第二十一話 海の街での依頼、森のほうに行きました。
今回のタイトルむずかった……。これ仮のタイトルだから後で変えるかもしれませんがご容赦下せえ。
次の日、目を覚ましたユウキは隣でまだ眠りこけているオルトを尻目に部屋を出る。台所では母親が朝食の準備をしておりその手にはフライパンが握られている。朝早くから部屋から出てきたユウキを見て母親は不思議そうに表情を変える。
「どこ行くんだい?」
「日課だ。すぐ戻ってくるよ」
「偉いねえ、うちの子たちとは大違いだ。三十分くらいで朝食ができるからそれまでに帰っておいで」
それを聞いたユウキは、朝食を遠慮しようと手を横に振る。そもそも部屋を借りられているだけでラッキーなのだ。それに加えてただで食事までご馳走になるとなれば気が引けてしまう。
「いや、ありがたいことだけど食事は良いよ。部屋借りられるだけで十分すぎる」
が母親はそれを見て次は不機嫌そうに表情を変えた。
「そういうわけにはいかないよ。ここで食事を食べさせないと私の沽券にかかわるんでね。……あっと金は良いよ。一人二人増えたところで困るほど金に困っちゃいないよ」
ポーチに伸ばされたユウキの手を見て一言添えた。母親の目を見てそれが本心であることを感じ取る。そこまで言われた断るのはただ意地を張っているだけになってしまう。
「それじゃあ……、ごちになります」
「よろしい。それじゃあ行っておいで」
ユウキは母親に感謝の一礼をすると家を出て街の中を走り始めた。
「流石に依頼の受け方とかはわかるよな」
「馬鹿にしてんのか」
朝食を食べ終えたユウキとオルトの二人はギルドの集会場に向かっていた。ユウキは昨日騒動を起こした身分であるため、あの場所に向かうのが微妙に不安だったが隣のオルトが気にしていない様子を見て気持ちを切り替えた。
そういったオルトはギルドの集会場の扉を押し、中に入り、ユウキもそれに続く。二人が仲に入ると集会場の中が少々のざわつきを見せる。が、一分と経たないうちに奇妙なざわつきは止み、冒険者たちは自分たちの作業に戻る。それを尻目に二人はカウンターに向かって歩き始める。カウンターに付きその脇に置かれたベルを鳴らすと、受付嬢の服を着た女性が奥からやってくる。
「はいはい~。オルトと~、……おおっ! 君は昨日の!」
受付嬢はユウキの姿を見ると、指さし驚きの声を上げる。猫耳が生え、髪の毛が黒、茶、白の三色で構成されたその少女はカウンターから身を乗り出し、ユウキのことをじろじろと観察し始める。カウンターの上にあったペンとインクは倒れ、その中身がカウンターに零れる。それすらも気にせずに少女はユウキをじっと観察している。
じろじろと見られ、むず痒くなったユウキは彼女の視線を切るようにして腕を彼女の前に掲げる。が、彼女はそれで止まることなく右、左と顔を動かしていく。こうなってしまってはみられたくないユウキと見たい少女のいたちごっこになっている。それを見かねたオルトは少女の頭にチョップを落とした。「ニャッ!?」という悲鳴とともに少女の腕はカウンターから外れ、少女の身体はカウンターから落ちそうになる。が、彼女の身体が地面に叩きつけられることはなくオルトの手によって抱きかかえられた。
「ったく。人のことをじろじろ見るのをやめろっていつも言ってるだろ、ミーニャ」
「人を見てるといろんな発見があって面白いんだよ?」
そういった少女はオルトの手から離れ、カウンターに滑り込むようにして戻っていく。
「俺はずいぶんと有名人になっちまったみたいだな」
それを聞いたミーニャという少女は笑みを浮かべながらオルトを指さす。
「そりゃ当然だよね。ここギルドマリチア支部の旧問題児」
オルトが鬱陶しそうに指を払いのけようとすると、それを躱すように今度はユウキに指がさされる。
「そんで昨日来た新問題児。二人の問題児がなんか仲良くなってるって話題になってるよ」
「……まあ別にどうでもいいや」
ユウキは一息つくとミーニャに話しかける。
「ところで、オルトは問題児って言われてるみたいだけどなんかやったの?」
「喧嘩は毎日のようにしてたしよ。ここの冒険者が一度はオルトと喧嘩してるくらい」
「続けて」
ミーシャの口を止めようとするオルトをブロックしながらさらなる情報を求めてユウキは続けるように促す。
「他にはギルド長に喧嘩売ってボッコボコにされてそれから全く頭が上がらないとか、副ギルド長に喧嘩してるのを母親にチクられてこっぴどくやられ」
「ストォォォォォップ!」
恥ずかしさに耐え兼ねたオルトが大声を上げれて静止することで話は終わる。二人はいまいち不完全燃焼だったが、これ以上彼を辱めても大した得はないため、止めた。
二人が気持ちを切り替えオルトが落ち着いたところでカウンターの向こうに立つミーニャが口を開く。
「コホン……、では改めまして冒険者ギルド、マリチア支部です。私ミーニャが担当させていただきます。どのような御用ですか?」
「活動の登録と、依頼で」
それを聞いたミーニャはカウンターの下から依頼書を取り出し、カウンターに広げる。
それを見たユウキはオルトに目配せをするとともに口を開く。
「依頼はお任せ。来たばっかりだからできれば戦わないやつで」
要望を聞いたオルトは依頼書を覗き込むと一枚の依頼書を拾い上げた。
「何だいいのがあるじゃねえか。何でこれが今まで出てなかったんだ?」
ユウキは紙を受け取り、その内容を確認する。そこにはサンソウの回収と書かれていた。が、心当たりのない名前にユウキは首を傾げる。するとオルトの疑問に、カウンターを拭いていたミーニャが答える。
「ああ、それね、今日の朝に入ったやつなの。だからあまり他の冒険者の目に入らなかったのかもね」
妙な不可解さを覚えながら納得するオルト。余談であるが実は彼女がとある理由でこの依頼を隠していたのだが、それを知るのは彼女の身である。余談を終えたところで、どこかで聞き覚えのある植物に頭をひねっていたユウキはその正体を確かめるためにオルトに問いかける。
「サンソウってなんだっけか?どっかで聞いたことある気がすんだけどなぁ……」
「ああ、昨日来たばっかだもんな。サンソウってのはこの辺に自生している植物だよ。このあたりの依頼をこなそうと思ったら必須だな」
植物という単語で図鑑の隅のほうに書かれていたのを思い出す。生育範囲が狭いというのと使用用途が非常に限られているのであまり覚えようとしていなかったのも同時に思い出す。完全に思い出したところで、オルトが依頼書を再び受けとる。しかし、わからないところがあったのか目の前でインクを拭き終わったミーニャに疑問を呈す。
「しかしこの依頼数が書いてないぞ。何個取ってくりゃいいんだ?」
新しいインクとペンを受け取ったミーニャはオルトの質問に答える。
「取れるだけとってきてほしいらしいよ。ギルドからの依頼でサンソウ二十本につき、五百フェズの報酬」
「いいじゃねえか! これにしようぜ」
「オルトがそういうんだったら」
オルトの提案をユウキは快く承諾する。ミーニャからペンを受け取ったオルトは紙にサインを書き始めた。ユウキも彼からペンを受け取るとサインを書き始めた。二人のサインが書かれたのを見たミーニャは依頼書を確認し、カウンターの下にしまった。
「ハイ、受理しました。それじゃあ頑張ってきてね~」
手を振るミーニャに背を向けて二人は集会場を後にする。
「そもそもサンソウってどこに生えてるんだ?」
「街の外の森だな。とりあえず適当にかごと縄を家に取りに行こう」
「了解」
街の外に出た二人は三十分のところにある森へ向かっていた。最初と同じような状況。ユウキは初めての依頼を思い出して少し感傷に浸っていたが、オルトは知る由もなかった。
森に着いた二人の内、オルトは森に入って少しの場所でしゃがみ込むと地面に生えていた草を一本もぎ取り、ユウキに見せつけた。茎の部分は細長く、色は緑色。全長は二十センチほど。特徴的だったのは茎の先端がステッキのようにくるりと曲がっている。ゼンマイに近い見た目の植物をもってオルトが説明を始める。
「これがサンソウだ。大量に生えてるから二、三本程度残してあとはしらみつぶしにとっていけ。鬼のように生えてくるから生態系の破壊云々は気にしなくてもいいぞ」
投げ渡された籠を受け取ったユウキは生えているそれらを収穫し始めた。収穫したサンソウを十本ずつくくって籠の中に入れていく。そうやってユウキの深さ十センチ、直径六十センチほどの籠を二時間ほどでいっぱいにした。
「おお、なかなか早えじゃねえか。どのくらいとれたんだ?」
巨大な籠を片手で担いだオルトが戻ってくると、ちょうどいいタイミングでユウキの作業も終わりを告げる。オルトの問いかけにユウキは指を使いながら答える。
「確か十本一まとめで二十セットくらいだったかな?」
「俺も同じくらいだ。それだけ取れれば、十分だな。帰るか」
二人は森を後にして街へ戻り始めた。その道中、ユウキはずっと疑問に思っていたことをオルトに問いかける。
「そういえば、これが必需品だって言ってたけど、あれどういうことだったんだ?」
「この草を加工するとな、少しの間水中で呼吸できるようになるんだ。この街では水中での依頼を受けることが多いからな。いちいち水面に上がってちゃきりがない。だからこいつが必要なんだよ」
なるほど、とユウキは声を上げる。が、ここで新たな懸念が頭の中に思い浮かびユウキは一抹の不安を覚えた。
「海か……。泳げるかな……」
「あん?お前泳げないのか?」
「多分浮けるだろうけど速い泳ぎ方を知らない、かな。多分それじゃこの街では致命的になりそうだなぁって」
「それじゃあ俺が教えてやるよ。俺はこの街から離れたこと無いから泳ぎは得意だぜ!」
オルトはサムズアップしながらユウキに提案する。ユウキとしても今後泳ぎは必要になる機会があるだろうし、そもそも断る理由がないため、ユウキは歩きながら頭を下げる。
「それじゃあ頼むわ。普通に泳げるようにもなりたいからな」
「決まりだ。明日から依頼をこなしながら練習だな」
まるであって二日目とは思えないほどの気さくさで会話をする二人。真上にある太陽が彼らを優しく照らすのだった。
「ミーニャ、ネコ娘なのに語尾にニャってつかないのか?」
「あざとくなっちゃうからミーはつけないよ」




