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忘れられた神様  作者: ニスコー
第二章
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綺麗なロレンス

 娘が奴隷だとか、そうでないとか、そんなことはどうでもいい。

 私は一体何故そんなことにこだわっていたのだろう。


 目を覚ましたロレンスは、まるで憑き物がおちたかのようだった。


 確かに、知識として、経験として、奴隷はいけないことだと勇者に教えられた記憶はある。それを自分勝手に解釈した記憶もある。

 だが、今にして思えばなぜそんなことに固執して妻に冷たく接したのか、娘を刺してしまったのか、全く理解できない。

 以前ロレンスの抱えていた思いは、言い逃れだ。

 自分が勇者の思いに答えられず、奴隷商になったことへの言い逃れ。

 自分は奴隷を認めないことによって、勇者の教えに背いていない正しい人間なのだと言い逃れしていたのだ。

 なんとあさましいことだろう。あまつさえそれで娘を傷つけてしまうなど、いくら後悔してもしたりない。

 それに気が付いたとき、ロレンスはただただ涙し、娘に許しをこうたのだ。


 ・・・


 ロレンスは俺に娘の秘密を語って聞かせた。

 生まれながらに強力な魔力を持っていたこと。

 それをアミュレットで封じていたこと。

 リューネが14のときそのアミュレットにひびが入ってしまったこと。

 魔力を持った人間は天界に連れ去られてしまうこと。

 2人は最果ての地まで逃げることにした。


 話を最後まで聞き終えた俺は思った。


 なんとまぁ・・・無駄なことを。


 俺は最果ての地のさらに末端にあるという「妖水の森」で天界の使いに遭遇している。どこに逃げようとしていたかは知らないが、天界の使いにそんなことは無意味だ。


「私達の目的地は最果ての地の奥にある平和な森です。そこにはなぜか強力な魔物が存在していないようなのです。その森までまどりつければ、後は娘が16をむかえるまでそこで暮らすつもりです。」


 天界人は16のとき下界に落とされるかどうかの試験を受けるため、あと2年なんとか逃げ切れればいいのだとロレンスは付け加えた。


 最果ての森にある平和な森、ねぇ・・・俺はそこにひっかかった。「妖水の森」みたいな森が最果ての地にまばらに存在している可能性もなくはないが。


「その平和な森というのは、もしかしてワーウルフの集落などがあったりするか?」


「なんと、ご存じなのですか?」ロレンスが驚く「確かに以前そのような集落が存在していました。実は私がその森を見つけたのも、彼らを狩ったときなのです」


 ワーウルフを、狩った?そういえばこいつは奴隷商だったな。すっかり仲のいい父娘が板についていたから忘れかけてたが、こいつらも存外罪深い奴よ。

 そのワーウルフ達はハルを食べたらしいから、同情する気はないけど。


「私は奴隷商で財をなしました。娘に起こっていることは私への罰なのかもしれない。けれど娘には罪はないのです。」


 聞いてもいないのに懺悔しだすロレンス。

 なんとも殊勝な心がけだ。本当に奴隷商だったのかこいつ。


「どうしてそれを俺に話す?俺を神というのなら、娘を天界に連れて行っていってしまうかもしれないだろ?」


「あなたは信用できる。何故でしょうかそれがわかるのです」


 ロレンスはまっすぐに俺を見つめてそう言った。


 ・・・何か、違和感があるんだよね。

 娘が天界の使いに連れ去られることを「奴隷商の罰」と思えるような感覚の人間が、奴隷商として財をなせたのか?

 娘が奴隷に落ちて、それを自分が奴隷を売り買いしていた因果応報だ、と思うならまだわかるんだけど。


 この些細な違いを説明するのは難しんだけど、前者だと自分は奴隷の売り買いをするのが悪いと思いながら、奴隷の売り買いをやって社会的に成功するまでになったってことになる。それって、本当に奴隷の売り買いが悪いなんて思ってないよなぁ、と思うわけさ。


 考えすぎかなぁ、でも


 この違和感はもしかしたら、今のロレンスの魂はジェイドの魂だから、なのかもしれない。なんとなくそう思った。


「それで俺に何を期待している?」


「私たちをあなた様の眷属にしていただきたいのです。そのためならばもう一度死ぬこともいといません。娘とも話し合いましたが、天界に連れて行かれるくらいならと同意してくれました。」


 どうやら俺がジェイドを眷属にするという話を聞いて感化されたらしい。

 まぁ、そんなこと考えても今更なんだけどね。だって・・・


「わかった、今日からお前は俺の眷属だ。」


「あ、ありがとうございます?」


 喜んでるとこ悪いんだけど、ジェイドは俺の力を使ってロレンスを生き返らせた。

 どうやら俺の名前を表す魔道具を使ったかららしい。

 そんなわけでロレンスは彼の申し出以前にすでに俺の眷属になっていたりする。


 チウネみたく後から文句言われても聞き入れても困るし、誤解したままでいてもらうことにしましょ。


 ・・・


 俺の名前を持つらしき魔道具「悟り見る心の女神」についてだが、アルメリアもその由来についてはよくはわからないらしい。

 伝説ではその昔世界の意思は一つであり、いろんな人の心を束ねる理があったらしい。その理は皆の中に巣食う共通のおそれである死を取り除こうとした。

 だけどそれは人の神の怒りをかい、滅ぼされることになる・・・みたいな話だったが、どうも俺との接点がぴんとこない。

 だいたい悟り見る心の「女神」てなんだよ。俺は女かよって話だよ。


 ・・・


 ロレンスとの話を終えた後、アルメリアに頼んで近くの町に物資を調達しようと考えた。


 ところが「その必要はないわ」とアルメリアは答えた。

 盗賊達は辺境の盗賊に与えるにしては上等すぎる武具を与えられており、町に行ったところでたいした武具は手に入らないらしい。

 それならそれでいいけど、何もアイテムは防具だけとは限らない。

 例えば石ころ。最低でも石のあるところに連れて行ってもらわないと困る。

 身代わりの石をできるだけたくさん作りたいからな。


 しぶりまくるアルメリアになんとかねばって、瞬間移動で一緒に盗賊の町に連れてってもらうことになった。

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