第十四話 昇級祝い、バカ騒ぎしました。
「あ、やっときたよ~」「遅かったな」
「すみません。遅くなってしまって」「ちょっとガラの悪いゴブリンに絡まれちまって」
依頼を終わらせた二人が店内に入るとテーブルの上には既に大量の料理が並んでおり三人の前にはそれぞれ飲み物の入ったジョッキが置かれている。
「まあ、気にしないでね。私たちも既にちょっと手つけちゃってるしね」
フリアの目の前の小皿には汚れたフォークが置かれており、他の二人はそんなことを言っている間もちびちびとテーブルの上の料理に手を付けている。二人としてもわざわざ気を遣わせるのは不本意であるため、好都合である。二人は飲み物を注文すると椅子に座りスグルドに礼を言う。
「本当にありがとうございます。まさか食べ放題呑み放題にしてくれるだなんて!いやぁ、本当にいい先輩を持ったもんですなあ!」
「俺の奢りがここまででかくなるとは思わなかったよ、チクショウ」
「ありがとうございます」
ユウキは今日の昇級祝いの費用を全部持ったスグルドにわざとらしくい口調で感謝を告げ、それに続いてユーナも頭を下げる。テーブルがいっぱいになるほどの料理。単体の値段は想像が難しいが全部合わせた時の金額が高いか安いかくらいはわかる。スグルドは金額を想像し、料理と財布を交互に確認しながらうなだれる。
「まあ、そんなことより全員そろったから乾杯しよ!」
二人の前に飲み物が置かれそれを持ったのを見て三人も飲み物を持ち上げる。そんなことで流されたスグルドは不服そうであったが誰も見ていなかった。酒屋に集まった五人は以前したスグルドとの約束を果たすために酒盛りを始めようとしていた(とはいってもユウキはレモン水、ユーナは水である)。
「みんな飲み物持ったね。それじゃ乾杯しようか」
フリアはスグルドに目配せを送る。スグルドは今回金を出している張本人。音頭を取る資格があるのは彼だろうという判断で視線が彼に集まる。騒ぎにならない程度に、かつ聞こえる大きな声でスグルドは乾杯の音頭を取り始めた。
「ユウキのEランク昇格、そしてユーナのFランク昇格を祝って!」
「「「「「カンパーイ」」」」」」
ジョッキを喜びを共にぶつけ合う。ユーナもこの三日間でFランクに昇格し、ついでということもあり、今回の食事で彼女のこともお祝いすることとなった。ユウキに関しては責任者であるガドルの推薦書もありEランク相当の力量があると認められ、晴れてEランクに昇級ということになった。
「しかしまあ、冒険者になって一か月のやつに追いつかれそうになってると思うと正直自信なくしちゃうぜ」
「たまたまでしょ。実力はともかくとしても俺には経験が圧倒的に足りなすぎる。それに三人の経験はこの一か月で追いつけるんだったら薄っぺらではないでしょ」
謙遜しているのかしていないのかわからない会話するユウキは飲み物をちびちびと飲みながら、テーブルの上の食べ物に手を伸ばしている。
「へも、いひはげつではんらんふもあげれうなんふぇ、ふごいとおもひまふよ」
「まず飲んでからしゃべれ」
口いっぱいに食べ物を詰めてユーナさんのお褒めの言葉を頂いたユウキであるが、話し方のせいで全く何を言っているかもわからないうえに頭に入ってこない。口に入れたまま話しているのが気になったのかラクスは怪訝そうな顔で注意する。
「そういえば、逃げようとは思わなかったの?」
酒のせいかほんのり顔が赤くなっているフリアから質問が飛んだ。本日の宴会はユウキの昇格祝いだったためユウキに注目が集まるのは当然だと言える。それを理解しているユウキは特に滞ることもなく答える。
「本当に逃げる暇がなかったんだ。背中向けたら一気にやられそうだったし、かといって警戒されまくって撒くこともできんかったし。」
「でもそれでも逃げずに倒し切っちゃうところがすごいよね。私は普通の人より運動神経いいし感覚も鋭いから三人なら倒せるだろうけど、それでもニンビルウルフと一体一はしたくないし」
「戦い始めたら逃げようなんて思えなかったしなぁ」
ふむ、とうなずき、フリアは酒を流し込んだ。彼女は今のところかなりのハイペースで飲み続けており、スグルドが一杯飲み切る間に三杯目を注文しているレベルである。
「でもユーナちゃんもすごいよね。三日でランク上げまでこぎつけたわけだしね」
「えっ、そ、そんなこと無いですよ。それこそ昇級試験をうまくこの期間で受けられただけですし、それにユウキさんにもついてきてもらっていましたから」
「それこそ俺は何もしてない。端のほうでただただ突っ立ってみてただけだよ」
ユウキは本当にただ後ろで二振りの剣を振るい、ゴブリンやモスボアーを切り裂いていくユーナを見ながら周囲を警戒していただけ。手を出すことはなかったし、何なら大剣に手をかけることすらなかった。「俺本当に要るのか?」と思ったほどである。
「それでもユウキさんがいなかったら、心理的に大変でした。ユウキさんが目を光らせていたから不意打ちも受けなかったですし」
ユーナは食べる手を止めることなくユウキに感謝を伝えるために軽く頭を下げる。なんだかユウキは照れくささを覚えてしまい、顔が熱くなるのを感じながらユーナから顔を背ける。すると顔を背けた方向にいたスグルドはユウキのことを気遣ってか、飲み物を飲みながら話を変える。
「毎日毎日動き回ってるが疲れないのか?」
「疲れないって言ったら嘘でしょ。だから明日は休日。丁度いいからゆっくり過ごすよ」
フォークに刺した食べ物を頬張りながら答えたユウキの言葉に、スグルドはあそ、と淡白に答える。
「でも私たちも危ないねー。優秀な後輩がいるし追いつかれちゃうよ」
赤ら顔のフリアがジョッキに口をつけながら自虐するように笑いながら言葉を紡ぐ。
「そうですね。もっと頑張って先輩たちに先輩面なんてできなくしてやりますよ」
三人を挑発するようなユウキの発言に反応したスグルドはユウキの頭に手を回し締め付け始める。「生意気な」という言葉で始まった締め付けは実際にはそこまでの強さではなく、単なるじゃれあいであることがすぐに分かる。が、いつまでも野郎に抱き着かれたままでうれしいと思うような感性をユウキは持っていない。スグルドの締め付けから逃れるために無理やり拘束を解いた。
「まあさっきのは半分冗談でまだまだ抜けるとは思ってないよ」
「そりゃそうだろ。俺たちだって負けるつもりはねえからな」
二人はお互いに言いたいこと言いあったところで向かい合って笑いあう。こうやって友人と騒いでいる時間が楽しくて仕方ないと思っているところでなぜか横から不穏な雰囲気を感じ取る。恐る恐る横を向くとそこには先ほどのようにユーナがいた。しかし先ほどとは違い、目が座っており頬が赤くなっている。その手にはジョッキが握られており、その臭いを嗅いでみると明らかに水ではない。
「うわっ!?これ酒だ!誰のだこのジョッキ!」
そういいながら五人の前を確認していくとスグルドの前に置かれたジョッキがなぜか無くなっている。いつどうやって彼女の手に渡ってしまったのかは分からないが、彼女はスグルドの酒を飲んでしまったらしい。酒に弱いらしく少し飲んだだけであるにも関わらず顔を真っ赤にしている。
「どいつもこいつも私のことをこき使いやがって……」
酒に酔ったせいか、普段の彼女からは想像もできないほどの荒い口調で、支離滅裂な発言をしている。これ以上呑ませるのはまずいと判断した二人はすぐさま彼女の手からジョッキを取り上げようとする。
「……先輩面させない、ですってえ」
が、直後に呟かれた不穏な発言にスグルドは背中に冷や汗が走る。その方向にはフリアがおりユーナと同じような雰囲気を纏っている。嫌な雰囲気を感じたスグルドはフリアのもとに向かおうとするが彼は既にユーナの対応も受け持っておりどちらに付けばいいか分からなくなっている状況。視線でラクスに助けを求めるが、同様に面倒なことになりそうだというのを察した彼はすべてをスグルドに押し付け視線を追加の酒を注文し始める。
「先輩面させなさいよお!こちとらキャリア五年のベテランよお!それを一か月のルーキーが調子に乗ってえ!もう飲むしかないわよ!ビンごと持ってきてえ!」
「おいてめえふざけんな!今何杯目だよ!これ以上飲まれたら俺の財布が限界に達するんだよ!しかも高い酒頼みやがったな!臭いでわかるぞ!」
大混乱になったテーブルの隅でラクスはどこか楽しそうに三人を見つめている。やはり彼も寡黙なだけで騒ぐことが好きなのだろう。ユウキもそれを眺めながら他人事のように楽しそうに飲み食いしている。
「あらしょっと」
「すまんな。ユーナをおぶわせて」
「別に女一人背負うのに礼を言われることなんてないよ。それより後ろの人は……」
「気にするな。いつも通りだ」
酔って寝てしまった二人をおぶりながら店を出た二人の後方をまるで屍の如く歩くスグルド。想定以上に好き勝手に飲み食いされた影響で財布は非常に軽くなっている(とはいうもののさすがにかわいそうだと思った二人も少し出しておりダメージは若干軽くなっている)。フリアだけでなくユーナも勧められるまま呑んでしまい、奢りだけでなく酒乱二人を相手取ることとなったスグルドをユウキは気の毒に思う。
その一方、ユウキはラクスから冒険譚を夢中で聞いていた。なかなか話す機会のない彼と話すチャンスだと思い話したのだが、意外にも彼の話は上手くどんどんと惹きこまれていった。曰くラクスたちがパーティを組んだのは四年前でその時にはあと二人いたこと。曰くリーダーだったヒュームの男が依頼の最中に殉職し、その男と恋仲だったビーストの女は冒険者をやめ国に帰ったこと。それからリーダーになったフリアはつらくなると酒を飲むようになったこと(それでも次の日には酒を飲んだことすら忘れてケロッとしているらしい)。
様々なことを聞いたユウキは少々申し訳なく感じた。したくない話をさせてしまったのではないかと。するとそんなユウキの空気を感じ取ったラクスは首を二回横に振る。その表情からは悲壮感を感じたが、首を横に振ったことでユウキの気は和らいだ。
酒盛りが終了し、今は仲良く宿屋に向かっている。二人の背中の上で寝ている女性たちはもはやちょっとやそっとじゃ起きないほど深く眠っている。乱暴に扱っても起こす心配がないことに安心する。背後を振り返ると魂の抜けたようなスグルドを見ることとなり、我慢できずに吹き出した。それすらもまともに見えていないのかさすがに心配になったラクスがフォローをすることにした。
宿に着いた三人はフロントの係に事情を説明し、分担して二人を送り届ける。ユウキの担当は背負っているユーナ。部屋に入ったユウキはユーナをベットに寝かせさっさと部屋を後にした。外から鍵をかけてロビーに向かう。フロントに鍵を渡し、ユーナが来たら鍵を渡してもらうように伝言を伝え、自分の部屋に戻る。部屋に入り、ベッドに寝転がりながら仰向けの状態で装備を外していく。ゆっくりと目をつぶり今日の酒盛りを思い返していく。この世界に来てから一番の楽しい時間だった。まずこれを忘れることはないだろう。それのついでにこの世界に来てからを振り返っていると、ユウキすらも気づかないうちに眠りについてしまったのだった。




