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忘れられた神様  作者: ニスコー
第二章
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人魚姫

 深い深い海の底、魔王なる存在がいました。


 魔王は絶滅寸前の人魚たちを助け、恩をうりつけたあげく、食っちゃ寝食っちゃ寝の生活をしていました。


「俺ははめられたんだよぉ、魔王なんてやる気なかったんだよぉ、それをあのカルラのアホが」


 ことあるごとに不平不満をぶつくさぶつくさつぶやいていました。

 どうやら海の底で引きこもっているのは、現在の勇者に見つかり滅ぼされるのが嫌だったから見たいです。


 人魚たちは助けられた恩があったため、最初は優しく接していましたが、しだいに呆れ果て「早く出て行ってくれないかな」とゴミを見る目で自称魔王様を見るようになりました。


 唯一の例外は若い人魚の少女でした。

 親を人間にかられた彼女は魔王を実の両親のように慕っていました。


「まおーさま!見て見て!あの船の船長渋めのイケメンでちょー素敵! 」


 でもちょっと頭の弱い子で、親の仇である人間にすぐ惚れて「人間になりたいよう、人間になりたいよう」と口癖のように言っていました。


 でも彼女は力が弱く、自ら人間の姿をとることはできません。


 魔王は戯れに声が出なくなる代わりに人間になる薬をつくってあたえました。昔、一緒に旅をした勇者がそんな昔話をしていたような気がしたからです。

 人魚は頭がかなり弱かったので、下手にしゃべったら人魚であることがばれてしまいます。ちょうどいいのではないかと魔王は思いました。


 確か物語では意中の相手と結ばれなければ海の泡になって消えてしまうはずでしたが、さすがにそれは可哀そうだと、「帰りたければいつでも帰るといい」と人魚を送り出すつもりでした。

 けれど人魚はそれを断りました。


「好きな人と結ばれなかったら消えるんでしょう?私はそれくらいの覚悟をもって人間になるの」

 、

 彼女は子供のころ、魔王に人魚姫の物語を話してもらったため知っていたのです。

 自ら物語の人魚姫のように、覚悟を決めて人間になりました。


 人魚はすぐにイケメンの王子に見初められ結婚することになりました。


 よかった、よかった、魔王は思いました。


 ところが、結婚当日になって人魚は帰ってきました。


「どうして、止めてくれないの? 親の仇の人間に嫁ぐ私を、心配してはくれないの? このままじゃ私、本当に海の泡になってしまうじゃないの!」


 彼女はいいます。人魚姫は不幸な話ではないのだと。


「人魚姫が本当に好きだったのは自分を人間にしてくれた魔法使いなの、彼の気を引くために人間になったの。短剣で王子を殺せと言われて、自分のことを考えてくれると知って、うれしかったの! 」


 そんなわけあるかい!

 魔王は頭を抱えました。残念な娘だと思っていたけれど、ここまで残念な娘だったとは。

 だいたい、人魚姫を人間にしたのは魔女のはず、俺はそう話さなかったっけ?


「人魚姫は泡にはならなかったの。王子は殺さなかったけど、最後に魔法使いが気が付いたから。自分がいかに人魚姫のことを大切にしていたか気が付いたから。だから、海に身を投げても泡にはならなかった。海の中で、魔法使いとキスをして終わったの!」


「……」


 魔王は苦笑いするしかありませんでした。彼女のでたらめな話はわけがわからなかったけど、彼女の気持ちはわかったからです。


「魔王様は私が嫌いなの? 」


 人魚は上目使いに魔王を見ました。

 恐ろしい娘だ。と魔王は思いました。自分にとって彼女はなついてくれた子供でしかない。でも彼女には愛する人と添い遂げなくては海の泡になる魔法がかけられている。そして、その魔法をかけたのはほかならぬ自分。

 彼女は知っている。魔王が人魚を海の泡に変えることなどできないことに。

 王子に魅了の魔法をかけて人魚と結婚させるように仕組んだのはほかならぬ自分なのだから。


 全く……頭が弱いなどとんでもない。とんでもない策士じゃないか。


 魔王はやさしく人魚を抱き寄せ、そして……


 ……


 ハルが目を覚ますと1人で眠っていた。

 急に寂しくなる。

 サトミ達に出会う前のことは覚えてないけれど、ずっと、ずっと誰かと旅をしていたように思う。

 誰かがいないととても不安になる。


 ハルはハチを探して一人で歩きだす。


 ここにいる人たちは盗賊だという。盗賊はみな悪い人なのだという。でも、ハルから見るとあのチウネとかいう人の方がよっぽど自分を悪い目で見ている。だから、無警戒に話しかけてしまった。


「あ、あの、ハチがどこにいるか知りませんか? 」


 話しかけられた盗賊達はぎょっとした目でハルを見た。まるで初めてハルに気が付いたようだ。

 そのときハルはしまったと思った。

 盗賊たちが気を許しているのはサトミ達であって自分ではないのだ。自分が受け入れられているわけではない。

 自分はサトミ達の仲間だと思っていたから勝手に受け入れられている気がしたが、たんに眼中になかっただけだったのだ。


「こいつ、人魚じゃないのか? 」


 盗賊に一人がぽつりといいました。


「俺きいたことがある。昔最果ての地で人魚が見つかったって」


「でもそれはもう10何年も前のことでとっくに捕まったはずだろ? 」


「いや、しんでたって話だぜ。もしかしたらその人魚がしんでなくて……」


「歳をみろよ。10何年も前って言ったら生まれてないか赤ちゃんじゃないか? 」


「馬鹿かお前、亜人が人間と同じように歳をくうのかよ! 」


「あの、サトミってやつじゃないのか? 」


 1人がそういってハルをまじまじとみる。


「あいつ、人を生き返らせれるんだろ? 」


 その目はまるでハルを値踏みしているかのようだ。

 怖い……

 ハルはその場から逃げ出した。


「ちょっ、待てよ! 」


 後ろで盗賊達の声が聞こえる。


 ……


 しばらく走ると、プレセぺを見つけることができた。

「どうしたんですか? 」

 プレセぺは小首をかしげる。

「そんな大勢で」

 振り返るといつのまにか盗賊達が数人、ハルの後を追ってきたようだ。


「いや、俺たちは別に……なぁ? 」


 盗賊達はばつが悪そうにしている。


「何をやっている? 」


 盗賊達とは別の、野太い男の声。


「ガプスの旦那」


 盗賊達のまとめ役らしい男が責めるように盗賊達を見つめている。


「その方たちは坊ちゃんを生き返らせてくれるサトミ様の仲間だぞ?」


「だって、その娘は人魚かもしれなくて」


「あんたはその話、信じてるのか? 」


 それぞれに言い逃れを始める盗賊達。


「あの奴隷商は生き返った。信じるしかあるまい」


 盗賊達はそれでも不満気だったが、一応ハルに「追いかけまわして悪かったな」と詫びをいれて帰っていく。


「すまんな、娘。こう人が多いといろんな奴がいる。奴らも悪い奴ではないのだが」


「ええ、まぁ、そうですね」返事をするプレセぺだが事態がよく呑み込めていないようだ。

 ハルは、何か心がざわめく感じがしていた。まるで昔、似たことがあったような……


「ハル! 」


 その声に呼ばれて安堵する。ハチだ。いったいどこに行っていたのだろう?


「おしっこだよ! 」


 言われてハルは赤面した。

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