第四十四話 雪の町、別れを告げました。
今話から第四章スタートです。新キャラも続々登場します。
あれから一か月が経ち、リュウセイの骨折は完全に治り、今では精力的に依頼をこなし続けている。一方のユウキの骨折は未だに治り切ってはいないが、人体の不思議ともいうべき整復速度で今では骨折なんてなかったかのように依頼をこなしていた。固定具が取れるのも時間の問題だろう。この街に滞在して、二か月弱。二人にとって切りのいいタイミングであった。
「というわけで腕の固定具が取れたら他所の町に行こうと思います」
ユウキは昼食時に対面に座るリュウセイに今後のことを伝える。パスタを啜りながら聞いていたリュウセイは最後まで胃に入れ切ると口を開く。
「いいんじゃないか。お前じっくりと腰を据えて、って感じじゃないんだろ?それがお前のやり方ならそれでいいじゃねえか」
彼の返答を聞いて満足そうに笑みを浮かべたユウキは傍らに置かれたジョッキを手に取り飲み物で口の中を洗い流そうとする。
「まあ俺はついていかないんだけど」
続けて放たれたリュウセイの言葉にユウキは飲み物を吹き出しそうになりむせてしまう。三回ほど咳をしたところで目を白黒させその様子を見て、フォークでパスタを巻きながらリュウセイは口を開く。
「ちょっと用ができたから、お前とはいったん別れなきゃいけなくなったんだ。まあそのうちまた会えるだろ」
「悲しいねえ」
ユウキはリュウセイの言葉を聞き納得する。同じ転生者であっても彼にも自身の事情があるのだから当然である。
「んじゃどこまで一緒に行けるんだ?大体は決めてあるんだろ?」
「山越えは面倒くせえし危ねえから山脈を迂回する形で動くな。ちょうどいい感じに、山脈の端のほうに中規模な町があるみたいだからそこで準備をしてから南下する形になるな。お前もそっち方面か」
「ああ、多分その街から西に進むと、ドワーフの国があるみたいだから今度はそこに行こうと思う。面白そうだから」
「ああ、そこなら俺もいったことあるぞ。製鉄とか鍛造なんかが盛んだな。いろんな武器が売ってるから見てみるといい」
「やっぱり?」
ユウキはにんまりと笑みを浮かべ、ジョッキに口を当てた。昼食を済ませたユウキは三日に一回は来るように言われている病院に向かった。
「……うん。もうこの固定具はとっちゃってもいいね。明日取るための準備をしておくよ」
医者は感嘆の息を漏らしながらユウキに告げる。その言葉を聞き、ユウキは明日が楽しみで仕方なくなった。
「しかし、君の治癒能力はどうなっているんだ。普通であれば平均二か月治療にかかるんだがね……」
「そんなことはどうでもいい!治ることがすべてなのだ!それじゃ俺はあいさつ回りに行ってくるから、また明日来るねー」
興奮した様子ですぐに病院から出ていったユウキを医者は小さく手を振って見送った。
挨拶回りと、旅立ちの準備も終わらせた翌日。ユウキは病院で固定具を外し、そのままの足で町の外で待つリュウセイと合流した。
「よし、そんじゃいくか」
二人は町に背を向けて歩き始めた。
二人旅を始めておおよそ二週間。話すことなどとうに尽きている二人は黙って目的地を目指し続けていた。お互い黙りっぱなしの空気を嫌ったユウキは依然ふと疑問に思ったことを問い掛ける。
「お前って確か、この世界に来たのは四年前だって言ってたよな?」
「そうだけど?どうした?」
脈絡のない問いかけにリュウセイは、少し混乱した様子で逆に問い掛けた。もちろんユウキの問いはこれでは終わらない。
「お前は平気な顔で特典の能力を使ってた気がするんだけど、あれって四年間で、模索して使えるようになったのか?」
「いいや?俺の特典は少し特殊だからって、普通に教えてもらったけど?俺は特典三つだ。一つは言葉とか文字を翻訳する奴。二つ目は触れた金属を自由に変化させることができるやつ。最後は見たものを任意で記憶して忘れないようにする能力。これも教えてもらったよ」
「ファーハハハハハハ!!!!」
指を立てながら説明したリュウセイは、突然ユウキの高笑いに戸惑いの表情を見せる。二か月も一緒に行動すればいやでも人となりというものはわかる。少なくとも理由もなしにこんなことをするような人間ではないことはわかっていた。いやまあ、理由があってもこんなことをしてはいけないのだが。
「ど、どうした?」
ユウキは独楽のようにくるくると回りながら歩き笑い続けている。その動きはまるでサーカスで人を楽しませるためにおどけているピエロのようで、端から見ているリュウセイには不気味にも思えた。
「これが笑わずにいられるか!なんで俺は何も教えてもらえずに手探りなんだよ!ふざけんな!」
吠えながら笑顔で怒り続けているユウキを見て、リュウセイは少し気の毒に思ってしまう。確かに特典の内容を教えてもらえないとその内容を発見するのは厳しい。リュウセイの特典でそれをやられようものならたまったものではない。普通、金属を加工することのできる能力など考えつかないし、死ぬまでに自力発見などできないだろう。
「うん……。まあ頑張れよ。俺も協力するからさ」
「ホアッハー!フウッフー!」
リュウセイが慰めて、なお奇声を上げ続けるユウキを見てリュウセイはどうするべきかと眉間を強く揉んだ。
それから一週間。もうすぐ目的地に到着しようとしていた。
「なあ、そろそろ機嫌直せよ。別に俺が悪いわけじゃないのにそんなブスッとされてるんじゃいやな気持になっちまうよ。もうすぐ別れることになるんだから気持ちよく別れようぜ」
気が済むまで奇声を上げ続けたユウキは、それからほとんどしゃべらなくなり、威嚇顔の犬のような表情で目的地に向かい続けていた。一週間も隣で奇妙な表情をしている男が同行していれば最初のころは面白がれるが一週間もそれを見続ければさすがに辟易する。
もう見たくないリュウセイは彼を批判することにした。
「……わかったよ。悪かったな。関係ないのにあたっちまって」
「あとで一杯、でいいよ」
固まっていた表情筋を手で無理やりほぐしたユウキは、小さく柔らかに笑みを浮かべる。それを見たリュウセイも安心したように微笑んだ。
「おっ、見えてきたぞ。あれが目的地のアルタだ」
指さしたほうに小さく建物が見えてくると同時に、街道を歩く人の姿も見えてくる。遠めでも人が歩いているのが見え、街自体が非常に盛んであるのが分かる。十数分ほど経ち、二人は街に入る。
「聞いたところによると、この街はシヴァリア、ダルクレイ、帝国をつなぐ街道の分岐点らしいからな。ここが盛んになるのはある意味当然だろう」
「それにしても大きい街でもないのに、人が多いな。まっすぐ歩けないレベルっていうのは初めてかもしれん」
人と人の間をすり抜けながら、二人はいつものように集会場を目指す。集会場は例外こそあるものの、大体は町の中心にある。それほどまでに冒険者とギルドという存在は人々の生活に根付いている。
二人は大通りを歩き続け、集会場にたどり着く。町の中心に建つその建物は隣接した建物が、その間が渡り廊下で繋がれている。こちらに来て日が浅いとはいえ、ユウキは様々な集会場を見ている。が、こういった形式の集会場は初めてだった。
二人はそのまま建物の中に入る。中にはシヴァリア、マリチアといった大都市に負けないほどの人間がおり、活気にあふれている。が、どうも違和感を感じる。
「あ、集会場こっちじゃねえ。これ飯屋だわ」
覚えた違和感の正体は建物内に漂ういい食べ物の匂いと机の間を縫って動き回っている煌びやかなウエイトレスの衣装であった。それに先に気づいたリュウセイは何も考えないまま、口から言葉をこぼす。
「なんてややこしい建物だ」
ユウキは小さく愚痴をこぼし溜息を吐きながら渡り廊下で隣の建物に移る。今度こそたどり着いた集会場には武器を携えた人間たちが思い思いの行動をとっていた。
「とりあえず、いくらか準備しなおしてから出発したいから宿を探すか」
「そだね。とりあえずカウンターに……」
二人がカウンターに歩みを進めようとしたその時。
「ちょっと!今回の戦闘、あんた突っ込みすぎよ!おかげでこっちは連携が崩れるわ、あんたは分断されかけるわ、大変だったんだから!」
「あの状況だったら、さっさと指示出してる頭をつぶしたほうがいいだろ。それに崩れてもいい感じにユーナがカバーしてくれたからすぐに立て直せたじゃねえか」
「そんなの結果論でしょ。突っ込むにしろ、それは私の仕事なんだから一言言ってから突っ込んでよ!」
「二人とも落ち着いてください。見られてますから」
どこかで聞き覚えのある声がユウキの耳に届いた。ヒートアップしている二人とそれをなだめる少女のほうをゆっくりと振り向くと、そこには思いもよらない人物たちがいた。以前世話になったユウキの恩人その四人組。
「アルェー?」
言い争っているフリアとスグルドをユーナが仲裁しようとしており、その様子をラクスが少し離れた場所で落ち着いた様子で見つめている。何度か見た光景をこんなにも早く見れたことにユウキは無意識のうちに素っ頓狂な声を上げる。
固まったまま一同の動きを見ていたユウキ。いきなり動きが止まったことを不審に思ったリュウセイは顔の前で手を振ってみるが、全く気付かない。意識のリソースはすべて目の前で起こる光景に割かれている。
フリーズしてしまった相棒を再起動するために、リュウセイはため息を吐いた後、軽く頭をひっぱたいた。が、当たり方がうまかったのか、思った以上の音を響かせる。人々の喧騒でかき消されてしまうほどの音でしかなかったが、それでも気づく者はいた。
その音に気付いたユーナがやりあっている二人のほうから視線を逸らし、音のほうを向いたのだ。
当然この後起こる事象は予想に難くない。頭への衝撃をもってして視線が固定されたままだったユウキと、音のほうを向いたユーナの視線が交錯する。
「「あっ」」
そして二人の口から洩れた声がきれいにシンクロした。
さて今話では懐かしの始まりの町、四人組が再登場です。
まあゆうても三話くらいしか出ないんですけども。いわゆる閑話みたいなものです。それでも多少必要な話ですので、読み飛ばさずに見ていただければ幸いです。




