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冒険、始めちゃいました。  作者: カイナベル
第二章 海の町編
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第二十九話 祝勝会、無礼講でした。

 

 ウミヘビを討伐したユウキ達冒険者は、すぐにフィリウスに戻りレギーの治療に当たった。フィリウスにたどり着いてもなお目を覚まさなかったため、助からないかと思われたが、必死の治療で、一週間ほどで自力で起き上がれるほどまで回復した。幸いにも後遺症になる傷もなくそのことに責任者であるフォートはこれで胸を張って帰れる、と胸を撫でおろした。本人とも相談し、帰投のための体力が確保できたことを確認したフォートとオルトは帰投の指示を出した。


 ユウキもそれに便乗してマリチアに帰るつもりであり宿に置いてあった荷物をまとめていた。とはいってもそこまで荷物が多い訳でもないため、荷物まとめはすぐに終わり手持ち無沙汰になる。冒険者たちの準備の手伝いをしようかとも考えたが、脳裏に別の事が浮かびあがった。このまま挨拶もなしにマリチアに帰るわけにはいかないため、部屋から出て海へ向かう。


 砂浜にたどり着いたユウキは海を見渡す。彼らがいないことを確認すると呼び出すために高らかに指笛を吹き鳴らす。すると二十秒としないうちに水面に水しぶきが跳ね始める。さらに数十秒ほどでユウキの足元にイルカたちが集まってくる。レギーの救出の際には一番の活躍を見せたイルカたち。彼らと別れるためにユウキはイルカたちを撫でながら話しかけていく。


「あの時はごめんな。怖いのに無理やりに手伝わせちまって」


 イルカたちはユウキの言葉を聞くと、大きく全員が甲高い声で鳴き始める。声を聴くだけでいい。罪悪感を感じているユウキはそれだけで救われる。ユウキとて鬼ではない。罪悪感を感じることだってある。無垢なイルカであればなおさらである。


「俺は明日あっちに帰るから。元気で頑張ってくれよ。また会いに来るからな」


 ユウキが別れを告げるとイルカたちは表情を曇らせ、ユウキの足元を回り始める。あれほどまでに協力してもらったイルカたちの表情を曇らせたまま帰るのは複雑である。どうしようかと考えていると、ユウキの隣に男が並び立つ。しかし、考えてもいい考えは浮かばない。なので、彼らが満足するまで撫でることで許してもらうことにした。考えを実行に移すために服が汚れることもいとわずにイルカたちを撫で始めた。


 


















 フィリウスを去って三日。彼らの乗る船は道中荒れた海原を進みマリチアに辿り着いた。船が港に入り込むと港には到着を待ちわびていた冒険者の身内やギルド長、レギーの安否を心配する乗組員たちで溢れかえっている。船が完全に停止したところで一番最初にフォート、オルトが船から降り安全を確認する。そして、その後に続き冒険者に肩を借りながら歩くレギーが港に降り立った。その瞬間、港が歓声に包まれる。中でも歓声が大きかったのは船の乗組員たち。彼の部下は真っ先に駆け寄り、彼の帰還を涙ながらに喜んでいる。それは冒険者たちの家族も同様で、安否を確認した者は思い思いに再会を喜んでいる。


 先頭で彼らの到着を待っていたレンゾはフォートとオルトのもとに向かい、労いの言葉をかける。


「よく彼を救出し全員で生還してくれた。私は君たちを誇りに思う」


 彼の言葉に二人は軽く頭を下げる。頭を下げている二人から視線を外しチラリと船から降りてくる冒険者たちを見ているとその中から二人の冒険者に肩を借りてユウキが船から降りてくる。顔面蒼白で口元を抑えている。オルトが頭を上げ彼の視線の先に気付くと補足するように口を開く。


「あれは単なる船酔いで吐きそうになってるだけ。別に怪我とかそういんじゃない」


 オルトの説明とユウキの青い顔で納得したレンゾは先ほどのような引き締まった表情に周りで家族との再会を祝している冒険者たちに呼びかける。


「さあ、お前たちも家族のところに行ってこい。冒険者の諸君!今日はギルドの酒場で宴会だ!楽しみにしておけよ!」


 レンゾの声を聴いた冒険者たちは大歓声を上げ喜びを爆発させる。隣に立つフォートは顔を顰めているが、命をかけた戦いを行った冒険者たちを労うために今日くらいは、と思ったのか口の端を上げ顔を綻ばせる。


 が、この大騒ぎの中。二人、歓声を上げていない者がいた。一人はオルト。家族に会うために雑踏の中を駆けていた。話したいことが山のようになる。父の殺した仇を打ったこと。目標ができたこと。早く話したい。そう思いながら、自分の家に走っていた。一方、ユウキはそれどころではないほどの吐き気に襲われており喜ぼうにも喜べない状態でいた。一人で端のほうで座り込んでいると目の前に人が立つ。顔を上げるとそこには肩を借りながら立っているレギーがいた。


「久しぶりだね。体調はどうだい?」


「大丈夫に、見える、んだっ……ったら、あんた、目腐ってるよ」


「そうだな。わかりきったことを聞いてしまった。申し訳ない」


 レギーは部下に水を持ってくるように指示するとユウキの隣に座る。


「今回、君がイルカを駆り、私を救出してくれたと聞いた。あっちではあまり話す機会がなかったからここで礼を言わせてもらおう。本当に感謝している」


 レギーはユウキのほうを向くと、頭を下げる。がグロッキー状態のユウキの耳に入っていても、頭までは届いていない。ここで、レギーの部下から水が手渡される。受け取った水を一気に飲み干したユウキはだいぶ楽になり、青ざめていた顔色も少しはましになる。


「だいぶ楽になった。で、何の話だっけか?」


「いや、たいしたことではない。私の気持ちの話だ。ところで今回、君はギルドから報酬を受け取れないと聞いたが本当かね?」


「そうだよ。あっちの裁定次第ではあるけど、今回俺はボランティア。まあ満足してやったから一応問題なし」


「それではあまりに不憫すぎるな。私個人として贈り物をさせてもらおう。それなりに価値のあるものだ。ぜひ受け取ってくれ」


「待ってました!」


 レギーの言葉を聞いたユウキは先ほどの様子が嘘のように飛び上がると、手をたたき喜びを表現する。その変わりようにレギーはもはや驚くことしかできない。


「絶対だかんな!絶対にくれよ!」


「何騒いでいるんだ問題児」


 ユウキが騒ぎながらレギーに詰め寄っていると背後からレンゾに肩を頭を叩かれる。ユウキの様子を見ながら鼻からため息を吹き出す。


「ともかく、唐突であったにも関わらず協力してくれたことを感謝する。ギルドとしては報酬を払うことができないのは非常に残念に思う」


 引き締まったギルド長としての表情が緩み、気のいい冒険者の表情に変わる。


「だが、宴会には参加してくれよ!存分に飲んで食って騒いでくれ!もちろん支払いはギルド負担だ!」


 それじゃあな、と去っていくレンゾの背中を見送る。小さくなった背中から視線を外しレギーのほうを向く。


「それじゃ、俺もちょっと行ってくる」


「ああ、明日あたりにでも私たちのところに来てくれ。好きなものを渡そう」


 ユウキはレギーに手を振りながらその場を後にした。夜の宴会が楽しみなのか、先ほどとは違いその足取りは心なしか軽かった。



















「それでは音頭は俺様オルトがとるぞ!今回の依頼で全員生還できたことは奇跡に近い!ひとえに全員の協力あってこそだろう。全員で協力しなければどうしようもなかっただろう!こうして全員で飲むことができることを俺はうれしく思う!」

 

 このあたりで周りからブーイングが上がり始める。長い音頭に辟易したユウキが勝手に始めようかとジョッキを持ち上げたところで、オルトの雰囲気が変わる。


「が、今回のMVPは他でもないユウキだろう!あいつの協力なしでは今回やつを討伐どころか救出すら難しかった!」


「ともかぁく!全員で飲めることをうれしく思う!今回の宴会で英気を養い、明日からまた頑張っていこう!」


 そこまで話したところでオルトが小さくジョッキを持ち上げる。それが合図であることを感じ取った店内の全員がジョッキを持ち上げる。今か今かと待ちわびていた彼らの表情は緩み切っている。そして今日一番の大きさでオルトが声を上げた。


「カンパーイ!」 


「「「「「カンパーイ!!!」」」」」


 宴会が始まり、その場は無礼講と化した。












 宴会が始まってから一時間。盛り上がりは収まらず冒険者たちは騒ぎ続けている。あるものは飲み比べ、あるものは海鮮料理に舌鼓を打ち、あるものは自分の武勇を店員に聞かせるなどして思い思いに楽しんでいた。ユウキももちろん楽しんでいるがどことなく疎外感を覚えていた。原因としては酒の存在だろう。この場のユウキ以外の全員が酒を飲んでおり、ユウキだけが酔っていない。飲んでみたくもあるユウキだったが、前の世界での道徳心が邪魔をしている。しかし、後押しさえあれば飲む、そんな心理状態だった。


 そんな時、ユウキの肩に手がかかる。


「よう、ユウキ!飲んでるか!」


 ご機嫌なオルトの息がかかり、ユウキは顔をしかめる。口から漂うアルコール臭交じりの息はユウキを少し不快にさせる。自分とは真逆の破顔した顔を見てイラっとしたユウキは肩にかかった手を払う。


「飲んでるし喰ってるよ。めちゃくちゃうまくて俺大満足」


 その言葉を聞いたオルトは再び肩に手をかけ、バシバシと叩き始める。また外そうかとも思ったが、鼬ごっこになるかもしれないと考えたユウキは、諦めてそのままの状態で料理を楽しむことにした。フォークで魚の身を崩しながら、頬張っているとオルトがジョッキの中を覗き込み、不思議そうな表情をする。


「ん?これ酒じゃねえな?なんで飲まないんだよ、もったいない」


 そういうとオルトは店員に葡萄酒を注文する。気にせずユウキが魚の煮込み料理に舌鼓を打っていると、ドンと大きな音を立てて、ユウキの前に葡萄酒の入ったジョッキが置かれる。勢いよく置かれたジョッキから葡萄酒がこぼれ、取り皿にかかる。


「なんこれ?」


「お前の分の葡萄酒だ。グイっといっちまえ!」


 中身は紫色の液体。それがブドウ特有の酸味のある臭いを放っている。オルトがジョッキを置く際にそれなりの音を立てたため、周囲の視線がユウキに集まる。ユウキはそれを持って、中身を見つめる。そしてジョッキを持ち上げるとその中身を一気に飲み干した。その飲みっぷりに周りの冒険者たちから感嘆の声が漏れる。


「もう一杯くれ!」


 ジョッキを掲げ店員に注文をすると煽るようにさらに大きな歓声が上がる。宴会はさらなる盛り上がりを見せ、夜はさらに更けていった。

















 宴会の盛り上がりも微妙に落ち着きを見せ始めるが、相も変わらず騒がしい。先陣を切って大騒ぎしていたのはオルト。仕事を片付けたレンゾやギルド職員も加わりさらなる人数で宴会を続けていた。


 ジョッキ片手に宴会場をうろつくオルトは、いつの間にか見失っていたユウキを発見する。にんまりと笑うと、彼に近づいていき、肩に手を回し話しかける。


「よう、楽しんでるか?」 


 話しかけても反応がない。それを訝しく思ったオルトは再び肩を叩きながら話しかける。 


「おう?大丈夫か?」


 オルトは心配そうにユウキの顔を覗き込む。そこにあったユウキの表情は一言でいうならば『不機嫌』だった。目は据わっており指でジョッキを叩いている。自分のことを覗き込んでいるオルトを見て、ユウキは小さくつぶやく。


「……やかましいぞ」


 つぶやきながら肩に回された腕を乱雑に振り払う。この言葉と好意がオルトの気に障り、以前のような乱暴さに火をつけた。善意で話しかけたのにもかかわらず返って来た返事がやかましい。誰だってそうだろう。オルトも普段は流していただろうが今は酒が入っている。アルコールは沸点が低いものだ。


「あんだとこら?」


 オルトはユウキの肩の部分を掴み、乱暴に引き上げる。ここで、不穏な様子に気付いた他の冒険者たちはそっと二人から離れていく。ユウキも返すようにオルトの胸ぐらをつかむ。オルトを見る目には怒りが籠っている。二人はそのままの体勢でにらみ合いを続ける。


 まさに一触即発。今にも拳を躱しあいそうになっているな二人をみて、冒険者たちの間に緊張感が走る。が次の瞬間、冒険者たちは胸をなでおろした。


 二人の頭に隕石が落ち二人は頭を押さえて蹲る。傍らにはレンゾが立っており、振りぬいた拳が胸の前の交差されている。仲裁に入った男の何たる頼もしさか。冒険者たちは一斉に息を吐く。


「全くお前らは。また派手に暴れるつもりか?無礼講とは言ったがそこまでは許していないぞ」


 レンゾの行動はその場の全員に安心感を与えた。が、その直後、冒険者たちの血の気が引く事態が起きる。蹲る二人の様子が変わった。頭を押さえていたはずの手が固く握りこまれている。いやな予感を感じ取った皆は二人とレンゾの間に割って入ろうとするが遅かった。


 ユウキは蹲った体勢から伸び上がるようにレンゾの顎にアッパーを放つ。レンゾはその行動に一瞬驚くが、抜群の反射神経でそれをよける。直後、今度はオルトがストレートを繰り出した。狙いはあろうことか股間。それを見た冒険者たちは開いた口が塞がらない。が、レンゾは膝の力を抜き、あえて身体を沈めることで腹部でパンチを受け止める。


 レンゾは二人から距離を取る。距離が離れたのを確認した二人はゆらりと立ちあがる。


 ユウキの本性が見える。ユウキの酒が入った時の特性は酒乱。酔って暴れるめんどくさいタイプである。実はユウキ本人も飲み始めてすぐいやな予感を感じていた。が、飲みたいという気持ちが抑えられずに飲み続けた。それがこの惨状を引き起こしたのである。酒が人をダメにするんではなく、人はもともとダメな存在である、とはよく言ったものである。


 一方、オルトは酒乱ではなく割と強い方である。しかし、大量に飲んで悪酔いしているうえに先ほどのユウキとのやり取りで乱暴さに火がついている。それが拳骨をぶち込んだレンゾに飛び火した。


「「黙ってろ、クソおやじ!!!」」


 先ほどまでの雰囲気が嘘のようなシンクロぶりを見せる二人。もはや二人の言動、行動のすべてに呆れ、顔を抑えるしかない。二人が喧嘩を売ったのは現状腕っぷしマリチアで最強の冒険者である。その戦闘力では二人で掛かってギリギリ勝てるかどうかといったレベルである。そのレンゾは先ほどの二人の罵倒で火が付いたのか、額に青筋が浮かんでいる。もともと、レンゾも粗暴な人物である。唯一止められるはずのレンゾまであちら側に回ってしまった。こうなってしまっては誰も止められない。


「表出ろ。格の違いというものを見せてやる」


「「上等だコラ!ぶっ飛ばしてやらあ!」」


 もはやどうしようもなくなった他の冒険者たちは、この状況を楽しむ方に無理やりシフトし、酒の肴にすることにして、宴会を楽しむことにした。外に飛び出していく三人に続いて、冒険者たちがジョッキ片手に宴会場から出た。


 後日ボロボロにされたユウキとオルトの二人は、レンゾに土下座を敢行し、精いっぱいの許しを請うこととなった。



 これで第二章は終了になります。書き終わって振り返るともうちっと水中での依頼を深堀しておけばよかったと後悔しています。マリチアでは水中の依頼一切こなしてないですからね。そこらへんもうちょっとやっときゃよかった……。まあ、後悔しても仕方ないのでこれからに期待します。


 さてこの辺でご報告。今まで平均的に毎日投稿していたんですが、第三章から三日に一回くらいまでペースを落とそうと思います。添削に時間をかけすぎて全く新作が書けていないのでこのままじゃストックが減る一方です。そのためこのような決断をいたしました。ご容赦ください。


 では次回から第三章突入です。例にもれず新キャラが出てくるのですが、今回の新キャラは少し毛色が違うみたいで……。まあ、次回をお楽しみに。それでは失礼。


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