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忘れられた神様  作者: ニスコー
第二章
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目覚めた母は

 エキドナが目覚めてまず初めにやったことはプレセぺを痛めつけることだった。

「どうしてお前だけが残っている?どうしてお前だけが生きている?どうしてお前だけがヒラキンと一緒にいる?姉妹の中で一番弱く、無力なお前が?」

 お前が姉妹たちを殺して、ヒラキンを奪い取ろうとしたのだろう?

 そういってエキドナは鞭のように伸ばした蛇のような指で、プレセぺを打ち付け、串刺しにした。

 言っていることはむちゃくちゃだった。

 プレセぺが1番弱いなら、どうして姉妹達を殺せたのか、ヒラキンを奪うつもりだったのならどうしてエキドナまで連れて逃げたのか。

 でもエキドナにとってはそんなことは関係なかった。ただひたすら、プレセぺを痛めつけた。

「違うんです!お姉様!話を聞いてください!!」初めのころはそう訴えていたプレセぺも、次第に「ごめんなさい、ごめんなさい」としか言わなくなった。

「やめろ、プレセぺをいじめるうな!」

 ヒラキンはプレセぺを守ろうとした。

「おお、おお、可愛そうなヒラキン。可愛い可愛い私の坊や。こんな性悪娘に騙されて、でももう大丈夫。これからは、あなたの母があなたを守ってあげるからね」

 猫なで声でさし延ばされる手を、ヒラキンは払いのけた。

「お前なんか母さんじゃない!醜い蛇の化け物め!」

 化け物と、呼ばれた瞬間、エキドナの顔が醜くゆがむ。

「お前もか?お前も私を化け物というのか?私をこんなふうにしたのはお前なのに、永遠に愛すると誓ったのに、私をこんなふうにしただけでは飽き足らず、化け物の中にほおりこんだお前が!!」

 エキドナはヒラキンも鞭で打ちすえた。

 感情に任せて、何度も何度も。

「やめてください!死んでしまいます。」

 プレセぺはなんとかヒラキンを守ろうとしたが、それが逆にエキドナの怒りに火をつける。

「ほぉら、やっと本性を現した!やっぱりお前はヒラキンを奪おうとしていたんじゃないか!」

 エキドナの鞭から守るため、プレセぺはヒラキンを抱きかかえるような格好になっていた。まるでヒラキンを捕まえるような格好に。

「捨てられたお前を拾ってやった恩を忘れたのか?」

 鞭で打ちすえられたプレセぺの翼はぼろぼろで片方の翼はひしゃげて骨が露出していた。

「ほうら、ヒラキンもうわかっただろう?その女は私とお前を引きはがすためにずっと騙していたんだよ」

 エキドナの声がまた猫なで声になる。

 ヒラキンは怖かった。エキドナが怖かった。でももっと怖かったのは、プレセぺが血まみれで、このまま死んでしまうんじゃないかということだった。

「わかったよ、お母さん」

 ヒラキンは必死に演技した。

「こいつは悪い奴だったんだね。騙されていたよ。目が覚めた。僕にはお母さんだけだ」

 ヒラキンの震え声の演技に、エキドナは満足そうにうなずいた。

「ようやくわかってくれたんだね。さあ、この性悪女をどうしてくれよう。バラバラに引き裂いて野犬にでも食わせてしまおうか」

「駄目だよ。母さん!こいつは悪い奴だけど、今まで世話してくれたんだ。お母さんの手当だってしてくれたんだよ?」

 エキドナの目がすうっと細くなる。けれどすぐにまた猫なで声に変わる。

「おお、優しい優しい私の坊や。そんな娘にも情けをかけるなんて。いいわ。その娘を生かしておいてあげる。でも、一つだけ母さんの願いを聞いてはくれないか?」

 嫌な予感がしたが、首を縦に振るしかない。

「私の体をこんなふうに醜い化け物にしたのはお前の父さんなんだよ。父さんはとても悪い人だったんだ。私のことを愛すると誓っておきながら、身も心も引き裂きずたぼろにした。」

 それからエキドナはひたすら父親の悪口を言い続けた。

「ねぇ、坊や。私のことを愛しいるのなら、父親を、あの男を、殺してはくれないか?」

 そうしたら、この娘を助けてやってもいい。

 エキドナはそう付け加えた。ヒラキンに選択の余地はなかった。


 それからエキドナは8体の蛇と契約するように言った。

 自分の中に埋め込まれた蛇から1つ、バジリスクを取り出すとヒラキンに与えた。

 毎日のように、けいこと称してヒラキンをいためつけるようになった。


 プレセぺの片方の翼は元には戻らなかった。

 もう一方はなんとか原型をとどめてはいたが、1枚の翼だけでは飛ぶことはできない。

「お姉様とおそろいですよ」

 プレセぺはそういって笑った。

 そして、エキドナのことを恨まないでと、ヒラキンに頼んだ。

 本当は優しい人なのだと、傷ついているだけなのだと、それは自分のせいなのだと・・・


 エキドナが目覚めてから森の中は変わってしまった。

 目の前で、蛇が小鳥を丸のみにしている。

 以前は誰もが何を襲ったりはしなかった。

 暴れているのは傷ついた者たちだけ。

 今は違う。

 どこでも、そうであるように生きるために殺す。強いものが弱いものを虐げる。

 唯一誰も何も襲わないのは森の奥に住む森の主だけ。

 ぼーっとしていて、支離滅裂で、何を言っているのかわからない。誰かが来るとすぐに逃げ出す。臆病な奴。そいつは友達を探してこの森にやってきた。

 友達は近くにいるが、見つけることはできないのだという。だから誤って食べてしまわぬように、何も食べない。なんとも風変わりな森の主。


 ・・・


 ヒラキンはバジリスクの上で目を覚ます。少し眠っていたようだ。力は完全ではない。むしろ絶不調といっていい。だが、時間は十分に立っている。もう一度天使になるための時艱は。


 プレセぺを助けるために残しておいたバジリスクによるとプレセぺはアルメリアという悪魔に狙われているらしい。近くに彼女を保護してくれたサトミという人物もいるみたいだが、どうにも頼りない。

 バジリスクがプレセぺを見失なってから丸一日近くたっている。

 一刻も早く見つけなくてはならない。


 ここから先、プレセぺのいた場所に向かうにはバジリスクではどんなに飛ばしても数日はかかる。

 天使になって一気に探すしかない。

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