第六十八話 帝国の内情、想像以上でした。
「この帝国の王はバカなのか……。さすがの俺でもわかるぞ……」
バジリスからこの帝国の内情を詳しく聞いたユウキはそのあまりの内容に頭を抱える。この国の王は予想以上に愚かかもしれない。
まずその王が王位を継承してから税金が三倍になったとのこと。しかし、それだけを聞いて断ずることはできない。それが国民にとっていいことに使われていれば問題ないのだから。しかし、そのその税金の使い方もまたひどい。集められた税金は自らの私腹を肥やすためだけに使われており、国民のためには一切使われていない。すべて国王の懐に入り、国民はただただやせ細っていく。恐ろしいほどの馬鹿である。
さらに国王は同じ考えの領主を引き込むことで真っ当な政治をしようとするものを少数派にして発言力を低下させているとのこと。それでも発言する者はその絶大な権力による武力を持って発言力を奪われてるのだという。
「その王になってから国内で戦争を三回もやってるんだぜ?バカみたいだろ?」
極めつけは国内の領主に対し戦争を仕掛け、その土地を奪い取り傘下の者たちに下賜している。周りに侵略してくる国がないとはいえ、さすがに頭がおかしいとしか言えない。
「うちの領主様はずいぶん賢いやつみたいだから、うまく立ち回って王の目から逃れてるみたいだな。それにここは国の北の端の辺境だ。そんなところは見てられねえみたいだからよ。ここはまだましな方なんだ」
やれやれといった様子で首を振るバジリス。彼らもそんな王に辟易しているのか溜息を吐く。ここの人々は全体的に笑顔の者たちが多い。とはいっても活気自体は今までに訪れた同規模の町と同程度である。帝国が最大の国ということを考えるとこれはおかしい。この町自体に問題があるのか、帝国自体に問題があるのか。彼の言葉を信用するのならばここの領主は仕事のできる賢い人間らしい。ならばこれを放っておくことはしないだろう。
とすれば問題があるのは国の方。ますます国王としても器の大きさがうかがえて来る。
「この町に長い間いるつもりはなかったけど、情報収集のためにちょっと長く居ようかな……」
「おう、俺は大歓迎だぜ。この町には冒険者のギルドもあるし。何なら情報収集にも力は貸すぜ」
バジリスは笑顔で彼を受け入れる。それから食事をとりながらさらに詳しく話を聞くユウキ。王には三人の子供がいて、一番上は病気で死亡、二番目が王の権威を借りて横暴の限りを尽くしているらしい。三番目の王女様が一番まともで彼女だけが公務などで町を訪れた際、最も誠実な態度をとるとのこと。なおかつ美人でその評判は広く知れ渡っている。その容姿端麗さと他の王族とは違うその人気は王とは比べ物にならないとのこと。
話の最中でユウキがノヴェル山地を通り抜けてきたことを何の気なしに伝えるとバジリスはそのことに食いついた。帝国の勇猛な兵でもあの山地に入ることは少なく、無事で抜けられるものは帝国の精強な兵でも少ないらしい。
「あの山地を越えてきたってことはどうだドラゴンにはあったんだろ?どうやって戦った?」
「いや、ドラゴンにはあったんだけど直接戦ってはいないんだよ。戦ってるとことに巻き込まれてぶっ飛ばされて気絶しちまって。そのあとはあそこで暮らしてる人間に助けてもらってさ」
「はあ!?あんな化け物たちの住処で暮らしてる馬鹿野郎がいるだと!?そんな話聞いたこともないぞ」
彼がそういった直後、彼らのいる店に一人の男が入ってくる。鎧を着こみ、歴戦の勇士であることをはっきりとわからせるその顔には豊かな口ひげを蓄えている。どう見ても帝国の兵士である。その男は店の店主と会話を交わしたかと思うと、ユウキたちの方に近づいていく。そしてバジリスの後ろに立つと、彼の頭をわしづかみにした。
「ゲェッ!?おやっさん!?なんでこんなところに!?」
バジリスがそう口走ると男は彼の頭に拳骨を落とす。その痛みで悶絶していると男は彼に説教を始める。
「こっちのセリフだ。もうお前の休憩の時間はとっくに過ぎている。全くまた断りもなく勝手に抜け出しよって」
バジリスに短く言葉を伝えた男はユウキの方を向くと、軽く頭を下げる。
「お見苦しいところを見せてしまい申し訳ない。私はアインツハイセン。この町の軍団長を務めているものだ。奪ってしまうようで申し訳ないがこやつを職務に連れて行っても構わないかな」
こういわれて断る理由などどこにもない。そもそも休憩中、帝国について話を聞かせてもらうという約束で食事をしていたのだ。休憩時間を過ぎていて、彼に引き留める権利などない。
「どうぞどうぞ。少し話を聞かせてもらっていただけだからな」
「ありがとう」
短く礼を告げたアインツハイセンはうずくまっていたバジリスの首根っこを掴むとそのまま引きずっていく。
「んじゃーなー。また今度会おうぜー!おっさーん。俺の代金はツケにしておいてくれー!」
そんなのんきな声を上げながらバジリスは引きずられて店を後にする。よく見る光景なのか、店の奥から顔を出した店主も苦笑いを浮かべながら彼の申し出を了承した。それを見送ったユウキは残っている料理を口に入れていく。
さて、自分は自分のするべきことをしよう。そう思ったユウキは追加注文ついでに店主から話を聞くことにする。まず初めに聞くことは面白そうだからという理由でバジリスについてであった。
「なあ、さっきのバジリスってどんな奴?」
「あん?兄さん旅のもんかい?えらく仲良く話してるから友達かと思ったぜ。そうだなぁ。バジリスは昔このあたり一帯を仕切ってたチンピラ一家の頭だったのよ。つってもその時の帝国の兵士よりよっぽどまともで親身になって俺たちの話を聞いてくれるし、兵士の奴らが横暴な態度をとってたら体張って間に入ってくれる奴なのよ」
ちなみに千人規模の一家な、という店主の言葉にユウキは口に含んでいた飲み物を吹き出す。誠実そうな外見からは想像もできない過去を知り、ユウキは驚きを隠せない。
「でもそんなんじゃ帝国兵たちのメンツが立たねえ。だからしょっちゅうやりあってたんだ。だけどバジリスの奴がめっぽう強くてなぁ。剣持った兵士十人に囲まれても素手で倒しちまうんだ。この町ではピカイチさ。んで四年位前の話だったかな。領主様が変わってその時の兵団長が更迭、アインツハイセンが兵団長になってバジリスを話し合いで兵士の方に引き込んじまったのよ。んでその部下のほとんども軍の方に引き込んでこの町は平和になったってわけよ」
この町も四年前まではろくでもない町であったこと、その状況下で人々を守るために奮闘していたというバジリス。芯のあるすごいやつであることがわかる。
「しかも、あいつ魔法が使えるんだと。本読んでやってみたらできたとか」
「なんか……、俺すごいやつと飯食ってたんだな」
「そうさ。あいつは俺たちこの町の奴らの恩人なのよ」
料理を食べ終わったユウキは代金をバジリスの分まで払うと店を後にする。外に出たユウキはまずは集会場に向かう。そのあとはさらなる情報収集だ。まだまだ彼が知らなければならない情報は多い。意外と危険の多いこの国で一つの情報が命運を分けるかもしれないのだ。
目的の定まったユウキは店主から聞いた集会場の方へ歩き始めた。
夕食を一人で食べながらユウキは今日得た情報を整理していた。バジリスに聞いたこと以外で一番の収穫があったのは帝国式の魔法という物だろう。軍の魔法使いという男の情報によると帝国式の魔法というのは昔、何らかの理由で里を追い出されたエルフから教えてもらった魔法を帝国兵に習熟しやすいように改良したものらしい。
帝国式の魔法というものは魔力で何かを強化したり、魔力を弾丸のようにして打ち出したりといったものが多くエルフの魔法のような多彩さや派手さはないものの、習得がしやすく戦闘において汎用性が高いという利点があるものである。この町だけでも魔法使いは百人以上がいるらしく、戦争では数を凌駕できる可能性があるとされているため、平時の際でも優遇されている。さらに近接戦闘をしながら魔法を使えるものというのは非常に貴重で、兵士の中でも上位の者の大体は全員近接戦闘をこなしながら魔法を使うことができる。バジリスがそのうちの一人である。ここまで情報を出させるのは少々苦労したが、袖の下を渡せば一発だった、というのはユウキ談である。
帝国の兵士に腐っているものが混じっているというのは話に聞いているし、何なら体験もしている。何らかのトラブルがあった際に抵抗して戦闘になれば、上位の者ほど魔法を使ってくるということになる。魔法というものがいかに使えないものに対して脅威になるかというのはユウキも理解している。使われた時点でユウキは圧倒的に不利になってしまうということだ。何かしら対策を考えておく必要があるか?そう考えながら食事を口に運ぶ。
次に問題なのがこの国の軍隊。その中でも六芒星騎と呼ばれる存在についてだった。六芒星騎は帝国兵士の中でも実力のある者たち六人のことを指すらしく、戦争となれば彼ら一人一人が何万もの軍隊を率いて出陣する。彼らには個人に対し特権が付与され、各個人が精強な一万人近い兵士を抱えることが許されており、他にも治安維持の独自の権限、広大な土地など多くの権利が与えられている。もし下手にかち合って戦闘になればユウキには勝ち目はないだろう。とはいえ、たったの六人である。そう簡単に出会うことはないだろうとユウキは踏む(余談ではあるが、ユウキは実は以前そのうちの一人と遭遇している。そのことをユウキが知るのはまだ先の話である)。しかし、そこまでの特権に見合った実力を身に着けるには幼少期から訓練を受けることのできる時間と、質の高い教育を受けることのできる資金、さらに六芒星騎を任命するのは国王であるため、国王に見てもらえる家柄が必要となるため、なれるのはほとんど貴族に限っているという。
最後にこの国でのギルドについて。この国にもギルドは町一つに一つ存在しているのだが、猛獣等の討伐は帝国兵士が行うため、ギルドの方にはほとんど回ってくることはない。あとは雑用程度の仕事だが、これらも帝国の方が請け負っている。しかし、その依頼料が高く、特に軍団長や領主が自分のことしか考えないタイプの人間になると、一市民が払えるようなものではなくなるため依頼がギルドの方に回ることが多いのだが、そうなれば帝国に依頼が入らなくなる。そのため、そのような町では冒険者が兵士に嫌がらせをされることがあるのだという。そのせいで冒険者が離れ、人手が足りなくなり結果的に依頼が帝国の方に回ってしまうというあんまりなことが起こっている。そのため、冒険者が活動しやすいかは町によって変わるらしい。
これ以外にも話は聞いたのだが、収穫といえるのはこんなところだった。とはいえ、一日でこれほどの情報を得ることができたのだ。情報収集としては上出来だろう。
改めてこの国の腐敗を感じ取っていると、ユウキの前に誰かが立つ。顔を上げその正体を確かめると、その人物はバジリスだった。
「よう、昼間ぶりだな。ここ座ってもいいか?」
「どうぞご自由に」
彼の申し出を受けたユウキはジョッキを口につけながら彼をじっと見つめる。千人近い人たちをまとめられるカリスマ性、戦闘力はまだわからないがおそらく高い、そして何より魔法が使える。彼の実力が認められていないことが残念でならない。
「どうした?俺の顔に何かついてるか?」
「……いや、六芒星騎とやらになれるといいねって」
「俺が?無い無い。なるんだったら俺じゃなくてアインツハイセンのおっさんの方だぜ」
ユウキの言葉を真っ向から否定したバジリスは運ばれてきたジョッキを前に差し出しながらニヤリと笑う。
「なんかいろいろ聞いて回ってたんだろ?俺もう少し詳しく話してやるから聞かせてみろよ」
差し出されたジョッキに自分のジョッキをぶつけたユウキはそう申し出てきたバジリスに笑みを見せた。
「ああ、どんどん付け足してくれ。そんじゃ最初は……」
今日聞いてきた話をユウキがして、それにバジリスがさらに肉をつけていく。そうして話しているうちに時間は驚くほど早く、あっという間に過ぎていった。




