第三十一話 途中の村、救助することにしました。
三日ごとの投稿にするとやっぱり投稿自体はすごく楽になりますね。その分新作を書かなきゃならんからどっこいどっこいだけど……。まあ、頑張りますので応援をよろしく。
ユウキは共に旅をすることとなった転生者、リュウセイと馬車の荷台で話し込んでいた。最初は自分の経歴からこれまでにこなした依頼の内容、最近の自分の出来事などをお互いに自慢するようにして話し込み続けていた。しかしリュウセイのほうが歴が長く、実力も上。ユウキの自慢は彼の冒険譚で霞んでしまっていた(本人は聞いてもらっているだけでうれしいため正直どうでもよかった)。
「へえー。最近ちらちら噂になってたウミヘビを殺した冒険者っていうのはお前だったのか。あえて光栄だな」
「それは俺だって同じさ。冒険者マガジンであんたの記事を読んで俺は感激したんだ。高い実力を持つほどの実力派B級冒険者。特殊な武器を取り扱い、敵を一撃で粉砕する遠距離攻撃手。そして何より……」
「俺と同じ転生者、か?」
ユウキは自分のことを考えていたことが見抜かれ、ぎょっとした表情で目の前に向かい合って座るリュウセイのことを見つめる。その表情を見てリュウセイは肩をすくめながら、鼻で小さく息を吐きながらその問いかけに答える。
「物理的にも感覚的にもまるわかりだよ。俺も転生者だからさ。同類の人間は何となくわかるんだ。一目見て『あっ、こいつは転生者だな』ってすぐにわかったよ。物理的なこともそうだよ、この世界じゃその体格でそんなデカい剣を使うやつはいない。だったら考えられることは一つしかない、だろ?」
リュウセイの推理にユウキはため息を漏らす。自分が褒められているように聞こえたのか、リュウセイは軽く弁明をするように話し始める。
「つっても、こんなもんそれなりにこっちで暮らせばどんなバカでもわかるようになる。個人差はあるけどな」
フーン、とユウキは息を漏らし座りなおすと、会話を再開する。
「ま、そんなことはどうでもいいや。それより、お互いに転生者ってことが分かったところで、自分の死因でも話そうぜ」
リュウセイの突込みを回避しながらユウキはゆるい雰囲気で会話の種を切り出す。このネタはユウキも、リュウセイもお互いに気になっていたことだった。先に切り出したのはユウキのほう。自分の死因であるというのに、まるで気負った様子を見せることなく、あっけらかんと話し始めた。
「俺は……、トラックにはねられた後、女子に触られて死んだ!」
ユウキは一拍貯めたかと思うと語弊が生じそうな言い方で自身の死因を話す。その言い方があまりにも滑稽だったのか、リュウセイは吹き出してしまい突込みを入れざるを得なくなる。
「おま……、それ……、その言い方だと女子に触られたから死んだみたいになるぞ……」
「ある意味では間違ってないんだよなそれ。かといってあの女子が触ってくれなかったらこの世界にもこれなかったわけだし、殺された恨み半分、感謝半分、って感じなんだよな。で、そっちは?」
ツボに入ったのか、腹を抑えてくつくつと笑い続けているリュウセイに同じ話題を問い掛ける。すると、にやけながらリュウセイもその問いに答える。
「俺は……、雷に打たれて死んだよ。雨の日に傘さして普通に歩いてて気づいたらあの神様のところだったよ。あの時は本当に何事かと思ったよ」
「お互い、大変だったんだな」
二人は自分の死因を慰めあうようにして語らい続ける。が、お互い死因につらい感情などは一切持っていないため、すぐにしんみりとした空気もなくなり馬鹿話で盛り上がり始めた。その話し方は十年来の友人のようで最初のような硬さは全くなかった(最もこの二人の場合最初から堅かったとは言えないが)。
いったいどれほど語り合っていたのかわからないほど二人は語り合い続けた。気づけば日も落ち、あたりは暗くなっている。二人が話していた間に別の街についており、今日はここで一泊ということになる。
「よっしゃ!街に着いたことだしこの出会いを祝うために、呑むぞ!」
「なぁんか声のトーンがただ酒を飲みたいだけみたいに聞こえるんだが?」
「そうともいう!とにかく行こうぜ!御者のおっさんも誘ってさ!」
そういうとユウキはリュウセイと御者の肩に手をかけ引きずるようにして近くの酒場に入っていく。そして、店に入るなりすぐに飲み始めた。が、ユウキも馬鹿ではない。酒の飲み方を覚えたユウキは暴れることなく、楽しく酒を飲んで一日を終えた。
リュウセイと出会って早三日。二人は話をしたり襲ってきたゴブリンを返り討ちにしたり、襲ってきた盗賊を返り討ちにして逆に巻き上げたりをしながら共通の目的地へと向かっていた。その道のりは平和そのもの。が、それを一変させる出来事が起こる。休憩のために立ち寄った村でそれは起こった。村の顔ともいえる看板は今にも倒れそうなほどにボロボロになっており、周囲をぐるりと囲う柵はところどころ倒れ、バキバキに折られておりで柵としての機能を果たしていない状態である。
村の状態を訝しみながら馬車が村に入ると中は凄惨の一言に尽きた。野戦病院のように血に染まった包帯で巻かれた人々がそこらじゅうで倒れている。鼻をつく《《二種類》》の臭い。見えはしないが、死臭が立ち込めていることからおそらくそれらもどこかにあるのだろう。ともかくひどい状況で平和とは無縁の状態であった。
「どうする?迂回して別のルートから向かおうか?」
そのあまりの光景に御者が顔をしかめながら提案をする。が、ここまで凄惨な状態だと経緯に若干の興味も沸く。何より同乗者がそれを許さなかった。
「事情を聴きに行ってみよう。さっすがにこんな状況見過ごせない」
リュウセイがいち早く馬車から降り村の中心部へと向かい始める。そのあとに続いてユウキも馬車を降りる。歩きながら周囲を見渡し、ユウキは眉間にしわを寄せる。
「しかし、まるで野戦病院だな。んなもん見たことないけど」
「ある程度冒険者やってるけど俺もここまでのはあまり見たことがないな。どう考えてもまともじゃない」
ユウキのつぶやきにリュウセイが呼応する。歩きながら話の聞けそうな人物を探し続けているとしばらくして大勢に囲まれた老人を発見する。
「ちょっといいか?これ、いったいどういう状況なのか、教えてくれ」
打ちひしがれるようにうつむいていた老人がゆっくりと顔を上げ話しかけてきた人物を確認する。体の腹部付近で視線が止まった老人は目の前の男が冒険者であることを認識しリュウセイに縋り付く。
「冒険者でございますか!?ああ、なんとありがたい!ここにあなた方が来られたのはまさに運命であります!」
老人の大声で周囲の人間の視線が二人に集中する。そして、ざわめきは二人が見えないところにも広がり、次第に歓喜の声が混ざり始めた。老人に縋り付かれたままのリュウセイは、肩に手を置き老人を落ち着かせ事情を聞き出そうとする。落ち着きを取り戻し始めた老人は、自分たちの置かれた状況を話し始めた。
「はい……。実は私たちの村にゴブリンたちが襲い掛かってきまして……。はじめは一、二匹だったので腕っぷしの強い男たちで対処できていたのですが、次第に数が増え、今では五十近い軍勢で襲撃をしてくるように……もちろん私たちも村を守るために戦ったのですが、もはや私たちだけでは手に余るように……」
リュウセイは老人の言葉を相槌を打ちながら、親身になって話を聞いている。ユウキもリュウセイの後ろにつき、話を聞き状況を整理している。簡単にまとめるとこうだ。村にゴブリンの大群が襲ってきた。終わり。簡単すぎると思うかもしれないがこれ以上でもこれ以下でもない。
しかし、村人たちにとっては大問題である。五十近い軍勢となれば確かに素人の村人たちで厳しいものがある。さらに戦い慣れしていない村人では小柄ながらもそれなりの戦闘力を持つゴブリンを対処するのは難しい。それゆえ、冒険者である二人が来た時に村人たちは目を輝かせたのだろう。状況を理解した二人はユウキもリュウセイもこの後言われることも理解した。
「お願いいたします!どうかゴブリンの軍勢を退けていただけませんでしょうか!我々だけではもう二日と持ちません!冒険者のお二人に協力していただきたいのです!」
「……ふぅん」
ユウキは鼻から大きく息を吐きだす。正直やりたくないというのがユウキの本心だった。それに気づいた老人は、誠意を見せるといった意味で姿勢を正し言葉を続ける。
「もちろんただでとは言いません。今の我々にできる最大限のご報酬をお渡しさせていただきます」
そういうと老人は近くにいた女性に指示し、近くの民家から袋を取ってこさせる。そしてそれを受け取ると、二人に差し出した。
「私にできる精いっぱいの報酬です。誠実であろうお二人にかけて、こちらを先にお渡しします。お受け取りください」
ユウキは袋の中身を受け取らないまま確認する。入っている硬貨は銀貨が十五枚と銅貨が五枚ほど。報酬として出された袋の中身は確かに少なく、五十体以上のゴブリンを相手取るのに一万フェズ程度では明らかに相場より下だ。せめて銀貨が三十枚がなければならない。
しかし、老人の表情から察するに相場より低いことが分かっていながらも頼んでいる。まさに藁にも縋る気持ちで頼んでいるのだと二人は察した。村を守るための涙の出そうなほど健気な覚悟を無碍にはできない。リュウセイはそう考えた。ユウキの答えを聞くことなく、リュウセイは袋を受け取り、老人の肩に手を置く。
「大丈夫だ。俺たちがゴブリンを退治する。絶対にだ」
その言葉に老人だけでなく周りの人間も感動のあまり、とめどなく涙を流し始める。そんな感動的なムードの中、ユウキはリュウセイの頭を思いっきりひっぱたいた。感動的なムードを台無しにするよう乾いた音が鳴り響く。
「おい、めったなこと言うもんじゃねえ。もしダメだったらどうしてくれんだ。俺は心中はごめんだぞ」
「わかってるって。お前に迷惑かけるつもりはないからお前は先行ってもいいよ」
「冗談。どうせもう梃子でもここから動かないんだろ?だったら乗ってやろうじゃねえか。どうせ一人で行っても仕方ねえし、同類と話したいこともあるからな」
ユウキのその言葉にリュウセイは笑顔を浮かべて、さすっていた手を拳に変えユウキの前に差し出す。その拳にユウキも拳をぶつける。
「絶対に勝つぞ」
「わかってる。けどその前に付き合うための条件だ。動ける村人も一緒に戦わせるぞ。絶対に俺たちだけじゃ手が足りない」
「ああ、そこに関しては俺も同意見だから老人に頼んでおく。まずは情報収集だな。話を聞いてそれから簡単な作戦を組もう」
二人は別れリュウセイは老人のもとへ、ユウキは村の外へ向かい、お互いに情報収集を始めたのだった。
「んでどうだった?いつ頃襲撃が来るとかは聞けたか?」
「周期的には二日ごとらしいから、次の襲撃は明日の夜らしい。そっちは?」
「根城らしいもんは見つけたよ。数はさすがにわかんなかったけど、たぶん結構デカい群れに、一体デカいのがいる。足跡で確認したから間違いない。もーう逃げたくなってきた」
二人はお互いで調べてきた情報を話し合う。群れの規模は相当大きい。そんな群れと戦ってきたのだから村人たちがあのようになるのも無理はないと、二人は頭を抱えた。村人たちは傷つき、無傷な人間は数人しかいない。その状況でゴブリン以外の何かがいるというのは、まさに泣きっ面に蜂というものだ。
しかし、あるもので何とか戦うしかない。それが二人に課せられた義務であった。
「とりあえず、柵は作ろうぜ。最低限の守りくらいは確保したい」
「そうだな。基礎としてそれくらいは村人たちにやってもらおう。それ以外にも何かしら作戦を考えたほうがいい。どうする?」
「そうだな……」
二人は顎に手を当て、お互いに、思うがまま作戦を考える。数分ほど考えたあたりで、ユウキが口を開いた。
「んじゃ、こんなのはどうだ」
二人の作戦会議は夜遅くまで続く。翌日、その作戦を実行するために村人たち総出で準備に取り掛かる。
夜の帳のなか、ゴブリンたちの下卑た笑いが響き渡る。群れを成したゴブリンは津波となり、村で破壊の限りを尽くそうとしていた。人間からすべて奪い取り、女は凌辱の限りを尽くす。それがゴブリンたちの生き様である。また、それを指示するものも人間からすべてを奪い去ろうとしていた。ゴブリンたちは半円を描くように隊列を組み、村を包囲しながらじりじりと近づいていく。これから起こす村での殺戮。人間たちの悲鳴が頭の中で流れゴブリンたちは楽しそうに下卑た笑みを浮かべる。そろそろ村に到着だというときにゴブリンたちは異変に気が付く。
戦いの中で壊れ、ボロボロだったはずの柵がすべて治り村を厳重に囲っている。高くそびえるその柵はゴブリンの身長では跳躍してもなお届かなくことはない。引き抜こうとするが、がっちりと埋め込まれているため、ゴブリンの身長の低さもあって引き抜くことは適わない。
ならばと思い、ゴブリンたちは大挙して村の出入り口に駆け出す。この村で唯一柵が張られていない、守りの薄いところ。今までも入り口から攻めることが一番多かった。ゴブリンの脳みそではその程度の認識。だったのだがその出入り口はがっちりと建物の残骸などでバリケードが張られており、ゴブリンたちが一斉に押しても動かないほど頑丈に固められていた。
前回襲撃したのは二日前。それから今日までの間に村の防御が完璧になっている。こんなことはあり得ない。不可解な出来事にゴブリンたちの脳はパニック状態になり、意味もなく騒ぎ立てる。その騒ぎはゴブリンからゴブリンへと波及し、ざわつきは高まっていく。
パニックになったゴブリンたちは持っていた武器で柵をガンガンと叩き始める。が、しっかりと埋め込まれた柵の根元はびくともしない。どうしようかとギャアギャアと騒ぎ立てていると、程なくして騒ぎが収まる。ゴブリンの一体が柵の隙間を発見したのだ。ゴブリンたちはこれ幸いとそこから入り込んでいく。隙間がゴブリン一体分しかないせいで、入り込むのは容易ではないが、一匹ずつ侵入していく。ある程度の数が溜まったあたりでゴブリンたちは近くの民家に扉を破りながら村の中を我が物顔で進んでいく。
しかし、ゴブリンたちは気づかない。これらがすべて作戦であることを。これは入ったらもう出られないネズミの罠のようなもの。甘い匂いに誘われた虫のように蜘蛛の巣へと近づいていく。人間の逆襲が今、始まろうとしていた。




