↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険、始めちゃいました。  作者: カイナベル
第二章 海の町編
27/135

第二十五話 依頼の敵、討伐できました。


 ユウキの投げた槍は水面を紅く染めたかと思うとやがて沈んでいく。紅く染まった水は掻きまわされると同時に次第に元の青さを取り戻していく。が槍が沈んでもなお水面の荒れが止まることはない。取り戻したはずの青色はすぐに紅色に染めあげられる。


「よぉっし!手ごたえありィ!」


 サメの尾びれは不規則に海面をもがき続け、十メートル以上離れたユウキにもサメが暴れているのが分かった。今回積み込んだ槍は六本。一本突き刺してあの暴れよう。残り五本で十分に殺せる。そう思いながら、槍を手に取る。その一瞬でサメの背びれが水面から消えていた。目を離していたのはほんの数秒。周囲を見回しサメの背びれを探すがどこにも見当たらずユウキは混乱する。すると絵の具を落としたように海面に紅い線ができていた。それがサメの血で出来たものだということはサルでもわかるだろう。ユウキはその線をたどりサメの居場所を確認しようとする。が、その線はユウキから五メートルほどのところで途切れ、紅の線はついにどこにもなくなる。ユウキは混乱を深め周囲を見回すが、悲しいかな、サメの姿は確認できない。


 いったいどこへ。そう思ったユウキは思考を働かせようとするが、その前に直感、第六感が大声で告げた。「逃げろ」と。それに従いユウキは手に持った槍とともに海に飛び込んだ。刹那、船は下からの衝撃によって破壊された。水しぶきを上げながら現れたそれは体長六メートルほど。船を破壊した鼻先は尖りを見せており、その下に着いた口には鋭い牙がついている。牙によって船の残骸やウサギたちが切り裂かれ、破片が周囲に飛んでいく。灰色の肌には薄く白で縞模様が入っている。何より六メートルの巨体が跳ぶの壮観だった。その光景を見たユウキは一声あげる。


「でっけええええ!」


 興奮しながらあげた声は海中に入ることで打ち消された。マスクの中に水が入り込むが、すぐにサンソウの効果で排出される。水がなくなり見えるようになった視界に映ったのはユウキに食らいつこうとするサメの姿だった。ユウキは混乱しながらも全力で水を掻き突撃を回避する。サメの攻撃を髪の毛一本の差でかわしたユウキは槍を握りなおし、サメを見据える。


(サンソウが切れるのはあと四分四十秒。行動可能時間はあと六分四十秒。それまでにケリをつけねえと……)


 ユウキに躱されたことに怒りを見せるサメは反転し再び食らいつこうとユウキに突っ込んでいく。その突進をユウキは鍛えた泳ぎでするりと躱す。二週間近く行っていた泳ぎの練習は確実に功を奏しており、サメの歯にかかることもない。


 が、サメも甘くはない。ユウキに躱された後、体を捻りユウキに噛みつく。が、以前似たような行動をみているユウキはそれを予想していた。サメの鼻に足をかけ、そのまま踏み上げるように攻撃を回避する。その勢いのまま距離を取りサメの動向を観察する。サメは鼻を踏まれたショックからか、海を掻きまわしている。目の前で暴れまわるサメにユウキは近づけず、無情にも時間だけが過ぎていく。打開策を考えるユウキだったが、何も思いつかない。考える間も慈悲無くサメはユウキに襲い掛かる。


 どうしようか、そう考えているユウキの視界に一つのものが止まる。サメの背びれ付近に刺さった艶消し黒の物体。槍から離れたナイフだった。深く突き刺さったそれはサメの素早い動きにも耐えあhずれるそぶりすら見せていなかった。


(使えるか……?)


 槍を握りなおしたユウキはサメの突撃に備える。直後突撃を開始したサメに対してユウキは一転槍を持ったまま泳いで突撃する。


 ユウキが向かってくるのに構わず突撃するサメは大口を開け、ユウキを食らおうとする。両者の距離が五メートルほどになったところでユウキが行動を起こす。泳ぐのをやめ体勢を戻すと大きく開けられた口の中に槍を打ち込む。全力で投げ飛ばした槍は水の抵抗を大きく受けて非常に遅い。背びれのそれと違い深く突き刺さることはないだろう。がそれでも怯ませるのには十分だった。


 のどの奥深くに突き刺さったナイフの痛みでもだえ苦しむサメをすり抜けユウキは背びれのほうへに向かう。左手で背びれを掴んだユウキは右手で腰のポーチからナイフを取り出し、背中に突き刺し背びれを掴んでいた左手を背中に突き刺さっていたナイフに持ち替える。


(三枚おろしにしてやる!)


 掴んだナイフを力いっぱい握りしめたユウキはそのまま全身に力を込めてナイフを後ろに引いた。二本のナイフは抵抗をものともせずサメの皮膚を切り裂いていく。肉が露出し深いところでは骨すら見えようとしている。裂かれた体からは大量の血が流れ出し海中を赤く染めていく。


 紅から抜け出したユウキはサメの姿を確認する。掻きまわされている紅色の中にいるサメは苦悶しながらのたうち回っている。相当深く切り裂いたため背中の肉が暴れるのと同時にプラプラと揺れている。絶え間なく流れ出す血のせいでサメの周りの紅色は消えることはない。


 ユウキはこのチャンスを見逃さなかった。握りしめた二本のナイフを構え、サメに向かって泳ぎ出す。暴れるサメの動きを掻い潜り、ユウキは今度は腹の方に潜り込む。腹に二本のナイフを突き刺すと背中と同様に切り裂いた。血とともに内臓が流れ出し、周囲の水はさらに紅くなる。その水の中から抜け出したユウキはサメから距離を取り、動向を見守る。紅く染まった水はかき回されること無く、静かに漂っている。静かな時が流れることおよそ十秒ほど。動きが起こる。


 サメは一直線にユウキに噛みつこうと歯をむき出しにし襲い掛かる。ユウキは顎に足をかけ踏ん張りを効かせるとナイフで鼻の下を突き刺すことで迎撃した。最後の一撃だったのか、サメは糸が切れたように動きを止めゆっくりと水の中へ沈んでいく。腹と背、そして鼻から血を流し続けるサメはゆっくりと海底へ向かって沈み続ける。


 その姿を見届けたユウキは途端に息苦しさを覚える。サンソウの効果時間が切れたことを察したユウキはナイフを捨て急いで水面に向かって泳ぎ始める。どうにか水面にたどり着いたユウキは大きく空気を吸い込んだ。


「とりあえず一匹。これで終わりだったらいいんだけどなぁ……」


 マスクを取りながらユウキはつぶやく。しかし、彼の思考は憂鬱で染まっていた。先の戦闘で船が破壊されてしまい、岸まで泳いで帰らねばならない。サメを釣り上げようとしていたのが砂浜からおよそ二百メートル。それから戦闘で移動してしまったため、岸から二百五十メートルほどのところまで移動してしまっている。これを泳いで帰るのは非常に大変だ。しかし、やらなくては始まらない。仕方なく泳ぎ始めたところでユウキは背後から接近する水音に気付く。振り返ると背びれが海を切り裂きながらユウキに近づいている。驚くべきはその数。何と三体に増えている。


「マジかよ……」


 ユウキはポーチからナイフを取り出し回復薬を飲んで戦闘に備える。それらとの距離が徐々に近づいていく。そしてユウキが先制攻撃だといわんばかりにナイフを振り上げたその時それは姿を見せた。


「キュイ」


「あら可愛い」


 水中から顔を出したのはサメの凶暴さとは正反対の愛らしさを持ったイルカだった。三体はユウキの前に三匹並んで顔を出す。甲高い鳴き声を上げており、まるでユウキに感謝を伝えているかのようだ。並んでいた三体は一度潜るとくるくるとユウキの周りをまわりだす。洗濯機に入れられたような気分に陥るゆうきであるが、当の本人たちにはそんなつもりはない。回っているうちの一匹がスキンシップを取るかのようにユウキにすり寄る。それを見たユウキはすり寄って来たイルカを撫でながら問いかける。


「お前たちに聞くのもなんだけどよ。まだ危ないサメはいるか?」 


 するとイルカはその言葉を理解したように一回だけ鳴き声を上げる。彼らによるともうサメはいないのだろう。ユウキを彼らを信用することにし依頼完了だということにする。 


 ユウキは岸に向かって泳ぎ始める。が、潮の流れや波の影響もあり、なかなか前に進まず、徒に体力だけが減っていく。五分ほど泳ぎ続けた時、ユウキの身体が不自然に浮かび上がる。何事かと思い下をそこにはイルカがおり、ユウキの身体を乗せるようにして泳いでいる。


「おっ、運んでくれるのか?」


 イルカの意図を察し問いかけると、一度キュイと鳴き、残りの二匹はユウキの周りをジャンプし始める。イルカの答えを聞いたユウキは三回軽くイルカのことを叩く。


「んじゃあお願いな」


 そういうとユウキは背びれに手をかけ、しっかりとイルカに捕まる。するとユウキの言葉に答えるようにイルカはユウキに合わせた速度で泳ぎ始めた。先ほどまでが嘘のようにすいすいと水の中を進んでいく。顔にかかる海水が妙に心地よく感じながら先ほどの遊泳速度が嘘のような速度で進む。イルカの驚異的な遊泳速度に舌を巻きながら四分ほどで岸にたどり着く。


「あんがとさん。今度機会があったらまた乗せてくれな」


 イルカの背を軽く叩くと、イルカのうちの一匹が今度は腹を向けた。撫でろと言わんばかりに向けられた腹を撫でながらイルカと戯れていると集落のほうからアリスが駆け寄ってくる。


「あ、ユウキさん。終わったんですか?」


「一応はな。……あっ」


 イルカを撫でながら彼女の問いかけに答えていたユウキは思い出したように声を上げた。それを気に留めた彼女はそれについて問い掛ける。


「どうされましたか?」


「素材回収してくんの忘れた……」


「ああ……」


 イルカの胸びれの付け根辺りを撫でていたアリスが気の抜けたような声を上げた。


「大変でしたでしょうからしょうがないかもしれませんね……。どうでしたか?」


 何の脈絡もないような問いかけにユウキが疑問を持ちながら彼女のほうを向くと彼女はイルカに話しかけている。先ほどユウキも同じようなことをしたが、あれはユウキが問い掛け相手がイエスかノーかを返すだけのいわば、一方通行の物だったが彼女はそうは見えない。イルカに鳴き声にふむふむと頷きながら話しかけ続けている。


「この子たちが見ていたみたいなのでおそらく依頼達成として認められるでしょうね。ユウキさんが戦ったサメの死体を近くまで持ってきてもらうようにお願いしましたし」


「……どういうこと?」


 ユウキは眉間にしわを寄せながら彼女の不可解な行動に問いかける。すると彼女は自分の言ったことが理解できなかったと取ったのか、もう一度説明を始めようとする。


「ですから、この子たちが見ていたので……」


「いや、そうじゃなくて」


 この一言でユウキの意図を察するアリス。


「ああ、このことですか。私、小さいころから動物の言っていることがわかるんですよ。ギルド曰く、スキルっていうものらしいですよ」


 彼女から告げられたことにユウキは驚く。正直文字などのことで薄々感づいてはいたのだが、本当にそういったものがあるとは思っていなかったのだ。


「まあ、スキルはすごく珍しいものらしいので持っている人はすごく少ないらしいですよ。この島では私一人だけですから。そんなことよりもお疲れでしょう?報告を早く終わらせてしまいませんか?」


「……それもそうか。んじゃ行きますか」


 自分のスキルが一体どういうものか、そもそもスキルがあるのか、わからないことだらけの現状で考え込むのはあまり意味のないことだろう。だったら今は忘れ、他のことをしよう。ユウキは立ち上がると彼女を引き攣れて集会場に向かって歩き始めた。











「タイガーシャークですか。本当に大きな怪我もなさそうでよかったです。タイガーシャークは本当に凶暴なサメなので」


 アリスはそう告げるとデスクに戻り、紙に何かを書き始める。ユウキもそこへ行き、様子を見ると、依頼書に補足的に伝えたことを書き記していた。書き終わるとぽつりと独り言をつぶやく。


「しかし、何でこんなところにあのタイガーシャークがいたんでしょうか……」


「ん?あれ、もともといた奴じゃないのか?」


「いいえ。タイガーシャークはもともともっと沖の方に生息する生物でこんなに島の近くに来ることはないんです。イルカたちもそのことが分かってて島の近くに生息しているんです」


「そうなのか。てことは沖のほうで何かあったのかねぇ。おっかないことだ」


「まあ、それはともかくとしてもこれで漁が再開できます。……っとこうしちゃいられません。集落のみんなに報告してきます」


 アリスはユウキに背を向け扉から外へと飛び出していく。それを見送ったユウキも集会場を後にし、海水にまみれた身体を洗うために近くの池に向かった。













 マリチアとフィリウスの航路上から少し外れた、島から五十キロほどの沖合。そこはタイガーシャークの巨大な生息域であった。その大きさはざっと半径一キロに及ぶ。周辺にたくさん島が分布しており、安定した気候によって大きく成長した魚たちを食らいながら彼らなりに平和に生活していた。


 そんな彼らの住処に異常が訪れた。一番先に気付いたのは群れの中でも若いオスの一頭だった。何かが縄張りに入り込んだ、直感的に察知した彼はすぐにその場から離れた。直感や危険察知能力は生きていく上で無視できない能力だ。生命の危機に扮することなく生きていくことが出来ればどれだけ平和であるかは想像に難くない。それが彼の警鐘を鳴らしたのだ。


 本来、サメという生き物は群れで行動せず、基本ロンリーな生き物だ。ここで群れとして暮らしているのも単にそのほうが都合がいいだけであり、彼らに仲間意識はない。が、一族の危機になりかねないそれを仲間に伝えない訳にはいかなかった。一番近くにいたサメにそのことを伝える。驚愕した彼も手伝うことに決めたが既に遅かった。死を覚悟しそうなほどの危機を感じたその二匹は他のサメを捨て置いて逃げ出してしまう。得意であるほどの泳ぎが遅く感じてしまうほどの気配がそうさせてしまったのだ。 


 その直後、縄張りの端で悠々と泳いでいた一匹のサメが何者かによって丸のみにされる。その近くにいたサメがそれに気づく前に締め付けられ全身の骨を砕かれて殺される。二匹の命を早々に散らせたソイツは次々と本能のままに襲い掛かっていく。 


 それを知ったサメは蜘蛛の子を散らすように逃げ出すが、逃げ遅れた何匹かが餌食となる。縄張りの半径二キロメートルは妙な静けさに包まれ、そこがそいつの新たなる縄張りとなった。小魚たちには眼もくれず、悠々と泳ぎ続けるそれは先ほど仕留めたサメの内の一匹を飲み込む。


 一方、一目散に逃げだしたオスのサメは絶望的な危機から逃れ、内心ほっとする。しかし縄張りを追われてしまった以上、自分の縄張りを確保し餌を手にしなければならない。あてもなく泳ぐ彼の前に一匹のイルカが現れる。群れからはぐれたのかさまようようにして泳いでいる。


 ウマソウダ、そう思いながらイルカとの距離を詰めていき、離が十メートルほどまで詰まった時。イルカはようやくサメの存在に気付くがもう逃げきれない。体の下から突き立てられた牙からは逃げられずイルカは彼の餌食となってしまった。早々に縄張りを確保した彼は、「ここは自分のものだ」と主張するが如く、堂々と泳ぎ始めた。この後自分の身に降りかかる災難の存在を知らず……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。