第二十二話 必需品、加工方法教わりました。
集会場に着いた二人は依頼完了の確認をし、報酬を受け取る。その金額一万五千フェズ、ゴブリンを十体殺しても一万もいかない依頼がある中でこれは非常に優良な依頼である。
報酬の内、七千フェズを受けとったユウキはそれを使ってサンソウを十本買いオルトとともに集会場を後にする。五分もしないうちにオルトの家に着いたユウキは早速本題に入る。
「で、サンソウを使うにしてもこのまま使うわけじゃないんだろ?どうやるんだ?」
「ああ、そりゃそうか。じゃちょっと待ってろ」
それを聞いたオルトは部屋から出ていくと包丁を二本、まな板、炭と大量の布、すり鉢、すりこぎ、金づちを持って戻ってくる。包丁の一本を手に持つとユウキにも包丁を持つように促す。
「まずはサンソウを細かく刻め」
ユウキは目の前で包丁を振っているオルトと同じように、まな板の上のサンソウに包丁を細かく刻んでいく。前世でも料理はしていたためここでてこずることはない。サンソウの粒が三ミリ程度の大きさになったことを確認してオルトは首を縦に振る。
「次に炭を同じくらいに砕け」
金づちとすりこぎを使って、ユウキは炭を砕いていく。
「そしたらサンソウと炭を同じ割合で混ぜろ。少しくらいの分量の違いは気にするな。大体でいい」
すり鉢の中にある炭の中にサンソウをいれ、すりこぎを使って混ぜ込んでいく。
「そして、混ぜた奴を布に包め。これを濡らして海に入ると呼吸ができるようになるんだ。専用のマスクが必要になるけどな。効果時間は手のひらサイズで大体五分だ」
ユウキは混ぜ物を包み込んだ布を持ちながら、どういう原理なのだろうかと思ったが難しいことは考えていても仕方ないと思い、思考を放棄した。
「それじゃあ残った分の作っちまおう。これを明日使って依頼を受けるぞ」
それを聞いたユウキは無言で作業を再開する。が、無言での作業もすぐに飽き、口が勝手に動き始める。
「しかし、今日俺たちがとってきただけでも四百近くあるのに、それをギルドの人たちは加工してるのか。大変だな」
ユウキが独り言のようにつぶやいた言葉をオルトは拾い上げる。
「加工するだけなら冒険者じゃなくてもできるからそういうのは副業にバイトがやってるんだよ。俺の母ちゃんもそのうちの一人だからな」
作業し続けるユウキの口は軽さを増し、しゃべり続ける。
「そういえば、オルトの父親はどうしたんだ?」
その言葉を聞いた瞬間オルトは顔を伏せ手を止める。悲痛なオーラを発している彼を見てユウキは聞いてはいけないことを聞いてしまったと考え慌てて謝罪をする。
「すまん。あまりにも無神経だった。忘れてくれ」
「……いや、いいんだ。気にしてない。人に話すもんでもないんだが……。俺の親父は船乗りをやっててな。腕も良くて評判だった。俺の自慢の父親だったよ」
オルトは一度話すのを止めると、一息ついて再び話し始める。
「六年くらい前に仕事に出ていってな。それっきりになっちまった……。海で巨大なモンスターに襲われたって聞いたときには嘘だと思ったし、親父が死んだって聞いたときには悪い冗談だと思ったよ。最終的に手元に残ったのはおやじのバンダナとそのモンスターのものらしい鱗だけだ」
「それからは荒れたぜ。毎日喧嘩三昧で……。でも母ちゃんが弟たちを食わせるために必死に働いてんのを見て俺が親父の代わりにならんと思ったんだ。だからCランクまで上がれたんだ」
「そうだったのか……」
喧嘩はやめれなかったんだけどな、とおどけて言うオルトの目には涙が浮かんでいた。家族を失った辛さはユウキにはわからないが家族のために力を尽くした彼を素直に尊敬した。
サンソウ十本分を布に包み終わったところで、部屋の扉が開けられ、母親が顔をのぞかせる。
「そろそろ夕食にするから部屋を出てきなさい。今日はずいぶん稼いできたみたいだから奮発しちまったよ」
行くか。そう言って二人は立ち上がって部屋から出てリビングに向かった。
ユウキは食後、腹ごなしのために外に散歩に出た。蒸し暑い街の中をぼんやりと歩いていたユウキの脳裏にあったのはあちらに置いてきた家族の事だった。家族は自分が死んだときどのように思ったのだろうか、考え始めると様々な考えが際限なく浮かび続ける。仲睦まじい姿で食事をしていたオルトたちを見ていたユウキはどうしようもないほどの虚無感を覚えていた。虚無感は言葉にできない不安に変わっていく。黒く染まった運河の水もそれを助長した。不安で潰れそうになった時、ユウキの脳に声が届く。
「あれ、ユウキ君かな?」
背後には猫耳を隠すように帽子をかぶったミーニャが私服姿で手に紙袋を持って立っていた。丈の長いワンピースを着た彼女はカウンター越しでは分からなかったが、身長が低く、百五十五センチのユーナよりも低い。
「どうしたの?」
「ただの散歩」
ユウキは短く答えると、ミーニャの持っている紙袋を強引に持ち上げる。
「ついでだし送るよ」
「だったらお言葉に甘えちゃおうかな」
ミーニャが先に歩き始め、それについていくようにユウキもついていく。そうして歩き始めてすぐ、ミーニャはユウキの方に顔を向けて話し始める。
「そういえばさっきはどうしたの?随分しんみりしてたけど?」
ミーニャの問いにユウキは少し思い悩んだようにして答える。
「いやさ…。家族っていいなと思って……」
「あー、オルトのとこ? いいよね、ああいう家族って。私の家族は遠くにいるからさ。……あ、もちろん生きてるよ」
ミーニャは笑いながら答える。
「それにしても変なこと言うね。ユウキ君には家族はいないの?」
「いるにはいるけどもうこの世界にはいないからさ……」
「あー……」
それを聞いてか、ミーニャは表情を曇らせる。ユウキの言っていることは嘘ではないが、少なくともミーニャが想像しているようなことではない。それでも真相を知らないミーニャにはユウキが気の毒に見えてしまう。何とか慰めようと言葉を選ぶ。
「まあ、あまり深く考える必要はないと思うよ。どういう風に生きたかが重要だと思うし。オルトもそうでしょ」
「……深いな」
「そうでもないと思うよ。ごく当たり前の事だよ」
ミーニャの何気なく放った言葉にユウキは心が揺さぶられたような気がした。ミーニャの言葉通り、どのように生きたか、はおそらく人生で重要なことである。こんなごく当たり前のことをど忘れしていたユウキは横殴りにされたような衝撃を覚えるとともに胸のつかえがとれたような気がした。
「なんか楽になった気がするわ。ありがとう」
「どういたしまして。ここまででいいよ。こっちこそありがとうね」
ミーニャはユウキから紙袋を受け取ると、アパートのような建物の階段を上っていく。それを見送ったユウキは夜の街を再び歩き始めた。心の中でもう二度と会うことはない家族に思いを馳せながら。




