それを欺瞞とよぶのです
盗賊達と私を生き返らせたサトミという悪魔はオアシスで一夜を明かすことにしたようです。
本来なら、オアシスとて最果ての地にあることには変わりなく、強力なモンスターが出没します。長居をする場所ではありません。
けれど、アルメリアというより強力な悪魔がいるせいで、モンスターに襲われる心配はないとのこと。
盗賊たちは油断しきっています。
サトミと盗賊の頭目は酒を飲みかわし、リューネは親の仇である盗賊の頭目に心奪われている様子。
はっきりいって、狂っています。
それが異常な光景であるということを、私は、盗賊に射殺された私は、1番よくわかっています。
・・・
「リューネ。」
声をかけると彼女は初めて私の存在に気が付いた様子です。幽霊でも見たかのように真っ青な顔をします。
「メーティア、生きていたの?」
「しんだわよ。ここにいる盗賊たちに射殺された。あなたもみたでしょう?首に矢が刺さって、息をするたびヒューヒュー、ヒューヒュー、音がしていた。」
私が天界落ちの魔法使いを偽ってロレンスの旅に同行した初めのころ、リューネは私によく話しかけていました。同じくらいの年ごろの娘が同行すると知りうれしかったのでしょう。
私はそれを無視しました。当たり前です。皇族である私が平民と話をすることなどありません。彼女は次第に話しかけることをしなくなりました。
でも、話をしなかったからと言って別に彼女のことを嫌いなわけではなかった。だから親切に教えてあげることにしたのです。
「あなたのお父上と同じように盗賊たちに殺されたのよ。なのに、あなたはなぜ盗賊のリーダーに心奪われているの?」
「べ、別に心奪われてなんかいない・・・」
リューネは否定していますがはたから見れば一目瞭然です。理由は顔でしょうか?たしかにあのジェイドという男は平民にしては整った顔をしています。でもそんなものが理由にはならない。
「ふしだらな娘。私、あなたのことを見損なったわ」
これでも、リューネのことは見込んでいたのです。平民にしては心根のまっすぐな娘だと。
それを父の敵の盗賊に心奪われるなど、恥知らずもいいところです。
彼女とはもう話すことはない、私は彼女を残してその場から立ち去りました。
向かった先は天使様のところです。
邪悪な悪魔に囲まれようと、天使様の聖なる心を汚すことはできません。その証拠に3匹の悪魔の最後の1匹は天使様にとてもなついています。彼女が子供であるということもあり、悪魔の力にまだ支配されていないのでしょう。
といっても所詮悪魔の子ですからいつ本性を現すかわかったものでもありませんが。
天使様はロレンスを救えなかったことをとても後悔しているようでした。
サトミの話を聞く限りでは天使様がいったときはすでに手遅れであり天使様には落ち度がないのですが、さすがは天使様です。この狂った集団の中で唯一天使様だけが平静を保っておられます。
盗賊は人を殺したのです。悪なのです。悪魔が憑りついているのです。こんなことどんな理由があろうとも許されるべきではないのです。仲良くしていい存在ではないのです。
それなのにリューネは、そしてサトミはそのことがすっかり抜け落ちてしまっている。
サトミは私を生き返らせてくれました。そのことは私なりに感謝しています。私に魔道具を授けてもくれました。すぐに取り上げられましたし、今も没収中ですし、ことあるごとに私を狼に食べさせようとしますが、もしかしたら彼は悪魔ではないのかもとも思いました。
けれどやっぱり彼は悪魔のようです。盗賊と仲良くし、あまつさえあのアルメリアという悪魔にも協力しようとしている・・・
アルメリアという悪魔。なんでもロレンスの魂を奪い使ったのだといいます。たぶん彼女が妹の魂を奪った存在でしょう。私は彼女から妹の魂を取り戻すためここまでやってきました。
妹を生き返らせる方法についても見当はついています。
サトミです。彼は人を生き返らせることができる。魂を取り戻し、サトミに妹を生き返らせればよいのです。
妹を生き返らせるために悪魔の力を借りなくてはならないというのは癪ではありますが・・・いえ、待ってください。そうではないのかもしれない。
サトミを悪魔から解放する。それが、私がなすべき本当のことなのかもしれない。
サトミは天使様に心奪われているようです。
私は天使様にサトミを説得してもらうために、天使様のところにやってきました。
けれど天使様は今回亡くなったロレンスに心を痛めておられる。
私ははっとしました。妹のことに気を取られすぎていて目の前で亡くなった誰かを悼む心を忘れていました。
人が死んだのです。それはとても悲しいことなのです。
もしかしたら、サトミも私と同じなのかもしれません。
私はサトミに最後のチャンスをあたえることにしました。
・・・
「サトミさん、どうしてあなたはロレンスを生き返らせないのですか?」
サトミは私の質問に露骨に嫌そうな顔をしました。
しばらく考え、そしていいました。
「人は死んだらいきかえらない。だから生きるってことはかけがえのないことだ」
確かに・・・そうかもしれません。でも、私は妹を生き返らせたいのです。いざ生き返らせようという時にそんな腑抜けたことを言われては困ります。
「寿命をまっとうした人にならそういいきれるかもしれません。でも不慮の事故や、病気で若くして亡くなった人にまでそんなことが言えるのですか?殺された人には?それにロレンスは悪魔に魂を奪われて死んだのです。悪魔に魂を奪われた人間は転生することもなく、未来永劫苦しみます。これは普通の死ではありません。救えるなら救うべきです。」
サトミはちょっと驚いた風に私を見ました。
なんでしょう、私のことを見直したみたいな顔をしてるのですが?
見直されるも何も私は最初から最後まで徹頭徹尾正しい存在ですよ。
「チウネは俺の眷属になった。だから言うけど、俺の蘇生術は魂がないと成功しないんだよ」
眷属になった?というのは初耳ですが、一体どういうことですか?
私にとって忠誠をささげるのはエリザベート様ただひとりだけ。なんだかとても嫌な予感がします。
「言ってなかったっけ、俺が生き返らせた時からチウネの神は俺だから。生前誰を信仰していたかは知らないけど、今は俺だから」
ナニヲイッテルノデスカ?
いえ、何を言ってるのかはわかります。でもそれを理解するのを脳が拒否します。
「俺はお前のことを誤解してたのかもしれない。新ためてよろしくなチウネ」
サトミは手を差し出します。
・・・ふざ、けんな!
私は思いっきりその手をはたき返しました。




