表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/22

心を決める

 たくさんの魔力がこちらに近づいてくる気配を感じて、ジェニーは顔を上げた。


「ジェニー、先に行って。俺は残って状況を説明する」


 ジェニーを抱いていた腕を解いてそう言ったカミーユに、ジェニーは驚いて顔を横に振る。


「何を言ってるの」

「逃げるより、その方がいい。俺は大丈夫だから、早く。見つかったら危険だ」


 カミーユの瞳が必死に訴える。

 置いていきたくはないという気持ちが邪魔をして、ジェニーはすぐには動き出せなかった。


「ジェニー、行きましょう」


 エミリアもカミーユの言葉に従うように、そう言った。

 オレニアの破壊を確認した。本来のジェニーの任務は終了なのだ。あとはここから離脱するだけでいい。このまま逃げることは難しいことではない。今ならまだ。

 だがカミーユは違う。彼は多分、パラディーのその後のためにここに残るのだ。


「分かったわ」


 硬い表情でジェニーがそう言えば、カミーユがほっとしたように頷いた。


「必ず連絡するから」


 その言葉を信じて、ジェニーはエミリアとともに背中を向ける。


 研究室を出る際、最後にもう一度だけ振り返った。ちょうど人型に戻ったカミーユが、赤く濡らした口元を拭って、小さな微笑みを見せた。


 最短の進路で外に出るために、壁を数度破壊してジェニーとエミリアは研究所を抜け出した。


 外は大騒ぎになっていた。運の良いことに野次馬が集っていて、二人はすぐに人混みに紛れることができた。

 そのまま急いでその場所を離れると、念の為何度か回り道をしながら自分たちの建物へ戻る。

 その途中、上空に大鷲が舞っているのに気が付いた。きっと二人を探していたのだ。


 そして部屋に入ると、既に人型に戻って待機していたナタンが出迎えてくれた。

 ジェニーは息つく暇もなく、ナタンに尋ねる。


「アリアーヌは?」

「騒ぎを知ったリュカさんがすぐにこちらに来られて、そのままヴィルシェーズ家にお連れになりました」

「そう。では安全ね」

「……カミーユさんは」


 ジェニーは僅かに表情を曇らせたが、内心を悟られまいと平生の態度で言った。


「一旦別れたわ。オレニアは破壊。任務は完了したけれど、カミーユからの連絡を明朝まで十六時間だけ待つわ」

「……分かりました」


 その後ジェニーは、ナタンともエミリアとも、ろくに会話をしなかった。厳しい顔をしてずっと外を見ているジェニーに、二人とも殆ど話しかけてはこなかった。


 そして空が夜の闇に覆われていき、更に時間が経過して、虫の声だけが時折聞こえる深夜。ジェニーは窓の下に一台の馬車が停車するのを確認した。

 カンテラの明かりが照らしていたのは、リュカの姿だった。


 部屋に入ってきたリュカは、まずは深々と頭を下げた。


「アリアーヌを救ってくださって、ありがとうございました」

「現況は?」


 余裕無くジェニーはリュカに聞いた。リュカは頷いて先を続ける。


「兄は一旦捕まりました。研究所への侵入と、所長の殺害容疑で」

「……死んだのね」


 最後に見たあの状態で、生きているとも思えなかったが。人狼の回復能力をもってすれば、まさかもありえると思ったのだ。


「はい。既に解剖も終わっています。直接の死因は首への一撃でしたが、解剖の結果、心臓が破裂寸前だったとか。兄の攻撃が無くても、死んでいた可能性が高いです」


 それに言葉を挟んだのは、エミリアだ。


「あの時飲んだ液体が原因ね。魔力が異常に膨れ上がっていたわ。体が耐えらなかったのね」

「ええ、解剖にあたった医師たちも同じことを言っていました」

「研究者なんだから、危険な量かどうかくらい分かっていたはずよ。怒りで狂ってしまったのかしらね」


 エミリアはため息交じりにそう言った。

 ジェニーは、リュカに詰め寄るように尋ねる。


「それでカミーユはどうなったの。無事なの?」

「兄は大丈夫です。アリアーヌの証言で、まず兄がどういう状況だったかということが理解され、兄はアリアーヌと自分の魔力を取り戻すために研究所へ行ったのだという主張が認められました。それから現場の状況から、正当防衛だと判断されました。所長自身への薬物投与と、実験体にされた二人の姿もあったので」


 ジェニーは自身が吹き飛ばした人狼たちの姿を思い出す。


「……あの人狼たちね。大丈夫なの?」

「はい。所長から投与されていた薬物が抜ければ、正気を取り戻すだろうと」


 ほっとしてジェニーは、最も知りたいことの続きを尋ねた。


「今、カミーユはどうしているの?」

「兄は一旦家に戻りました。朝になれば王宮に向かうことになっています。しばらくは体がどういう状態なのか、詳しく調べられることになるでしょう」


 魔力を失い、そして取り戻したという稀有な状態だ。当然の処置だろう。


「既に警護と称した監視がついていて、部屋で軟禁状態です。兄は王宮に向かう前に会いたいと言っています。来て貰えますか?」


 ジェニーが答えるより先に、エミリアが口を開いた。


「私たちはここで待っているわ。行ってきて」


 一瞬言葉に詰まったが、ジェニーはゆっくりと頷いた。


 そしてリュカに連れられて、ヴィルシェーズ家に向かう。

 馬車の中で向き合って、リュカからその他の状況についても話してもらった。


 王立研究所は、檻に囚われていた人狼たちのように非人道的なことも行われていたことが明らかになり、研究所に出資していたアリアーヌの父、ジョフロワはその火消しに躍起になっているという。

 今回のことはどうやら本当にフランセットの暴走で、アリアーヌのことといい、ジョフロワも相当なダメージを受けたようだ。

 それゆえに、カミーユが誰の手を借りて研究所に忍び込んだかという点について、ジョフロワは追及しなかった。そのことで国王派と揉めて話を長引かせたくなかったようだ。彼の主導する反国王派たちもそれに従うしかなかった。


 この後、パラディーの国王派と反国王派がどうなるのか。それについてはもう、ジェニーの関知するところではない。

 間も無くしてヴィルシェーズ家に到着したジェニーに、この国でするべき最後の選択。

 ジェニーの心はもう、決まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ