第三十四話 シヴァリアでの生活、始まりました。
やって思った。意外と三日に一回って期間開きすぎる。というわけでこの次の投稿からは二日に一回にします。今のところは冬休みだからどうにかなる、はず……。
休息をとった二人は、次の日依頼受注のために集会場に向かっていた。そもそもこれが彼らの仕事であるため、こうなるのは仕方のないことである。集会場についた二人は窓口に向かい、シャロンに今ある依頼内容を確認する。彼らの問いかけにシャロンは依頼書を出しながら答える。
「今ある依頼で易しいものでありますと……、霜月草の採取などはいかがでしょうか?比較的低地に生える植物ですので危険な生物に合うこともないかと」
ユウキは聞き覚えのない植物の名を取り出した図鑑で調べ、同じように首をかしげていたリュウセイに聞こえるように説明する。
「霜月草。寒冷地に自生する植物であり、強烈な冷気を発しているのが特徴。それを利用した寒冷地にのみ冷気が長く保存されるのが特徴で、それを生かした食料の保存や加工に利用される……、だってよ」
「いくら?」
「採取個数は二十本、報酬は七千フェズを支払わせていただくとのことです」
「じゃあそれにさせてもらう」
「承りました。ではこちらにサインを」
リュウセイ、ユウキはサインを書き、集会場の外に向かう。
「なあ、その草が生えてるのはさ、あの山でいいんだよな?」
外を指さしながらユウキはシャロンに疑問を問いかける。
「ええ、この街の外にある山が冒険者様の主な活動場所になるでしょう。ではご健闘をお祈りしております」
職員の一例をに送られながら、二人は外に出て街の外にそびえたつ巨大な山脈を見上げる。その山脈は時期云々ではなく、いつでも雪に覆われており、慣れていない者が奥地に足を踏み入れるとそのまま帰ってこられなくなるといわれているほどの険しい山脈である。だが、躊躇いもなく二人はその山脈に歩みを進めた。それがどんなに危険な場所であっても足を踏み入れなければならない。冒険をしなければならない。それが冒険者の世界に足を踏み入れたものの責務である。
「しっかし、ほんとに寒い!防寒具がなかったら死ぬわこんなん!」
「だったらさっさと終わらせて戻るぞ」
軽く風で雪が舞い上がっている中、二人は地面を掘り返しながら目的のものを探していた。顔を叩く風が感じたことがないほどに冷たく、雪を掘り返している手はじわじわと体温が奪われている。こちら側にきてからこのような事態に陥ることがなかったため、耐性が落ちており指先が小さく震えている。手袋についた雪は体温で溶け水になり、手袋に染み込んでわずかな体温をさらに奪っていく。
「指がぁ……」
ユウキが手袋を外し、手をもんだ後、指先を口に入れて暖を取る。
「なあ、そのスコップ貸してくれよ。もう手袋も濡れちまって意味をなしてないんだよ……」
「やだね。一昨日防寒具を貸さなかった報いを受けやがれ」
そういったリュウセイは再び背を向け作業に戻る。ユウキはうらやましそうにスコップを見つめながら再び雪を掘り始めた。リュウセイが使っているのは小型の折り畳み式のスコップ、掘ったり引っかけたり、敵の頭を砕いたりと割と何でもありの万能アイテムである。
「てか、今何個見つかってるよ?もう十本は採ってないとさすがに厳しいぞ。俺は四本とれた」
「五本だな。このままのペースじゃ少し厳しいかもな。ペースを上げるか?」
「そうするしかないでしょ。この雪の中で野宿なんでしたら死んじまうよ」
ユウキは掘るペースを上げまるで犬が地面を掘り返すかのように掘り始める。恥も外聞もないような掘り方であるが、それに感化されリュウセイの掘る速度も無意識のうちに上がっていく。その後二人は順調に目標をゲットし続けた。そして日が沈みかかったころ目標の二十本の霜月草を手に入れて二人は町に帰還した。
「体の芯が冷え切ってて震えが止まらんのだが」
「安心しろ俺もだ」
ユウキは体を抱くようにしながらリュウセイの隣を歩き続けている。彼も同じように背を丸めている。極寒がそうさせていた。日も落ち、それに伴い下がった気温は二人の体から体温を奪っていく。一度も保温性の高い上着を脱がなかった二人は服の下が汗まみれになっている。それがさらに体温を奪い、震えを助長させていた。北国育ちであるはずのユウキもそれを知ってはいたが忘れてしまっており寒さでガタガタと震えることになってしまっている。
「とりあえず教えてもらったサウナに行こうぜ。俺も寒いし、単純にゆっくりしたい」
二人は寒さに耐えながら黙って歩き始める。顔が白くなった二人を見て冒険者の一人が教えてくれたサウナに向かっている。サウナならば冷え切った二人の体を温めてくれる。温泉ではないのかと思ったが、そもそも温泉は近くに火山がある場所に存在するというのが一般的である。この付近に火山は存在せず、地下に温泉が存在しているとしても、それを掘り出すのは至難の業。地上で燃料を使って大量のお湯を沸かすよりかはサウナのほうがまだ手軽で実用的である。
そんなことはさておき、二人はサウナを運営している施設にたどり着く。この寒さではやはりみな暖が欲しいのか、集会場並みに賑わっており男女問わず人が行きかっている。人ごみを掻き分けて中に入ると建物内は暖炉なしであるにも関わらず、妙な温かさに包まれている。この暖かさがどこからきているのかを察した二人は不思議と口角が上がり足が早まる。
二人は受付に使用料の銀貨一枚を渡し、足早に服を脱ぎ捨てサウナに飛び込む。扉を開けるや否や、湿っぽい熱気が二人の冷えた身体を叩く。その熱気を全身で浴びた二人はそのあまりの気持ちよさに力が抜けそうになる。すぐに立ち直りひな壇の一番上に座るとほっと大きく息をつく。
「あぁ~。極楽~。何時間でもここにいられるわ~」
「死ぬからやめとけ~。でも気持ちはすっごくわかる~」
ユウキの発言に茶々を入れるリュウセイの顔も完全に緩み切っている。冷気で硬くなっていた体がほぐれ、疲れが飛んでいくようである。この後二人は二十分近くサウナの中にいたのだが一言もしゃべることはなかった。別に急に仲が悪くなったわけではない。あまりにも極楽過ぎて何も考えたくなくなってしまったのだ。体がほぐれるどころか、頭の中までほぐれてしまったようである。しかし、二十分を超えてくるとさすがに温かさを通り越し体が熱くなり顔がほてってくる。
二人がサウナを後にして外に出ると、襲ってくる寒さで緩んでいた二人がシャキッと引き締まる。引き締まった二人の意識が捉えたのは大きな酒場。来るときには気づかなかったがこちらも大変賑わっている。サウナの前に店を構えることで酒を求める人たちが入れ食いのように釣れるのだろう。うまい商売だと思いながらも目の前に餌をつるされた二匹の魚は逃げることが出来ない。二人は店に入ると同時に注文し、運ばれてきたジョッキの中の冷えた酒でのどを潤し、そのうまさに歓喜の悲鳴を上げたのだった。
次の日、二人は集会場で奇妙な依頼を受け町の外れにやってきていた。
「ん?町の外に出ちまったぞ?いいのかこれ」
「いいんだ。なんか町の外にもいくつか集落があるらしいぞ。単に町の外に出ていたほうがしやすい仕事があるらしい」
ユウキは納得したように首を縦に振る。それからすぐに目的の集落に到着する。集落とはいっても家が五軒ほどあるだけ。本当にただの民家の集まり程度の規模でしかなかった。ぐるっと見回した後、依頼者の家に向かう。メモに書かれた家の特徴を辿りその家に着くと家のドアをノックする。しばらくすると中から妙齢の男性が姿を見せた。武器を担いだ二人の姿を見て男はピンと来たような表情をした。
「冒険者の方ですね。依頼を受けていただきありがとうございます。まずはお入りください」
中に招かれた二人は遠慮なく中に入る。テーブルに着くと横からすぐに湯気の立った茶が出される。
「今日はだいぶ暖かくていいですな」
「そうですね。こっちに来たのは一昨日なのでこのくらいがちょうどいい」
「ほう。最近よそから来たのですか。ここの寒さはつらいでしょう」
「慣れてしまえば何てことなくなるでしょう?」
リュウセイと男が和やかに談笑しているのをジト目で見ながらユウキは茶を啜る。ユウキはあまり無駄話をする気分ではない。早く本題に入ってほしいと思いながらユウキはリュウセイをジト目で睨む。そんなユウキの心情を知ってか、男は雑談をやめ、表情を引き締める。
「依頼の内容ですが、最近食料が荒らされることがありまして。その見回りをお願いしたいのです。我々も交代で見回りしたのですが、雪と風で足跡が消されてしまい犯人の足取りが全くつかめないのです。報酬は明記していた通り、一日につき一万五千フェズを出させていただきます。お願いできますでしょうか?」
「そんなこと言われるまでもない。もともと依頼を受けるつもりで来たんだからな」
リュウセイが力の籠った声で男の問いに答える。この依頼書を始めて見た時の二人の印象は不気味。何かがわからないものから集落を守るのは不気味で仕方なかった。がそれでも決心して受けてしまった以上、少なくとも一日は達成しなければ面目が立たない。覚悟を決めた二人は改めて男に伝えた。
「ありがとうございます。紹介が遅れました。私はシリウスといいます」
男と二人の間で契約が成り立ち、再び和やかな雰囲気に戻る。依頼の内容確認が終わり、今度はユウキも混ざり雑談をしていると、家の奥からドタドタという音が鳴り始め、その男を聞いた男は眉を顰める。しばらくすると、奥のほうから若い男が出てくる。布の袋を持った男を見るや否や、シリウスは大きく声を張り上げた。二人はいきなりの事態に肩を小さく震わせる。
「何をやっているシュバル!お前には今日やれといった仕事があるだろう!終わらせたのか?」
一瞬シュバルと呼ばれた男は二人を見てぎょっとした表情になるが、すぐにシリウスの言葉など意にも介していないように顔を背け家から出ていく。その様子を見たシリウスは追いかけようとするが、二人がいるためか、椅子から腰を浮かせただけで追いかけていくことはなかった。浮かせた腰を再び椅子を降ろすと苦笑いを浮かべながら弁明するように言葉を紡ぐ。
「いやあ、すみません。あれはうちの愚息でして。フラっと街に行ってはよく傷を作って帰ってくるのです」
「「知ってます」」
「はい?」
息ぴったりの二人の言葉にシリウスは首をかしげる。二人は男の顔に見覚えがあった。一昨日、チンピラに絡まれたときに助けた男。礼の一つも言わずにその場から逃げ去った男。それが今立ち去った男、シュバルだった。数奇な偶然にシリウスだけでなく二人も首を傾げることになった。
まだ未成年だからわかんないけど、サウナの後のビールっておいしいんですかね?




