幸運なる不幸
お母さんの祖先は今は落ちぶれてしまったけれど、昔は有数の貴族だったらしい。
そして定期的に魔力の大きな子供を輩出していた。
一般的に魔力は遺伝しないものと言われているがそれは誤りだ。
魔力をもつ人が天界に連れていかれるせいで覚醒遺伝として魔力を発言する者が多い。そのせいでそういう誤解を受けている。
魔力を持つものを多く輩出し、その子供たちを何回も何回も天界に連れていかれた母方の祖先たちはなんとかならないかと知恵を講じた。そうして作り出されたのがリューネの持つタリスマンだ。
魔力の発現、成長を妨げる。
このタリスマンを決して離しては駄目だと母にいわれてきた。
父もそのことを知っている。
今回リューネたちが最果ての地に逃れたのはそのためだ。
タリスマンは何代にも受け継がれて劣化が激しく、リューネ自身の魔力量もかなり大きい。もしタリスマンの寿命が来れば天界から使者がやってくるだろう。
愛する娘を手放したくはない。父とリューネは天界の使いすら追ってこれない最果ての地を目指すことにした。
父が言うには最果ての地の中でも強力なモンスターのいない特殊な地域があるらしい。
そこまでいけばきっと逃げ切れると父は励ましてくれた。、
父はとても優しく、頼りになる。自慢の父親だ。
けれど母に向けてときどき物を見るように冷たい目で見ていた時がある。
きっとあれは見間違いなのだろう。ずっとそう思っていた。
でも、あのとき、リューネを刺した父の瞳は、まるであのとき母を見るようなとても冷たい目だった。
ぎゅっと、胸のあたりで手を握る。さされたあたり、今はもう傷は癒えているが。
怖い・・・父が。
「怪我は治ったようだな」
突然かけられた声に振り返ると、見たことのない男。
反射的にシーツで体を隠す。
「あなたは」
「盗賊だよ。お前を奴隷商に売り渡す。」
男はリューネのシーツを無理やり引きはがし、体にのしかかってくる。
「でもその前に、礼がほしいと思ってな」
「いや!」
男の手が、リューネの体を乱暴に触る。
「何を嫌がる、奴隷になれば嫌でも他の男に抱かれることになる。早いか遅いかの違いだ」
「やめて」
何を言われようと聞く耳は持てない。ただただ拒絶する。
ぴしゃりと、ほおをなぐられた。
「おとなしくしろ」
いたい、いたい、もう、殴らないで・・・
「父親に助けをこうたらどうだ?」
男は唇をゆがませる。
「無理か、お前は父親に捨てられたのだ」
父の、あのときの瞳を思い出す。まるで物を見るかのような瞳。
やっぱり、そうか、、やっぱり、私は・・・
涙が零れ落ちてくる。
「あ、ああ、あああ・・・」
みっともなくなく。
男は・・・
「なぜ泣く?」
戸惑ったように聞いた。
「お前の父は、こんなふうに娘がなるのが嫌でお前を刺したのではないのか?」
きわめて独善的な行為だ。と男は言った。
「男に抱かれたからと言って、それで人生が終わるわけじゃない。全く無意味なことだ。」
「?」
リューネは疑問に思う、この人はいったい何を言っているのだろう。
何がしたいのだろう。まさか自分を励まそうとしているの?
自分にこんなことをしておいて?
男は黙って去っていってしまった。
・・・
「あなたは何がしたかったの?」
アルメリアが呆れたふうに聞く。
「お前と契約して3か月か・・・そうそう人は変われないということだ」
ジェイドはそういうとアルメリアを強引にひきよせる。
「やめて、今はそういう気分じゃないの」
アルメリアはジェイドを拒絶する。
そうか、とだけ答えてジェイドは行ってしまった。
「はぁ・・・」
ジェイドは盗賊にして結構な純度の魂をもっている。契約した時は喜んだものだ。
悪魔は魂をえることによって力を得る、純度の高い魂ほど得る力は大きい。
純度が高い魂といってもいろいろある。無垢な魂。こだわりのある魂。
無垢な人間の魂は純度が高い。
神に準じた魂は純度が高い。
変質的な殺人に興じた魂もそれはそれで純度が高い。
しかしジェイドの魂は無垢でいてこだわりのある魂だ。
夢見がちでそれでいて強固なこだわりでそれを律している。本来盗賊にはありえない魂だ。あたりをひいたと思う。
だけど、今回カルラにであったことといい、あの天使に出会ったことといい、作為的なものを感じてきている。
すなわち。
「あの娘の力に引き寄せられている?」
苦々しい。




