第四十五話 懐かしい友人、久々に遭遇しました。
ユウキの姿を発見したユーナはここにいないはずの人物の登場に小さく声を上げ、表情を一変させる。驚いた表情で金魚のように口をパクパクと動かしているユーナに気づいたラクスが彼女の変化に気づくと、それに連鎖するように続々とユウキに気づいていく。
「あれー!久しぶり!元気だった?」
「ビギルマ以来か!?ずいぶんと雰囲気が変わったな!」
人波を掻き分け、笑顔で再会を喜びながらユウキのもとに近づく二人の後ろを残りの二人が追っている。逃げる理由もないユウキはその場でとどまり、四人を笑顔で出迎える。
「どうもお久しぶりでござんす。半年くらいだっけか」
ユウキ含めた五人のやり取りをリュウセイは後ろのほうで黙って見守っている。彼には仲良くやり取りをしている人間の間に当然のように入っていけるほどの高いコミュニケーション能力はもっていない。ユウキのほうに向いている意識を自分のほうに向けるつもりもないし、黙ってみているのが一番であると考え、首を突っ込むことなく黙っている。
仲良く再開を喜んでいた五人。ある程度話したところでフリアはユウキからリュウセイへと意識を逸らす。さすがのコミュニケーション能力である。
「で、そっちの人は?お友達?」
フリアはユウキ越しにリュウセイのほうへ視線を向ける。それを追うように三人の視線も向く。フリアの視線がちらちらと自分に向いていたため、いつかは来るだろうと考えていたリュウセイであったが、突然飛んできたことに少し動揺する。
「リュウセイだ。この男の友人、だな」
リュウセイがユウキの肩に手を置きながら自分の名を告げた瞬間、ラクスとユーナが驚愕の表情を見せる。情報通な二人はBランク冒険者であるリュウセイの存在を知っていた。いつも一緒にいたユウキはあまり気に留めていなかったが、彼は意外と有名人である。町を歩いていると、あまり他人に興味を持たない冒険者でも振り返られることがあるほどに顔が知られている。それほどBランクの冒険者というのは、数多くの冒険者の中でも稀有な存在なのである。
「二人とも知ってるのか?」
二人の表情変化に真っ先に気付いたスグルドは問いかける。フリアも首をかしげているため、リュウセイの存在を知らないようだ。この二人は情報収集をラクスに任せきっているため、そういったことをあまり知らない。
「最近話題になっている新進気鋭のBランク冒険者だ」
二人に褒められたリュウセイはまんざらでもなさそうに笑みを浮かべ、照れ臭そうに頭を掻く。ラクスの説明を聞いた二人は驚きで表情を変える。が、すぐに抱いた疑問を表情で表す。
「なんで、ユウキ君と組んでるの?」
一瞬ひどい人間だと思ったユウキであるが、実際にその疑問は正しい。例外はあるが、基本的には上へ行きたいものは同ランクの冒険者と組むことが多い。二つ以上ランクが離れている人間が組むというのは、比較的珍しいことなのだ。
「ん~、まあ成り行きで?」
とはいえ四人はこの二人が転生者であることは知らない。そのことをはぐらかした説明をすると一応納得したような表情を見せる四人。しかし、この二人はこの町で一度分かれるためその説明をしておこうとユウキは口を開く。
「まあ、この街で別れるんだけどね」
するとフリアは前置きもなく二人に問いかけ始める。とはいえその問いに隠す必要性などどこにもないため、特に誤魔化すことも無く明かす。
「へえ。いつ頃二人とも出発するの?」
「大体三日後くらいかな。ユウキは?」
「俺は別にいつでもいいけど、そのくらいに出ようかな」
二人が出発のタイミングを告げると、フリアは顔を綻ばせパチリと手を叩く。
「じゃあ、とりあえずご飯にでも行かない?私たちある程度ここにいるからさ。おいしいお店とか知ってるよ」
「いいじゃねえか!二人の旅の話とか聞いてみたいぜ」
「私も賛成です!私たちもいろいろあったことを聞いてもらいたいです」
フリアの提案にスグルド、ユーナが続けて同意し、ラクスも首を縦に振っている。満場一致、もう二人に断る理由などないだろう。二人は顔を合わせると笑みを浮かべ向き直り首を縦に振る。
「そういわれたら断る理由はないよねぇ」
「ああ、俺もちゃんと話してみたいしな」
二人が同意したところでフリアは渡り廊下のほうへ向かい歩き始める。残された五人は他愛のない雑談をしながら、フリアの背中を追い始めた。
隣の食事処で食事をつまみながら別れた後のことを話す五人。思った以上の盛り上がりを見せ、熱が入る。もちろんリュウセイのことも忘れておらず、六人は各々が想像していた以上に盛り上がった。
ユウキは別れた後の様々な冒険譚を語り、フリアたちを驚かせた。駆け出しの冒険者とは思えないほどの活躍は自分たちの立場を脅かす物であると改めて三人は実感させられた。だが、決してフリアたちだって負けているわけではない。四人も別れた後、ランクを一つ上げるほどの活躍を見せている。改めて説明するが普通であればランクというのはそう簡単に上がっていくものではない。短くても一ランク上げるのに半年近くかかるものであり、ユウキのようにポンポンランクが上がっていくことがおかしいのである。
ラクスは遠距離攻撃手としてリュウセイに何か感じるものがあるのか、隣り合って話し込んでおり、普段は見せないほど表情を綻ばせている。これにはスグルドたちも意外だったのか、その変貌ぶりに目を白黒させていると同時にあまり見せない姿ににやついている。
ユーナやフリアは会話が楽しくて仕方ないのか、ユウキやリュウセイをとっかえひっかえしながら話し続けている。
食事を始めて一時間ほど経ち、ネタが尽き始めた時、フリアが話の舵を切る。
「そういえば、二人は三日後くらいに出るんだったよね?だったら明日この近くにある滝にでも遊びに行かない?少しだけ見たことがあるんだけど静かで落ち着けるような空間だったし。ちょっと落ち着ける時間があってもいいんじゃないかな」
フリアの提案をユウキとリュウセイは思案する。確かにフリアの言うことは正しいかもしれない。確かにシヴァリアに入ってからここまで来るまでの二か月近く。全くリラックスする暇がなかった。クマ討伐騒動に始まり、大怪我を乗り越えている。肉体的にも、精神的にもわからないうちに負担がかかっていた。一度リラックスする時間を取ってもいいのではないだろうか、というのは二人の共通認識である。
まあ、リラックスする気がない男が若干一名いることには一度目をつむる必要があるが。
「いく!川遊びしたい!」
手をまっすぐに上げながら、楽しそうに参加の意思を告げたユウキ。その表情はまるで夏休みを謳歌している少年のそれである。その様子を呆れたように笑いながら見ていたリュウセイも控えめに手を上げる。
「面白そうだし俺もいくよ」
「じゃあ決まりだね。それじゃ明日、お昼ご飯でも持ってそこに遊びに行こうか」
パンと手を叩いたフリアはにっこりと笑う。他の三人はいつものように断る理由のないフリアの突然の提案に笑顔で納得した。
一度四人と別れ、宿を取った二人。ユウキは部屋に入るなり、防具も外さずにベットに倒れこむ。ベットが乱れ、倒れこんだ衝撃で風圧が起こり、それで隅の埃が舞う。
それを見ながら防具を外しているリュウセイは、外し終えベットに座り込む。
「しかし、ずいぶんと楽しそうだったな。やっぱり友人と会えるのはうれしいか」
当然だな、とつぶやいたリュウセイの言葉を聞き、ユウキは仰向けになり目をつぶる。数秒ほど黙り込んだ後、ユウキは目を開け、言葉を紡ぐ。
「友人じゃねえよ、恩人だ。あの人たちがいなかったら俺はこっちに来てすぐに死んでただろうからな」
こんなこと言うのはこっぱずかしいけどな、と恥ずかしそうに笑みを浮かべ答えたユウキ。この世界のことが右も左もわからないユウキをかいがいしく面倒を見てくれた三人。ユウキは三人に周りが思っている以上に恩を感じていた。
「珍しい言い方だな?そんな言い方をお前がするとは思わんかった」
「うるせ。俺にだっていろいろ感じるもんはあるんだよ」
リュウセイの指摘を受け、恥ずかしそうに顔をそらしたユウキ。背を向けたリュウセイはそれを一通り眺めた後、部屋を後にした。一人部屋に残されたユウキは、ベットの上でゆっくりと意識の海に落ちていった。




