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忘れられた神様  作者: ニスコー
第二章
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砕け散ったアミュレット

 なにかがおかしい


 ロレンスに長年使えていた従者は、彼の変化にとまどっていた。

 娘のリューネに接する態度はそこまでではないが、問題は自分に対する態度の変化だ。

 まるで友人か何かのように気を使われる。居心地が悪いことこの上ない。


 彼は奴隷としてロレンスに買われ、町で暮らす際に解放された。

 奴隷から解放されたといっても、ロレンスの奴隷に対する扱いはすこぶる良く、賃金も安定していたためそのまま雇われることになった。

 たまに人として見られていないような見下されているような感覚を覚えることはあるが、それで何かされるわけではない。むしろ、自分を買ったのがロレンスであったのは幸運だったと思う。彼はロレンスにとても感謝していた。

 最果ての地に赴くというロレンス達についてきたのもその恩を返すためでもある。


 あくまでロレンスは雇い主であり立場は上の人間であり、そうであるからその恩に報いようとしたのだ。

 そうでないと接せられたら、そうではなかったと気が付いてしまったら、自分はロレンスを恨まなくてはならなくなる。


 従者は魔道具「天架ける霊柩の歯車」に適性がある。ロレンスのところにいたほうが収入が良かったのは確かだが、最果ての地までついていくとなれば話は別だ。

 強力な魔物が跋扈する最果ての地に命をかけて付いていくほどの収入などもらってはいない。現に今自分は盗賊に捕まっている。

 対等な立場であったなら、このような事態を招いたロレンスを、自分は恨まなくてはいけなくなる。


 もちろんそんな簡単に割り切れるものではない、従者はロレンスに助けられた恩を確かに感じている。それに報いようと思ったのは嘘ではない。

 ただそういう風に対等に扱われると、納得できない思いが湧き上がってくるのも事実なのだった。


 ……


 がちゃり、夜中に馬車の中に何者かが入ってくる気配を感じる。

 馬車の中ではロレンス、リューネ、従者の3人が川の字になって眠らされている。

 従者は人影から漂うかすかな血の香りに身を固くした。


 人影はリューネの寝床の前で立ち止まると身体をまさぐる。

 しばらくの間、衣服と布団のこすれる音が聞こえた。

 人影はリューネの体からひびの入ったアミュレットを探り出した。


「……天使、様? 」


 リューネが目を覚ます。

 目に映ったのはアミュレットを眺めるプレセぺの姿だった。


「やっぱり、プレセぺがいなかったらとっくに壊れていてたわ。だったら、私が壊してもいいわよね? 」


 ふふふ……と彼女は笑った。

 違う、それは天使様じゃない。

 リューネは一瞬でそれがわかった。


「あなたは誰? それを返して」


 アミュレットに手を伸ばす。

 けれど彼女はアミュレットを握りつぶしてしまった。


「あ……」


 目の前で何が起こったのか理解できないリューネ。


「リュー……ネ?」


 ロレンスも目を覚ます。

 目の前に砕け散ったアミュレットが散らばっているのを見て、表情をこわばらせる。


「ごめんなさいね、人間たち。でも私たちには使命があるの、いつまでもこんなところで道草を食っているわけにはいかないの。プレセぺの身に危険が起こればあの子がやってくる。何を差し置いても。だから、犠牲になってもらうわ」


 そういうと彼女はケラケラと、とても下品に笑い出した。


 ……


 あんなものは天使じゃない。


 チウネは赤く染まった自分の胸を押さえつつ、「時と空を渡る霊竹のやり」で辛うじて身体を支えている。


「あなた、邪魔ね」


 そういったプレセぺは躊躇なく、なんの躊躇もなくチウネの心臓を一突きにした。

「時と空を渡る霊竹のやり」がとっさに心臓の位置をずらしてくれなかったら即死だっただろう。

「時と空を渡る霊竹のやり」には空間を渡る力がある。今も出血の量を最低限に抑えてくれているようだ。それでもこの出血では助からないかもしれないが・・・


 天使様は天使じゃなかった? なら、サトミもやっぱり悪魔なのだろうか。私は最初から全て間違っていたのだろうか?


「おい!だいじょうぶか? 」


 いつのまにか目の前には狼がいる。狼は「ちのにおいがしてやってきた」と言っている。

 後から狼を追って半悪魔もやってくる。

 半悪魔はチウネをみて真っ青になる。


「わ、私を食べたら」


 人魚を食べれば不死になる。助かるかもしれない。そういう意味だろうか、自分の右手を差し出す。

「馬鹿なことを……」チウネはそれを拒否する。

 確かにそういう伝説があるのは知っているが、本当かどうかはわからない。

 だいたいそれではあの盗賊たちと同じになってしまうではないか。


「私は、正しい、人間なのですよ? 」


 ずっと神に、エリザベート様に殉じて生きてきた。ここで死んでも自分に恥じるところなど何もない。

 ただ、妹のことが、このまま死んでしまっては妹を助けることができないことだけが気がかりだ。

「なんとかして霊竹のやり」けれどすでに霊竹のやりは出血のコントロールに使われており、それ以上答えることはない。


「ちをとめればいいのか? 」


 狼が一声吠えると瞬く間に傷がふさがっていく。狼が癒しの力を使う?チウネは戸惑う。癒しの力というのは聖なる存在にしか使えないのではないか?


「うまくできた? 」


 狼は首をかしげている。

 傷は治ったようだが、すでに血を多く失い過ぎてる。助かることは……いや

 霊竹のやりを使える感覚が戻ってくる。まだ動ける。


 どうする? 私はこれからどうすれば?


 サトミはプレセぺを守れと言った。でもプレセぺに殺されかけた。なら自分のなすべきことは・・・ハチとハルを見る。自分の傷を治してくれた。そういえばサトミはハル達も守れと言っていた。そのために霊竹のやりをかすとも。2人をサトミのところに届ければいいのか?


「あいつが、くるよ」


 ハチが空を見上げてつぶやく。空から巨大なトカゲのひく馬車に乗る全身鎧の騎士がおりてくる。天界の使い。あるいは冥界の使い。


「やっつけるよ! 」


 ハチが天界の使いに向かって駆け出そうとする。


「ま、待って! 」


 必死に止めるハル。

 サトミはアルメリアに身体強化をほどこしてもらってハチに戦わせると言っていた。今はサトミもアルメリアもいない。一人で行くなんて無謀すぎる。


「私がサトミ達を呼んできます」


 だから、ハチも一緒に来るようチウネは言った。


「でもまだプレセぺのお姉ちゃんがいないよ」


 ハチは首をふった。


「あの天使は駄目です。とにかく私たちだけで」


「大丈夫、時間を稼ぐくらいなら」


 ハチは強く言い切った。


「ハルを頼むよ」


「ハチ! 」


 ハルの悲鳴を断ち切って、ハチは駆け出した。

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