3つの約束
霊竹のやりには魔道具として隠された力があるらしい。
まさか、近くに適合者がいるのだろうか?
ハル達を確認すると魅入られたように霊竹のやりを見るタナカ・・・オマエかよ!
やりたくない。お前にアイテムなんて何もやりたくない。
「あの、その竹やりですが」
タナカはおずおずと俺に話しかけてくる。
「私を呼んでるような気が」
「気のせいなんじゃないかな?」
「ですが、確かに・・・」
なんというか図々しいよね。散々ハルのこと悪魔呼ばわりしといて今更俺に話しかけてくるところとかね。普通の人間の神経じゃないよ。
「サトミさん、その竹のやり、ミーティアさんに反応しているようです」
プレセぺが余計なことを言う。
「ですよね?ですよね?さすが天使様。下賤の者とは見る目が違います」
下賤って・・・タナカよ。お前は物をもらう立場にあるんだぞ?なんでそんな失礼なことが言えるのだ?
そしてプレセぺは完全にお前の名前を間違って覚えてるぞ。訂正しなくていいのか?
主にタナカの性格のせいで腑に落ちない思いがあるものの、一刻もはやくハチのお腹から出ないといけないのも事実。
些細なことにこだわっていても仕方ない。霊竹のやりをタナカにあたえたところでハチの中から出られる補償はないが、このタイミングで零竹のやりが輝きだしたのは意味があるような気もする。
「霊竹のやりをお前にかしてもいい。ただし3つ約束をしてもらうぞ。」
かすだけだぞ、タナカがハルとかハチとかプレセぺみたいに可愛げがあればあげてもよかったけどお前には嫌だ。
「3つも約束させるならくれるべきなのでは?」
「・・・」
本当にこいつに頼らないとダメなのか?ものすごく嫌なんだけど・・・
「1つ、この霊竹のやりをつかえればハチのお腹の中から出られるかもしれないんだ。お前にはその手伝いをしてもらう。」
「それは願ってもいないことです」
タナカは頷いた。
狼のお腹の中になど一刻でも早くでていきたいのだそうだ。
それは同意だが、タナカの場合、(汚らわしい)狼のお腹の中になど一刻でも早くでていきたい、と思っているためなんか癇に障る。
「2つめ、今日からお前の名前はタナカ・・・いや、杉原千畝な。」
スギハラチューネ?
ぽかんとするタナカ改めチウネ。チューネじゃなくチウネな。
ぽかんとしてるのはハルとプレセぺもだ。
俺は考えたよ。お前のその癇に障る性格をどうにかして強制できないかと。
その名前でタナカじゃ、全国のタナカさんが風評被害にあってしまう。
この世界じゃ名前で運命やら宿命が決まるらしい。
だったら俺が知る可能な限り性格のいい女の名前を付けて強制するしかないんじゃないかと。
杉原千畝はヒトラーからユダヤ人を逃がした日本人の名だ。
彼女の発言の根本には根強い差別感情があるようなのでぴったりの名前なのではないかと思う。
問題は杉原千畝は男ということだが・・・それは些細なことだ。
音の響き的には女の子っぽい名前だし。大丈夫。問題ない。たぶん。いきなり男の子娘だったという衝撃の事実が発覚したりはしないはず。仮に発覚しても俺は彼女に対して全然全くこれっぽっちも気がないため全然関係ない。ほら問題なかった。
「いくらなんでも名前を変えさせるのはかわいそうなのでは?」
プレセぺが異議を唱える。プレセぺさんは名前を間違って覚えてますけどね。
「彼女は記憶を失っている。プレセぺに名乗った名前もきっと記憶が混乱して・・・」
「いえ、名前だけは思い出しました」
即答するチウネ。変な名前を名乗らせられるのがいやらしい。
変とは失礼だな君。偉人の名前なのに。
「君は悪魔かもしれない俺に名前を知られてもいいのか?」
「え!?」
「危険なんじゃないのかなぁ・・・」
悪魔かもしれない俺に名前を付けられるのも十分危険な気がするが、考える間もなく押すことにしよう。
「やっぱり記憶が混乱していただけで名前は思い出せません」
と思ったけどちょろかった。
「じゃあ君の名前はチウネでいいね」
「・・・ハイ」
正式に彼女の名前は杉原千畝に決まった。身分証明書を確認するとメーティアの名前がなくなり杉原千畝と記載されている。メーティアの呪いも消えていた。
よかった。彼女の呪いは消えたようだ・・・これでうざい性格も治るに違いな、もとい、彼女の人生は救われたのだ。
「じゃあ最後の条件だけど」
名前を変えた影響を確認するとしよう。
「俺を悪魔と思っている心を消せ。」
「無理です」
即答された。
どうやらメーティアの呪いと差別意識うんぬんは関係なかったみたいだ。
仕方がない。
「ほら」
俺は霊竹のやりをチウネに渡した。
「あの?」
意図を測りかねてチウネがもらってもいいのか聞く。
やれやれ仕方ない今回は俺が引くけど諦めたわけじゃないぜとニヒルに笑ってみる。
「いつか、心は消してもらうからな」
「無理です」
チウネはまたもや即答した。空気読めよお前・・・
・・・
サトミは「神獣の鎧」「超獣の兜」「霊獣の盾」を装備した。これで防御力だけならハチも上回る、はず。
ハチですら歯が立たないアルメリア相手には気休めにもならないが。
あとはゴットナイフ(見た目は包丁)をもって現時点での最強装備だ。
絵面がものすごくシュールだけど考えないことにする。
「ではいきます。」
チウネが霊竹のやりを握ると頭の中で声が響く。
「我が最初の契約者よ。我が力、何のために使いたいか、示せ」
「ここからでたいです」
「移動の力か?いや、ここは亜空間ゆえ、空間を渡る力か?いやそれだけではない。汝の心には強い、別の思いがある」
まるで妹を取りもしたいというチウネの心を読んだように霊竹のやりは言う。
「よかろう。これより我は「時と空を渡る霊竹のやり」となろう」
竹のやりはそういうとチウネの手に収まった。
竹やりから確かな力を感じる。
「どうなった?」
サトミが聞く。
チウネは感じていた。
いける。ここから出れる。感覚がある。でも・・・でるのは天子様と私だけだ。
悪魔2匹はここで狼に消化されてしまうがいい!
うっすらと笑みが浮かぶ。天子様を助けようと手を伸ばす。
それに一番最初に気が付いたのはハルだった。プレセぺをひっぱってひきはなす。
「余計なことを」
チウネがなおも手を伸ばす。
「何してんだ」
サトミがその手を強引につかむ。
「あ・・・」
チウネとサトミがまばゆい光に包まれる。
光が消えたとき、残されていたのはプレセぺとハルだけだった。




