しかし、この町にはギルドの集会場が存在していなかった。そのせいで預金を下ろすことができない。ロイクに滞在していた時点でわざわざ大量に下ろしてきておいて正解だったといえる。おかげで手持ちは十分にある。困ることはないだろう。


 金鍍金貨十枚の入った袋を手で弄び、そう思いながら消耗品の補充のために町を散策しているとふと彼の目に十歳くらいの少女が止まる。じっと地面を注視しながら道をうろうろとしており、落とし物を探しているかのよう。その近くには同じような体勢をしている同い年くらいの女性もいる。彼女ら二人に意識を向けながら歩いていると彼女らが顔を彼の存在に気づく。そして幼い少女がハッとした表情を見せもう一人の方に近づいていく。そして二人そろってユウキの方に近づいてくる。


「あの、すみません。その袋どこかで拾われましたか?」


「は?いいや。俺のだけど?」


 ユウキはそう返答するが、目の前の女性は怪訝そうな表情で彼を見つめる。まあそれも当然だろう。金を拾った人間がはいそうです、などと答えるわけもないため、否定されても疑うのが当然だろう。となれば、疑惑から逃れるためには中身を確認してもらうほかない。


「ほれ、いったいいくら持たされてんのかは知らんがさすがに十万フェズは持たせないだろう?」


 袋の口を開いて少女に中を見せると少女は悲しそうな表情で首を横に振る。そこでやっと疑いの目から解放した女性は彼女本来のものであろう慈愛を含んだ表情に戻り、落ち着いた表情で頭を下げる。どことなくシオンの雰囲気に似ている彼女は深々と頭を下げた後、視線を下げたまま事情を話し始める。


「そうですか……、疑ってしまい申し訳ありません。この子が銀貨の入った袋を落としてしまったらしく……」


 それを聞かされたユウキは少女の方に視線を向ける。既に少女は半泣きでありうつむいている。少しでも扱いを間違えれば一気に崩壊、大泣きし始めるだろう。しかし、この人通りで目的の者が見つかる可能性は限りなくゼロに近いだろう。もし誰かが拾っていたとしてもそれは懐に入ってしまう。そうなればよほどわかりやすい目印でもつけていない限り、見つけることなど不可能である。しかし、それを伝えればギリギリのところでとどまっている彼女の心は一気に崩壊するだろう。


 やれやれ。溜息を吐きながら頭を掻いたユウキは最終手段に取ることにする。この手はあまり使いたくないのだが、事態の収拾が早く済むうえにこれ以上泣き顔を見なくて済む。泣き顔なんて誰のものであっても見ていて気分のいいものではない。


 ポーチの中に手を入れたユウキはその中で七千五百フェズ、別の袋に移し口を縛るとそれを取り出し半べそ書いている少女の頭の上に乗せた。突然感じた重みに少女が顔を上げると頭に乗っていた袋が落ちる。偽シオンが落とした袋を拾い上げると、それを指しながらユウキに問いかける。


「あの、これは?」


「もってけ」


 そう短く告げると偽シオンは袋のひもを解き少女に中身を見せる。その銀貨の枚数に少女は驚きを隠せない。


「……いいの?」


 そう問いかけてきた少女にユウキは目を細め不満そうに口を開く。


「子供が大人の行動に口をはさんでんじゃねえ。俺がいいっつったらいいんだよ。オラ、さっさともってっちまえ」


 少女の頭に軽く拳を落としながらぶっきらぼうに告げたユウキはそのまま二人に背を向けて歩き始める。善意ではない。シンプルに泣き顔を視界にとらえたくないだけである。見るだけで気持ちが沈んでいく感覚を覚えるそれを見て何の得があろうか。それにわざわざ無関係にしか見えないシオンのような少女が手伝っていた時点で少女が嘘をついているとは考えにくい。だったら別に渡しても問題はない。そう考え行動したユウキであるが、二人にはそう捉えられていなかった。


 ユウキの背中を見送ることになった二人。先に行動を起こした偽シオンは屈みこみ少女と目線を合わせると両手で少女に袋を手渡す。


「もう落としてはいけませんよ?」


「……手伝ってくれてありがとうございます!」


 そういわれながら服を差し出された少女は泣き笑いといった表情で袋を受け取ると偽シオンにお礼を告げ一目散にかけていく、振り返り彼女に向けて手を振った少女は人ごみの中に消えていく。余談であるが、その後少女は病気の弟のための薬を無事に買うことができ、弟は快方に向かうのだった。


 少女を見送った彼女はすぐにユウキのことを追いかけ、その姿を見つけると肩に手をかけ引き留める。引き留められたユウキは不満そうな表情で振り返った。


「なんだよ。まだ何か?」


 全力で走ったため、息を切らしていた彼女は呼吸を整えると先ほどよりも深々を頭を下げた。


「あの、ありがとうございました。おかげで穏便に解決することができました。


 どこか威厳を感じる彼女の礼にユウキは不満そうに頬をひきつらせた。彼女の礼が不満だったわけではない。自分の行動がいやだったのだ。自分には何の得もなく、ただ損をしただけ。これでは自分の信念を曲げたのと同義である。やってからやらなければよかったと後悔する。そんなことを考えているため、彼女に礼を言われるのも正直不愉快だった。とはいってもそれを伝えたところで何の解決にもならない。不満を自分の中に仕舞い込むといつもの表情に戻し、彼女に応対する。


「もう気にするな。既に終わったことなんだから」


 そう告げたユウキは再び立ち去ろうとするが、また彼女に引き留められてしまう。再度振り返ったユウキは女性の姿を顔をまじまじを見つめる。見れば見るほどシオンに見えてくる上に声までそっくりである。まるで彼女がここにいるようで不気味に感じられた。無意識のうちに体を震わせたユウキを見て彼女は首を傾げそのことを問いかけた。


「あの、私がどうかされましたか?」


「……いや、知り合いに似てたってだけだ」


「はぁ……。それより何かお礼をさせていただきたいのですが」


「お礼をされるべきはあんたじゃないだろう。それに俺はそれ目的でやったわけじゃない。何回でも言ってやるが礼は不要だ。悪いが俺にもやることがあるんでもう失礼するぞ」


「あっ、はい。お気をつけて」 


 偽シオンに背を向けたユウキは、すぐにその場を後にした。


























 ユウキがその場を離れた一方で、少女は踵を返しユウキとは逆の方向に歩き始める。しばらく歩き門近くにたどり着いた少女はそこに止められていた馬車の中に乗り込んだ。


「ご満足されましたか?姫様」


 馬車の待ち構えていたメイド服の女性の言葉を聞きながら少女はバレッタで止めていた髪を下ろす。そしてメイドの手から指輪を受け取るとそれを右手の人差し指にはめる。


 ユウキが一回の町娘だと思っていた少女、彼女こそがこの国の正当な王族の一人であるクリミア・アルバティーであった。


 髪を下ろし、指輪をはめた彼女は走り始めた馬車に揺られながら彼女の問いかけに答えた。


「ええ、やっぱり皆さん表情が暗く、どことなく空気が澱んでいましたね。空気もぴりついていましたし……」


 町にいた時と違い、王族としての威厳を見せながらも目尻を下げ、悲痛な声を上げるクリミア。彼女も今の帝国の状況をよく思っていない人物の一人であり、自らの父の所業に胸を痛めていた。


 しかし、今の彼女にそれを解決できるほどの力はない。父の悪行を止めるためにも正当な後継者としての地位を使い、自分が王になることでこの国を変える必要だ。そう考えている彼女は自国の領地内を飛び回り、領主たちに顔を見せると同時に国民たちに自分のことを覚えてもらっていた。しかし、まだまだ足りない。彼女の評判が上がるのをよく思わない人物がいる。その人物を跳ねのけるにはまだまだ力が必要だった。


 王族として国を変えようとしている彼女には、一体どれほどの重圧に圧し掛かられているだろうか。彼女の小さな双肩にかかるには大きすぎるものだ。隙を見せることを許されず、敵対する存在に目を光らせておく必要がある。一瞬も気を抜けない。そんな中でこのメイドの前は、彼女は小さいころから自分を育ててくれて今もなお自分を慕ってくれている、彼女が自然体のまま話すことができる数少ない人物であった。


「イツッ!」


「お嬢様、またいつものでございますか?」


 突如として目に走った痛みに手のひらで目を抑えると、メイドが心配そうに、しかし慣れた様子で彼女を声をかける。


「ええ、大丈夫よ。また、いつもの奴よ」


 彼女には最近異変が起こりつつあった。数か月ほど前から予期せぬタイミングで目に痛みが走りその痛みで目をつぶると瞼の裏側に自分の行動が映るようになったのだ。初めのころにはありもしない蜃気楼のようなものだと思っていたのだが、生活しているとその蜃気楼と同じ状況が起こるのだ。百パーセントの確率でそれが起こるために彼女もそれを信じるようにし、それに沿って行動するようになっていた。先の未来でトラブルがあったらそれを解決するための手立てを考え、そこに向かいトラブルを解決していく。それを活用することによって彼女は急速に力をつけていた。しかし、そのような力を持っても国民の笑顔を取り戻したいという根底は変わらなかった。 


「帝都に戻り次第、また医者に向かいますか?」


 目をつぶり先ほど瞼の裏に移った光景を思い返す。森の中に自分と先ほどあった男性がおり、手をつないで森を歩いている。それが一体何を指しているのか、考えようとしてもあまりに頓珍漢な状況に考えてもどうしようもないのだと思い、考えることをやめた。


「それでお嬢様。此度はどうでございましたか?」


「あ、そうそう。今回少し面白いことがあったのよ」 


 メイドに問いかけられ男をことが脳裏によぎる。それを呼び水にして先ほどの出来事を思い出す。ゆっくりと目を開きパチリと手を叩くと、クリミアは先ほどの出来事の顛末を楽しそうにメイドに話し始めるのだった。



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