第十八話 到着早々、またまたトラブりました。
あれから二週間。いろいろトラブルもあったりしたがとりあえず話すことでもないため割愛する。慣れない一人旅であったが本人的には特に問題なく完了する。そして
「つ、い、た、ぞー!」
とうとうユウキは新天地、マリチアにたどり着いたのだった。苦節三週間、その長さを再確認したが、やっとたどり着いた嬉しさですべて吹き飛んでしまった。
そんな彼の肌を撫でるのは潮風。海独特の磯臭さはユウキの鼻腔を刺激し、湿気はユウキの汗と混じりあい纏わりつくが、ユウキは気にすることなく走り出し街の通行路となっている門へと向かう。並んでいる人たちの最後尾に着き、税関の係員が来るまでの間待ち続ける。
待つこと三十分後、ユウキの前に筆記具を持った兵士が立つ。
「坊主、この街に何をしに来たんだ?」
それを聞いたユウキはポーチの中から冒険者カードを取り出し、胸元から認識証を出す。それを見て兵士は一瞬驚いたような表情に変わるが、すぐに戻る。
「何だ冒険者だったのか? 見せてみろ」
兵士はユウキのカードを受け取り、確認すると、十秒ほどでユウキに返される。
これが冒険者の特権の一つ。関所を抜ける際に税金を払わなくてよいのである。冒険者への依頼は他所へ頼むことや他所から腕利きの冒険者を集める大型戦闘もある。その際に税金を取ってしまえばそのせいで契約が破棄になるなんてことも起こりえるため、多くの国でで冒険者は入国の際の税を免除されている。
入国の許可をもらったユウキはカードをしまうと足早に入国する。入国したユウキを出迎えたのは美しい水の街だった。街のいたるところに人工的な運河が造られており、そこを舟がゆっくりとした速度で進んでいく。白色や褐色、茶色の建物はランタンで美しくライトアップされ、足元には石畳が敷かれている。そこで生活している人たちの恰好は薄着が多く、中には上と下、大事な部分を隠す程度の布だけを纏っている者もおり、ユウキはそれから視線をそらしてしまう。
が、美しい光景からは眼をそらせない。立ち止まってその景色を三十秒ほど眺めた後、ユウキに邪魔に思った人間にぶつかられることで正気に戻る。美しさのあまり思考がおかしくなりそうになったユウキだが、現実に戻り宿を探し始めた。だいぶ日が沈んでいるため、あまりうかうかしていられない。
まずはユウキはギルドの集会場を探すことにし、街の中を歩き始めた。美しい街並みを見ながら歩いていると特徴のある看板が目に入る。その建物はひときわ大きな運河の中洲に作られており、そこに通ずる二本の橋が引かれている。扉は通気性を重視しているのかスイングドアで出来ており、他人が行き来するたびにキイキイと音を立てている。ユウキはそこを目指して走り始め橋を渡るとスイングドアを開け、集会場内に駆け込んだ。直後、肉の壁に思い切り激突する。
「いってえな」
ユウキは同じように扉から出ようとしていた男の胸板に突っ込んでしまい、反作用で後方によろめいてしまう。
「おっと申し訳ない。前方不注意だった。急いでるんでこれにて失礼」
そういって男の隣をすり抜けようとするが、首根っこを引かれることでユウキはカエルが潰れるような声を上げながら脚を浮かせ尻餅をつく。
「おいゴラテメエ、何なんだその謝り方は」
ユウキは引き倒されたことに苛立ちながらもこの場を収めるために再び謝罪しようとする。振り返る際にユウキが確認した男の容姿は身長百八十センチほどで、男の肉体は浅黒い筋肉に包まれており、半袖から見える腕はユウキより一回り太い。男の容姿を確認したユウキは立ち上がると頭を四十五度まで深々と下げる。
「これは申し訳ない。急いでいたもので」
すると、頭を下げて三秒もしないうちに下げられた頭が髪の毛を引かれることで無理やり持ち上げられる。
「テメエのことは聞いてねえんだよ。俺が聞いてんのはあの謝り方は何なんだってことだっつってんだろ」
無理やり挙げられたことでユウキの身体が浮き上がり胸元が露わになるとそこに右手が伸びる。胸倉を掴まれたユウキは物凄いパワーで持ち上げられ、体全体が宙に浮く。
「何なんだって聞いてんだよ!」
ユウキの気道が締めつけられ呼吸もままならない。これでは声を出すことが出来ない。この状態で聞くあたり彼の頭には相当の血が回っているとみる。しかしその一連の行動でユウキの頭にも血が上る。普通に謝罪しているにも拘らず一方的にやられては非常に気分が悪い。まあ、このやり方ではよほど温厚でない限りは頭に血が上っても当然だが。
ユウキは胸元を掴んでいる右腕を握りつぶさんほどの力で握ると両足を持ち上げる。右足を脇の下に、左足を首に回し、男の後ろで組み締め上げていく。いわゆる三角締めで男の首を締め上げるユウキはさらにその力を強めていく。
「ぐおおおおおおお!」
ユウキが首を締め付けることで男は呻き声を上げながら体勢を崩し、膝を地面につける。全力で締め上げられていく男の顔色が怒りの赤から青に変わっていく。その一方、ギルドの中は二人のやり取りでざわつき始め、二人の周りには人山が出来始める。ギルドの職員が不審がり騒ぎを確認しようとするが、人山に阻まれカウンターからでは確認できない。
ユウキの締め付けが男の呼吸を阻み、男の意識を奪うところまであと少しといったところ。
「うおおおおおおお!」
男は薄れゆく意識の中で残った力を振り絞る。ユウキの肉体を信じられない速度で頭の上まで持ち上げると全力で剣を振り下ろすようにして叩きつけた。その最中ユウキはと咄嗟に掴んでいた右手を離し衝撃の瞬間それを叩きつけることで受け身を取る。それでも吸収し切れなかった衝撃は凄まじい。肺が正常に機能しなくなり空気が漏れ出すとともに呼吸ができなくなる。そのせいで締め付けていた足が緩み、男の肺に空気が供給される。その一瞬で男はユウキを振り回す。その勢いでユウキはスイングドアのほうに吹き飛び扉を破壊しながら外に出る。
ユウキはスイングドアから外へ飛び出し、橋の上を転がり欄干にぶつかることで停止する。ようやく拘束が解かれた男は乱れた呼吸のまま集会場から出て話し始める。
「……何してくれてんだてめえ!」
「そりゃこっちのセリフだっつんだよ。謝ってんのに胸ぐら掴みやがって……」
立ち上がったユウキは背中をさすりながら悪態をつく。わざわざ二度も謝罪したのにもかかわらず髪の毛、さらには胸ぐらをつかまれて持ち上げられる筋合いはない。それにもともとユウキは血の気の多いタイプである。護衛任務の時は傷を負わないことを優先していただけで本来であればガンガン行きたいくらいだった。あの後はあまり敵と会わずストレス解消が出来ていなかった。その反動が今訪れた結果となる。
頭に血の昇った二人は橋の上で向かい合い、睨み合う。男は睨み続けながらユウキに近づいていき、ユウキは動くことはないものの近づいてくる男を睨みつけている。
二人がお互いの間合いに入ったところで、二人はユウキは股間に蹴りを打ち込み、男は右フックを顔に打ち込んだ。が、ユウキは左腕を挟んで、男は蹴りを左手で受け止めることでガードする。お互いの攻撃をガードした二人は殺意のこもった声で口を開く。
「ぶっ潰す!」
「やってみろや、筋肉ダルマァ!」
二人の周りには大きな人山ができており人山は興奮したような声を上げ始めとうとう人山の中から煽り始めるものが現れる。ユウキがマリチアに来て早々、ギルド前での格闘イベントに参加することになってしまった。




