4場面
「ハチちゃん、すごい……」
プレセぺが感嘆の声をもらす。
ハチの戦いっぷりは天界の使いを相手に一歩もひけをとっていない。
だが、ヒラキンにはそれが見た目ほど優位な戦いではないと気づいていた。
天界の使いの特性は並みはずれた防御力と攻撃力。加えて地上の8属性魔法すべての無力化、天界の7属性魔法への耐性からなる。
動きは素早いが動作そのものは緩慢でよけやすい。
遠距離からの攻撃はトカゲによる雷や冷気の息くらいでたいしたことはない。それらはもともと逃げる神候補を足止めするための手段でしかないからだ。
対策としては攻撃を避けつつ有効打を狙うことだが、普通の攻撃では天界の使いに通らない。通らないのでは倒せない万事休すだ。
結局、天界の使いを倒せるだけの有効打があればただの木偶人形だし、なければ絶対に倒せない相手ということになる。そしてあのハチという子供に有効打はない。
遠距離からの攻撃で足止めはできているようだが、それも時間の問題だろう。
さて、そこでヒラキンはどうするかだが、ヒラキンにとって大切なのはあくまでプレせぺの安全。そしてプレセぺを悲しませないことだ。
今、子供が優位な状態で立ち去るのがベストだが、それではプレセぺは納得しないだろう。引き延ばせば子供は不利になりますます立ち去りにくくなる。
自分が戦えればいいのだが、盗賊たちの町から全力で駆け付けたためその余力があるか怪しい。
どうすべきか迷っているとオアシスの方で強い力を3つ感じ取る。
自分を捕えたアルメリアという悪魔、そして一緒に捕えられたカルラとかいう烏天狗。そしてバジリスクの情報から最後はサトミと確認する。
……
「月並みなことを言うけれど、人は一人では生きていけないの」
この世界にはルールがあり守らなければ弾かれる。例えそれが理不尽なものであろうとも。
天界の使い。それは天界が地上に散らばった神の血を引く者達を集めるために作られた存在だとアルメリアは言った。
つつがなく任務を遂行できるよう、天界の使いには地上の8属性を無効化するルールを与えられた。
それは全て天界の都合。
でも、天界には地上に勝る力がある。ルールを強要することを許された存在なのだと彼女は言った。
「強いから言うことを聞けというのか? それは本当に神なのか? 」
俺の質問にアルメリアは意外そうに答えた。
「あなたもそういう考え方をするとは思わなかったわ。だって、天界がいなくなってもルールの強制者は変わらずに存在するのだから」
例えば、魔王が天界に等しい力をえたら、アルメリアに8属性無効の力を与えられ魂の収集にいそしむことになるのかもしれない。
「じゃあ他の神が」
「全員一緒よ。今の展開の支配でこの世界はうまく成り立っている。もう、下界に神の因子を受け継ぐものはほとんどいないのだから今更蒸し返すこともないでしょう? 」
「つまりあれだな」
カルラが突然割り込んできていった。
「韓流ステマがおわったらAKBステマが始まったみたいな感じだな」
やめろ! カルラ! お前意味わかって言ってんの!?
「サトミ、もしあなたがそれを望まないなら、あなたにはそれを覆す権利があるのよ。だってあなたも神なんだから」
アルメリアはカルラを華麗にスルーした。
「もちろん代償はある。あなたは本格的に天界の敵となり悪魔と言われる。かつての現住の神々のようにね」
それもあなたが今の神が身を滅ぼせば逆になるけどね、とアルメリアは続けた。
「さて、来たわよ」
アルメリアの視線の先には、神々しい光に包まれ、天から舞い降りる一人の天使の姿があった。
……
ハチは最初、0距離で天界の使いと戦っていた。
天界の誓いは素早いが、動作自体は読みやすく隙も多い。
がら空きになったみぞおちや顔面に容赦なく打撃を叩き込んだ。しかし全く効かなかった。手が痛くなるだけだった。
仕方ないので遠距離から衝撃波を繰り出した。これも全く効果がない。
なぜ効かないのか、ハチは悩んだ。
攻撃がきかないことは前にもあった。
アルメリアと戦った時だ。どんな攻撃も聞かなかったけれど、主様の攻撃はアルメリアの力を封じることができた。
その時、主様は異なる3つの攻撃を同時に仕掛けていた。
2つの攻撃で相手をだまして、本命をぶつける。
ハチも真似てみた。波長の異なる衝撃を同時にあたえた。
それでも効かなかったが、試せるだけ試した。強弱、属性、攻撃の仕方、因果律、フラクタル……自分でも何をいじくったかわからないいじくって、その内の一つが驚くほどあっさり天界の使いに届いた。
「いける」
でも、足止めするには十分だが、仕留めるほどの力はない。
もっと強い力がいる。「身体強化」アルメリアがハチにそれをかければ天界の使いに勝てるかもしれないと言っていた。
「こう、か?」
うまくいかない。アルメリアみたいに爆発的には強くならない。でも、さっきよりはましだ。この上さらに魔力を右手に上乗せする。
「これ、なら」
ハチは素早く天界の使いの死角に回り込むとみぞおちに一撃を叩き込む。天界の使いのみぞおちに大きな穴が開いた。
……
盗賊の町に残されたハルはチウネを支えて難民キャンプがあるという教会後地にむかっていた。
チウネはハチの治療魔法により傷口自体は回復していたが失った血は戻らず、またその治療魔法により大幅に体力を削られていた。身体の治癒能力を大幅にあげたことによる副作用だ。一人では歩くこともままならない。
血まみれのチウネと半魔族のハルの組み合わせは、勇者とカルラのせいで甚大な被害をこうむった盗賊の町においても特異な存在だった。
好奇の目にさらされる。
「あれって、もしかして人魚じゃないのか? 」
「違うだろ、あれはどう見ても悪魔だ」
ハルは自分に半分悪魔の血が流れていてよかったと思った。
この角がなければ、もっと早く人魚とばれてもっと面倒なことになっていただろうから……
「……違い、ます」
息も絶え絶えにチウネが否定する。
「あなたは悪魔ではありません。将来的にどうなるかはわかりませんが、少なくとも今は」
子供相手にも一言余計なチウネさんだ。
「戻りましょう。サトミのところに」
「でも……」
サトミはハルにチウネを頼むといった。オアシスに戻れば天界の使いとの戦いが待っているだろう。自分たちがいてはきっと邪魔になる。
「あんな悪魔の言うことは聞く必要ありません」
それに、この場所はハルにとってオアシスと同じくらい危険な場所だ。それなら、守ってくれる、好きな相手といた方がいい。
「あの狼のことが心配なのでしょう?」
ハルがはっとする。
「私も、心配です」
チウネはサトミに自分をこんな目にあわせたのはプレセぺだと忠告した。でもサトミはプレセぺを好いている。寝首をかかれることがあるかもしれない。
チウネは再び「時と空を渡る霊竹のやり」を使う。
一瞬気が遠くなりかける。
今日霊竹のやりを使ったのはこれが何度目だろう。
でも、ここで気を失うわけにはいかない。チウネは歯を食いしばった。




