魔法
ジェイドの蘇生術によって天界の使いがやってくることはなかった。
術が失敗したからだろうか、それとも他にも条件があるのかもしれない。
現在ジェイドの魂はロレンスという元奴隷商の中にある。
アルメリアは必死にジェイドの中に戻そうとしたが無理だった。それじゃあ試しにとロレンスの中に戻すとあっさりなじんでしまった。
アルメリアはすぐにジェイドを生き返らせろ俺に迫ったが、とりあえず魂はロレンスの中に入れておくように説得した。
ここで蘇生術を使って天界の使いがやってきたらまずい。まずは装備とアイテムを整えないといけない。
「俺の蘇生術は時間的な制約はあまりないみたいなんだ。例え腐ってても、白骨化しても生き返らせれるから大丈夫だ」
安心させようと説明したのに、アルメリアは怪物でも見るかのように俺を見る。
「あなたに人の心はないの?」
悪魔のお前がそれを言うのか。俺はこんなに紳士に受け答えしてるというのに。
再び蘇ったロレンスとリューネは涙ながらに喜び合っていた。
チウネの話によると何かわだかまりみたいなものがあったようなのだが、そんな形跡は微塵もない。
これだけ見てるとこのままでよいんじゃないかという気もしなくはない。
・・・
俺はアルメリアに盗賊連中を全員俺のところに集まるように指示した。
何事かといぶかしがる連中に、ジェイドがしんだことを告げる。
盗賊たちはショックをうけていた。
「しんだお頭に合わせる顔がねぇ」とかなんとか、終いには「悪魔のせいだ」といってアルメリアを糾弾しだす者も出る始末。
ジェイドはジェイドで相当好かれてたみたいだ。
「俺の力ならジェイドを生き返らせることができる。」
俺が宣言すると盗賊たちがざわめいた。喜んでいるというより本当なのかどうなのか訝しんでいるようだ。
「ただし3つ条件がある」俺が付け加えると「やっぱり」と一様に俺に疑いを向ける。そのかわり悪魔と契約して魂を差し出せとでも言うのだろうと、殺気だつ。
まぁ、そう慌てるなよ。
「まず一つ目、生き返らせたジェイドは俺の眷属になる。俺の眷属になる以上、盗賊からは足を洗ってもらう。お前たちとは金輪際縁を切ることになる。アルメリア、お前ともだ」
「仕方がないわ」とアルメリアは承諾した。
・・・え?承諾した?
あらら?
ノリで言ってみただけなのに承諾されちゃった。
だってアルメリアからしたら、ジェイドが生き返らなくてもジェイドの魂自体は確保してるわけだから、そこまでのリスクを冒してジェイドを生き返らせる必要なんてないはずだ。てっきり断れるかと思ってたんだけど・・・
でもアルメリアは承諾した。案外本当にジェイドに惚れていたのかもしれない。
盗賊達も素直に同意した。
ガプスとかいう男が言うには「いつかこうなることがわかっていた」らしい
「坊ちゃんは盗賊なんかには向いてねぇ」
どんだけ好かれてたのジェイドさん。
ま、まぁ、兎に角。
「2つ目の条件は今捕まえてる親子を開放すること。そして3つ目は・・・アルメリア、俺は元奴隷商の男も生き返らせるつもりだ。そうなったら天界の使いがやってくる。そのときお前の力を貸してもらいたい。」
協力したいけどそれは無理だとアルメリアは答えた。
「倒すんじゃないぞ、瞬間移動の魔法で逃げるだけだ」
「それも難しいと思うわ」
天界の使いは下界の魔法は通用しない。天界の魔法にも耐性がある。
アルメリアは一つだけ天界の魔法を使えるといっていたが、それは瞬間移動。「空」の系統の呪文だという。
「直接攻撃するわけじゃないからなんとも言えないけど、もしかしたら発動しない可能性があるわ。一発勝負でそれは危険な賭けじゃない?」
なるほど、失念していた。
瞬間移動も魔法の一つ。うまく発動しない可能性があるのか・・・
しかしアルメリアはこうも続ける。
「それなら、まだ「身体強化」の魔法を、そこのコントンにかけた方が確実かもしれないわよ。」
身体強化?それも天界の使いには効かないんじゃないのか?
「呪文だけど、下界の8系統の呪文でも天界の7系統のじゃないのよね」
「それ以上の呪文ってことか?」
俺の蘇生術は天界の7系統の呪文よりさらに高位の呪文だという。「身体強化」もそうなのだろうか。
「逆よ。「身体強化」はそれ以下の系統なの」
アルメリアが言うには人も動物もみな魔法を使って生きているのだという。息を吸う魔法。心臓を動かす魔法。しゃべる魔法。考える魔法。
でもそれは下界の者にも天界の者にも当然の行為であり、それを魔法としては認識していない。
「天界の神はね。地上の8系統の魔法をまるで私たちが踊ったり、歌ったりするみたいに自然に使う。生まれてからずっと天界にいる存在なら魔法とも認識していないかもしれないわね」
天界の使いが来ても息ができなくなったり、心臓が止まることはない。だから8系統以下の魔法ならたぶん、問題なく使えるはずだとアルメリアは言った。
本来のアルメリアの身体能力は人間より多少強い程度だが、「身体強化」の呪文でハチを上回る力を身に着けていた。もとから強いハチが「身体強化」されれば天界の使いを倒せるかもしれない。
まさに、レベルを上げて物理で殴るこそ最強・・・でも、またハチに戦わせるのか?
「主様、やらせて」
ハチはそう言った。
「今度こそ、勝つよ。」
ハチはまっすぐに俺を見る。その瞳には闘志がめらめらと燃え上がっている。
なんという曇り無き眼よ。
ここで俺が「身体強化」をうけて戦おうとするのは馬鹿な行為だ。力のないものがでしゃばってはならない。でもおれには力がある。神様の力を使って道具を整えて、万全の準備をして、勝てる見込みがついて、それで「身体強化」をうけて戦うのが正しい判断だと思う。
だけど、ハチをここで戦わせないのは正しい判断なのか?
何回も負けて、落ち込んで、ようやくめぐってきた汚名返上の機会。アルメリアがハチに戦えと言っている以上勝算もあるのかもしれない。
戦わせた方がいいのか、よくないのか、俺には分からない。
ふと思う、こんなときカルラならなんと言うだろう。あいつはお気楽なバカだが、だからこそ本質を理解している側面もある・・・ような、そうでもないような。
ま、まぁ、自然の摂理的に正しいことを言い当てれる気がする。
「やってみりゃいいじゃねーか。駄目なら俺が助けてやるぜ?」
う~む、こんな感じか?
俺はハチに言った。
「わかった。まかせるよ。ただし、1番初めに試すのはアルメリアの瞬間移動だ。駄目ならハチが行く。無理だと思ったら俺が助けに入るけど、たぶん逃げることになるだろうからその力は残しておくこと。無理するなよ。」
「うん!」
ハチは嬉しそうに答えた。
まぁ、あれだよ。カルラなら助けに入るとか言って重大なぽかをやって入れないだろうけどね。俺は違うよ。ちゃんと助けるよ。
ホント、あいつ今どこにいるんだろう。
とりあえずは有用なアイテムを神様パワーでいっぱいつくらないといけない。
アルメリアの瞬間移動で物資の多いところに連れて行ってもらおう。アイテムを整えなくてはならない。
ただ、神様パワーのことはアルメリアには内緒にしておきたい。どう誤魔化そうか考えていると、ロレンスが俺の前に現れた。
「あなた様は神様だったのですね。実はお話したいことがあるのです。どうぞ私たち家族をお守りください」
ロレンスは思いつめた顔でそう告げた。
なんだよおい。これ以上厄介ごとを増やそうというのか?




