第二十六話 南の島、満喫していました。
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サメが討伐されてから二週間。元に戻りつつあるフィリウスは以前のような活気を取り戻していた。男たちは漁に出て魚を取り、観光客も徐々に戻りつつある。波の音しか聞こえなかった砂浜は今では観光客の笑い声や漁師たちの勇ましい声で賑わいを見せている。何とも平和なことだろう。
ユウキもそののどかさを感じながら日々を満喫していた。生物こそ大きいこの島であるが凶暴な生物がいるわけではないため、問題が起こることはない。先日のあれが異例だっただけでこの島では本当に依頼が少ない。飯食ってイルカと戯れて空を眺めているだけで一日が終わったことすらあるほどにこの島は平和なのである。まあ、これが冒険者がやってこない原因の一因になっているのは否めないが、問題が頻発するよりかはましである。
「ほほっ。これは何とも、かわいらしいですな」
「いい子たちだよねぇ。漁のお手伝いもしてくれて下手な奴よりも人の役に立ってるんだから素晴らしい」
ユウキの隣に立つ太マッチョ、もといレギーはつい二日ほど前に出会った商人である。マリチアからこの島に商談に来たのかといえばそうではない。彼は海を越えた先の大陸、ミドガロフの街からマリチアに商談にやってきていた。これがマリチアが貿易都市である所以である。マリチアは海を越えた他の大陸とのつながりがあり、そこから大商人が定期的に商談にやってくる。これによってこちらの大陸での貴重品、果てにはこの大陸には存在しない商品がやってくる。これを求めて大陸中の商人が集まってくるため、マリチアは大陸一の貿易都市となったのだ。
そんな大陸外の商人であるレギー一行はマリチアに向かう途中の補給でこの島に立ち寄っていた。言語の壁すら問題ないほどに交流があり、彼らの言葉がわかる人間は親しげに彼らと会話し、わからない人間であっても楽しそうに交流していた。
「久しぶりに漁の光景も見させていただきましたが、やはり何度見ても壮観ですな」
「俺も始めて見た時には驚いたよ。やっぱりいいよねえ、人と動物の協力って」
特に深い意味があるわけではない単なる世間話する二人。そんな中でレギーのことが話題に上がる。
「予定では今日出航だっけか?」
「ええ、補給も終わりましたし、船員たちもずいぶんこの町を満喫したみたいですから。そろそろ行きませんと予定に支障が出ます」
「とりあえず幸運を祈ってる」
「ありがとうございます。また会うことがありましたら是非何か買っていただけると」
「いいものがあったら買わせてもらうよ」
二人が世間話をしているとレギーを呼ぶ声が砂浜に響き渡った。それを聞き二人は別れる。そして出航していく巨大船を手を振りながら見送った。トラブルなく無事につけるように祈りながら船を見送ったユウキは海水を浴びてしまったため、一度水浴びをするためにいつもの池に向かうことにした。上半身裸になり、真水で体を流し始めると、草むらが音を立て始める。
「あれ、ユウキさん。またですか?」
草むらの奥から現れたのはアリスであり、桶と魚の入ったざるを抱えている。水を汲みに来たのだろう。
「またイルカに塩水浴びちまったから洗いに来たんだよ」
「そうですか」
ユウキはそう答えるとアリスはゆっくりユウキから視線を逸らながら答える。その行動の意図を理解できずユウキは首をかしげるが、数秒考えその意図を理解する。その姿を見たユウキは意地が悪そうに笑みを浮かべながらアリスに問いかける。
「親の仕事が仕事だし、見慣れたりとかはしないのか?」
「一応視線を逸らすのはエチケットですから。あと何度見ても慣れないものは慣れないんです!」
「うぶだねぇ」
まあ、俺も人のこと言えるタマじゃないけど、と内心呟きながらユウキは急いで体を流していく。それと同時に服も水につけて海水を落とす。今着ては濡れている状態で着ることになるが水分は着ていれば勝手に飛ぶ、がユウキの持論である。
「ほら終わったぞ。さっさと用を終わらせたまえ」
「誰のせいだと思っているんですか」
ったく、と呟かれた声を聴いたユウキはアリスの傍らに置かれた桶を持ち池の水を汲み始める。澄んだ池の水はそのまま飲んでも大丈夫そうなほど綺麗で多少海水が混じっても問題ない。汲み終わったユウキはそのまま桶を担ぎ上げる。桶の置き場所を聞いたユウキはそのまま集落に向かって歩き始める。すると、歩き始めたユウキをアリスは引き留める。
「ああ、ギルドについたら待っていてもらっていいですか?
「はいはい。またあとでね」
ユウキはアリスの言葉を軽く流しながら桶を抱えて集会場へ向かった。
あれから一週間が経ち、いよいよユウキは帰ろうかと思い始めた。住みやすいことには変わりないのだが、いかんせん退屈である。冒険者であるユウキもイルカと戯れるだけでは退屈ではないが、刺激にはならない。どうしようもなく暇なのである。このままではあと一週間も持たないだろう。
「ああ、暇だ暇だ。何か面白いことでもないもんかねぇ」
「そう思うんだったら漁師のやつらの手伝いでもしてこんか」
ユウキが集会場の屋根で寝ているとギルド長であるニュートからたしなめるような声が聞こえる。もちろんユウキは聞く耳を持たない。
「いやだよ。俺は今休暇中だ。依頼がはいってもとりあえず保留だからな」
「そういえば、宝石加工職人のやつがサンゴが欲しいとか言ってたな。でも金はねえから採ってきてくれた奴にはサンゴの指輪をくれてやるとかなんとか……」
「ああっ!なんだかすごく依頼がこなしたくなってきた!あー!どこかにいい依頼はないカナァ!」
ユウキはその言葉に跳ね起きると屋根の上に立ちあがり、わざとらしく声を上げる。掌返しのあまりの速さにニュートは呆れかえった。現金な奴め、そう思いながらニュートは集会場の中に入り依頼を手に取る。それを見て屋根の上から降りようと、ユウキが屋根の縁まで移動したところで視界の端で何かを捕える。それは巨大な船。以前ユウキが乗ってきた船と同等の大きさのふねだった。それが島に向かってきていた。
「おーい、爺さん!今日って船が着く予定でもあったっけか?」
「いいや?急な奴は知らんが少なくとも観光船は一番近いのでも一週間後じゃったはずだ。どうかしたんか?」
「船が来てる。結構デカい奴だ。行ってみようぜ」
ユウキは屋根の上から飛び降りるとアリスを呼び出し、先に歩き出していたニュートを追いかけ始めた。砂浜に着くと同時に船も着岸し、そこから大勢の男たちが降り始める。その様子を眺めていたユウキはその中に見知った顔を見つける。
「あれ?オルト君じゃないか?」
「お、ユウキか!久しぶりだな!そういえばこの島に来てたんだっけな!」
ユウキがオルトのもとに駆け寄ると、二人は拳をぶつけ合わせる。それに拳を合わせたユウキはこの状況の顛末を聞き始める。
「何かあったのか?」
「ああ、この近辺に凶悪な何かが出たらしい。詳しい話はギルドでしよう」
「わかった。とりあえずここのことはおそらく俺の方が詳しいから案内する。ギルド長にも紹介する」
「頼む」
ユウキはオルトを伴って、話を聞いているニュートたちの方に向かう。その道中、ユウキは妙な懸念を抱く。脳裏に浮かんでいるのは不安そうに鳴き声を上げるイルカの姿。
(もしかして一週間前のはこれか?)
実はユウキは一週間ほど前にイルカたちと交流していた際に彼らが不安そうにしているのを見ていたのだ。その時は特に重くとらえてはいなかったがこう何かが起こるとあの時のそれなんじゃないかとどうにも疑ってしまう。ユウキは嫌な感じを覚えながら集会場に向かうことにした。
「じゃ、早速本題だな。結局何があったんだ?」
「ああ、事の始まりはマリチア付近に巨大ザメが出たところからだな」
巨大ザメの単語でユウキの脳裏にある一匹のサメが思い浮かぶ。縞模様の入った一匹のサメ。思い浮かんだそれは、止まることなく口から漏れ出る。
「それってタイガーシャークか?」
「ん?よく知ってるな?」
「俺も同じの倒したからな。切っておいてなんだけど続けてくれ」
「そのサメ、本来いるはずの縄張りから逃げ出してきたサメらしいんだ。ギルドの方でそのことを調査していたらしいんだ。んでちょっとここから話は変わるが、マリチアに隣の大陸の大商人」
「レギー、だろ」
「心でも読んでんのか?」
ユウキの口から正確に放たれた単語にオルトは眼を見開いて驚く。
「俺もずいぶん奇遇だなって驚いてる」
「そうか。話を続けるぞ。そのレギーって人が興味本位で調査船に乗り込んだんだ。ギルドも今までこれといって異変もなかったこともあって安全だと思って許可を出しちまったんだ。三日後、凶報が届いた。その船は何かの襲撃を受けて調査団の冒険者は一人を残して全員死亡。一緒に乗り込んでいたレギー氏は行方不明になった。彼はVIP扱いだ。だから今回俺たちは彼の捜索隊兼その何かの討伐隊としてきたんだ。この島に来たのは中継地点としてだな」
「なるほど、大体わかった。だったら俺も協力する。下手すりゃ言葉が通じるのが俺だけなんてことにもなりかねないし、だったら俺がいた方がいいだろ?」
「彼と言葉が通じるのか? あっちでも通じるのは二、三人だったぞ?」
「自分で振っといてなんだが今重要じゃないから割愛するぞ。そんなことより出発は何時だ? 早い方がいいだろ」
「出発は明日だ。今回の総指揮は俺がやることになってる。レンゾ直々のご使命だ」
オルトは親指を自分に突き立て誇らしげに笑みを浮かべる。それを見てユウキは無表情のまま無言で拍手を送る。その何の気持ちも籠っていない拍手が癇に障ったのかオルトはぺちんと頭を叩いた。するとその最中、集会場にぞろぞろと冒険者たちが入ってくる。それを見たオルトは顔から笑みを消し、真剣な雰囲気を纏う。
「それじゃこれから作戦の最終確認に入るから、お前もついてきてくれ。ポジションは総指揮の補佐ってことでな」
ユウキは首を縦に振り、歩き出したオルトの後ろを追う。その胸中は二種類。強敵に対する期待感とその強敵への不安感だった。
テーブルの上に広げられた羊皮紙や海図を囲んでオルトたちは作戦の確認に入る。
「それじゃあ作戦の確認です。調査団が襲撃されたのは大体このあたり」
海図のど真ん中を陣取り作戦内容を説明しているフォートは棒で海図の中央辺りを指さしている。丁度小島と小島の中間あたりで濃い青で描かれている。
「別の場所に流れ着いている、あるいはもう死亡している可能性もあるが、このあたりに絞って捜索をする。また今回の事例を考えると、今回我々が乗ってきた大型船一隻での捜索となる。また今回、レギー氏の保護、あるいは回収が最優先事項となる。何か質問は?」
フォートの作戦にオルトが異を唱える。レンゾの側近として機能する彼は今回参謀として作戦立案を担当する。
「このままだと、期間が長くなるんじゃないのか?あまり長期間になると冒険者の負担になって不満が出かねないぞ。それにこの依頼内容じゃ何も回収できないから、報酬の面で少々厳しくなるんじゃないか?」
「それがここに拠点を設置する理由だ。ここでなら食糧の補給等もしやすい。報酬に関しても問題ありません。先ほどギルド長とも話をつけてきました。上のほうとレンゾ様が話をつけるそうです。マリチアの貿易はギルドにも大きく利益をもたらしています。無視はできないでしょうとのことです」
「ん。だったら構わない」
「他に質問は?」
誰も声を出さない。それを質問がないと判断したフォートはテーブルの上の羊皮紙を片付ける。
「それではこれで会議は終了だ。明日の早朝出発する。それに備えてしっかりと体を休めるように」
彼の温度を最後に冒険者たちは部屋を後にしていく。ユウキもそれを追って部屋を出ようとしたところで、フォートに引き留められた。
「ちょっといいですか、ユウキさん?今回君も同行するとのことらしいですが今回君は正式な手順を踏んでいないため、報酬が出せない可能性が非常に高い。それでも構いませんか?」
「いいよ別に。確かに報酬は欲しいけど、今回それ以外も楽しそうだからね。それに……」
別のとこから引っ張れそうだし、とは言わなかった。今回ユウキは他の冒険者と違い、別動隊で動くことが出来、その上、単騎で広範囲を捜索することのできる部隊がある。今回一番先に発見するのは恐らく彼だろう。見つけた時にはレギー個人から多少報酬をもらうつもりだった。助けた恩に漬け込むとは彼は違うと思っているが正直概ねそのとおりである。
「その代わり、俺は適当にやらせてもらうけど、構わないよな?」
「問題ありません。現場指揮のオルトとの相談次第になりますが基本的には問題ないでしょう。そこらへんも詰めておいたほうがいいのでは?」
「別に複雑なことするわけじゃないから大丈夫だ。ではこれにて失礼」
ユウキは部屋を後にし、宿に向かおうとする。すると、扉の開けた先に立っていた宿に向かうユウキのオルトが隣に立つ。
「別で動くってことは何かあるのか?」
「まあね、二週間程度の安っぽい技術だけどお前らとは違うものを身につけたってことなのさ」
「それじゃあ明日。頑張ろうぜ!」
オルトから差し出された拳に力強く拳をぶつける。出航は明日。それに備えてユウキは宿で休息をとる。ベットに倒れこんだユウキは明日のことを考えながら、眠りについた。
明朝早く、ユウキ達は船に乗り込み出発の準備を着々と進めていた。大量のサンソウや投擲用の槍、幅広い用途のロープなど様々なものが積み込まれている。砂浜にはアリスや漁師たちが心配そうに船を見つめている。漁師たちも船を出そうとしたが、フォートの指示でそれを止められてしまった。漁師たちは協力できないのが歯がゆそうに船を見つめている。
冒険者の塊の前に一人立つオルト。船がもう少しで出発となり大声で冒険者たちに喝を入れる。
「行くぞお前ら!依頼をこなして、報酬で全員で宴会だ!」
「「「「「オウ!」」」」
オルトの喝にあわせて多くの冒険者からも声が上がる。甲板はいい緊張感に包まれ、冒険者たちはやる気が高まっていく。
「レギー氏きゅうしゅ」「よっしゃ!レギー救出依頼、行くぞ!」「俺の声を遮るんじゃねえ!」
オルトの声を遮るようにしてユウキが合図を出すと、憤慨したオルトがユウキの頭を小突きながら怒声を上げた。問題児二人の気の抜けるやり取りを見ながら冒険者たちは出航した。
さて次回から前後編に分けての物語になります。どうにも長ったらしいだけの話になるかもしれませんがどうぞお付き合いください。
では皆様さようなら。




