田中花子さん
「狼に、食べられろというのですか?」
なりゆきで新しく眷属になった少女はそういっておびえた。
そういえばこの娘もいたんだった。すっかり忘れてた。
そもそも生き返らせた時も、天界の使いに対する囮にする気満々だったし。
ハルが天界の使いに目をつけられなかったのはハルがいつも離さず身に着けている「依代の銅貨」のおかげだ。
「依代の銅貨」はもうない。
下手に彼女を連れて行ったら、それを頼りに天界の使いに見つかってしまう。
それならば、いっそこいつを囮にして逃げよう。
もしかしたら保護されるかもしれないし、万が一殺されてもどうせ1回死んでるんだしいいんじゃね?的な・・・はい、ひどいですね。ひどいですよ。俺を責めるがいいですよ。言い訳なんてしませんよ。
追いつめられると本性が出るというかなんというか。
ハルとハチとプレセぺは連れて逃げる気があったんだけど、この子のことはよく知らないしさ、まぁいいかなって・・・
俺って神様じゃなくて本当に悪魔なんじゃ?という疑惑がわいてくる。
でもでも、実際は何事もなかったわけだし、いまのとこはセーフ!セーフな、はず!
「そういえば君名前を聞いてなかったね?」
とりあえず名前でも聞いておこう。これで俺たちはもう知り合いさ。見ず知らずの誰かなら兎も角、知ってる人を見殺しにはしないさ。これで俺は君を見殺しにすることはなくなった。
よかった、よかった。主に俺の良心がよかった。
「名前は覚えていません」
少女はそういった。
生き返ると記憶が飛ぶらしいのはハルがそうだった。名前まで失うのはハルとは違うが、俺も名前忘れてるし、そういうこともあるのかもしれない。
とりあえず俺の身分証明書を確認。俺の身分証明書には俺と俺の眷属のデータがゲームのステイタスのように書かれている。
今までは名前を聞いてから確認していたが、今回は確認する前に見てしまえ。
身分証明書には「メーティス」と記載されている。
本当に名前がわかるんかい!
ふっ、便利だなおい身分証明書。
メーティスのステイタスを確認していると状態異常の欄に「メーティスの呪い」と記載されているのを見つける。
確かこの世界だと名前で運命やら本性やらが縛られたり強くなったりするんだったっけ。
この名前は呪われるらしい。
じゃあ変えた方がいいな。
「今日から君の名前は「田中花子」な」
え・・・て顔をされる。
なんだその顔は。元の世界でこんなこといったらひかれるのはわかってるけど、ここは異世界だろ?だったらそんな顔すんなよ。
この世界ではすごい名前をつけるとすごい宿命を背負うらしい。だったら普通の名前をつけて普通の人生をおくらせてやろうという俺の眷属への愛の形だぞ。ありがたくうけとれ。
でも身分証明書は「メーティス」のままだった。ちっ・・・
「う~ん、すーちゃん。お姉さまを食べたらだめれすぅ」
プレセぺが寝言を言う。
「天使様?」
即座に反応する田中花子。
もう俺の中では彼女のことは田中花子とよぶことで決定している。
メーティスの名前は呪われるらしいし、せめて俺とハチとハルとついでにプレセぺにだけは田中花子と呼ばせることにしよう。呪いを解くためには仕方がないことだ。
でも、花子だとトイレの花子さんの花子でもあるしやっぱりやめた方がいいかもしれない。
よし、ここはシンプルにタナカ、メーティスはタナカでいい。みんなにもそう呼ばせることにしよう。もしかしたらポスティングシステムで20億円で落札されるようになるかもしれない。
おびえるタナカをハチにひとのみにさせると俺たちもハチの中に入る。
バジリスクは残念ながら砂漠に放置だ。
俺と女子3人しかいない中に、いくらのびてるとしてもそんな危ないもの連れてはいけない。
プレセぺのことを考えると最後まで悩んだが、今日あったばかりのプレセぺよりもハルの身の方が大事だ。
もともとバジリスクは砂漠のモンスターだったはず。
きっと元気に暮らしていけるに違いない。
ハチの中の俺の木彫りの象はひときわ大きくなっていた。
今回のことで、一緒に石化されたハルを守らないといけないと思うようになったからかハルの人形も大きくなっている。ハルもまんざらではない感じだ。
タナカは、プレセぺに抱きついて「天使様天使様お守りください」とかなんとかいってる。
でも、その天使を頼ってもあんまりあてにならない気がするよ?
それにしても、ハチの奴俺たちを吐き出すのが遅い。
アルメリアの瞬間移動で移動する一瞬しかおなかの中に入らなくていいはずだ。
お腹の中では体感時間ははやく感じる。こんなに長いことお腹の中にいるのはおかしい。
何かあったのか?ちょっと心配になってくる。




