第五十五話 エルフの少女と転生青年、交流を深めました。
カナタの仲裁もあって関係が一応の落ち着きを見せたユウキとアルピナの二人(とはいえマイナス100がマイナス50になった程度である)。二人は睨みあいながら無言のまま、食事を続けていた。このままの雰囲気で食事を続けても飯がまずくなると判断したカナタは適当な話題を刻むために口を開く。
『そういえば君はずいぶんと目を引いていたが、こちらの世界では君は珍しいのか?』
ユウキを経由してアルピナに告げられたカナタの言葉に彼女は不思議そうに答える。
「んー。まあ確かに珍しいかもしれないわね。エルフなんてほとんど里の外に出ないし、私くらい魔法が使えるといろんな冒険者から引く手数多よ」
『そもそもエルフとはなんなのだろうか?私はこちらの世界に疎いため、よくわからないのだが』
「と言っておられますよ。わたくしも知りたいでございますなぁ」
「外野は黙ってなさい。そうねぇ……、エルフっていうのは私みたいに魔法が得意な種族のことを言うのよ。耳が長いのが特徴ね。それよりも私はあなたのことを教えてほしいんだけど」
彼女はカナタの頭から生えている角を示すようにして自分の頭を指さして見せる。彼女からすれば角の生えているカナタの方がよっぽど珍しいのだろう。
『だったら私も説明しなければならないな。私は……』
そう前置きをするとカナタは自身のことをアルピナに説明し始めた。この大陸の出身ではないカナタの話が新鮮でならないのか、目をキラキラとさせながら聞くアルピナ。すべて聞き終わったところでアルピナは満足そうに溜息を吐いた。
「はぁ~。すごく面白かったわ。話しを聞いていた感じ、あなたも相当長生きなのかしらね」
『まあ、私の祖母は五千年以上生きていたらしいから私もそうかもしれないな。私の話をずいぶんと楽しそうに聞いてくれてうれしいよ』
「だってあなた随分と面白い旅をしてきたみたいじゃないの。そんな話聞いて楽しくならないわけがないじゃない?」
『だったら彼の話も聞いてみたらいいんじゃないか?彼も相当面白い旅をしてきたみたいだから。私の聞いてみたが面白かったぞ?』
カナタはユウキのことを指さしながらそう告げる。カナタの言葉に二人は顔を見合わせる。ユウキは思わぬタイミングで自分に飛んできたことに対する驚き。一方アルピナは隣の憎々しい男がそこまでの冒険をしてきたということに対する驚き。正直アルピナは目の前の男に話を頼むことなど本来であれば嫌だった。まず間違いなくカナタが仲裁でなければ頼むという選択肢は浮かばなかっただろう。しかし、先ほど面白い話を聞かせてくれたカナタの勧め。カナタが面白かったというのであれば面白いのだろう、と思ったアルピナの好奇心がうずき始める。その気持ちが目の前の男に頼みたくないという気持ちがせめぎ合っている。
しかし、それも長くは続かなかった。好奇心のほうが圧倒的に強かった。
「じゃ…、じゃあ聞かせてもらおうかしら?面白くなかったら承知しないわよ?」
「うん、俺も面白いかは知らないけど、聞かせてくれというのなら思う存分聞かせてやろう」
ユウキはゆっくりと自分の辿ってきた旅の出来事を話し始めた。
「んで、今はこの町で生活してるってわけだよ」
「ふ、ふーん。まあまあじゃないの。とりあえず何もしないで上げるわ」
ユウキの話に淡白な反応を見せているアルピナ。しかしユウキは知っている。イルカの話をしているときには前のめりで鼻息を荒くしながら聞いていたこと、シュバルの話をしていた時には目に涙を浮かべながら聞いていたこと、そして全編通して楽しそうに耳を傾けていたことと。ユウキは目の前で淡白な反応を見せているアルピナを半笑いで見守っている。
「……何よ?」
「いいえ、なんでもございやせん」
ユウキの半笑いに気付いたアルピナは訝し気にユウキを見つめるが、ユウキが表情を元に戻しながら彼女の視線を受け流すと、納得いってないような表情ながら彼女はそっぽを向く。 その様子を見ていたカナタ。二人の間に先ほどのような険悪さはなく、和やかと言える雰囲気すら漂い始めていた。また二人がおっぱじめることを覚悟で二人に吹っ掛けた買いがあるというものだ。仲良さげに話す二人の間に入り茶々の一つでも入れようかと思ったが、一抹の不安がよぎり、二人をやり取りを眺め続けるのだった。
「さて、あんまり長居するのもよくないしそろそろ出るか」
「そうね。どっちの話も楽しかったわ」
そういうとアルピナは席を立ち、店を後にした。二人も店を出ようかと席を立った時、ユウキが動きを止め、テーブルをじっと見つめる。何事かと思った瞬間、ユウキは椅子を跳ね飛ばし店の外へ駆け出した。突拍子もない行動に慌てて追いかけようとカナタが財布から銀貨を取り出そうとしたところでユウキが地団太を踏みながら店内に戻ってくる。
「くそっ!あのアマ最後にやりやがった!あいつ飯代置いていかないで行きやがった!」
ユウキから告げられた事実にもはやカナタは呆れるしかない。よくここまでやりあえるものだ、ともはや尊敬したくなるほどである。巻き込まれているカナタがかわいそうになってくるレベルである。
「次会ったらどうしようか……」
早くも仕返しを考えているユウキ。もう勘弁してくれ。そう思ったカナタは二人の諍いが治まるようなアイデアを提示する。
『今回彼女の分を払って今までの全部を治めたらどうだ?もう疲れないか?』
そんなことはあり得ない。そう言おうとした彼であったが、カナタの声色が少し疲れていることに気付く。自分たちのやり取りがカナタに負担をかけていることに気付いてしまったユウキは唸り声をあげ、悶えながらながら考えこみ始める。一分ほど考えたところでユウキは力が抜けたように手をだらりと下げる。そしてポーチの中から銀貨の入った袋を取りだした。
「チキショウ!」
雄叫びを上げながら銀貨の袋を叩きつけたずんずんとユウキは足音を立てながら店を出ていく。二人の喧嘩に幕が下りたことにホッと胸を撫でおろすカナタ。しれっと自分の分も払ってもらったカナタも彼の後を追って店を後にした。
不機嫌そうに町の中を歩くユウキ。気晴らしに簡単な依頼にでも行こうかと集会場の中に入ると、そこにアルピナがいた。彼女は依頼でも受けるつもりなのかカウンターで職員と話している。
ユウキが彼女に気付いた瞬間、アルピナも彼の存在に気付く。即座にその場からの逃走を試みるアルピナであるが出入口を完全に塞がれている。それに加えて完全に姿を見られてしまっている。これではかくれんぼも鬼ごっこもできない。諦めたようにカウンターに寄り掛かる。それに近づいていくユウキ。逃げられないように目を見開いて一挙手一投足を睨みつけながら、着実に距離を詰めていく。
「……何よ?」
「………………いや、もうなんでもないぞ」
心当たりがあるアルピナではあるのだが最後の抵抗といわんばかりにぶっきらぼうに口をきいて見せる。がユウキはあのことを蒸し返すことなく受け流すことにした。予想だにしない反応にアルピナは驚くと同時に安心したように息を吐いた。
「だ、だったらいいわ。それより何か用かしら?」
「依頼を受けるのか?だったら俺も同行する」
「え、ちょっと」
「何か文句でも?」
一人で行く気だったアルピナは思いもよらない出来事に怯んでしまう。文句の一つでもつけて断ろうと思ったのだが、一つ借りのある彼女はユウキの人睨みで何も言えなくなってしまう。
ユウキは彼女が書いていたであろう依頼書にサインを書き、ペンを置く。さあ行くぞ、と思い振り返ろうとした瞬間、置いたはずのペンが持ち上がった。持ち上げたのはカナタであった。
『置いてけぼりはひどいな。ぜひ私も連れて行ってくれ』
そういいながらペンを動かして見せるカナタ。それを見てユウキはペンを受け取りカナタの名前も書いていく。彼女に確認は取っていないが、こっちであれば問題はないだろう。カナタの名前を書き終わると今度こそ、と振り返り三人で集会場を後にした。
「そういえばあんたなんでついてきたのよ」
「いや、お前魔法使うんだろ?どうせだったら近くで見てみてえなって」
『そういえば魔法というのは珍しいんだったか』
依頼のために目的地に向かって歩く三人。適当な話を繰り広げながら歩いていると、アルピナが口火を切った。二人もそれに続いて魔法について話し始める。
「ふふん。そうよ、魔法が使える私はすごいのよ!」
「その割にはランクはCランク止まりなんだな」
「い、いいでしょランクの高さなんて。私が冒険者を始めたのはここ五年くらいなんだから」
四年ほどでBランクまで上がった男を知っているユウキではあるもののそれを言うと話がこんがらがりそうであるため黙っておく。
「それより私はあんたの防具とか剣のほうが気になるのよ」
「ん?これか?」
「あんたのつけてる防具全部魔力を帯びてるのよ。剣に至っては魔力を吸収し続けてるし。どこでそんなもの手に入れたのよ」
「んー、まあ優しい人からもらったんだよ」
「……そういうなら深くは突っ込まないけど」
『そんなことより依頼の話をしよう。今回の依頼はゴブリンの群れの討伐だったか?』
「そうね。話によると中規模な群れでオオカミも飼ってるなんて噂もあるくらいよ。洞窟に住んでいるらしいからイレギュラーを想定して動いたほうがいいわね」
「となるとランタンとかいるな。準備するか」
三人ともやはり根はまじめであり依頼の話となると顔を引き締め真面目に話している。カナタとユウキはともかく、アルピナと二人は初めての連携である。うまくいくかどうかが一抹の不安であったが、うまくいくことにかけて三人は目的の洞窟に向かうのだった。




