悪魔と自覚したとして
ガプスの言った通り、ロレンスは相当まいっていた。
頬は痩せ、目はうつろ、ぶつぶつと何事かつぶやいている。
「なぁ、あんた、5年前までは名の知れた奴隷商だったんだってな」
返事はない。
「奴隷の扱いも丁寧で、顧客からの評判も良かったみたいじゃないか」
奴隷の中には愛玩用の奴隷と労働用の奴隷がいる。愛玩用の奴隷はどの奴隷商も比較的丁寧に扱うが、労働用の奴隷には待遇に差が出る。
中には集団で風呂にもいれず、何日も檻の中に閉じ込め、家畜同然に扱う者もいる。
でもロレンスはあくまで人間として彼らを扱っていたと聞く。
「あんたに感謝していた奴隷もいたっていうじゃないか」
実際のところ、ロレンスが奴隷になってもそうひどい目には合わないはずだ。もともと奴隷商としてそこそこの地位を築いた人物。奴隷だけではない、業界には彼を慕う人も少なからずいるはずだ。商才もあった。
うまくいけば、奴隷から解放されるのもそう難しい話ではあるまい。
娘のことは、まぁ、残念だが・・・彼がかつての手腕をはっきすれば買い戻すこともできるだろう。
アルメリアは彼女の魂を欲しているのですべてが手遅れになる可能性もあるのだが、そんなことはロレンスが知る由もない。
「娘が奴隷になったとしても・・・」
「リューネが、奴隷に・・・」
初めてロレンスが反応する。
「駄目だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ。」
うわごとのようにつぶやく。
「それほど、娘を愛しているのならなぜ刺した?」
「リューネは娘だ!奴隷じゃない!奴隷になれば許されない!娘じゃなくなる!勇者様がそうおっしゃっておられたのだ!!」
突然怒鳴り散らすロレンスに驚きつつも「勇者」の言葉に反応するジェイド。
「勇者?お前も勇者にあったのか?」
「勇者様は、奴隷は許されないとおっしゃっておられた。きっと罰が下る。」
罰?
ジェイドは苦笑いする。そんなものはおきない。おきるならとっくに下っているはずだ。俺に、そして勇者の思いを踏みにじったここの盗賊たちに。
「罰など・・・」
がちゃり
ドアが開いてアルメリアが現れる。なにか、思いつめた顔をしている。何かあったのか・・・?
「ひぃぃぃぃ!!!」
突然ロレンスが悲鳴を上げる。
「ゆ、ゆ、ゆ、勇者様!!!」
アルメリアを見て勇者と言っている。これは何の冗談だ?
アルメリアも少々面食らったようだ。
「いったい何なの?これは」
それはこっちが聞きたい。
「覚えて、いる。あなた様は、勇者様と、一緒にやってきた、私とも遊んで、くれた。勇者様の、魔法使い・・・」
ぴくりとアルメリアが反応する。
「あなたは私の勇者様の知り合いだったの?」
「私に罰をあたえにこられたのですね。私が奴隷に落ちるから。勇者様の教えを受けたにもかかわらず、汚らわしい奴隷に、落ちるから」
「・・・」
アルメリアの顔から表情がなくなる。
「勇者様はおっしゃっていた。奴隷はいけないものなのだと。だから私は奴隷商になりつつも、決して奴隷に心を許したりはしなかった。お許しください。お許しください。勇者様!!!」
「・・・ねぇ、あなた一つ聞いていい?」
アルメリアが尋ねる。
「勇者様は奴隷をそんな風に思っていたの?」
ロレンスは何も答えずお許しくださいお許しくださいと繰り返している。
「あなたがそんな風になったのは勇者様のせいなの?」
しばらく無表情だったアルメリアだったが、突如笑い出す。
「アハ、アハ、アハハハハハハハ」
涙を流して笑うアルメリアに、ジェイドはわけがわからない。
「そうね、罰をあたえてあげる。あなたの魂。私にちょうだい?」
アルメリアはそういうとロレンスの魂を抜き取った。
そう、そうだ。
サトミもいっていたではないか。
この世界に召喚された物が悪魔なら、勇者だって悪魔なのだと。
最初からそうだったのだ。最初から救いなどなかったのだ。
自分は悪魔。




