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冒険、始めちゃいました。  作者: カイナベル
第四章 錬鉄の町編
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第五十六話 三人、互いの実力を知りました。

 少しの間森の中を歩き、三人は目的の洞窟に到着する。洞窟の前に見張りのゴブリンはおらず、代わりにニンビルウルフ二体が番犬として不埒な侵入者が侵入しないように見張っている。


 三人がオオカミの存在を視認した瞬間、オオカミは嗅ぎ覚えのない臭いを駆け付け地面につけていた首を持ち上げる。その瞬間、三人は各々の行動に移った。カナタとユウキの二人はオオカミの視界から消えるようにして真横に移動した後、全力疾走でオオカミに近づいていく。残されたアルピナは最小最短の詠唱を紡ぎ、オオカミたちに二発の火炎弾を打ち出した。


 ようやく体を持ち上げたオオカミたちにそれを避けることはできず直撃してしまう。だが、高々三秒程度の詠唱で繰り出せる魔法など高が知れている。毛皮の一部を焦がす程度に終わった一撃に、オオカミたちは怒りを露わにしながら彼女に向かって威嚇の声を上げる。が、この魔法の本来の目的はオオカミを焼き尽くすことではない。それに気づかないオオカミたちは別の方向から近づく死神の魔の手に気付かない。


 オオカミがそれに気づいた時には既に手遅れだった。両サイドから近づいて来ていた二人が各々のやり方で二匹の獣の命を刈り取ろうとする。ユウキは大剣をギロチンのように無防備な首に向かって振り下ろす。カナタは毛に覆われた首に手を回すと声を上げる暇すら与えずにその首を捻る。二匹は一切の抵抗を見せることすらできず、一匹は首と胴体を泣き別れさせられ、一匹は首をねじ切られた。


「ふう……。ナイス引き付け!」


 ユウキは大剣を背に掛けると、囮となったアルピナに笑顔と一緒にサムズアップを向ける。赤い噴水を上げている二匹を引き気味に見ながらアルピナは二人のもとに歩み寄っていく。


「まあ、相談なしにしては上々の連携だったんじゃないかしら?」


 控えめな評価を下すアルピナ。だが、先の連携は熟練のパーティですら難しいレベルの連携である。オオカミに雄叫びを上げられ、仲間を呼ばれないよう即座に沈黙させるために、各々が自らの役割を即理解して行動した。その結果が被害ゼロ、仲間を呼ばれることなく五秒以内の討伐。懸念であった連携は問題ないどころか完璧といっても差し支えないレベルである。


『さて、この中にゴブリンたちが巣くっているようだが、どうする?』


「巣穴ごと魔法で焼き尽くすってのは?」


「できないことも無いけれど、この洞窟が壊れちゃったときの二次災害が少し心配ね。それに私、広範囲を焼き尽くすのは得意だけど、洞窟の通路一本一本に火を通すような正確な制御はできないわよ」


「となるとやっぱし素直に突入?」


『三人もいるし、全員実力は高い。問題はないはずだ』


「じゃあそうしましょうか」


 ゴブリンたちを殲滅するための作戦を立て終わり、三人は突入の準備を始める。背負ったランドセルからランタンを取り出そうとしたユウキであったがアルピナに止められてしまう。


「これ必要だろ?」


「視覚の確保だったら私がやってあげるわ」


 そういうと彼女は杖を片手に魔力を司るための言葉を紡ぎ始める。


「我らが眼、闇と同化し闇の先を見せたまえ」


 アルピナがそう高らかと宣言すると、三人の身体の一部が変化を遂げる。今まで見えることのなかった洞窟の奥が灯りなしでも見えるようになったのだ。アルピナが使った魔法は夜目の魔法。闇の中でも目が見えるようになる魔法であった。暗いところで目が効くようになり、明るい場所で逆に見えなくなるわけではないといったように非常に便利な魔法である。


「おおぅ。すごいなこれ」


「これならランタンもいらないからゴブリンたちに位置を晒さなくて済むでしょ?私に感謝しなさい」


「こればっかりは感謝するわ。それじゃ入るぞ」


 準備を終えた三人は洞窟の中に突入していく。ポジションは先頭がカナタ、その少し後ろにユウキとアルピナである。一人だけ距離を置いた布陣にアルピナは不安を覚え、隣を歩くユウキに問いかける。


「大丈夫なの?あれじゃ孤立しかねないんじゃ……」


 しかし、ユウキはノータイムで返答する。ここまで早く返答したのは彼がカナタの実力を知っているせいだろう。


「大丈夫だよ。見てみぃよ」


 そういった瞬間、カナタに向かって陰から三体のゴブリンが飛び出した。しかし、カナタはそれがわかっていたかのように一体の腕を掴むとその手から武器を奪い取り、手に持ったゴブリンを武器のようにして残ったゴブリンの一体に叩きつける。そして最後に残ったゴブリンに奪った剣を叩きこんだ。絶命したゴブリンに構うことなく、即座に残った二匹のゴブリンに向かい、もつれて倒れこんでいる二匹の頭に向かって強烈な踏みつけを入れる。彼らがそれに耐えられるはずがなく、脳漿をまき散らしながら命の灯を消した。この間僅か五秒の早業であった。


「あれを見て、心配とかそんな感情持てるか?」


「……少なくともこの状況じゃ大丈夫そうね」


 あまりの早業に放心しながら答えたアルピナはゴブリンたちをたやすく一蹴したカナタの後に続いて進んでいく。飛び出してくるゴブリンをカナタが屠っていくのを見ながら進んでいくと少し開けた場所が見えてくる。そこにはゴブリンたちが集結していた。さらにはホブゴブリンが二体中央に鎮座しており、ゴブリンはそれを囲むように集結している。少し離れたところで作戦会議を始める三人。


「どうするよ。三人で突っ込んでインファイトでもするか?」


「あの大きさなら私の魔法で丸ごと全部焼きつぶせるわ。カナタは私の背後を見て、アンタは私の前を見て頂戴」


「それ俺が炎に晒されるってことだよな?」


「さあ、始めるわよ」


「聞けよコラ」


 ユウキは不満を述べるが彼の意見は届かない。非常である。若干一名不満そうながらもポジションに付く三人。大剣を自分の前に差し、盾にするユウキ。そして準備が終わりアルピナが詠唱を紡ぐ。


「燃えろ燃えろ我が意思。その炎をもって腐敗した肉体を灰と化し悪しき魂を浄化せよ!」


 詠唱が完了した瞬間、アルピナの身体から光が漏れ出し広場の中央から赤い炎が上がる。突如として挙がった火の手にゴブリンたちは絶叫を上げる。そのうちの一体が逃げ出そうとするが、そんなことは洞窟の入り口を塞ぐユウキは許さない。


「フッ、ウゥン!」


 大剣の横をすり抜けようとしたゴブリンをユウキは迎撃する。脳天に浅く刺さったナイフを力任せに深く押し込み絶命させる。そして物言わなくなった死体を目の前の焚火の中に叩き込んだ。パニック状態に陥り、逃げることが出来なくなったゴブリンたちは密閉された窯の中で業火に焼かれていく。逃げようとしても入り口を狭められ門番もいる一匹ずつしか逃げられない状態で無事に逃げられやしない。五分もしないうちに中のゴブリンたちは、全員炎の力によって絶命した。

 

「魔法ってすごいな……」


 こんがりと炭にされてしまったゴブリンの死骸を踏みつけながら魔法の強力さに舌を巻くユウキ。もしこれがユウキとカナタの二人だった場合、間違いなく苦戦を強いられていただろう。夜目を効かせることが出来なければ待ち伏せを食らい続けることになり、先の広場のゴブリンと真っ向から戦うことになっていただろう。しかしこれらを魔法で圧倒的に簡単に達成することが出来た。そのような魔法を使うことが出来るアルピナがうらやましく思えてしまう。


「俺も使えるようになれんのかな?」


「魔力っていうのは誰でも持ってるものだから覚えさえすれば誰だって使えるわよ、多分」


 アルピナの補足説明を聞き、ユウキは一瞬胸を高鳴らせた。彼女の説明であれば自分にも使うことが出来るとのこと。彼女に頭を下げてでも教えてもらおうかと考える。


「まあ、アンタくらい脳筋だと覚えられないかもしれないけどね!」


「テメエ!やっぱりここで決着つける必要があるみたいだな!」 


 彼女の軽口でそれは一変した。やっぱりこいつに魔法を教わるのはやめよう、と思いながらユウキはこぶしを握り締めながら彼女に近づいていく。それを待ち受けるように杖を持ち構えるアルピナ。また始まったと思いながら仲裁に入ろうとするカナタ。三者が各々の行動をとる。ユウキが拳に鋼線を巻きつけながらアルピナに近づいていった時、ユウキの視界に妙なものが映り、彼女への敵愾心が一気に薄れる。彼女を横を通り過ぎて背後の壁に手を付ける。


「どうしたのよ?決着つけるんじゃなかったのかしら?」


 彼女が煽るような口調でユウキに問いかけるが、ユウキは壁面を触りながら間近で観察している。満足するまで観察し終わったところで口を開いた。


「ここ……、なんか誰かに埋められたみたいになってるんだよな。ゴブリンたちが埋めたとは考えにくいし、この洞穴は他の何かが掘ったのかと思ってさ」


 彼の言葉を聞き、カナタも興味を持ったのか壁に手を付け観察を始める。目で見ただけでは飽き足らず耳をつけてユウキとは違った発見をする。


「この奥は空洞になってるみたいだな。下に下に伸びてるみたいだ」


「考えすぎに決まってるでしょう。今はゴブリンたちを殲滅できただけでいいでしょう」


「……まあそれもそうか。んじゃ早いところ出るか」


『そうだな。この洞窟は一本道だったからゴブリンをまず見逃さないだろうからもう全部倒せただろう』


 三人は帰り道で倒し切れていないゴブリンがいないかを確認しながら洞窟を出る。外はもう日が暮れ始めており、三人は駆け足で街へと戻っていく。この時、この洞穴をもっとよく調べておけば後々楽になったのだが、彼らに知る由もなかった。




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