第三十三話 雪の町、到着しました。
ゴブリンから村を守ってから一週間。二人は目的地である街へ向かっていた。マリチアの快晴と温暖さが嘘のように、空には雲がかかり寒さが肌を刺す。寒さ対策をしていなければ寒さで震えていただろう。現に隣の男はガタガタと震えている。
「サブいよぉ……。本当に死ぬくらい寒い……。お前は寒くないのか?」
「俺はもともと北国生まれだからこの程度の寒さだったらなんてことないよ。コートもマフラーもあるし」
ユウキは平気そうに腕を開きながら、体を抱いているリュウセイの問いかけに答える。二人の格好は正反対であり、それは二人の格好に寄っている。今年のこの地域の寒さは特別らしく、寒いことを理解してそれなりに着込んでいるはずのリュウセイが震えていることからわかりやすい。
「あと街までどれくらいだ?早く着かないと寒さでヤバイ」
「えーっと。確かあの村では歩いて十日くらいって言ってたからもうすぐ着くんじゃないか?今は雪降りそうだから、もちっと時間かかりそうだけど」
「わかった。そんでね、もしよかったらでいいんだけど、マフラーでもなんでもいいから寒さをしのげるものを貸してくれ……」
「走って体温上げるか、それとも唐辛子エキスでも飲む?」
ユウキは笑いながら腰のポーチを叩く。その中ではユウキがマリチアで買い足した唐辛子エキスが揺れている。リュウセイは一瞬目を細めると、自分の持っている荷物を一つにまとめ、肩にかける。
「じゃあどっちもでいこう。さっさと行くぞ!レリゴー!」
そういうと、リュウセイはユウキを置き去りにして全力で走り始める。それを見たユウキも後を追うように走り始める。二人の体力は大体同じ。二人とも同じようなペースで走り続け、そのまま予定よりも早く街についたのだった。街に着いたとき、二人は完全に疲れ切り街の入り口で汗だくで倒れていたのはご愛敬である。
空には雲がかかっており空からはシンシンと雪が降っている。街の周囲どころかその中にも雪が積もっており、街の外には大きく積み上げられた雪山があった。道はきれいに雪かきがされており、そこを人が歩いている。マリチアのように露天商はいないものの、建物に多くの人々が出入りしているため、見えない活気を感じることができる。人々はしっかりと防寒しており、一人だけ薄着のリュウセイが浮いている。
この街はシヴァリア。雪が降り積もる地方のスクロン地方の一番大きな街である。
「やっと着いた……。一日中、走り続けるとか、馬鹿かよ……。マラソンじゃないんだからさ……」
「ついてっ、くる、お前もお前だよ……。いいじゃねえか……。そのおかげで、あと二日はかかる、はずだったのを、もう着いたんだからよ……」
「もう何も、したくない……」
「宿取ったりギルドに行ったり、やることは多いぞ……。とりあえず立って、街に入るぞ」
倒れていた二人は息を整え疲れ切った体に鞭を打ち、緩慢な動きで街の中へ入る。そのゾンビのような動きに街の人々は不審そうな視線を送る。
「宿ってどこよ……。やわらかでなくていいからベットに寝っ転がりたい……」
「俺だってそうだよ……。ギルドは明日にして今日はとっとと休むか……」
二人は近くの宿に部屋を取りゆっくりと休息をとることにした。疲れ切っていた二人はベットに寝転がるや否や、ブーツやコートを脱ぐことなく意識を手放した。
翌日、二人は新しく街に来た時の習慣であるギルドへ向かっていた。そのあとはリュウセイの分の防寒具の調達に向かうつもりである。二人ともそれなりの実績を残している冒険者である。防寒具の一つや二つが問題なく買えるほどの金は持っている。
「しかし、雪が昨日より多く振ってるな。この分だと、大量に積もりそうだな」
「場所によるっちゃよるが、ここは雪が降る地域の中でも特に多く降る地方だからな、仕方ないだろ」
雪の降りてくる空を眺めながら疑問をこぼすと、ユウキよりもこの世界に詳しいリュウセイがそれに答える。降ってくる雪と戯れながら、二人はこの町のギルドに辿り着いた。大きめの街であるため、建物の中は多くの人々で賑わっている。だがやはり建物内部の設備は他とは大きく違っている。寒さ対策のために、扉は二重構造になっており、内部には大きな暖炉がいくつも設置されている。そのせいか、中は非常に暖かく中で働いている職員も比較的薄着である。今まで寒さで震えながら歩いていたリュウセイの震えが止まっている。
「じゃあ、とりあえず受付に行ってくるか。防寒具とかはそのあとだな」
「ああ、ほんとここあったかくて助かるわ」
二人は受付に向かって歩き出す。集会場の構造はどこでもさして変わらない。だからこそ、迷わずに受付にたどり着くことができた。
「すんませーん。受付お願いしまーす」
ユウキが大きく呼びかけると、奥から返答が返ってくる。数秒経つと、奥のほうから厚手のギルドの制服を着た男性が現れる。髪をきれいに撫で付け、きっちりと制服を着こなしている。動きの一つ一つに気品があり、無駄がない。
「お待たせいたしました。冒険者ギルド、シヴァリア支部でございます。私シャロンが担当させていただきます。どのような御用でございますか」
「今日のところは活動の登録を」
かしこまりました、といいながら、二人の冒険者カードを受け取る。男は二人の冒険者カードを見て、表情を小さく変える。
「BランクとEランクでございますか……」
「なんか問題あるか?」
「いえ、そんなことは。ランクの離れた者同士でパーティを組むというのは比較的珍しいことですので。気を悪くしたのでありましたら謝罪させていただきます」
「いや、さすがにそんなことで怒らんよ」
ユウキは手を振ってこたえる。が、男の発言に疑問を持ったユウキはちらりとリュウセイに視線を送ると、その視線に気づいたリュウセイはユウキの疑問に答える。
「確かにその通りだ。無いことも無いが、基本的にはパーティを組むのは同じくらいのランクの人間だ。ランクが違いすぎると高ランクの依頼を受けられなくなるからな」
フーン、と言いながら納得したユウキは職員のほうに向き直る。向き直ってすぐに登録が完了したのか二人のギルドカードを差し出している。それを受け取るとユウキたちは次の予定を組む。
「で、お前は防寒具買いに行く。俺は……、雑貨屋に行って道具の調達。後で集会場で合流ってことでいいか?」
「そうだな。この街で防寒具を売っている店と雑貨屋はどこか教えてくれ」
この街の地理に疎いリュウセイは受付に問いかける。紙切れに簡単な地図を描きながら説明する。
「防寒具に関しましてはここを出て、少し行ったところにございます。種類も多くお値段も安いのでここで卸していく必要なないでしょう。雑貨屋は集会場の裏手にあります。こちらの地図もご利用ください」
「なんて紳士的な対応なんだ……」
細かい気の利いたアドバイスや、見やすい地図を受け取りながら、男の紳士ぶりにユウキから無意識のうちに小さく言葉が漏れる。地図を受け取った二人は集会場から出て、それぞれの目的の場所に向かうことにした。
「とりあえず暗くなる前に合流はしよう。あんまり遅くならないようにな」
「ガキか?わかっとるわいそんなこと」
軽口をたたきあった後、二人は別れて歩き始めた。
そのあと、ユウキは雑貨屋でいくつかの日用品や依頼に使用する道具を買い込み、リュウセイは防寒具を一通りそろえた。ユウキの防寒具が比較的薄めのジャケットタイプであるのに対しリュウセイは中綿多めのコートである。二人の違いは単純に運動量の差である。
合流した二人は、集会場近くのレストランで簡単に食事を済ませ明日から再び始まる依頼をこなす日々に備え、宿で休むことにした。二人がとった宿と、集会場は微妙に距離がある。二人はのんびりと空を見ながら宿に向かって歩く。真っ暗の空には星が白く光り輝いており、埋め尽くしている。現代で生活していては見られない美しさに言葉を漏らしながら二人は歩く。
そうして歩いていた二人の耳が妙な音を捕らえる。人間が言い争うような音。音の種類から全員男であろう。それが気になった二人は宿への道から外れ、脇道に入っていく。声がはっきりと聞き取れるようになるほど近づくと、事の全貌が次第に明らかになる。
「てめえ、いい加減にしろって言ってんだよ!毎日のように下手な音鳴らしやがって。寝れねえんだよ!」
「昼間の空き地で俺が何しようと勝手だろ!」
二人が声のもとである路地をのぞき込むと、一人の男が二人組に絡まれており、男のほうは頬が腫れているのがうっすらと確認できる。二人組は多少は鍛えられているようで、今にもひ弱な男を袋叩きにしようとしている。
「大体昼間まで寝てんじゃねえよ!てめえいい年だろうが!少しはまともに働いたらどうだ!」
どうして火に油を注ぐのかといわんばかりの発言である。二人組の片割れは今にも爆発しそうなほどに怒りで顔を赤く染めている。
「あれ、どうするよ?」
「もちろん助けるだろ。どっちに非があれ、さすがに見過ごせない」
リュウセイの答えにユウキは小さく「そうか」と答え、胸元からナイフを取り出そうとする。がそれに気づいたリュウセイは胸元に差し込まれたユウキの手を制止する。
「さすがに殺しはまずいって。クラシックに行こうぜ」
「クラシックに?」
「クラシックに」
ユウキは胸元に差し込んだ手を戻しグローブをはめなおす。そうしていると、路地裏に打撃音が鳴り響く。突然の振動にそのほうを振り向くと、二人組の一人が拳を振りぬいており、男は路地に倒れこんでいる。それを見たリュウセイはすぐに二人の前に飛び出す。
「おい!やめろ!」
リュウセイの制止に二人組は振り返る。いきなりの闖入者に怒りをあらわにする。
「んだてめえ!何のつもりだ!」
「んな弱そうなやつに二人掛かりで絡んで恥ずかしくねえのか!しかもてめえらが悪いんだろ!」
「うるせえてめえには関係ねえだろ!」「もういい!こいつもついでにやっちまえ!」
二人組がリュウセイに拳を振り上げ襲い掛かる。それをリュウセイの背後から見ていたユウキはリュウセイの前に飛び出し男の一人の拳を受け止め反撃の一撃を顎に叩き込む。それに驚いたもう一人の動きが止まった瞬間に、リュウセイが腹部に膝蹴りを打ち込み、倒れていく無防備な背中に肘で追撃を加え、地面に叩きつけた。
「んだこいつら、全然じゃねえか。全然動けてないところを見ると冒険者ですらねえのか」
「こっちとしては楽でよかったけどな。っとそうだあいつは……」
リュウセイが殴られた男がいたほうを向くと、男はいつの間にか音もなくその場からいなくなっていた。そのあまりにも突然のことに二人は驚き、ユウキはタダ働きをさせられたような感覚に陥った。
「んにゃろう……。礼くらい言ってけよ……」
「まあ別にいいじゃん。お礼が欲しくてやったわけじゃなし」
「俺は欲しかったんだよ」
ユウキは男たちを指さす。
「これ、どうすんの?」
「うーん、放置でいいんじゃね?それなりに着込んでるみたいだし、凍死することはないでしょ」
「んじゃさっさと行きますか」
二人は二人組を放置し、小走りでその場を離れ再び宿への道に戻った。
最後に出てきた男は今章で非常に重要になってくる人物です。ぜひ覚えておいてください。




