篝火の森
思い起こせば、かつてヒラキンが子供だった頃の篝火の森は不思議な場所だった。
肉食獣もいたはずだが、他の動物を食べているところは見たところがない。
ときどき、他の森から来た魔物が森を荒らすこともあったが、森で暴れまわる魔物にも理由があった。理由なく暴れる魔物はいなかった。
とげが刺さって苦しんでいたり、他の魔物に追われて逃げてきたところだったり、友達を探していたり・・・
だからヒラキンも誰も何も殺めたことはなった。
その日暴れていた魔物もそんな中の一匹だった。
森の動物たちは皆大人しい。守るのはヒラキンの役目だ。
戦うのは辛いことではない。
プレセぺは危ないことはしないでほしいというけれど、みんなを守ったことを知ると褒めてくれる。
プレセぺは優しいから好きだ。
暴れていた魔物を大人しくさせると、生まれたばかりの子供が親をかばって現れた。
どうやら、この魔物は子供を守りたかったみたいだ。
やっぱり、この森に来る魔物も誰一人悪いものはいない。
俺が親子にこの森は安全だと言い聞かすと大人しくなった。支えあうように帰っていった。彼らもきっとこの森に居つくだろう。この森は誰も何も、辛いことがないのだから・・・でも
プレセぺが迎えに来た。
ヒラキンはプレセぺに抱き付いた。プレセぺがお母さんだったらいいのに・・・
そういうと、嬉しそうに、でも困ったように
「ヒラキンにはもっと素敵なお母さんがいますよ」と言った。
それからいつも通りヒラキンの母親の話をしてくれた。
みんなに分け隔てなく優しく、美しく、誰よりも強い母。
今は傷ついて眠っているけれど、すぐに目を覚ましてヒラキンを抱きしめてくれるはずだと。
でもヒラキンは知っていた。
洞穴で眠っている母が決してプレセぺの言う美しい存在じゃないことを。
その背中には3枚の翼。竜の翼と、天使の翼と、骨の翼、4つめの翼のあった場所はちぎれた大きな傷跡がある。半身は蛇で、体中に傷跡がある。
ときどき、洞穴から唸り声が聞こえる。それは悲鳴とも、呪詛とも取れる。恐ろしい唸り声だ。
それはひどい目にあわされたからだとプレセぺは言う。
でもその魂はけがれない。いつか怪我を治して目を覚ます。そのときはいっぱい甘えたらいい。
ヒラキンはその話を完全に信じていたわけではないけれど、プレセぺが言うならそうなのかもしれないと思った。
本当の母親が優しい人ならいいな、ヒラキンはそう思っていた。
・・・
「よう、目が覚めたか?」
身体は鎖でつながれていた。力が出ない。天使の力を使った後はしばらく力が戻らないが、それにしたって今回は変だ。
「無駄だぜ。その鎖だけじゃねぇ。どうやら何十にも結界が張られているらしい。」
さっきからなれなれしく話しかけてくれるカラスの魔物も、鎖につながれている。
カラスの・・・魔物?
「お前、まさか」
あの巨大なカラス、なのか?
「おうよ、おめぇ強ぇえな。まだこんなに強い奴がいるとは俺様びっくりしちまったぜ」
俺の名前はカルラっていうんだ、よろしくな。
いきなり襲ってきたのに、なれなれしいことこの上ない。
「一度本気で戦った仲だ。仲良くしようぜ?」
「プレセぺは、どうなった?」
プレセぺ?一緒にいた蛇の魔物か?
プレセぺが蛇なわけないだろ、と苛立つヒラキンに、カルラは本当に覚えていないみたいだ。
「あそこにいたのってお前と蛇2匹だけだろ?」
話にならない・・・
カルラの話ではどうして自分たちがこんなふうに監禁されているかはわからないらしい。カルラも気が付いた時はこうなっていた。
早くここから出なくてはならない。プレセぺのところに戻らなくてはならない。手を放したらまた彼女はいなくなってしまう。
・・・「どうして、あんなたなんか生まれてきたの?」・・・
胸が苦しい。でも例え嫌われてしまってもかまわない。あのとき逃げなかったら、こんなことにはならなかったのだから。
「いきがいいわね。もうちょっと自分のことを心配したらどうなのかしら?」
そんなヒラキンをあざける声。いつのまにかヒラキンとカルラの前に女がいた。
「アルメリアじゃねーか。」
顔なじみだったらしく素っ頓狂な声を上げるカルラ。
「久しいわね、カルラ。まさかこんなところであんたに会えるとは思ってなかったわ。」
見下すようにアルメリアは言う。
「私たちの誘いをけって姿をくらまして40年ちょっと、だからといって私たちを止めることもせず、もちろん協力することもせず、何もせずにこの40年過ごしていたのね」
「全然ふけてねえぇな。お前確か60・・・ぐふっ」
アルメリアの蹴りがカルラのみぞおちに入る。
「私はもはや年齢は超越した存在なのよ。200年たっても2000年たってもこの姿のままよ」
「20の十倍にすれば雰囲気で誤魔化せると思ってるかもしれねぇが、少なくとも今のお前は紛れもない還暦・・・」
「うっさい!」
再びカルラのみぞおちに蹴りを入れるアルメリア。
「昔なじみのよしみで最後のチャンスをあげようと思ったけど気が変わったわ。そこで少しづつ力を奪われしになさい」
完全にへそを曲げたアルメリアは冷たく言い放った。




