懺悔
ふしだらな女・・・メーティアは私のことをそういった。
本当にそうだ。
お父さんは死んだ。たぶん盗賊の人に殺された。
なのに私は盗賊のリーダーであるジェイドに惹かれいる・・・
・・・
リューネはメーティアに指摘された後、いたたまれなくなって逃げ出した。
とにかく人のいないところの逃げた。
ガサガサ・・・
背後に人影を感じる。ジェイド?期待して振り返る。
そこにいたのは父の墓で祈ってくれていた少女だった。
「ごめんなさい、覗き見するつもりはなかったの」
言われて初めて自分が泣いていたことに気が付く。
リューネはもう何が何だか分からなくなっていた。取り繕えばいいのか、逃げ出せばいいのか、いっそ人目をはばからず泣いてしまえばいいのか。
「こわいからないてるのか、おれがやっつけてやるぞ?」
男の子の声に見れば、少女の後ろには亜人の女の子と狼がついている。しゃべったのは狼のようだ。
「亜人・・・」
亜人は町では稀に見世物小屋や奴隷として見かけるが皆枷をつけられている。枷は亜人の力を封じるためにつけられている。亜人は人より強いのだ。
見たところこの亜人達に鎖はついてないように見える。
怖くて後ずさりする。
「こ、怖くありませんよ!」
少女があわてて背中から翼をはやす。
翼を、はやす???
「ほら、私もこんななので大丈夫です!」
パタパタと宙に浮いて、なにが大丈夫なのかわからないが力強く主張している。
「て、天使様なのですか?」
ちょっと違うけど、そうですね。と少女、プレセぺは言った。
狼と亜人の少女の自己紹介もしてくれる。ハルとハチと言うらしい。ハチが人化してみせる。ハルと同じくらいの男の子になった。
男の子・・・子供です。どうしてそんなに恐れていたのか。
「天使、様」
ここで天使様に出会えたのもオーム様のお導きに違いない。
リューネのいた町はソロモンの末端にある。オームはソロモンの姫様だ。
「天使様、どうか私をお救い下さい。罪深い私をお助けください」
プレセぺは戸惑っていたようだが、リューネがあまりにも必死に頼んだので最後には折れた。
「私にはあなたの思うような力はありませんけど、お話を聞くくらいなら」
リューネはプレセぺにすべてを話した。
自分に魔法の力があること。
その力の封印が解けかかっていること。
そうなったら天界に連れて行かれてしまうこと。
父がすべてを捨てて一緒に逃げようといってくれたこと。
その父に刺されたこと。
ジェイドに助けられたこと。
父が殺されたこと。
それでもジェイドに惹かれていること。
「私は・・・罪人ですか?」
それは話というより懺悔に近かった。
プレセぺはだまってそれを聞いていた。
どうやらリューネは自分のことを責めているらしい。
自分の父を殺したかもしれない人を好きになって苦しんでいる。
プレセぺは異性をそういう意味で好きになったことはないし、なることは許されないが、罪を犯して許されないと思う気持ちには思い当たるところがあった。
「私は、昔友達を裏切りました。」
少なくとも、プレセぺはリューネの話を聞いた。とてもつらい話だったと思う。そんな話をしてくれたリューネに答えるため。自分の罪を話すことにした。
プレセぺには大好きな姉がいた。ずっと一緒にいたいと思った。でもそれはかなわず姉は男の人と一緒になった。しばらくして姉が帰ってくる。姉は男に傷つけられ自暴自棄になっていた。
姉は周囲を傷つけて孤立していった。周りから疎まれるようになった。プレセぺは姉を守るため友達を利用することにした・・・
「友達は悪いことが嫌いでした。とてもとても嫌いでした。それがわかっていながら私は・・・」
・・・
エキドナお姉様と他のお姉様たちの溝は決定的なほど広がっていました。
子供が男の子だったのも関係していたのかもしれません。
母の国には言い伝えがありました。子供を産めない娘たちが呪いから解放されるための言い伝え。
それはお母様の息子と子をなすこと。
けれどお母様はいまだかつて男の子を生んだことがありませんでした。
エキドナお姉さまの子供は男の子。
この子と交われば呪いから解放されるのではないか?
そう考え子供を奪おうと考える者達が後を絶ちませんでした。
エキドナお姉さまと母子の契りを結んだメネアお姉様達が必死に阻止してくれたけれど、みんなヘラクレスを討ちにおもむき、帰ってきませんでした。
最後に残ったのは私だけ。私だけでは2人を守ることはできない。私は2人を連れて母の国から逃げることを決心しました。
そしてその時、私は・・・自分の手で、自らの考えで、初めて罪を犯しました。
すーちゃん、すべての罪を喰らう存在、この世に罪を背をわぬ者などおらず、それゆえに全てを喰らう存在。でも本当は優しい。寂しがり屋で、友達がほしくて、唯一見分けることができた私のことを本当に大切にしてくれた、私のお友達・・・
私一人ではエキドナお姉様とヒラキン2人を守って逃げ切ることはできない。
だから、すーちゃんの森を抜けて逃げることにしました。
既に私はお姉さまを不幸にするという罪を犯していたのかも、しれませんでした。
罪を犯した者は、すーちゃんにとってすべて喰らうべき存在。見分けることができなくなってしまう。
もしかしたら私は食べられてしまうかもしれない。
でも、すーちゃんに食べられるのなら、それならそれでいい。
けれどきっと、すーちゃんならわかってくれて、私のことを許してくれると・・・お姉様をこんな風にしたのも私ではないと言ってくれると、心のどこかで期待していました。
そう・・・私は、すーちゃんがみんなに恐れられていると知っていて、追ってくるものは食べられると知っていて、私が好かれていると知っていて、私が助けられると知っていて、それを利用したのです。
森の中で出会った、すーちゃんの体はお姉様達の返り血で赤く染まっていました。
ツミノニオイガスル
すーちゃんはいいました。
ツギニ、アッタラ・・・ミワケラレナイ
私は一番の友達を裏切り、永遠に失ったことを知ったのです。
・・・
リューネはプレセぺの話を真剣に聞きいった。
よくわからないところもあったが、とても大切な話なのだと分かった。
きっとこの天使様は自分よりも傷つきやすいのだろう。何倍も何倍も。
「許してくれないなんてことないです。今頃友達も会いたいって思っています」
自分とは違う。自分の父はもう亡くなってしまった。
もう話すことはできない。どうして自分のことを刺したのか。嫌いになったのか聞くことはできない。
そのことを改めて知り悲しくなる。
でもそれでも自分は父を嫌いにはなれないだろう。
何も変わっていないはずなのに、不思議とプレセぺと話す前よりは混乱していない。絶望してはいないなかった。




